【組成】 [錠]:1錠中10 mg,25 mg,50 mg
塩酸マプロチリンは白色の結晶性の粉末で,においはない。メタノ−ル,エタノ−ル又は氷酢酸にやや溶けやすく,水に溶けにくく,ジオキサンに極めて溶けにくく,エ−テルにほとんど溶けない。融点:約244゜(分解)
【適応】 うつ病・うつ状態
【用法】 1日30〜75 mgを2〜3回に分服,又は1日1回夕食後あるいは就寝前に投与できる(増減)
【注意】
(1)一般的注意:めまい,眠気等が起こることがあるので,投与中の患者には,自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意する
(2)禁忌
(a)緑内障のある患者[抗コリン作用により眼圧を上昇させるおそれがある]
(b)本剤の成分に対し過敏症の患者
(c)心筋梗塞の回復初期の患者[症状を悪化させるおそれがある]
(d)てんかん等のけいれん性疾患又はこれらの既往歴のある患者[けいれんを起こすことがある]
(e)尿閉(前立腺疾患等)のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]
(f)モノアミン酸化酵素阻害剤の投与を受けている患者[発汗,不穏,全身けいれん,異常高熱,昏睡等が現れるおそれがある](相互作用の(a)参照)
(3)慎重投与
(a)排尿困難又は眼内圧高進等のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]
(b)心不全・心筋梗塞・狭心症・不整脈(発作性頻拍・刺激伝導障害等)等の心疾患のある患者又は甲状腺機能高進症(又は甲状腺ホルモン剤投与中)の患者[循環器系に影響を及ぼすことがある]
(c)燥うつ病患者[燥転,自殺企図が現れることがある]
(d)脳の器質障害又は精神分裂病の素因のある患者[精神症状が増悪されることがある]
(e)副腎髄質腫瘍(褐色細胞腫,神経芽細胞腫等)のある患者[高血圧発作を引き起こすことがある]
(f)重篤な肝・腎障害のある患者[代謝・排泄障害により副作用が現れやすい]
(g)低血圧のある患者[高度の血圧低下が起こることがある]
(h)高度な慢性の便秘のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]
(i)三環系抗うつ剤に対し過敏症の患者[交差過敏反応が現れるおそれがある]
(j)小児又は高齢者(小児への投与,高齢者への投与の項参照)
(4)相互作用
(a)併用禁忌:モノアミン酸化酵素阻害剤[発汗,不穏,全身けいれん,異常高熱,昏睡等が現れることがある。なお,モノアミン酸化酵素阻害剤の投与を受けた患者に本剤を投与する場合には,少なくとも2週間の間隔をおき,また本剤からモノアミン酸化酵素阻害剤に切り換えるときには,2〜3日間の間隔をおくことが望ましい]
(b)併用注意
(ア)けいれん閾値を低下させる薬剤(フェノチアジン誘導体等),又は,併用中のベンゾジアゼピン誘導体を中止する場合[けいれん発作が起こることがある]
(イ)抗コリン作動薬[相互に抗コリン作用に基づく副作用が増強されることがある]
(ウ)エピネフリン作動薬(エピネフリン,ノルエピネフリン等)[心血管作用を増強することがある]
(エ)抗不安剤(ベンゾジアゼピン誘導体等),中枢神経抑制剤(バルビツ−ル酸誘導体等),全身麻酔剤,アルコ−ル飲料[相互の中枢神経抑制作用が増強されることがある]
(オ)エピネフリン作動性神経遮断作用がある降圧剤(グアネチジン等)[降圧剤の作用を減弱することがある]
(カ)肝初回通過効果を受けやすいβ‐遮断剤(塩酸プロプラノロ−ル等)[本剤の作用が増強されることがある]
(キ)肝酵素誘導作用を持つ医薬品(バルビツ−ル酸誘導体,フェニトイン等)[本剤の作用が減弱されることがある]
(ク)フェニトイン[フェニトインの血中濃度が上昇することがある]
(ケ)電気ショック療法[けいれん閾値を低下させるおそれがある]
(コ)メチルフェニデ−ト,シメチジン[三環系抗うつ剤との併用により抗うつ剤の作用が増強されるとの報告がある]
(サ)インスリン製剤,スルホニル尿素系糖尿病用剤[三環系抗うつ剤との併用により過度の血糖低下を来したとの報告がある]
