トフラニールについて

 

【組成】 [錠]:1錠中10 mg,25 mg

 [注]:1アンプル(2 ml)中25 mg。pH:4.0〜5.0 浸透圧比:約0.3

 塩酸イミプラミンは白色〜微黄白色の結晶性の粉末で,においはない。水又はエタノ−ルに溶けやすく,エ−テルにほとんど溶けない。水溶液(1→10)のpHは4.2〜5.2。光によって徐々に着色する。融点:170〜174゜(分解)

【適応】

(1)精神科領域におけるうつ病・うつ状態

(2)(イミド−ル,トフラニ−ル錠)遺尿症(昼,夜)

【用法】 [内]:(1)うつ病・うつ状態:1日25〜75 mgを初期用量とし,1日200 mgまで漸増,分服。まれに300 mgまで増量することもある。適宜減量

(2)遺尿症:1日学童25〜50 mgを1〜2回に分服,幼児25 mg 1回(増減)

 [注]:1日25〜125 mgを1〜数回に分け,筋注。適宜減量

【注意】

(1)一般的注意:眠気,注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので,投与中の患者には,自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないように注意する

(2)禁忌

(a)緑内障のある患者[抗コリン作用により眼圧を上昇させることがある]

(b)三環系抗うつ剤に対し過敏症の患者

(c)心筋梗塞の回復初期の患者[症状を悪化させるおそれがある]

(d)尿閉(前立腺疾患等)のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]

(e)モノアミン酸化酵素阻害剤の投与を受けている患者[発汗,不穏,全身けいれん,異常高熱,昏睡等が現れるおそれがある](相互作用の(a)を参照)

(f)(注射)亜硫酸塩に過敏症の患者[添加物としてピロ亜硫酸ナトリウムを含有しているので,急性喘息発作等の過敏反応を誘発するおそれがある]

(3)慎重投与

(a)排尿困難又は眼内圧高進等のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]

(b)心不全・心筋梗塞・狭心症・不整脈(発作性頻拍・刺激伝導障害等)等の心疾患のある患者又は甲状腺機能高進症の患者[循環器系に影響を及ぼすことがある]

(c)てんかん等のけいれん性疾患又はこれらの既往歴のある患者[けいれんを起こすことがある]

(d)燥うつ病患者[燥転,自殺企図が現れることがある]

(e)脳の器質障害又は精神分裂病の素因のある患者[精神症状が増悪されることがある]

(f)副腎髄質腫瘍(褐色細胞腫,神経芽細胞腫等)のある患者[高血圧発作を引き起こすことがある]

(g)重篤な肝・腎障害のある患者[代謝・排泄障害により副作用が現れやすい]

(h)低血圧のある患者[高度の血圧低下が起こることがある]

(i)高度な慢性の便秘のある患者[抗コリン作用により症状が悪化することがある]

(j)小児又は高齢者[小児に経口投与する場合には4歳以上に投与することが望ましい](高齢者への投与の項も参照)

(4)相互作用

(a)併用禁忌:モノアミン酸化酵素阻害剤[発汗,不穏,全身けいれん,異常高熱,昏睡等が現れることがある。なお,モノアミン酸化酵素阻害剤の投与を受けた患者に投与する場合には,少なくとも2週間の間隔をおき,また本剤からモノアミン酸化酵素阻害剤に切り換えるときには,2〜3日間の間隔をおくことが望ましい]

(b)併用注意

(ア)抗コリン作動薬[相互に抗コリン作用に基づく副作用が増強されることがある]

(イ)エピネフリン作動薬(エピネフリン,ノルエピネフリン等)[心血管作用を増強することがある]

(ウ)中枢神経抑制剤(バルビツ−ル酸誘導体等),全身麻酔剤,キニジン,メチルフェニデ−ト,黄体・卵胞ホルモン製剤,シメチジン,フェノチアジン系精神神経用剤,抗不安剤(アルプラゾラム等),アルコ−ル飲料[本剤の作用が増強されることがある]

(エ)降圧剤[降圧剤の作用を減弱することがある]

(オ)肝酵素誘導作用を持つ医薬品(バルビツ−ル酸誘導体,フェニトイン等)[本剤の作用が減弱されることがある]

(カ)フェニトイン[フェニトインの血中濃度が上昇することがある]

(キ)インスリン製剤,スルホニル尿素系糖尿病用剤[過度の血糖低下を来したとの報告がある]

(ク)クマリン系抗凝血剤[クマリン系抗凝血剤の血中濃度半減期が延長するとの報告がある]

(ケ)スルファメトキサゾ−ル・トリメトプリム[抑うつが再発又は悪化するとの報告がある]

(コ)電気ショック療法[けいれん閾値を低下させるおそれがある]

