「白と茶の襲撃者」 ’00年10月8日
ふいに「フギャッアー!」と悲鳴が響き渡り、私はひどく驚きました。
広げていたTシャツを放り出して網戸をこじ開けると、急いで2階のベランダに出ました。
通りを見下ろすと、十字路の中央で2匹の猫がもつれあうように争っていました。
上からおおいかぶさって大きな口を開けているのは白と茶の太った猫でした。
下側で横倒しになったまま前足を激しく振って抵抗しているのはミケでした。
ミケは「白茶猫」に比べれば半分ほどの大きさしかなくて、まるで子猫のように見えました。
先日はトラミを追い回していた「白茶猫」が、今日はミケに襲いかかったということのようでした。
ミケは「白茶猫」に飛びかかるように勢い良く上体を起こすと、くるっと体を反転させてすばやく逃げ出しました。
それを一瞬の差で「白茶猫」が追いかけました。
私はあわてて階段を駆け降りました。
気が強いミケのことですから気持ちでは負けてなかったと思うのですが、ミケはもうおばあさん猫ですから体が弱っていました。
1週間ほど前にさとう動物病院で天野さんに診てもらった時には、一月もたたないうちに500gも体重が減っていることが発見されたので血液検査をしてもらったほどだったのです。
血液検査の結果、「やはり老齢のために腎臓の働きが悪くなっているので腎臓が悪い猫用のドライフードを食べさせたほうがいいですよ」と、天野さんに言われました。
また、アジやカツオなどのような赤身の魚ではなくタイやタラのような白身の魚のほうが良いとのことでした。
玄関ドアを押し開けて外に出ると、「白茶猫」が車のわきにうずくまっているのが見えました。
と言うことは、ミケは車の下に逃げ込んでいるのに違いありません。
ところが、私が駆けよってもふてぶてしい「白茶猫」は逃げるわけでもなく、めんどくさそうにのそのそと少し離れただけでした。
それを見てカッとなった私はつっかけていたビーチサンダルを手に取って、力いっぱいなげつけました。
けれどもそれはやはりビーチサンダルのことですから迫力の無いことこの上も無くて、「白茶猫」の近くでポンと跳ねただけで後は裏返ったままでした。
それでも、「白茶猫」は申し訳程度に足を早めて逃げて行きました。
「今度出くわした時にはきっちりと片をつけてやる」とでも、物語の中なら登場人物に言わせるところです。
もちろん私はそんなことは一言も言わずにミケの名を呼びました。
でも、すっかりおじけずいてしまっていたミケは車の下でうずくまったままで動こうとはしませんでした。
「白茶猫」が戻って来る心配も無さそうだったので、私は家に戻って洗濯物干しを続けることにしました。
Tシャツがこれほどに気持ち良く乾く日はそうめったにあるものではありません。
これから先も「白茶猫」がたびたび襲撃をくわだてるようでしたら、ミケの老後のためにも何か効果的な対策を考えなければならないのでしょうが。
ベランダで風に吹かれながら、『猫の人生にもいろいろあるもんだな』と思いました。