(シ)クマリン系抗凝血剤[三環系抗うつ剤との併用によりクマリン系抗凝血剤の血中濃度半減期が延長するとの報告がある]
(ス)スルファメトキサゾ−ル・トリメトプリム[三環系抗うつ剤との併用により抑うつが再発又は悪化するとの報告がある]
(5)副作用
(a)重大な副作用:まれに次のような副作用が現れることがある。このような副作用が現れた場合には中止し,適切な処置を行う
(ア)Syndrome malin:無動緘黙,強度の筋強剛,嚥下困難,頻脈,血圧の変動,発汗等が発現し,それに引き続き発熱がみられる場合は,中止し,体冷却,水分補給等の全身管理と共に適切な処置を行う。本症発症時には,白血球の増加や血清CPKの上昇がみられることが多く,またミオグロビン尿を伴う腎機能の低下がみられることがある。なお,他の三環系及び四環系抗うつ剤の投与中,高熱が持続し,意識障害,呼吸因難,循環虚脱,脱水症状,急性腎不全へと移行し,死亡した例が報告されている
(イ)てんかん発作
(ウ)皮膚粘膜眼症候群(Stevens‐Johnson症候群)
(エ)無顆粒球症
(オ)麻痺性イレウス(高度な便秘,腹部の膨満あるいは弛緩及び腸内容物のうっ滞等)
(カ)アレルギ−性肺炎
(b)その他の副作用:次の副作用が現れることがある
(ア)循環器:ときに起立性低血圧,血圧降下,心悸高進,心電図異常,まれに心ブロック,頻脈,不整脈,血圧上昇,失神等
(イ)精神神経系:ときに眠気,パ−キンソン様症状・振戦・アカシジア等の錐体外路症状,言語障害,知覚異常,睡眠障害(不眠等),神経過敏,激越,不安,運動失調,ミオクロヌス,集中力欠如(思考力低下,頭がボ−ッとする等),燥状態,まれに幻覚,陰萎,せん妄,錯乱状態,情緒不安,悪夢,記憶障害,離人症等(このような症状が現れた場合には,減量又は休薬等適切な処置を行う)
(ウ)抗コリン作用:口渇,ときに便秘,排尿困難,視調節障害(散瞳等),まれに鼻閉等
(エ)皮膚:まれに紫斑,光線過敏症(このような場合には中止する)
(オ)過敏症:ときに発疹,まれにじんま疹,掻痒感,皮膚血管炎,発熱等(このような場合には中止する)
(カ)血液:まれに白血球減少等(観察を十分に行い,このような症状が現れた場合には中止する)。また,まれに白血球増多,好酸球増多
(キ)肝臓:まれに黄疸,ときにGOT,GPT,Al‐P,γ‐GTP値の上昇等(観察を十分に行い,異常が認められた場合には,中止するなど適切な処置を行う)
(ク)消化器:ときに悪心・嘔吐,胃部不快感等の胃腸症状,食欲不振,口内苦味感,味覚異常,まれに異常食欲高進,口内炎,腹痛,下痢,嚥下困難等
(ケ)その他:めまい,ふらつき,ときに倦怠感,脱力感,発汗,頭痛,頭重,頻尿・夜尿,浮腫,まれに耳鳴,熱感,体重増加,流涎,乳房肥大,乳汁分泌,脱毛
(6)高齢者への投与:高齢者では,起立性低血圧,ふらつき,抗コリン作用による口渇,排尿困難,便秘,眼内圧高進等が現れやすいので,少量から開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与する
(7)妊婦・授乳婦への投与
(a)妊娠中の投与に関する安全性は確立されていないので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい
(b)ヒト母乳中へ移行するので,授乳中の婦人に投与する場合には,授乳を避けさせる
(8)小児への投与:小児に対する安全性は確立していない
(9)その他
(a)三環系抗うつ剤で急に中止すると悪心,神経過敏,不安,筋れん縮等が起こることが報告されているため,中止する場合には,徐々に減量する
(b)うつ病の患者では,自殺企図の危険が伴うため,注意する。また,自殺目的での過量服用を防ぐため,自殺傾向が認められる患者に処方する場合には,1回分の処方日数を最小限にとどめることが望ましい
(c)三環系抗うつ剤の長期投与で,う歯発現の増加を招くことが報告されている
(d)連用中は定期的に肝・腎機能検査を行うことが望ましい
(e)外国において気管支けいれんが報告されている
(10)過量投与・急性中毒
