「初めての敵」 ’00年2月15日
ユキです。
モコがこの家に来た時、まだ赤ちゃんだったのでしばらくはこっそりと久美子の部屋で隠れて暮らしていました。
まだずっと小さかったのでミケやイネにいじめられるなどということもほとんどありませんでした。
しし丸やユキ達も外に出たこともなく、ミケやイネはずっとずっと年上なので相手にもされず、兄妹ゲンカもしませんでしたから闘う相手というものがこれまではまったく存在しませんでした。
トラミもこの家に来た当初は、ミケやイネにいじめられるのではないかと心配して、やはり久美子の部屋でひっそりと暮らしていたのですが。
しばらくの間(1ヵ月くらいでしょうか)、放浪生活をしていたせいもあって、トラミは私達が心配していたよりもずっとずっとタフでしたたかなのでした。
まず、トラミは私や妻に徹底的に甘えました。
自分を庇護してくれる存在をちゃんと知っているようでした。
まるで甘えないモコファミリーやミケ、イネに慣れてしまっている私達には懐かしいような、薄気味の悪いほどの甘えぶりでした。
それからトラミはモコ達と少しずつ衝突するようになりました。
ミケやイネにはまったく手を出そうとはしませんでした。
ミケが今でもバリバリの武闘派であることを良く知っているようでした。
メリーは体は小さいですけど気は強いですから、「シャーッ!シャーッ!」と自分からトラミに向かって行きました。
モコはやはり父親ですから、トラミが右前足でチョイッチョイッと軽く攻撃するのに対して、後ろ足で立ち上がると両方の前足を振り回して応戦しました。
でも、トラミはモコの出方を見ているだけらしく、お互いの手はまるで相手に届いていないのでした。
モコにしてもこんなふうな実戦はまるで初めてだったのですが、しし丸やユキは両親の元でぬくぬくと育って来たせいで闘うということをまったく知らないのでした。
しし丸は体はずっと大きいのですが警戒心がちっとも無いですから、トラミにいきなり殴られても唖然としているだけなのです。
普通だったら何か危険が近づいていることを察知してもいいはずなのに、しし丸はまったく無防備でボーッとしていたのでした。
さすがに2度も殴られると、ちょっとは警戒するようになりましたが。
その点ではユキはしっかりしていて、トラミが近づくとさりげなくごく自然に距離を保っていました。
そして、やっとしし丸もぎこちない手つきですがトラミの攻撃に対して反撃ができるようになって来ました。
しし丸やユキにとってトラミは生まれて初めての敵なのです。