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東京スリーズ・ダウン
横森理香/幻冬舎文庫

 ひさびさに自分の生き方について考えさせてくれた。90年代初頭の東京におけるクラブシーンを背景に、そのなかでしか自分自身を見い出すことができない、「星男」というゲイ・ボーイが描かれ、傷つき、苦悩し、やがて心の拠り所を得ていく、といった単純明解な青春小説なのだ。
 しかし、男と女、男と男、女と女という次元を超えた、まさにヒューマンなパートナーに出会うというところが、INだ。
 最近、わが人生のなかで大きな変化が起きている。彼女がいないという状態がかれこれ5ヶ月も続き、その状態に妙に安堵する自分がいるのだ。例えばドラマで、彼と彼女が甘いキスを交わしたり、じゃれあったりしているのを見ると、自分に置き換えて「あ〜、今そういう状況じゃなくて良かった」と思うのだ。
 確かにデートは大好きだし、セックスも大好きだ。だけれども、以前よりもっともっと、自分だけの時間が大切に思えるようになってきた。そして、この小説がその考えが、けっして間違ってはいないんだと教えてくれた。
 音楽を聞いたり、映画を観たり、料理をしたり、遊園地に行ったり。そんな毎日を恋愛のなかで通過するのはとても楽しい、だけれどももっと平凡な日常のなかで、激情にかられる恋のなかではなくて、それらをやりたい。いま、痛切にそう願う。
 「星男」と、彼のパートナーとなる「マリリン」の会話
 「……それにさ。恋愛なんて、何度やったっておんなじなんだもん、もう飽きたよ」
 「恋愛がいいのは最初だけだよ。普通の男はみんな虚勢張って生きてるからさ。陰で自分の女を踏み付けにするんだ。性的に飽きるとまるで母親か家政婦みたいに扱って、また新しい女に走る。いつもおんなじパターン」
 そうそう、そうなんだよ。でも、もうそんな自分は嫌だ。問題はストレート同士の場合、ぜったいにセックスを避けて通れないということだ。生涯を共にすごせるヒューマン・リレーションシップと、セックスとを、どうやって折り合いをつけていくか。
 ゲイの質を持ったストレート。それが今の私の目標に違いない。
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