(a)徴候・症状:最初の徴候・症状は通常服用1〜2時間後に現れる。症状として昏睡,けいれん,嗜眠状態,運動失調,情動不安,異常高熱,頻脈,不整脈,低血圧,呼吸抑制等がみられる
(b)処置:特異的な解毒剤は知られていない。コリンエステラ−ゼ阻害剤(ネオスチグミン等)はけいれんの危険性を増大させるおそれがあるので,マプロチリンの過量服用時の治療には不適である。まず,催吐及び胃洗浄により薬物の排除をはかり,各症状に対しては通常,次のような処置を行う
(ア)呼吸抑制:人工呼吸
(イ)低血圧,循環虚脱:血漿増量剤の投与。炭酸水素ナトリウム静注(アシド−シスがある場合)。ドパミン又はドブタミンの点滴静注(心筋機能の低下がみられる場合)
(ウ)不整脈:炭酸水素ナトリウムの静注によるアシド−シス是正。カリウム剤投与による血清低カリウム値の補正。徐脈性不整脈又はAVブロックが現れた場合にはペ−スメ−カ−の挿入
(エ)けいれん:ジアゼパムの静注(ただし,ジアゼパムによる呼吸抑制,低血圧,昏睡の悪化に注意)。少なくとも48時間は心モニタ−を継続し,また約12時間はけいれん発作の発現に対して特に注意する
(11)室温保存
(12)規制等:指要
【作用】
(1)薬効薬理:主として神経終末へのcatecholamine取り込み阻害作用によるcatecholaminergic activityの増強が抗うつ効果に結びつくと考えられる。抗reserpine作用,抗tetrabenazine作用,norepinephrine取り込み阻害作用等では従来の抗うつ剤に類似した作用態度を示すが,serotoninの取り込みには阻害作用がみられないこと,中枢性の抗コリン作用がほとんどないこと,あるいは強い馴化作用を併用していることなど三環系抗うつ剤とは異なる作用スペクトルを持つ薬物
(2)体内薬物動態
(a)血中濃度:25及び75 mgを1回経口投与,約6〜12時間で最高,その後ゆっくりと減衰。生物学的半減期は個人差が大きく(19〜73時間),平均値は25 mg投与で約46時間,75mg投与で約45時間(健常人)。30及び75 mg/日を分服あるいは1日1回投与後2週間以内に定常状態で,その平均値は両投与法に差はなく,分割投与例では31.3及び76.9ng/ml,1日1回投与例では31.7及び70.6 ng/ml(うつ病患者)
(b)代謝・排泄(外国人):3H‐標識体を経口投与後48時間以内に尿中へ30%,96時間以内に尿中へ48%,糞中へ13%排泄。尿中排泄物は90%以上が代謝物で,うち75%はグルクロン酸抱合体。代謝産物としてN‐脱メチル化体,側鎖及び環の水酸化体等の12種を同定(健常人)
(c)乳汁中への移行(外国人):健康な出産後の婦人に単回あるいは連続経口投与時の母乳中濃度は全血中濃度の推移に近似し,定常状態の母乳中の全血中濃度に対する比は一定で,平均約1.37
(3)臨床適用
(a)臨床効果
(ア)1日2〜3回分服:一般臨床試験554例の改善率は著明改善26.5%(147例),中等度改善以上56.9%(315例),軽度改善以上71.5%(396例)
(イ)1日1回投与:一般臨床試験284例の改善率は著明改善24.6%(70例),中等度改善以上61.3%(174例),軽度改善以上85.9%(244例)
(ウ)二重盲検比較試験5試験で有用性が認められている
(b)副作用:18.3%(2,417/13,187)に3,743件,胃腸系(口内乾燥,便秘等)9.9%,精神(傾眠,不眠,神経過敏等)5%,中枢末梢神経系(めまい,振戦,言語障害,頭痛等)3.8%,一般的全身(倦怠感,無力症等)1.8%,皮膚付属器官(発疹等)1.2%,肝臓胆管系(GOT上昇,GPT上昇等)0.8%等
(4)非臨床試験
(a)毒性LD50(mg/kg)マウス:経口=♂480♀485,ラット:経口=♂1300♀1250
(b)生殖試験:マウス及びラットの器官形成期15及び30 mg/kg/日経口投与で胎生期の胎仔の発育にわずかな遅延以外に特記すべき異常所見は認められていない
(c)薬物依存性試験:依存性は認められなかった
(d)一般薬理:末梢性抗コリン作用(モルモット,ウサギ),心血管系に対する作用(イヌ,ネコ,ラット),抗ヒスタミン作用(モルモット)等はイミプラミン等より弱い (日本チバガイギ−による)