(5)副作用

(a)重大な副作用:次のような副作用が現れることがある。このような副作用が現れた場合には中止し,適切な処置を行う

(ア)Syndrome malin:無動緘黙,強度の筋強剛,嚥下困難,頻脈,血圧の変動,発汗等が発現し,それに引き続き発熱がみられる場合は,中止し,体冷却,水分補給等の全身管理と共に適切な処置を行う。本症発症時には,白血球の増加や血清CPKの上昇がみられることが多く,またミオグロビン尿を伴う腎機能の低下がみられることがある。なお,高熱が持続し,意識障害,呼吸困難,循環虚脱,脱水症状,急性腎不全へと移行し,死亡した例が報告されている

(イ)てんかん発作

(ウ)無顆粒球症(前駆症状:発熱,咽頭痛,インフルエンザ様症状等)

(エ)麻痺性イレウス(まれに)(症状:食欲不振,悪心・嘔吐,著しい便秘,腹部の膨満あるいは弛緩及び腸内容物のうっ滞等。なお,この悪心・嘔吐は,本剤の制吐作用により不顕性化することもあるので注意する)

(オ)アレルギ−性肺炎

(カ)心不全

(b)その他の副作用:次の副作用が現れることがある

(ア)循環器:起立性低血圧,心電図異常,ときに血圧降下,血圧上昇,頻脈,不整脈,動悸,心ブロック等

(イ)精神神経系:パ−キンソン症状・振戦・アカシジア等の錐体外路障害,運動失調,言語障害,知覚異常,幻覚,せん妄,精神錯乱,攻撃的反応,激越,燥状態,不眠,不安,焦燥,眠気,ミオクロヌス,性欲減退等[このような症状が現れた場合には,減量又は休薬等適切な処置を行う]

(ウ)抗コリン作用:口渇,排尿困難,眼内圧高進,視調節障害(散瞳等),便秘,鼻閉

(エ)皮膚:まれに光線過敏症[症状が現れた場合には中止する]

(オ)過敏症:顔・舌部の浮腫,発疹,掻痒感等[症状が現れた場合には中止する]

(カ)血液:白血球減少,血小板減少,紫斑,点状出血,好酸球増多等[定期的に血液検査を行うことが望ましい。異常が認められた場合には中止する]

(キ)肝臓:まれに黄疸,GOT,GPTの上昇等[観察を十分に行い,異常が認められた場合には中止する]

(ク)消化器:悪心・嘔吐,食欲不振,下痢,味覚異常,口内炎,舌炎等

(ケ)内分泌:抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)(症状:低ナトリウム血症,低浸透圧血症,尿中ナトリウム排泄量の増加,高張尿,けいれん,意識障害等。処置:症状が現れた場合には中止し,水分摂取の制限等適切な処置を行う)。また,まれに乳房肥大,乳汁漏出

(コ)長期投与:ときに口周部等の不随意運動[中止後も持続することがある]

(サ)その他:ふらつき,眩暈,倦怠感,脱力感,頭痛,発汗,異常高熱,熱感,血管けいれん,脱毛,体重増加,体重減少,血糖値上昇,血糖値低下,耳鳴

(6)高齢者への投与:高齢者では,起立性低血圧,ふらつき,抗コリン作用による口渇,排尿困難,便秘,眼内圧高進等が現れやすいので,少量から開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与する

(7)妊婦,授乳婦への投与

(a)動物実験で催奇形作用が報告されている。ヒトにおいても新生児に呼吸困難,チアノ−ゼ,けいれん等を起こしたとの報告があるので,妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい

(b)ヒト母乳中へ移行するので,投与中は授乳を避けさせる

(8)適用上の注意(注射)

(a)経口投与が困難な場合や,経口投与で効果が不十分と考えられる場合にだけ使用する。なお,経口投与が可能となり,かつ経口投与により効果が期待される場合には,速やかに経口投与に切り換える

(b)注射部位に疼痛,硬結をみることがある

(9)その他

(a)中止する場合には,徐々に減量する[急に中止すると悪心,神経過敏,不安,筋れん縮等が起こることがある]

(b)(内服)うつ病の患者では,自殺企図の危険が伴うため,注意する。また,自殺目的での過量服用を防ぐため,自殺傾向が認められる患者に処方する場合には,1回分の処方日数を最小限にとどめることが望ましい

(c)三環系抗うつ剤の長期投与でう歯発現の増加を招くことが報告されている

(d)連用中は定期的に肝・腎機能検査を行うことが望ましい

(10)過量投与・急性中毒(内服)

