9月30日(水)
Act.1
 ̄ ̄ ̄
 “大変なのは分かる。・・・ それにしても!”
実に爽快に明瞭に、怒りが行動に出たかんじ。
出車しようとするヤツの車体に思いっきり蹴りを入れていた。
ドゴッと音をたてて凹むドア。渋谷の大通り、振り返る人々。
知ったこっちゃねえ。
振り向きもせずに、反対方向へ歩く・・・。



Act.2
 ̄ ̄ ̄
 そこに来ていた彼に、驚く反面 「らしさ」も感じていた。

 「うん、別に大丈夫よ。却ってスッキリしたかな。」
そう強がる私の背中に、心配そうに触れた指からつたわるもの。

 “コノコノ イタミハ ドレホドノモノナノダロウ?
ボクハ ナニヲシテアゲラレル?”

 ああ、私すごい早口でまくしたててるわね。瞳も泳いじゃってるし。
ごめんね。なんとか立て直そうとは思うのだけど・・・・。



Act.3
 ̄ ̄ ̄
 外では冷たい雨が降っていたけど、私の身体に降り落ちて来る雨は
暖かで優しい。
南国のスコールみたいな愛しい汗。

 汗も唾液も精液も、そしてこの気持をも固定するために
私はこの身体を使うのだ。

 だから、いそいで。 なるべく奥へ。



Act.4
 ̄ ̄ ̄
 月末の地下鉄、満員電車。 酔っ払い、疲れた顔の面々。
体はへとへとだったけど、心境的には却って救われた気がする。

 さあ、帰らなきゃ。 明日は休日。

 家に着いたらグレープフルーツ・ジュース、飲もうっと。
9月29日(火)
 このアパートに住みだしてから、ちょうど1ヶ月目になる。
離婚のダメージは想像以上に大きくて、恐ろしく不安なスタートだったけれど、
唯一手元に残った家族がいた。

 Avi(アビ)という名前のネコ。
結婚生活の幸せな始まりに家族になったコである。
「ねえねえ、お願い!ちゃんと世話して可愛がるから。飼ってもいいでしょう?」
「ネコがいるから赤ちゃんはいらない、なんて言わないって約束するならな(笑)」

 そう、このコは全部知ってる。全部見てきた。
「・・・これからもよろしくね。」と一緒に入居したものの、当然ながら
1週間目に大家にバレた。
“旅行に行った実家のネコを預かっているだけです、来週には戻しますから。”
苦しい言い逃れも今日が限界だったらしい。
帰宅した私を待っていたのは、ポストに入った不動産屋名義の一枚の書面。
「契約解除の申出」ときたもんだ。

* 度重なる弊社からのペット飼育による催告に対し・・・家主様と協議した結果、
  契約解除を勧告します。
  契約解除期限は、通知より起算して1ヶ月以内となりますので・・・ *

 お、お、追い出されちゃうわけっ?!
不動産屋に速攻電話。 あのー、なんか物騒なものがポストに来てますけど?
てんやわんやで、何とか今日明日中に手を打つことで何とかなりそう。←(本当か?)
幸いな事に次の飼い主は見つかっていて、今週中には引き渡すメドが着いていたから
隣区の実家までタクシーすっ飛ばして、母親に平謝り。一時非難先確保。
もうちょっと早くすれば、こんな怖い思いしなくて済んだのに。バカだよなあ。

 そう、ホッとした瞬間に、耳に響く。自分の声。痛いほど。
“ちゃんと世話して可愛がるから・・・。”
“この者を一生の夫とし、死が二人を分かつまでの愛を誓います。”
“この子を愛してるの、絶対離れない。母親だもの。”

 私は何度こうやって、約束を破ることを繰り返してしまうのだろう。
Avi、夫、それからそれから・・・・。

 愛したり、大事に思って将来を決めたり、誓ったり。
まだまだそんな分際の私では、ないらしい。
9月28日(月)
 社員用施設と各種調理場は、全てホテル地下に設定されている。
休日明けの少し重い気分で更衣室へ向かう途中、ふいに足が止まる。
“あ、べーカー(ケーキやパイの専用厨房)がフル稼動してるんだわ・・。”

 廊下にはバターと甘い香りが満ちていて、なんだか泣きたくなる気分。
母親が作ってくれるホットケーキが出来るのを、ただ側で待っている小さい子供
みたいな心細さだ。

 そういう照れくさいような情けないような自分を蹴っ飛ばしたくて、
半分カラ元気で挨拶の声を掛けてみる。
「おはよーございますっ。あ、今朝はガレット(厚焼きレア調クッキー)?
すごいなあ、完璧なる黄金色。なんか幸せそうですね、このお菓子たち。」

 60歳も半ばであろう、職人っぽい粋なベーカー・チーフが笑って、
「じゃ、おまえさんもお揃いにしてやろう(笑)。ホイよっ!」
と、放り投げてくれたのは、あらら、出来立てのガレットだ。

 甘いもの、愛する人、親切心を総じて「Sweet(s)」と表現される意味が
心から納得できた気がする、幸せな朝。
9月27日(日)
 “く、く、苦しい。助けて・・・。”と、夢うつつ状態でのやり切れなさを
救ってくれたのは恋人からの電話の音だった。

「眠っていたの?」 
ううん、風邪気味らしくて横になっていたら半覚半睡みたいに“嫌なオチ方”していてね、
変な執念に取り着かれてた。 すごく苦しかったから起こしてもらって助かった。
それがねえ、可笑しいの。そいつの正体ってば「性欲」なのよ。

