「ココット」         ’01年4月15日


ココット

 町田駅の近くにジョルナというあまり大きくないデパートがあります。
 ジョルナの中にペットショップのエンゼルはあるのです。
 久美子がモコと初めて出会ったのがこのエンゼルでした。
 モコが私の家に来てしばらくしてメリーも来ました。
 その後も久美子は時おりエンゼルを訪れていました。
 キャットフードを買ったりする用事もあったのですが、エンゼルにはかわいい子猫がいつもいましたから、子猫たちを眺めているのが楽しかったからです。
 家の近所などでは決して見ることができないメークインやノルウエージャンフォレストキャットの子猫でもエンゼルでは見ることができたからです。
 エンゼルに寄った日は、どんな子猫が遊んでいたとか寝ていたとか、久美子はとても楽しそうに話します。
 けれども、今年になってからはひとしきり楽しそうに話した後で、少し心配そうに気がかりな子猫のことを話すようになりました。
 それは10月生まれのチンチラゴールデンの女の子についてでした。
 10月生まれですから正月の頃には生後2ヵ月で、ペットショップでも一番高い値段がついている時です。
 その後はだんだん値札の数字も小さくなっていくのですが、値段が下がったから飼い主が見つかるというものでもありません。
 チンチラゴールデンの女の子は2月になっても、3月になっても元気にペットショップで遊んでいました。
 その子猫のことが久美子は気になってしょうがないようでした。
 今月になってもその女の子はメークインやアメリカンショートヘアの子猫たちとじゃれあったりしてはしゃいでいました。
 でも、チンチラゴールデンの女の子はそこにいる子猫たちの中では一番のお姉さんになっていました。
 「もしも、このまま飼い主とめぐり会うことがなかったら、この子はどうなるのだろう?」
 と、久美子は子猫を待ち受けている将来が心配でならないようでした。
 「ずっと飼い主があらわれなかったらどうなると思う?」と、久美子は私に聞きました。
 「母猫のところに帰されるのかな?」と、私は思いつくままに答えました。
 「でも、きっとそれは子猫にとっては楽しいことじゃないと思うな」と、久美子は言いました。
 現在、私の家には6匹の猫が同居しており、それだけでも大変なことでした。
 そこにもう1匹、子猫がふえるとしたら、それはどんなことを意味するのだろうか?
 と、私は考えました。
 「あの子猫を飼いたい!」と久美子が言ったわけではないのです。
 けれども、いつの間にか妻も私もあの子猫を飼うとしたら、どんな問題があるだろうか?」と真剣に考えるようになっていました。
 そして、モコたちの意見を聞いたわけではないのですけど、「特に問題になるようなことは何も無い」という決論に達していたのでした。
 こうして、11日に久美子がエンゼルに行ってチンチラゴールデンの子猫を引き取って来たのです。
 子猫はメリーたちに気づかれないようにこっそりと久美子の部屋に運び込まれました。
 ですから、モコたちは久美子の部屋にいる子猫にはまだ気づかないでいるのです。
 子猫の血統書はまだ届いていないので、どのような名前がつけられているのか分からないのですが、私の家における子猫の名前は久美子が「ココット」と名づけました。
 カメラのファインダーを通して見たココットはひどくおびえているように見えました。

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