「ミケの闘争」         ’01年9月26日


ミケ

 24日の朝のことです。
 私は猫のうなり声で眼をさまされました。
 低くて太い、怒りがたっぷりとこもったうなり声でした。
 声は強くなったり弱くなったりしながらもずっと続いていました。
 私はそれが現実の声だとは感じられなくて、『ぼくは今まで何の夢を見ていたんだろう?』と不思議に思いながら横になっていました。
 半分眠ったまま私は首をねじ曲げて声が聞こえて来る足元を見ました。
 ふとんのわきにミケが背中を向けたままうずくまっていました。
 そのそばに妻がしゃがみこんで、ミケの世話をしているようでした。
 「車の下でずっとうなっていたらしいのよ。久美子が見に行って見つけたんだけど。朝早くにどこかの猫とケンカしたみたいなのよ」
 話しながら妻はミケの首すじの毛をかき分けて傷をさがしているようでした。
 「顔の右側がひどく腫れているのよ。出血はしていないんだけど、猫の爪の傷は小さいくせに深いから気をつけないと」
 さわられるだけでもひどく痛いらしく、ミケはしきりにうなっていました。
 けれども、逃げるほどの気力も無くなっているみたいでミケはうずくまったままでいました。
 「もうおばあさん猫なんだからケンカなんかしなければいいんだけどね」
 「トラミみたいなトラ毛でトラミの倍くらい体重がありそうな猫がうろうろしていたというから、その猫にやられたのかも知れないわね」
 「先月は顔の左側で、今度は右側なんだから。ほんとにあきれてしまう」

 8月の初めにもミケは顔にケガをしたことがあったのです。
 犬に噛まれたのです。
 耳から左のほほ骨のあたりにかけて皮が剥けて赤裸になっていました。
 犬の歯は刺さらずにほほの毛をこそげ取っていったのです。
 どちらかと言えば打撲なんですが、やはりひどく腫れ上がりました。
 その時はすぐに近所の家の子が知らせてくれたのですが、ミケを噛んだのは散歩中の犬でした。
 ゴールデンレトリバーのような大きな犬で、もちろんヒモにつながれて散歩していたのだそうです。
 それほど長いヒモであるわけでもなく、ミケのほうから近よって行かなければ噛まれるはずがありません。
 ミケがケンカをしかけたとも考えられなくて、どうしてそんな犬に噛まれたのか今でも不思議でたまりません。
 この時も10日間くらい病院に通いました。

 24日は振り替え休日でしたが、さとう動物病院は診療をしていました。
 ミケの首にはやはり爪が刺さった跡があって、そのせいで顔が腫れているのでした。
 ミケは痛みのために何も食べようとはしませんでしたので、栄養分の点滴や化膿止めの注射をいくつかしてもらって帰って来ました。
 昨日も腫れはひかなくて、ミケはタンスの上に上ったきり静かに寝ているばかりでした。
 今日も病院に行って注射をしてもらったのですが、まだほほから首すじにかけて固いしこりがあるので、しばらくは病院に通わなければなりません。

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