かえるさんレイクサイド (6)



かえるさんはまだ暗いうちに目が覚めてびっくりした。かえるが光っていた。この前もらったステッカーだった。あかりをつけると、ステッカーはふつうのステッカーだった。もう一度あかりを消すとかえるが光った。かえるさんはしばらくあかりをつけたり消したりしていたが、だんだん夜が明けてきたので顔を洗うことにした。


喫茶かえるでレイクサイドモーニングを食べたあと、天気がいいのでかえるさんは図書館まで足をのばすことにした。からだが乾くので、彦根城のお堀を通っていくことにした。お堀の桜を見上げると、かえるさんは桜の本が読みたくなった。図書館には舟橋かえるの本がたくさんある。かえるさんはそれをまだ見たことがなかった。舟橋かえるはお堀の桜で有名な文豪だ。きっと桜の話がいっぱいあるにちがいない。


図書館に行くと、舟橋かえるの寄贈した本は特別室に入れられていた。部屋には鍵がかかっていた。この部屋ぜんぶが桜の話かもしれないと思うと、かえるさんはどうしても部屋に入りたくなった。「舟橋かえるの部屋に入らせてください」「お探しの本はおきまりですか?」かえるさんは、そういえば舟橋かえるの本の題名をひとつも知らなかった。「とくにありません」「そうですか、ではこちらの一覧をご覧になってお決めください。係員が取って参ります」


かえるさんは渡された分厚い本を見たが、難しい題名ばかりで、どれが桜の話かわからなかった。しかたがないので、てきとうにひとつを指さした。「明治大正かえる編成史ですね。」係の人は鍵たばを持って部屋に入っていった。かえるさんは着いていったが、部屋には入れなかった。しかたないので、ガラス越しに顔をくっつけて、中の様子を見た。係の人が本を棚から取り出してからこちらを見た。「すみませんが、ガラスにくっつかないでください」係の人は化学ぞうきんでガラスを拭くと、かえるさんに古くて重そうな本を渡した。


本の表紙はあちこちはげていて少し藻の匂いがした。図書館を出てお堀ばたまで来てから、かえるさんはちょっと本を開いてみた。旧かえるかなづかいの、むずかしそうな本だった。かえるさんはお堀の桜を見上げては、ページをめくった。どのページも文字ばかりだった。かえるさんは本を閉じた。向こうの高い木のこずえの上で、シロサギがひょいひょい首を動かしていた。それを見ているうちに、かえるさんの頭もひょいひょい動いていた。






第七話 | 目次

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