「猫舌のチョコレート」 ’02年2月6日
モコたちが毛づくろいをしたり顔を洗ったりしている時に、つい見とれてしまうのはあの小さな舌のせいなのです。
短い舌をせいいっぱい伸ばして胸元のやわらかな毛をすくうようになめ上げたり、前足をなめては頭の毛を整えたりしている姿を見ているのは胸ときめく思いがします。
そんな愛らしい舌を長く引き延ばしたような形のチョコレートがありました。
もう少しで6時になろうとしている時でした。
私の携帯電話にスカイメールが届いたのです。
それは、妻と久美子の二人が一緒に駅前の東急デパートにいるというものでした。
間に合うようだったら一緒に帰ろうというのです。
ちょうど私はJRの駅に向かって歩いていたところだったので、すぐに方向を変えて東急デパートに向かいました。
東急デパートの1階にはたくさんの店が入っていて、客でごったがえしていました。
妻を先頭に私たちは一列になって人込みを縫いながら歩きました。
妻は何かをさがしているようでした。
私はなんだか分からないままに久美子の後にくっついて歩いていました。
ふいに久美子が立ち止まりました。
お菓子屋さんのショーケースの中を指さしています。
ショーケースにはいつにもましてチョコレートがたくさん並んでいました。
「ああ、もうじきバレンタインデーなんだね」と、私は意識しながらつぶやきました。
「ほら、あれ!」と、久美子は私のつぶやきなど聞こえないように強く言いました。
久美子の指の先にあったのは、猫が舌を出している絵柄の箱でした。
そのチョコレートは数年前に一度買ったことがありました。
「ああ、あれはおいしいんだよね」と、私は思い出しながら言いました。
「・・・・・・・・・・・・・」。
「えっ!あれが欲しいのか?・・・・でも、バレンタインはもう少し先だけどな」
と、私はさり気なく言ってみました。
けれども、娘はバレンタインのことなどまったく頭に無いようでした。
けっきょく、千五百円のチョコレートは私が買いました。
そして、家に帰って3人で仲良く食べたのです。
それは実に不思議なほどにおいしいチョコレートでした。