突然、嵐の予感がした。






第四章 変化−それは突然訪れた





午前七時。

優しい朝の日差しは金色に部屋を照らしていた。

さわやかな空気が心地よい。白いシーツが柔らかげな光を浴びている。

そんな中、碇シンジはゆっくりと目を開けた。

「・・・!!!・・・」

すると、そこにはお隣に住む、笑みを浮かべた惣流アスカの姿があった。

綺麗にめかし込んだその服装はお出かけ用。手には早起きして作ったお弁当が入ったバスケット。頭の赤いリボンが少し揺れた。

「おはよう!シ・ン・ジ!外は絶好のハイキング日和よ!ふぅ」

ズサササ

いきなり耳に息を吹きかけられて、体がビクつくシンジ。ベッドの端まで後ずさる。

思わず眠い目を何度もこする。

「アスカちゃん!なぜここに?」

「フフッ。起こしに来たにきまってるでしょ!」

当たり前のように高々と言うアスカ。もちろん手は腰へ。

「それはどうもありがとう・・・じゃなくって、どうやって入ったの?」

「だぁってぇ、シンジが合い鍵隠してる所、昔と同じなんだもん。物騒だから貰っておいたわ!いいでしょ?」

「うん、まぁ、いいけど・・・」

アスカに渡すのと泥棒に盗られるのと、どっちがより物騒かを本気で考えながらシンジが言う。

「でもアスカちゃん、今まだ七時だよ。こんなに早くどうしたの?」

「え!?それはその・・・だから・・・えっとぉ・・・」

いきなり赤くなってうろたえるアスカ。もじもじと指で「の」の字を書いている。

その容姿とのギャップが妙に可愛く、思わず微笑むシンジ。

「・・・シンジさん?」

シンジの横にあったミノムシのような物体が突然動きだし、顔をだす。それは碇家もう一人の住人、綾波レイだった。

「レ、レイ!!な、な、な、何であんた、た、た、た、、こんな所にいんのよ!!」

顔を真っ赤にし、アスカがどもりながら怒鳴る。

「ほえ?あ、あなた・・・こんな早くからの朝討ちとは無礼きわまりないわね。最も畜生に礼儀を期待する方が間違っているのかしら・・・」

ぼさぼさ頭とかわいいパンダのパジャマで答える。

さすがはレイ。朝でもその毒口はまったく衰えない。

「レイ、ここでは一緒に寝ちゃダメだって言っておいただろ?明日からは自分の所で寝なさい。」

そんなレイに少し強めの口調でシンジが諭す。

「・・・はい・・・くすん・・・」

さみしそうに、でも素直にレイが頷く。

「ちょっとあんた達!!何で一緒に寝てるのよぉー!!」

忘れられていたアスカの怒鳴り声が響きわたる。

「ふっ、問題ないわ。」

静かにレイが言う。

「なぅ、あぁ、にぃ、ぐぅぁ、問題ないのかしら!!」

アスカ、怒る。顔から湯気を出しながら、仁王立ちでレイを睨む。

「どうしてそういうこと言うの・・・」

淡々と話すレイと怒り狂うアスカ。どちらも退かない。

`この女・・・殺ル!!’

`・・・猿のくせに猿のくせに猿のくせに猿のくせに猿のくせに・・・’

その時、シンジの家はおどろおどろしい妖気とも言えるような異様な空間へと生まれ変わる。それはまさに人間外の領域であった。

「はいはい。レイ、ほら顔洗ってきなさい。」

さすがはシンジ。大人で・・・いや、単に無頓着なだけである。

「はい。」

シンジの言われたことは敏速に行動するのがレイのモットーであった。コクンと頷くと洗面所に駆けていった。

「ちょいとシンジさん、説明していただこうかしら?」

レイがいなくなってチャンスと思ったのか、アスカがシンジに詰め寄る。

いつの間にか取り出した鋼鉄の鞭を手に、アスカの瞳が妖しく光る。

「ホホホ。返答によっては、ただではすまなくってよ!!」

妖しすぎるアスカにシンジは相変わらず動じない。

「いやぁ、レイが僕の側じゃないと安心できないって言うから・・・」

はにかんだように言うシンジ。ニコッと笑う。

「ま、まぁ、いいわ。でも明日からはやめなさいよ。」

シンジに微笑まれると怒れなくなってしまうアスカ。そこがちょっと悔しい。

「はいはい。お姫様の機嫌もなおったようだし、朝食にしようか?」

そう言いながらシンジはベッドから下りた。











シンジの用意した朝食を食べた後も、アスカはもちろん入り浸っていた。

シンジは今、レイと共に皿洗いをしている。

アスカはそんな微笑ましい光景を面白くなさそうに眺めていた。

`なによ!ちょっとばかし家事が出来るからってえばっちゃって・・・’

誰も何も言ってない。けっこう虚しい独り言。

`ったく、私を誰だと思ってんのよ!’

