キャッチワールド解毒

第3章
2000-06-12


 Psycで〜す! ハゲなのだ!

 チース、天野です。

  第2章でちょっと寄り道しましたが、この第3章で再び本編に戻ります。主なあらすじは以下の通り。

(第3章)
 田村が船室で息子にメッセージを残す。そのメッセージから人類とクリスタロイドとの戦いの経緯が語られる。
 場面が変わり、ブリッジ。融合ドライブの点火まであと五十六時間。田村はMIを完全に信用していないのか、MIの自動機能である通常検査(チェッキング・ルーチン)を手動でするように全員に指示する。その結果、ジニー・ライが航宙艦《ジェーコフ》の起動が完全でないことを報告する。このままでは《ジェーコフ》は銀河間空間(インタギャラクティック・スペース)へと飛び出してしまう恐れがある。

 船室で田村が遺言のようなメッセージを残すけど、田村には息子がいたんだね。

 いやいや、田村が大阪受胎調整所にメッセージを送ったということは、それはまだ生まれていないということやで。第1章で稲垣についての描写からもわかるとおり、この時代では優生学に基づいて人間の出生は管理されているみたいやな。

 田村のメッセージの中で人類とクリスタロイドとの戦闘の経緯が説明される。それによれば、人類が始めて地球外生物と接触したのは二〇〇九年となっているね。

 それまでのところ人類は、太陽系内に太古の異星文化の残骸を発見したにすぎなかったんやけど、二〇〇九年ついに海蛇座アルファからのメッセージを捉えたわけや。しかし、このメッセージはクリスタロイドとは全く違う異星存在からのものや。クリスタロイドとの接触は二〇一五年やで。

 二〇一五年、謎の結晶状生命体クリスタロイドが木星を回る軌道に発見される。クリスタロイドが打ち出したなにかは、驚異的な正確さで一千gの加速をうけて飛来し、地球上の発電所・都市・工業地帯を壊滅させ、また、その兵器は強力な磁場を発生し、バン・アレン帯・電磁層・オゾン層にたくさんの穴をあけた。攻撃は散発的に数ヶ月間もつづいたが、人類は最後に力をふりしぼって、ついに木星に決死隊を送りこみ、かろうじて全滅をまぬがれた、となっているね。

 一千gの加速っていまいちイメージできへんけど、とにかくメチャメチャな攻撃であることは間違いないで。直撃したところは一瞬で蒸発してもうたやろうなあ。バン・アレン帯云々というところからは、この攻撃による後遺症が地球上で後々まで続いているということが考えられるな。

 決死隊は融合核弾頭を隠しもった五十隻の惑星間連絡艇(インタプラネット・フェリイ)で編成され、効果をあげるためには、パイロットは弾頭を、危険なほど標的の近くまで誘導しなくてはならないことが明らかになったわけだけど、これは要するに特攻ということだね。

 そして、最初に突撃をかけた十二隻のうちで、かろうじて一隻が、クリスタロイドの一群に、部分的な損害を与えて、帰還することに成功した。この最初の攻撃は田村の父である田村政夫が指揮をとっていたんや。田村政夫は途中で全爆弾に点火して、部下とともに突入したそうやから、最初から玉砕する覚悟やってんで。ええ根性しとるわ。

 田村政夫の活躍により人類は一命をとりとめたわけだね。ところが、クリスタロイドの最後の一群れは、抹殺される直前、強力なレーザー/メーザー・シグナルを鷲座アルタイルに向けて発信した。

 その解釈についてはいろいろ意見があるようやけど、おそらくクリスタロイドが援軍を要請したのではないかと仮定されるわけや。こうなったら、なんとしてでもアルタイルに行って敵を壊滅せなあかんで。この遠征には地球人類の数十億人の命がかかっているんや。

 そして、そのすべての経緯はメッセージを受け取った海蛇座アルファに向けて発信されたけれど、その宙域からの援助はまったく期待できないみたいだね。光速であっても海蛇座アルファにシグナルが到着するまでには一世紀を要してしまう。

 それに対して、アルタイルまではたったの16.5光年や。絶滅したクリスタロイドのメッセージは20年前にすでに向こうについてしまっているちゅうこっちゃな。

 クリスタロイドの攻撃から現在のところ40年が経過したということは、アルタイルまでの距離が16.5光年だから……

 シグナルが光速でアルタイルに届いて、援軍が亜光速で地球に向かっていると考えると、もうすぐクリスタロイドの援軍が地球に到着するかもしれないというこっちゃ。

 田村は地球に戻らないかもしれない。仮に田村が地球に戻ったとしても、敵宇宙艦隊の攻撃で地球は破壊されてしまうかもしれない。当然のことながら、田村と息子があいまみえる可能性はきわめて少ないといえるね。田村は最後にメッセージをこう締めくくる。

