川又千秋
Chiaki Kawamata
(著者紹介)
日本人SF作家。
「火星人先史」 1981 |
「火星人先史」 1981
角川文庫5691 カバー・佐竹美保 ISBN4-04-149204-1戦争SFの傑作
(あらすじ―本書裏表紙より)
探検時代を経て、地球から火星へと入植した際、人類は、単純労働力および緊急時のたんぱく資源として高度に進化したカンガルーを大量に送り込んでいた。が、カンガルーたちは、徐々に自我を抱き、人間たちよりはるかに火星の土地になじんできていたのだった。そして……地球におけるカンガルーの種類が全て滅んだとき、彼らは自ら正真正銘の火星人であることを名乗り、地球人への反抗を開始しはじめた! 火星を舞台に、雄大な宇宙観と構想により展開する、日本のSF作品の金字塔。
(書評:2000-03-17読了)
傑作。敗戦という大きな経験があるからか、かんべむさしの「サイコロ特攻隊」と同様に日本人作家が描く戦争SFは、おバカなヤンキーのハインラインとは一味も二味も違うように思える。おそらく60年代のベトナム戦争と黒人問題からアイデアを得た作品だと思うが、そういったことを無理やり連想させるように説教くさいわけでもなくすんなりと作品の中に入り込むことができる。火星人という民族意識に目覚めたカンガルーたちが地球に対して反旗をひるがえすというのが基本的なストーリーだけど、カンガルーになってしまう地球人が登場したりラストでカンガルーたちの目的が「火星人」という民族主義の枠組みだけでは収まりきれない展開を見せ始めるので、実はけっこう奥が深くて恐ろしい内容かもしれない。「ハインラインは『宇宙の戦士』だけでなく『月は無慈悲な夜の女王』を書いたSF作家だから一概に彼を右翼的左翼的とはいえない」なんてことをいっているマヌケはこれを読むべし。