シンジに用意させたこぶ茶を飲みながら、アスカは面白くもないお笑い番組を見続けていた。

ピンポーン

そんなとき、いきなり玄関のベルが鳴る。

「はいはい。こんな早くに誰だろう?」

エプロンをかけたまま、シンジが台所からでてくる。時計の針は午前八時を指していた。

そのまま玄関へ向かうシンジ。くま柄のスリッパがペタペタと鳴る。

「はいはい、どなたですか?」

「・・・」

無言。

アスカが胡散臭そうにシンジの方を見る。

「ちょっと、だれなの?」

その問いに、シンジは黙って首をすくめる。

ピンポーン

再びチャイムが鳴る。

そろぉーっと戸を開けるシンジ。するとそこには・・・

「シンジさん!」

元気のよい声と共に少年が飛び出てくる。

銀色の髪と、レイを同じく赤い瞳を持ったその美少年。上気した顔には極上の笑みが浮かんでいる。

ドスン

そのままシンジに飛びつくと、シンジを押し倒す。

「???」

シンジは現状を把握しようと試みたが、それは不可能に終わった。

「シンジさぁーん!」

その少年は、呆気にとられているアスカとレイの目の前で、そのままシンジの口にキスした。

ちゅう

その瞬間、放心していたアスカとレイが正気に返る。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「・・・撲滅撲滅撲滅・・・憤怒怒!!」

バコ!ドカ!ベキ!

次の瞬間、アスカのハリセンとレイの万力によって打ちのめされた少年は、哀れにもすまきにされて転がっていた。

「ぐえ・・・」











「こんにちは、渚カヲルです。よろしく。ちなみにシンジさんとは婚約した仲ということになってますのでよろしく。」

そうサラッと言ってのけるカヲルに、二つの敵意の光線がぶつけられる。

あれからすぐに復活したカヲルはシンジに抱きつこうとさんざんトライしたあげく、既成事実まで押し切ろうとしたところに、アスカ&レイ初めての連続アッパーがきまり、ミノムシ状態にされてしまったのである。

そしてまたすぐに復活したところに、レイのとどめの石責めで、動けなくなってしまった。さすがはアスカ&レイ。共通の目的さえあれば無敵である。

「ちょっとあんた、いい加減なこと言うんじゃないわよ!!!ガキのくせに!」

「・・・KILL YOU・・・」

再びアスカとレイの怒りの炎が燃え上がる。

「まあまあ落ち着いて、二人とも。それよりカヲル君、久しぶり。元気だったかい?」

麦茶を持って現れたシンジが微笑みながら縛られているカヲルに声をかける。

「ウウッ。やっぱり僕の心配をしてくれるのはシンジさんだけだよ!僕は貴方に逢うために生まれ・・・」

ドカ!

バキ!

