ある陽があたる部屋に活発そうな少女が飛び込んでくる。
「シンジー!あーそーびーまーしょ!」
「あっ、アスカちゃん。」
「もう、ちゃん付けしないでよ。」
頬を膨らませながらアスカがむくれる。
「ハハッ、ゴメン、ゴメン。お兄ちゃん今ちょっと手が放せないからそこで待っててね。ジュースでいい?」
「100%果汁でしょうね!」
睨むアスカ。シンジは苦笑する。
「ハイハイ...グレープでいい?」
暖かい日差しの中での光景だった。
アスカ9歳、シンジ15歳の春だった。
それから3ヶ月。
「ええっー。シンジ引っ越しちゃうのー?」
シンジに詰め寄るアスカ。寂しそうに笑うシンジがいる。
「そうなんだ。ごめんねアスカ。」
「いやー、そんなのいや!一緒にいるって約束したじゃない。」
泣き出すアスカ。
「ほらっ、アスカ。我が儘言わないの!シンジさん困ってるじゃない。」
アスカの母、惣流キョウコが娘をたしなめる。
泣きやまないアスカ。それを見たシンジが思いついたようにポケットを探る。
「ほらっ、アスカ!これ上げるよ。ずっとねらってただろ。」
シンジが小さな瑪瑙のペンダントを差し出した。
「えっ?」
泣きやむアスカ。赤い目でシンジを見上げる。
「いいの?」
「うん。それにね、アスカが本当に逢いたかったらまたきっと逢えるよ。」
優しく笑うシンジ。
「本当?」
「うん。僕は嘘は言わない。知ってるよね。」
「うん...」
するとシンジはアスカの頭を軽くなでてでていった。
その日、目がとけるほど泣いたアスカは瑪瑙のペンダントを付けて眠った。
第一章 再会−あなたに会えた日
7年後、第三東京都市。
「レイ、僕は七年前までこの町に住んでいたんだよ...」
「シンジさんの住んでいたところ?」
「そう。ここはいい町だよ。人は親切だし...レイもすぐに友達ができるよ。」
レイに微笑むシンジ。レイの頬がほんのり朱色に染まる。
「じゃあ、行こうか。」
「うん。」
そして二人はビル街の中へ消えていった。
「ミサトぉー、朝よー、起きなさい!」
「もうちょっと眠らせてよぉー。昨日遅かったんだからぁー。」
そんなことで引き下がるアスカではなかった。彼女は部屋に散らばっているおびただしいほどの空き缶を見ながら低くため息をついた。
「だぁめっ!!オキロー、このアル中!!」
シンジが去って二年、アスカはキョウコの部下、葛城ミサトと暮らしていた。仕事でドイツに行かなければならなくなったキョウコはアスカも一緒にきてほしかったが、アスカは断固として首を縦に振らなかった。
「いやよ私、友達と別れるなんて!」
そういってアスカは二日間部屋に閉じこもった。ようやくキョウコが折れて、アスカは日本に残ることになった。
しょうがなくキョウコは部下のミサトにアスカの世話を頼んで単身赴任することにした。
アスカがドイツに行かなかった本当の理由がシンジにあることは、誰も知らなかった。
「もうぅ、アスカって小姑みたいねぇー。禿げるわよ、そのうち。」
渋々起きてくるミサト。夜明かしで飲んでいたことがたたって、目の下にはくまができていた。
「うっるさいわねー。この行き遅れ後家が!」
「ああぁー、爆弾踏んだわねぇー。何よアスカだって...」
「それより早く支度しなさいよ!もう時間無いのよ!」
ミサトの言葉を遮り怒鳴るアスカ。今日のアスカは気が立っていた。目覚ましをセットし忘れていたため、いつもより時間がなかったからだ。
「じゃ、私、行くから。ミサトも遅れないでよ!」
「ふぁーい。行ってらっしゃーい。」
あくびをしながら答えるミサト。バタン、と扉が閉まる。
「さぁー、そろそろ朝の一杯を...」
おもむろに冷蔵庫に向かうミサト。特大サイズのビールを取り出す。
「プハァー、やっぱ朝飲むときくぅー!」
寝不足の目に日差しがまぶしかった。
第三インペリアルホテル。
「レイっ、急がないと遅刻だよ!」
モーニングコールを頼むのを忘れてしまったシンジはかなりあわてていた。
「あれ?シンジさんも来るんですか?」
「そうだよ、初日だからいろいろしなくちゃならないしね。編入の書類とかもあるし...」
それを聞いてレイの顔がほころぶ。
「あっ、もうこんな時間だ!初日から遅刻なんて!レイ、行くよ!」
「はいっ!」
駆け出す二人。幸せが辺りを取り囲んでいた。
「もう、遅刻したらミサトのせいよ!!」
そうぼやきながら急な坂を駆け上がるアスカ。
「ウソぉー!あと五分!?」
かわいいSWATCHの腕時計に太陽の光が反射する。胸元の瑪瑙のペンダントが風に揺れる。
スピードを上げるアスカ。
一心不乱に走る彼女には猛スピードで走ってくる爆走車は目に入らなかった。
ドドドドド
轟音で振り返るアスカ。そのすぐ目の前には車が...
