かえるさんレイクサイド (25)



番長とかえるさんの姿がネオンに照らされると、通りの両側からちゅうちゅうと声がした。それはすぐに通りの向こうまで伝わって、鼠の鳴くような声がさざ波のようにちゅうちゅう押し寄せてきた。耳をすますと、どうやらそれは「ちょいとちょいと」と言っているのだった。番長は肩をいからせて、ぐんぐん過ぎていくと、ちょいと、という声は「ちぇっ」という声に変わって、後ろのほうで止む。そして前からはまた別のちょいとが押し寄せてくる。


そうしていくつものちょいとの波をくぐり抜けてから、番長は、「えび専科 丸えび本店」と書かれた看板の前で立ち止まった。「ほら、えびだろ?」と番長が見上げているのは、かえる股から顔をのぞかせているえびのネオンだった。


中に入るとさっそくスーツを来た接客係がやってきて、メニューのようなものを見せた。中を開くと、ずらりとかえるの写真が並んでいた。どのかえるも頭にえびのはちまきをしていた。かえるさんは目がゆらゆらしてきた。「どうした、選べよ」と番長がうながすので、いちばん端の写真を選んだ。選んでみると、それは九死に一生を得たようなフォトジェニックなかえるの写真だった。


「へえ、いきなり一番人気を選んだな。じゃ、あとでな」というと番長はさっさと奥の部屋に入った。かえるさんが目をゆらゆらさせていると、「お客さま、こちらへ」と接客係が廊下を手で指した。奥にはいくつもドアがあって、ドアの上にはそれぞれ違うポーズのえびを描いた提灯が下がっていた。「7番のドアでございます。」


7番のドアの前に立つと、向こうから開いて、顔を出したのは写真のかえるだった。「あら」とかえるは何かを思いついたように声を出した。「こちらへ」と招かれると、人工葦をあしらった沼地風のディスプレイで、左側が、平たくならした土俵のようになっていた。「前から?それとも後ろから?」かえるさんの目はまたゆらゆらした。





第二十六話 | 目次





1