「しし丸の予防接種」         ’02年1月8日


しし丸の予防接種


 去年の暮れには、予防接種の時期が来たことを通知する葉書が届いていたのです。
 接種するワクチンは3種混合ワクチンでした。
 モコたちはみなこの予防接種を毎年受けているのですが、7匹がいっぺんに受けるのは大変なので少しずつ接種時期をずらしてありました。
 今回はメリーとユキ、しし丸が接種を受ける番でした。
 メリーとユキはキャリーバッグに入れましたが、しし丸は引き綱をつけて妻が抱いて行くことにしました。
 すでに外は暗くなっていることもあって、車に乗ったときからしし丸は不安でたまらないらしくて切なそうに鳴いていました。
 逃げようとして暴れるわけではなく、むしろ必死に妻にしがみついているのでした。
 さとう動物病院には診察室が3つあります。
 私たちが待ち合い室に入ったとき、2つの診察室で診療が行われていました。
 どちらも犬でしたから、待ち合い室には犬の匂いが濃厚にただよっていたのだと思います。
 私などにはまったく気にもならない匂いでしたが。
 「ししったら、ふるえているのよ」
 と、しし丸を抱いたままイスに座っていた妻がこっそりと言いました。
 なんだか妻は少しうれしそうでした。
 しし丸は妻に抱かれたまま妻の胸に顔を押しつけて、そのまま隠れてしまおうとでもしているようでした。
 ときおりちらっと横顔をのぞかせるのですが、誰かに見られているのに気づくとあわてて顔を隠してしまうのです。
 犬の匂いはメリーも気になるらしくて、「ウー!ウー!」と低い声でしきりにうなっていました。
 メリーは気の強い母猫ですから、逃げるどころかむしろ攻撃的な気分になっているようでした。
 ユキは何も言わずにもの静かにあたりを警戒しているといったようすでした。
 待ち合い室ではこんなふうですが、診察室に入ってしまえば注射はすぐに済んでしまいます。
 注射が恐いなんてことはまったく無くて、注射そのものはちっとも痛くないみたいにあっさりと終ってしまうのです。
 「予防接種をしたばかりですから、今夜は家に帰っても走りまわったりしないで静かに過ごすようにしてあげて下さいね」
 アシスタントのお姉さんからそんなふうにやさしく気を使ってもらって帰って来たのです。
 そして、しし丸はすぐにモコのそばに行ってしきりに甘えていました。
 それから、しし丸たちはすっかり疲れていたみたいで、夕飯を食べるとすぐにぐっすりと眠ってしまいました。

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