ワイドスクリーン・バロック
アルフレッド・べスター
Alfred Bester
(著者紹介)
1913年ニューヨーク市マンハッタン生まれ。1987年七十三歳で心不全のために逝去。一冊一冊に内容が凝縮されているためか寡作。
「虎よ! 虎よ!」 1956 | 「分解された男」 1953 |
「虎よ! 虎よ!」 TIGER! TIGER! 1956
中田耕治訳 ハヤカワSF277 ISBN4-15-010-277-5
カバー・イラスト/生瀬範義 カバー・デザイン/小倉敏夫
前半最高、後半は……
(あらすじ―本書背表紙より)
ジョウント効果と呼ばれるテレポーテーションの開発によって、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに空間を跳び、人々はどこへでも自由に行けるようになったのである。しかし富と同時に、このジョウント効果は、窃盗や劫略、恐るべき惑星間戦争をもたらした。この物情騒然たる25世紀を背景に、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる復讐の物語を、華麗に描く名作!(書評:1998-05-15読了)
不滅のオールタイム・ベスト。重化学工業的空想科学絢爛豪華大冒険活劇浪漫。やたらとゴテゴテなので頭がクラクラする人もいるだろう。前半は最高にスリリングで楽しめる。しかし、後半はちょっと息切れして私にとってラストはショボショボな感じがした。人によっては「ドッカーンと、よくぞキメてくれました!」というような名ラストなのだろうが。しかしながら、なにはともあれこれだけ濃い小説を書いていただいただけで大満足です。ありがとうベスター。ただ全体を通して身勝手な男の論理がゴリ押しされ続けるのが少々気になる。やはり古いことは否めない。
「分解された男」 THE DEMOLISHED MAN 1953
沼沢沿治訳 創元SF623-1
男の論理全開
(あらすじ―本書1pより)
舞台は二十四世紀、全太陽系を支配する一大産業王国の樹立をねらうベン・ライクは、宿命のライバルを倒すために殺人という非常手段に訴えた。いっぽう、人類の進化は超感覚者(エスパー)と称する、人の心を自由に透視できる特異能力の持主たちを生んでいた。ニューヨーク警察本部の刑事部長リンカン・パウエルはこの超感覚者(エスパー)のリーダーであり、世紀の大犯罪を前にして陣頭指揮を開始。ここに超感覚者対ライクのひきいる巨大な産業ネットワークのあいだに虚々実々の攻防戦が展開する。ヒューゴー賞受賞の栄に輝く名作!(書評:1998-06-07読了)
1953年第一回ヒューゴー賞受賞作品。「虎よ! 虎よ!」とこの作品を読んでしまえばベスターはほとんど読んでしまったことになる。内容を凝縮しているだけにベスターは寡作だったのだろうか? なにはともあれ、この作品もゴテゴテに装飾された重化学工業的空想科学絢爛豪華大冒険活劇浪漫。この作品も身勝手な男の論理が徹底的にまかり通る。もう一度いうようだが古いからしょうがないのかもしれない。「虎よ! 虎よ!」と比べてどっちが良かったですかと聞かれると非常に難しい。正直にいってベスターの描く主人公は私にとって全然魅力的ではない。リンカン・パウエルもガリヴァー・ホイルもたいした糞野郎だ。この作品では読み進みながら悪玉であるベン・ライクを必死で応援していた。ところで、一応勧善懲悪のハッピー・エンドだけどこういうラストは勘弁してくれよと思った。警察権力による超能力盗聴がまかり通っているこういう未来社会はよくよく考えてみれば怖いぞ。