「君が性欲でうなされるの(笑)?」
そりゃ、若くて健康な身体だもの。取り着かれやすいわよー!
男の人みたいにビジュアル的で具体的な妄想にはならないんだけど、確実な
感覚だけが台風みたいに襲って来るよ。
あんまり苦しいんで、鎮めたくて、とりあえず自分で何とかしようと考えるんだけど
なんせ半覚半睡状態でしょ?身体が金縛りみたいになってて動いてくれないから
ずーっとジレンマ状態でね、ああシンドかった(笑)

「起こしてあげるのが助けることになるのか、セックスすることが助けてあげる
ことになるのか微妙なところだなあ。」
うーん、ホントにそこが難しいところでね。あんな焦燥感だったのに、目が覚めると
台風一過の如く消えていっちゃうの。
きっと理性ってやつがどんどん覆い隠しちゃうのだと思う。純正なる性欲というやつを。

 生っ粋で、純度100%の性欲。
なんだか磨きぬかれた美しいお酒のようじゃない? ああ、酔っぱらってみたいなあ。

「とりあえず“腕立て伏せ”でもして欲望を昇華することですな。」
あはは、そういや学生時代の保健体育の教科書にはそんな風に書いてあったっけ。

 果たして効果の程は本当なのだろうか?
(あるというなら腹筋だって何だってやってやるっ!!(爆))
9月26日(土)
  不眠症になって薬を取るようになってから、もう1年以上経つ。
最近は食事もお菓子もたくさん食べて、随分と太って元気になりつつあるのに
身体がどんなに疲れていても、心がどんな幸せな時でも睡眠神経だけは
枯れた泉のように干上がったままだ。

 今考えると嘘みたいな話だが、10代の頃から体力があまりなく
インドア傾向だった私は本当に眠ってばかりいる女の子だった。
どれくらい「ばかり」だったかというと、家に来た友人や元・夫は漏れなく
「“manamiの眠り菌”が伝染った〜〜(笑)」 とかなんとか言いつつ
私と昼寝 or 夕寝を御相伴する事が恒例となっていたくらい。

 まるで、その頃の平和や無邪気、ぐうたらさをここで相殺しているかのようだ。
でも、何のために?


 朝ごはんを大好きな人と美味しく食べる、5月の晴れた朝みたいに
すがすがしい、わくわくするような気分。
あの幸せな泉、「マイペース感」を再び取り戻したい。
9月 13日 (日)
 日曜日、大安。職場は結婚式・披露宴で大騒ぎ。
本来は婚礼サロンで1日打ち合わせ業務をする予定だったけど
人手が足りない現場に待ったは効かない。急遽駆り出される。

まずは、昼過ぎまでフロントとクローク。
おいおい、こんな新人をそんな表舞台に出しちゃっていいんかいな(笑)
でも普段裏方業務だから、たまにはこんな華やかな場所もいい。
オメデタい、ハッピーな空気に身を置くのは望むところ。
ここぞとばかりにおめかしした女性たちは華を競い、玄関ホールへ
来客の送迎に来た花嫁たちは、我が身の幸せに涙・涙。

「あのう・・・落とし物探しなんて、やっていただけませんよね?」
青い顔して、きれいな女性がクロークに来た。
よく似合うチャイナ・ドレスに引き出物の紙袋がちょっとアンバランス。
「いえいえ、もちろんお探ししますが、どのようなものを?」
と、言うか言わないかの瞬間、彼女の左手がこちらに伸びたと思いきや
「これの、指輪の、石だけの、ダイヤの・・・・。」
よっぽど動揺してるのだろう。主語が少しヘンになっている。
良く見ると ナルホド、指輪の台だけは彼女の薬指に収まっているものの
石を止めてあるはずの部位に石がない・・・って、ちょっと!、それって
エンゲージリング(婚約指輪=給料の3ヶ月分)では?!
「あの、失礼ですが、こちらエンゲージリングでございますよね?」
「そう、なんですけど、あの、でも、来た時はちゃんと着いてて、でも
色んなところ動きまわったから、館内のどこで落ちたのか、は・・・。」

なんてこったいっ、一大事だわっ!!

とにかく一番可能性があるのは一番多くの時間を過ごした披露宴会場であるずで。
その次がチャペル、トイレ??
とにかく館内の可能性のある、ありとあらゆる場所に “0.5カラットのダイヤの
指輪の原石(のみ)”の落とし物探しの連絡をとばす。
泣き出しそうなチャイナドレスの君には、ラウンジで待機を願う。
「見つかるでしょうか?」現場のリーダーに質問。

「う〜〜ん、鳥取砂丘でコンタクト・レンズ探すようなモンだからねえ。」(爆)

いや、笑ってる場合じゃないんだけどさ。

 幸運なことに、かくてダイヤの原石は披露宴会場で発掘され、未来の花嫁である
チャイナドレスの君の手に戻る事となる。
スタッフ一同、大安堵。

「よっぽど、主の所に帰りたかったんでしょうね、このコ。」
そう言ってお渡しした時、少し照れ笑いしながら肯く彼女のいじらしい背中が
とても女性らしくて、ちょっぴりウラヤマしかったりして(笑)・・・。


夕方、婚礼サロンで式・披露宴の進行の打ち合わせをプロ司会者の人と進める。
お約束の質問事項、“プロポーズの言葉は?”

「1月に、結婚したいと思うんだけど・・・。」 → 「・・・・で?」

あはは、先が思いやられますね、ダンナっ!!
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