A-Tと戦う父


これはSan Jose Mercury Newsというローカル新聞の記事からです。 フロリダ州に住むBrad Margusさんはシーフードの卸売業の社長でした。彼の次男(Jarret)、 三男(Quinn)が遺伝子の異常が原因のAtaxia-Telangiectasia(A-T)という 難病にかかっており、この治療法確立のために奔走し、現在シリコンバレーのバイオテクノロジー 会社社長になり治療法の研究をしている話が紹介されています。

A-Tは全米でも500人程度しかいないまれな難病で、幼少時に運動機能の低下が起こり、 歩けなくなり、免疫不全になります。多くの患者が癌を患い、20才以降生存する例は 大変まれです。現在Jarret君,Quinn君はそれぞれ11,10才で車いすの生活です。 Bradさんがこの病気を知ったのは7年前です。彼はこの治療法確立には遺伝子学者の 協力が必須である事を認識し、遺伝子学者達の協力を得るため、自ら遺伝子学の勉強を 始めました。家庭教師を雇い、妻と共に分子生物学を学びました。また資金を集め非営利団体 A-T Children's Projectをおこしました。この過程において議会に働きかけ資金を調達する 方法も学びました。いろいろ考えた末BradさんはStanford大学の遺伝子学者、小児科医である Cox博士に近づきこの団体の顧問への就任を要請しました。1993年のことです。 Cox博士は人間のゲノメ(全遺伝子情報)の解読研究にも参画した大変優秀な学者でしたが、 この時は時間を理由に断わりました。しかし最近のインタービューによればCox博士はこの時 Bradさんと組めばうまくいくと感じていたそうです。

1995年にはこの団体の資金で研究をしていたテルアビブ大学が突然変異をする遺伝子を 発見し、癌、パーキンソン病、A-Tなどの解明につながるとして脚光を浴びました。 その後パーキンソンの治療薬をA-Tに応用しましたが良い結果は得られませんでした。

その後Cox博士はAffymetric社の技術と遺伝子のゲノメ設計図を使えばある個人の遺伝子と 遺伝子の設計図との差異を抽出することが可能になると思い、この遺伝子の差異の情報が あたらしい治療法に結びつくと考えました。この研究を推進するためにAffymetric社 社長のFodor氏とCox氏は新しい会社を興してMargusさんを社長にスカウトしたのでした。

Margusさんはこの話に乗りPerlegen Science社社長に就任、来月には100億円の資金調達を 行う予定です。この会社の目的は一般的な病気の解明に寄与する技術を提供することです。 この中にはもちろんA-Tの治療に役立つ発見もありえます。 Cox氏は言います。「A-Tを患う人には共通の遺伝子があるが、その病気の程度はまちまち である。これには他の遺伝子の係わり方が関係している。これらのしくみを解明すれば 新しい治療法に結びつくかも知れない。」

このPerlegen Science社では研究を意味のある結果に結びつけるという事を大切にしています。 これはMargusさんが社長をしているからです。 Margusさんは言います。「新発見は意外な場所で起きます。このためには科学者たちに 必要な資源を与え、働かせることです。」

Perlegen Science社はDNA microchipを作り、Affymetrix社の技術を利用して 遺伝子情報の解読を行います。今後1年で50種類の遺伝子情報を解読を予定しています。 これは1年前では不可能な事でした。 -------

12/31/2000の新聞にMargusさん家族の写真がカラーで大きくでており、ずいぶん 共感を呼んだと思います。海老の卸売りの社長からバイオテクノロジーの会社の 社長と言う転身には本当に驚きます。MargusさんもハーバードのMBAを持つ優秀な 人ですが決して理系の人ではありませんでした。ちょうど人間の遺伝子情報の解明 と重なった時期でもありましたが、子供の存在をバネに大変な努力をした人 だと思います。この前のJones夫妻の話もそうですが、やればできるのです。 アメリカではこのような事が実現してしまう環境、文化があるのだと思います。

日本ではまだありえないような話ではないでしょうか?


もどる 1