かえるさんレイクサイド (23)



「真夏の恋はへとへときゅう!」DJけろっぐが声をかけると、みんなへとへとになりながら踊りだした。びわこ夏のへとへとロックフェスはいよいよ佳境に入っていた。「ぼくがけろっと湿ってるのは」きゅうっとスクラッチの合いの手が入った。「かえるフェイスで洗ったからさ、さんきゅー洗面店!」みんなへとへと盛り上がった。


「かえるフェイス」は、ヘルロード交差点にできた新しい洗面店だった。通りに面して大きく窓を取った大胆な店構えで、通りかかると中がよく見えた。みんな神妙に顔を洗っていた。かえるさんはクラブ曽我沼に置いてあった割引券を握って、店の前に立った。昨日、DJけろっぐが「知り合いがいるからていねいにやってもらえるよ」といったのだった。


かえるさんが入ろうかどうかまだ迷っていると、ドアが開いてアルバイトらしい店員が「どうぞ」とほうきで入口を指した。頭を下げて入ると、今度は別の店員が「どうぞ」といって椅子を指した。かえるさんは頭を下げて椅子に座った。


「DJけろっぐにきいてきました」「あ、そうですか」店員は軽く受け流して、かえるさんの頭を横に向けた。「じゃあちょっとこのままがまんして下さい」そして、苔の匂いのする水を念入りに塗りだした。塗って乾かしてまた塗った。これがていねいなサービスなのかもしれない。かえるさんは、なんだか自分が顔をそむけっぱなしで悪い気がしてきた。「このままでいいですか」「いいです」と、店員はまた苔水を塗った。


「かゆいところがあったらいってください」「ないです」そうは言ったものの、ずっと同じポーズをしているのであしがしびれてきた。かえるさんは椅子の下のじんじんしている膝にぎゅっと力を入れた。あしの先が何かにさわった。ぴりぴりとしびれがきたのでさらに力を入れた。突然あしががくんと下がった。かえるさんを乗せた椅子はぐるぐる回り始めた。


きゅうっと鼻をつく匂いがした。気がつくと、店員がかえるトニックを鼻先にあてていた。かえるさんは椅子の上で気を失っていたらしかった。「レバーが入っちゃいましたね」店員はそう言って、何もなかったように、かえるさんの顔を逆に向けて苔水を塗りだした。よくあることらしかった。「このままでいいですか」「いいです」かえるさんは突然、顔がけろっと湿っているのに気づいた。





第二十四話 | 目次





1