げしげし

音速のスピードでアスカとレイの手刀がカヲルの鳩尾におちる。すかさず至高の連続技でしとめる。

「ほらアスカ、レイ。ダメじゃないか。」

気絶しているカヲルを尻目にシンジが少し厳しい口調で言う。

それをものともしないアスカ。すごい形相でシンジの方を向く。

「シンジ!こいつ誰なの!」

「カヲル君?カヲル君は僕の甥なんだよ。昔はよく遊んであげたなぁ。」

懐かしそうにシンジが微笑む。その瞳が優しく輝く。

「そうなの・・・でもその甥がなんの用なの!?それに婚約者って何なのよ!!ええっ!!?」

引き下がれないアスカ。それはレイも同じだ。わけのわからない突然の侵入者、しかも男にシンジを捕られるわけにはいかない。

掴みかからんばかりの勢いでシンジに詰め寄る。

「・・・さあ?」

天然。それは得な事なのかもしれない。

少し首を傾げるシンジ。

「・・・フッ。こいつに聞くしかなさそうね・・・ふっふっふっ・・・」

「・・・どうやらそのようね・・・ほっほっほっ・・・」

アスカとレイが妖しく微笑む。気絶しているはずのカヲルの額から冷や汗が流れる。

「そこの鬼畜!おきろー!!」

「・・・変態変態変態・・・起きなさい・・・」

アスカの鬼のようなドス声がレイの絶対零度のささやきと妙にマッチする。

二人の怒りの光線がカヲルへ向けられる。

「うわーん。シンジさーん。助けてー!!」

身の危険を察知し、急いでシンジに隠れようとするカヲル。人の良いシンジはすぐに信じてしまう。

「まあまあ。で、カヲル君。どうしたの?」

シンジが優しく聞く。

「はい。それなんですが。ここにしばらく泊めてくれませんか?ウルウル」

カヲルの瞳から涙がこぼれる。

「へ?」

「おねがいします!!」

そういってカヲルは頭をぺこんと下げた。その手には目薬の瓶が握られていた。

渚カヲル、14歳。泣き落としをつかうとはただ者ではなかった。











「それでカヲル君は第三東京都市私立中学校へ転校してきたという事なのかい?」

シンジの問にカヲルがぺこりと頭を下げる。

「ここには好きなだけ居たらいいよ。でも何でまた第三東京都市へ?渚さんは第二東京都市私立中学校に入れるって言ってたよ?」

それを聞くとカヲルが赤い顔してうつむく。

「・・・シンジさんに逢いたかったから・・・」

聞いているアスカとレイの顔に青筋が浮かぶ。

「何なのよあんた?変態じゃないの!?だいたいシンジの婚約者っどういうことよ!!」

アスカが怒鳴る。彼女は実際、気が立っていた。せっかくシンジと二人で(おまけ付き)ハイキングに行こうとしていたのに。これでは寝ないで練った、「アスカちゃんラブラブ作戦」がおじゃんになってしまう。

「ふっ。君には関係ないさ。シンジさん、この「お猿さん」誰かな?」

とたんに冷たく言い放つカヲル。アスカは顔を赤黒く変えながらうなる。あまりの怒りに声もでない。

レイはこっそりと微笑んでいる。

`・・・いいこと言うわね・・・ふっふっふっ・・・’

「僕の好きなのはシンジさんだけさ!君達に出番はないよ。」

さらりと言い放つカヲル。アスカとレイのストレスレベルがマックスゲージをぶち抜く。

「またまたカヲル君。僕みたいなおじさん相手にしなくても・・・」

シンジはまるで本気にしない。彼は自分を「保護者」として見ているからである。

「シンジさん、昔、僕が「お嫁さんになって下さい」って言ったら、いいって言ってくれたのに。僕の純情を裏切るのかい・・・ウルウル。」

目薬、再び登場。今日はどうやら需要が多い。ちなみに目薬は「お得用パック」である。

「なんですって!!シンジ!どういうことなの!!」

「・・・シンジさん・・・説明して・・・」

鬼のような形相がシンジへ向けられる。気迫だけで人が殺せるだろう。

「カヲル君、それいつのこと?」

「十年前・・・」

渚カヲル、当時四歳である。

「カヲル君・・・君って一体・・・」

さすがのシンジも驚いたように冷や汗を流した。











「・・・はい、はいはい。ああ、そうだったんですか。でしたら僕が。いえいえとんでもありません。そんな迷惑だなんて。レイにも話し相手がいるなと思ってましたし。はい、ではそういうことで。失礼します。」

