「ねこに未来はない」 ’00年12月11日
「ノルウエーの森の猫」について書きましたが、私にとって猫の本の原点とも言うべき作品について書くのを忘れていました。
それぞれの人に、これこそ私の猫本の原点と言える本があると思います。
それはたとえばポール・ギャリコの「いとしのトマシナ」や「さすらいのジェニー」であるとか、村上春樹が訳した「空飛び猫」などではないかと思います。
私の場合、それは長田弘が書いた「ねこに未来はない」という、実に刺激的な題名の本なのです。
長田弘は詩人です。
この本は詩ではないのですが、実に詩的な言葉で書かれた非常に美しい物語なのです。
若い夫婦が子猫をもらって来て育てるというだけのストーリーなのですが、ありふれた事柄が長田弘に表現されると実にやわらかでみずみずしい感動を呼び起こすのです。
詩人とはこういうものなのかと驚きました。
あの時の驚きと喜びを久しぶりに思い出しました。
初めて読んだ時にはあふれるイメージの豊富さにめまいを感じるほどでしたが、こうして久しぶりに読み返してみると私の感性がにぶくなったことを痛いほどに感じました。
おそらくは甘美と言えるほどの味わいを含んでいるこの本は誰にでも勧められるものではないとも思います。
ですが、このこじんまりした甘い世界は巨大な空しさと絶望感の宇宙に浮かんでいるようにも、ぼくには感じられてしかたがないのです。
図書館にはたいてい置いてあると思いますので、良かったら一度読んでみて下さい。
町田市の市立図書館には晶文社のものが2冊置いてありました。