(a)徴候・症状:最初の徴候・症状は通常服用30分〜2時間後に高度の抗コリン作用を

主症状として出現する。中枢神経系症状(眠気,昏迷,運動失調,情動不安,激越,反射高進,筋強剛,アテト−シス及び舞踏病アテト−シス様運動,けいれん),心症状(不整脈,頻脈,伝導障害,心不全,非常にまれに心停止),その他に呼吸抑制,チアノ−ゼ,低血圧,ショック,嘔吐,散瞳,発汗,乏尿,無尿等がみられる

(b)処置:特異的な解毒剤は知られていない。催吐若しくは胃洗浄を行い活性炭投与。直ちに入院させ,少なくとも48時間は心モニタ−を継続。心電図に異常がみられた患者については,少なくとも更に48時間は,心電図が正常に復した後であっても再発の可能性があるため,心機能の観察を継続する。なお,腹膜透析又は血液透析はほとんど無効である。各症状に対しては通常,次の様な処置を行う

(ア)呼吸抑制:挿管及び人工呼吸

(イ)高度低血圧:患者を適切な姿勢に保ち,血漿増量剤,ドパミン,あるいはドブタミンを点滴静注

(ウ)不整脈:症状に応じた処置を行う。ペ−スメ−カ−挿入を必要とする場合もある。低カリウム血症及びアシド−シスがみられた場合はこれらを是正する

(エ)けいれん発作:ジアゼパム静注又は他の抗けいれん剤(フェノバルビタ−ル等)投与(ただし,これらの薬剤による呼吸抑制,低血圧,昏睡の増悪に注意)

(11)取扱い上の注意:注射液は冷所保存中に結晶を析出することがあるが,この場合アンプルを40〜50゜の温水で少し温めると簡単に溶ける。なお結晶が析出しても効果にはなんら影響はない

(12)室温・(錠)防湿保存

(13)規制等:要,劇指(25 mg以下の錠を除く),塩酸イミプラミン・塩酸イミプラミン錠局

【作用】

(1)薬効薬理:抗うつ剤の作用機序は確立されていないが,脳内のセロトニン(5‐HT)及びノルエピネフリン(NA)の神経終末への取り込み阻害による受容体刺激の増強が抗うつ効果と結びついていると考えられている。各種抗うつ剤の脳内(ラット)での5‐HT及びNA取り込み阻害の比[ED50(NA)/ED50(5‐HT)]では,イミプラミンは両者に作用するが,NA取り込み阻害がより強く,代謝物デシプラミンではNA取り込み阻害は更に強くなる

(2)体内薬物動態

(a)経口投与した場合,通常1週間後に定常血中濃度に達し,その濃度は個人差が大きいが,75 mg/日投与の平均値では未変化体70 ng/ml,活性代謝物デシプラミン29 ng/ml(うつ病患者)

(b)(外国人)経口投与により,速やかに,かつ完全に吸収。経口投与の場合,筋注に比べ,デシプラミンに代謝される率が高い。連続投与時の血中半減期は未変化体9〜20時間,代謝物デシプラミン13〜61時間(健常人)。排泄は速やかで,経口投与後,尿中に24時間まで約43%,72時間までに合計72%排泄,残りは糞中に排泄。尿中に未変化体のほか,desmethyl体,2‐hydroxy体,2‐hydroxy‐desmethyl体,N‐oxide体,水酸化体のグルクロン酸抱合体等の代謝物が確認されている(うつ病患者)

(3)臨床適用(経口投与)

(a)うつ病・うつ状態:二重盲検試験11試験における総症例708例中有効

率64.2%(432/673)。副作用は67.6%(465/688)に,口渇34.3%,めまい・ふらつき・立ちくらみ20.9%,眠気18.9%,便秘15.3%等

(b)遺尿症:二重盲検試験を含む319例中有効率84.2%(256/304)。副作用は17%(54/317)に,食欲不振6.9%,口渇4.7%,悪心2.2%等

(4)非臨床試験

(a)毒性LD50(mg/kg)マウス:経口=350,皮下=291,腹腔内=137,静注=35,ラット:経口=625,静注=22

(b)胎仔試験:ウサギの器官形成期30 mg/kg皮下投与で母体に毒性症状が現れ,外形異常仔が数例みられている。15 mg/kg皮下注で母体の約半数例に全胚吸収がみられているが,その他には異常はみられていない

(c)一般薬理

(ア)抗コリン作用:家兎,モルモット摘出腸管を用いたMagnus法で,抗アセチルコリン作用はアトロピンの1/100又はそれ以下

(イ)抗ヒスタミン作用:モルモット摘出腸管を用いたMagnus法で,0.1 μg/ml以上で抗ヒスタミン作用を示し,この作用はクロルプロマジンの約1/10

(ウ)血圧に対する影響:ネコ,ウサギで0.1 mg/kg(静注)以上の投与で血圧の下降を来す

(エ)心運動に対する影響:ウサギで大量投与により心運動の抑制を来す (日本チバガイギ−による) 1