シンジが受話器を下に置く。その様子をアスカ、レイ、そして吊されているカヲルがジッと見ている。

「カヲル君、おばさん困ってたよ、急に家飛び出すから。もう、ちゃんと電話しなくちゃダメじゃないか!」

シンジが叱るように言う。

「すみません。シンジさんに早く逢いたかったもので・・・」

さすがカヲル、シンジには素直である。

「まあいいや。渚さん、転勤するんだって?渚さんとしては第二の寮へ入れたいって言ってたけど、あそこは規律うるさいしね。ここに住んだらいいよ。」

それを聞いてカヲルが手を叩いて踊り出す。対照的にアスカとレイの顔はくもり、赤くなる。

「ああ、シンジさん、ありがとう。僕は信じてたよ!」

にこやかに笑うカヲル。それを見てシンジも微笑む。

「・・・シンジ・・・」

「・・・シンジさん・・・」

押し殺した声。たとえるなら爆発寸前の活火山のようだ。

「るんるん・・・ほえ?」

相変わらずとぼけているシンジ。カヲルと一緒にのんきに踊っている。

「どうしてあいつがここに住まなきゃならないのよー!!あんな鬼畜おいといたらうかうか寝てられないわよー!!!」

火山ついに爆発。

それだけ一気に言うと、肩で息をしながらアスカが赤い顔で息をする。すかさずシンジから麦茶のコップが手渡される。

「ごくごくごく。ファー、ありがと。はっ、落ち着いてる場合じゃなかった!」

アスカ、焦る。

「そんな鬼畜だなんて。カヲル君はとっても良い子だよ。」

そんな彼女に笑って答えるシンジ。カヲルは天使のような笑顔でシンジを見ている。

`くっ、あのキツネ。シンジの前では良い子ぶりやがって。’

言葉に詰まるアスカ。そこをすかさずレイが続く。

「シンジさん・・・うるる」

レイ、無敵の涙攻撃。涙腺がゆるいのでカヲルのように目薬に頼る必要もない。さすがにリアルである。

しかし、何にたいして泣いているのか見当のつかないシンジにとっては無効である。シンジは黙って不思議そうな顔をしている。

アスカ&レイ、万事休す!

`やばいわ・・・このままだとシンジの貞操の危機。あいつの事だから、連日シンジの寝床に・・・寝床?そうか!!’

突然立ち上がるアスカ。そして勝ち誇ったように笑う。

「ホォオホォッホォッ!!渚カヲル破れたり!!!いい、この家は2LDK。つまりあんたの部屋はないのよ。どう?ぐうの音もでないでしょ?まぁ、おとなしく寮に入るかその辺でのたれ死ぬのね。」

興奮のあまりつい自分の願望まで言うアスカ。レイもにやりと笑う。

「・・・ぐう。」

静かに呟くカヲル。当然、無視される。

「そうかぁ、部屋の問題かぁ。」

シンジも、そこまでは考えていなかった、というような顔で言う。それを見て隠れて握手するアスカ&レイ。結構、仲が良い。

「・・・ねぇ、カヲル君。僕と相部屋でいい?マスターベッドルームだから結構広いし。さすがにレイと一緒っていうわけにはいかないしね。」

核ミサイル発射。アスカとレイにはまさにそのように感じられた。

カヲルは今日ほど自分が男で嬉しかった日はなかった。もちろん笑顔で頷く。

`神様ありがとう。ふふ、予想以上にうまくいったようだね・・・’

当然アスカとレイは黙っていない。顔を白黒させて怒鳴る。

「シ、シ、シ、シンジー!!正気なの?こ、こ、こいつはぁああああー!!!」

「・・・シンジさん・・・それはダメ、問題あるわ・・・」

しかしそこはシンジ。やはり天然&のんきである。

「はいはい。この話はおしまい。もうこんな時間だ、じゃあハイキング行こうか?カヲル君も来るかい?」

何か釈然としない気分の二人の少女。そして顔中打ち上げ花火をあげている少年。

雲ひとつ無い青空には、今嵐が通り過ぎようとしていた。







アスカ&レイ VS カヲル
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6/21/98







こんにちは。CARLOSです。



「陽のあたる場所」第四章、いかがでしたでしょうか?



最初にまず一言、


「申し訳ありませんでしたぁ!!!!」(平謝)




フゥー。今回はちっとヤバかったですね。沢山の人からメールを頂き、本当にありがとうございました。

ここで言い訳を一つ。忙しかったんです。(爆)もう笑うしかありませんね。

実は私のコンピューターが壊れたんです。CDーRをインストールしてもらうために店に行ったら壊されたんです。もう大泣き。昨晩やっと返ってきたんです。

それでは話の方の話題を。

「祝!カヲル君登場!!」全国のカヲルファンの皆様、お待たせいたしました。

えっ?マナはどうしたって?すいません。まだです。

マナはうちのHPでは、本当にひどい目に遭ってますね。「堕天使」の方でもまだだし・・・ごめんなさい。

ではまた、

PS: 更新は、感想メール五通で行います。続きが読みたい人は、メールお願いしま す。

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