「ココットの視線」         ’01年12月14日


ココット

 東急デパートの地下にある食品売り場によったら、チキンカツ用のとり肉を売っていました。
 鶏の胸肉なのですが、カツ用に薄く叩き伸ばしてありました。
 それは見るからにおいしそうな色をしていました。
 それで、ふとメリーたちのおやつに買ってみる気になったのです。
 と言うのも、以前にも何度かとり肉を煮てあげたことがあるのですが、メリーたちはあまり喜ばなかったのです。
 メリーはケンタッキーのフライドチキンは大好きなのですが、何の味つけもしないで煮ただけのとり肉は好きになれないようでした。
 「見た目にはうまそうなとり肉なんだけどね」と、私が言うと。
 「煮ると味が抜けてしまうから、電子レンジでチンしたらいいんじゃない」と、妻は言いました。
 煮るよりも電子レンジのほうがずっとかんたんですから、「そうだね」と私はすぐに賛成しました。
 斜めにそぎ切りにして皿にならべるとラップをかけました。
 500Wで2分もすると、思っていたよりもずっと水分と油が出ました。
 それでもうま味はずいぶん残っていて、食べてみると味つけを何もしていないのにけっこうおいしいのに驚きました。
 もっと驚いたのはココットの反応でした。
 匂いをかぎつけてすぐにやって来たのです。
 しかも、これまでに聞いたことも無い声でねだるように甘えているのです。
 モコやしし丸はまるでその気が無くて、メリーやユキは余裕を持って食べているのにココットだけは大喜びで食べていました。
 「おいしい、おいしい」と言うようにハグハグと声を立てながら夢中で食べているのです。
 とり肉がすっかり無くなってしまっても、まだ食べたりないように私の指をなめていました。
 でも、いっぺんに食べ過ぎるとまたお腹をこわしますから、それだけにしておきました。
 そしてそれ以来、私に対するココットの態度が少し変わって来ました。
 ずっと久美子の部屋で隔離されて生活して来たココットは、今までは私のことを「どうしてここにいるのか分からないおじさん」のように感じていたようなのです。
 けれども、あれ以来は私のことを「おいしいとり肉をくれるおじさん」と認識するようになったようなのです。
 それは、私のそばにひんぱんにやって来るようになったことからも感じられました。
 そして、ときおり私の指先の匂いをかぐのです。
 ココットが私を見る視線がやわらいで来たようにさえも思いました。

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