「寒さと緊張の散歩」         ’02年1月5日


モコ


 私の家にも数十枚の年賀状が届きました。
 その中に間違って配達されたものが2枚ありました。
 おなじ町内に私たちと同じ姓の家があって、その2枚はその家に届けられるべきものでした。
 すでに外は暗くなっていましたが、年賀状だから早めに届けてあげようと思い、私は2枚を持って玄関に向かいました。
 すると、その後をモコが急いで追って来たのです。
 散歩にでも行くつもりのようでした。
 ふと、私はモコを抱いて行く気になりました。
 抱き上げるとモコは私の左肩に両前足をかけて、そこにあごを乗せました。
 夜空は良く晴れていて、きりっとした冷気が私たちをすぐさま包みました。
 家を離れるにつれて、モコは前足でしっかりと私の肩にしがみついて来ました。
 激しく打っているモコの心臓の音が私の胸にも響いて来るようでした。
 その家は表通りにありました。
 郵便受けに2枚を投げ入れると、コトンと乾いた音が響きました。
   家に戻ろうとして歩き出したとき、私の肩に乗せられていたモコの前足にぎゅっと力が加えられました。
 振り返ると、ゆるやかな坂道をおりて来る人たちの姿がおぼろに見えました。
 ゴールデンレトリバーらしい大きな犬を2頭引き連れた人たちでした。
 モコの前足の爪が私の肩に食い込んで、モコの緊張感が痛みと共に伝わって来ました。
 私は犬たちに追われるように足をはやめました。
 ピタピタと足音があたりに冷たく響きました。
 熱い息を白く吐きながら私は門扉を開け、玄関に走り込みました。
 私がくつを脱ごうとしている間にモコは飛び降りて居間に逃げ込んでしまいました。
 寒さと緊張に満ちた夜の散歩でした。

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