「閉じ込められたモコ」         ’02年1月25日


モコ


 私が家に帰った時、家には妻も久美子もいませんでした。
 そのことは家の明かりがすべて消えていることからもわかりました。
 玄関のドアを開けると暗闇の底に白いものがいくつも動きまわっていました。
 階段にはだれかが吐いた毛玉のかたまりが落ちていますし、カーペットの上には湯のみ茶わんがころがっていました。
 こぼれたお茶が緑色のしみを作っています。
 ひどいありさまです。
 ともかく、私は新聞や封筒やチラシなどをひとかたまりテーブルに乗せると、冷凍してあった鶏の胸肉を電子レンジに入れて解凍のスイッチを押しました。
 それからエサ用のトレイを洗って、缶詰めを開けるとそれぞれの場所に並べました。
 解凍が終ってやわらかくなった胸肉を斜めにそぎ切り、重ならないように皿に置きました。
 もう一度電子レンジに入れて、その間に毛玉の片づけをしました。
 電子レンジがチーンと鳴って、熱い皿を取り出した時には足元にココットやメリー、ユキが集まっていました。
 ココットはせいいっぱい背を伸ばして流し台のふちに前足をかけると、しきりに皿の中をのぞきこもうとします。
 まだ熱い胸肉を冷まそうとして、私はふーっふーっと息を吹きかけながらこまかくちぎりました。
 その間もココットは、「早く食べたいよ。早く食べたいよ」というふうにせつなく鳴きつづけていました。
 ココットがこんなふうに鳴くことはこれまでにはまったく無いことでした。
 それほどにココットは鶏肉が好きなのです。
 ココットが夢中で鶏肉を食べているのをながめていると、久美子が帰って来ました。
 久美子は私を見るとすぐに、「モコは?」と言いました。
 「えっ?・・・・いなかった?」と、私はうろたえながら言いました。
 「それじゃ、朝ご飯は食べさせた?」
 「いや、知らないな。朝は忙しいから見てないよ」
 そっけなく私が言うと、久美子はあわてたように階段を駆け上がって行きました。
 久美子が部屋のドアを開けると、モコが飛び出して来ました。
 モコはダダッ!と階段を駆け降りると、皿に残っていた夕飯をばくばくっと食べはじめました。
 大急ぎでひとしきり食べてから、モコはあわててトイレに駆け込みました。
 「ずっとガマンしてたのかな?」と、私はあきれながら言いました。
 「朝、来てからずっとあたしの部屋にいたのよ。でも、モコはやっぱり食べてからトイレに行くのね」
 メリーやココットだったらドアを開けるまでシャカシャカとドアを引っかいています。
 ミケだったら、「ニャアーニャアー」と鳴きわめき続けるでしょう。
 閉じ込められたら誰だって大騒ぎするはずです。
 でも、モコだけはちっとも騒がないのです。
 トイレを終えると、モコは戻って来てまた食べ続けました。
 あらかた食べ終えると、メリーを追いまわしてやつあたりをはじめました。
 「モコでもやっぱりストレスがたまっていたのかな?」と、私が聞くと。
 「モーちゃんの家庭内暴力だね。こら、モコ、やめなさい」
 と言って、メリーに噛みついているモコを久美子は引きはがしました。
 すると、モコは「フン!」と鼻を鳴らしてふてくされたように引き上げました。
 次に見たときにはモコは上の画像のようにユキと一緒に寝ていました。

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