かえるさんレイクサイド (33)



いつものようにひなたぼっこをしようとヘルロードの出窓の下に行くと、見覚えのある甲羅が転がっていた。かえるさんがぺたりとすわると、甲羅からもそもそと頭と手足としっぽが生えて、金亀先生になった。「ひなたぼっこですか。わたしもです。冬はなかなか甲羅ぼしができませんで。しかしお見かけしたところ少し肌が弱いらしい。冬の陽射しをなめてかかってはいけません。」


「直射日光はたとえ冬でもお肌に刺激になります。とくにかえる肌は乾燥にも弱いので、あたりすぎるとあとであちこちかゆくなります。いやなに、毎年そういうかえるが冬にたくさん来院しますもんでね。いやなに、医者をやっておるのです。皮膚科なんですがね。」金亀先生は立て板に水でしゃべった。


「お、それは先月出たタンゴうさぎの切手ですね。」ようやく息つぎをした金亀先生は、かえるさんが持っていたマシヤデンキのDMに目をやった。「DMなのに記念切手とは珍しいですな。きっとアルバイトをたくさん雇って貼らせているのでしょう。そういえばタンゴうさぎは買い逃しました。こうしてみるとなかなか味わいがある。ちょっと惜しいことをしました。」封筒を見ると、なるほど切手の中でうさぎが踊っている。


かえるさんは封筒の角を手でぴりぴりとちぎって先生に差しだした。「おや、いただけるのですか。いやうれしいですな。犬上川の消印ですな。意外に近場の消印のものがありませんでな。これはありがたい。さっそく切手帳に貼らせていただきます。もし日に焼けてかゆくなったらいらして下さい、いつでも診ますから。」先生は四つ足で立ち上がると、いそいそと帰っていった。


かえるさんは封筒の穴に吸盤を突っ込んでぶらぶらさせながら部屋に帰った。こたつの上には、前にマシヤデンキから来た封筒が二枚残っていた。かえるさんは、ぴりぴりと切手をちぎった。どちらも同じ金魚の絵の普通切手で、片方はあお、片方はみどりだ。あお、みどりと並べてみた。みどり、あおの方がいいかもしれない。みどりをさかさにすると、向かい合う。あおもさかさにすると、並んで泳ぐ。かえるさんは切手の向きをああにもこうにも変えては、二匹の金魚の仲のことを考えた。





第三十四話 | 目次





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