「えっ?」
プップー
目を閉じてその場にへたり込むアスカ。足がすくんで動けない。
「!!!」
「アブナイ!!」
突然声がした。
ドンッ
鈍い音がした。しかし不思議なことに、アスカは痛みを感じなかった。
目を開けてみると誰かに抱きかかえられながら歩道にいた。
「バッキャロー!気を付けろ!」
おきまりな台詞を残して車が去っていく。
「大丈夫?」
振り返ると背の高い青年が心配そうにアスカの顔をのぞいていた。その端整な顔は慈愛に満ちていた。
アスカはその瞳から目が離せなかった。どこかで見たことがある、そう感じていた。
「シ、シンジ!!」
「ただいま、アスカ。また逢えたね。」
その青年は碇シンジ、七年前にいなくなったアスカの思い人であった。
「ダメだよ、アスカちゃん。急に飛び出しちゃ!」
アスカが無事なのを見てホッとしたのもつかのま、諭すような口調でシンジが言った。
「...何よ!だいたいあの車だってスピード違反よ!それに「ちゃん」付けしないで!」
しばらくの間呆然とした表情だったアスカがいつもの口調に戻る。
それを見てシンジが微笑む。アスカが変わらなかったことが不思議と嬉しかった。
「ハハッ。やっぱり変わってないね、アスカは。」
「変わってない?あんたのその目は節穴なの?この私の洗練された美貌が目に入らないの?」
七年間の間でアスカは確かに変わった。その豊かな亜麻色の髪はいっそう輝きを持つようになり、あどけなさが消えたその彫りの深い表情は女神のような神々しさを持つようになっていた。
「美」を象徴する少女、そんな名称がぴったりだった。
「そうだね。確かに綺麗になったね。でもアスカは昔から可愛かったけどね。」
アスカの目を見ながら平然と言うシンジ。アスカは反対に照れてしまって、目をそらしてしまった。
`誰のために綺麗になろうとしてると思ってるのよ!!まったく...’
アスカ、心の叫び。
「わ、わかればいいのよ!」
そのとき誰かの走る音がした。
「ハァハァ...シンジさん!!」
それはレイだった。そのルビーのような神秘的な憂いを持った瞳からダイヤの滴が流れ落ちる。
「シンジさん、お願いだから危ない事しないで!私、シンジさんが怪我でもしたらと思うと...」
ひたすら泣きじゃくるレイの背中をシンジが優しくなでる。
「大丈夫、僕は何処にも行かない。ずっと君の側にいるよ。」
「私、もう一人はいや...」
「わかってる。わかってるよ、レイ」
ふと横を見ると燃えるオーラをまとったアスカが仁王立ちで立っていた。逆立った髪が火の粉を放つ。思わず後ずさるシンジとレイ。
「ちょっとシンジ、その子誰?」
口調こそ普通だったが、その言葉には気迫と殺気が込められていた。蒼い目が朱色に染まる日...そのとき地球、いやシンジの身は...
しかし鈍いシンジにはアスカの怒りの原因が分からずにいた。それでも優しく誤解を解くシンジ。
「紹介するね!アスカ、この子はレイ。僕の妹だよ。レイ、いつかおしゃまな女の子が隣に住んでいたって言ってただろう。それがアスカだよ。二人とも同い年だから仲良くしてね!」
釈然としないアスカ。鋭い女の感で、レイがシンジに肉親以上の好意を持っていることを読みとる。当然レイも同じ事を考えていた。
`コノ女、あたしのシンジと...ゆるせん!!それにシンジに兄弟なんて...’
`コノ人がアスカ...邪魔ね...’
二人の間に火花が走る。そしてそれに気付かない鈍感野郎、シンジ。
「アアアァ!!もう遅刻だ!急がなきゃ!」
突然叫ぶシンジ。そして時計を見たアスカがそれに続く。
「ウソぉー。もう完璧遅刻!ちょっとシンジ、あんたのせいよ!」
いわれのない批判を受けるシンジ。苦笑と戸惑いが入り交じった顔でレイの方に向く。
「シンジさんは悪くないわ。第一あなたがもうちょっと注意していればシンジさんが危ない目に遭うこともなかったわ。」
淡々としゃべるレイを見て、シンジはびっくりしていた。普段からあまり感情を露にしないレイがここまで言い返すのはきわめて珍しいことだった。喧嘩はよくないが、シンジは内心嬉しかった。
「なんですってえー!」
「ほらほらアスカ!レイも、早く行くよ!」
走り出すシンジ。二人があわてて後を追う。
「フンッ!今日のところはシンジに免じて勘弁して上げるわ!」
「それはこっちの台詞...」
シンジは、桜並木の間を走りながらなおも続く言い争いを聞きながら頭を悩ませていた。
木洩れ日が三人を照らす。穏やかなそよ風が吹いてきた。
平和な時が緩やかに流れる。
こんにちは。CARLOSです。
「陽があたる場所」第一章、いかがでしたでしょうか?
では平謝りシリーズ(謎)いってみよう!
まず設定資料が見れなかった人、すみません。私のミスです。直しておきましたのでどうぞ。
次に、リンクのアップデートが進んでいないこと。またまたすみません。今度のアップと一緒にやります。
最後に、更新が遅いといわれるお方。すみません。でも「催促メール5通で更新」は守っています。
はぁー。これでヨシット。さっ、気分を改めまして、
ついに2000ヒットです。ウキョー!(哀れな獣の雄叫び)嬉しいですぅー!(はぁと)これも皆様のおかげです。本当に、ありがとうございます。
投稿募集中です。(何もこないが...)どしどしどうぞ!
この作品、「堕天使」と比べていかがでしょうか?私個人としては気に入っているのですが...もし好評なら連載にしたいと思います。
ではまた。今度は「堕天使」第三章でお会いしましょう。感想メール5通で更新です。(ゲストブックもどうぞ!!)