 わたしはおまえに言おう、おまえの生きている世界の美しさを、よく見てごらん。その静けさと、壮大さを、心の奥底によく刻みつけてごらん。そうすれば、おまえにもわかるだろう。そのために失われた一つの生命など、いかにとるにたりない代償にすぎないかが。わたしはおまえを抱擁する、息子よ、さようなら。

 この作品唯一のセンチメンタルな個所といってもいいやろう。泣かせるやないか。こうやって自分を無理やりにでも納得させて、国家・民族・宗教・血縁のために戦場で散っていった人は多いと思うで。個人は結局、権力の捨てゴマにすぎなくて、命をかけてなにかをやったとしても、自分の命に等しい価値の報酬は絶対にもらわれへんのにな。

 でも、この作品のように全人類の命運をを左右するような大事件が起きた場合、そうともいってられないのが現実だろうね。もっともこの作品のように、わけのわからぬままに謎の異星生命体が全人類を絶滅させるような状況は、僕たちの現実世界ではまずありえないと思うけど。

 現実世界では、それが国家であれ民族であれ、権力機構同士の利害エゴが複雑にからみあっているからなあ。

 なにはともあれ、平和で安全に一生を終えたいもんだね。

 さてさて、田村がメッセージを残し終えると、場面がブリッジに変わります。融合ドライブの点火まであと五十八時間。要するに、あと五十八時間で航宙艦の推進動力を本格始動させるということですわな。

 《憂国》号の乗務員は男十名女十五名そして田村をあわせた全部で26人。融合ドライブの点火は非常に重要な作業なので、それが終了するまで、艦長である田村が艦内において完全な指揮権を持つことを宣言する。

 遠征隊の航宙艦は全部で7艦で編成されていて、旗艦《セレステ》を中心にして、《ジューコフ》《ジタ》《コトパクシ》《ペガサス》《リベンジ》《憂国》の各艦が六角形の頂点にとるように配置されている。

 ここで地球からの最後のメッセージが届く。そして、ある有名な軍人政治家のもったいぶった公式声明が立体映像でブリッジに映し出される。

 ところが、田村はスイッチを切ってそれを無視してしまいよる。田村は国粋主義者でもなければ民族主義者でもない、いわばアルタイル破壊至上主義者なわけや。田村にとってそんなもんはどうでもいいんよ。今はただ艦内のオペレーションに集中するだけや。

 スイッチが切られてブリッジが静かになったところで、田村は太陽シールド艦隊シールドの状況報告を命ずる。ところで、これらのシールドっていったい何なの?

 今艦隊は太陽に向かって飛んでいるわけや。おそらく近日点付近をかすめることによって推進力を上げるんやろう。太陽の引力を利用するわけやね。当然のことながら、太陽付近は灼熱地獄のアッチッチや。太陽シールドというのは太陽と艦隊の間に浮かんでいて、太陽からの放射熱を遮るのと同時に、太陽から受け取ったエネルギーをメーザーで艦隊に送るもので、艦隊シールドちゅうのは各航宙艦の真横に並んで太陽からの放射から航宙艦を守るものとちゃうやろか。もちろん、各シールドには独自の推進装置が備わっているはずや。

 なるほど。でも、詳しく説明されていないからあんまりよくわからないよね。

 なにはともあれ、シールドも軌道もチェックし終わったので、《憂国》の出発に現時点で問題はなさそうやな。しかし、ここで田村はMIの自動機能である通常検査(チェッキング・ルーチン)を全員に命じる。

 ルーチンはこの場合プログラムと同じ意味で、要はチェッキング・プログラムということだね。そしてさらに、田村はMI自体のチェックをも始めるように命じる。

 それを命じられた乗務員には不信感が広がるわけや。MIを疑うこと自体が異端やからな。MIに問題があるわけがないとみんな思っているわけや。

 ところが、ジニー・ライが航宙艦《ジューコフ》の軌道の不完全性を報告する。おまけに、旗艦《セレステ》のMIにはまだそれが報告されていないことが判明する。

 航宙艦は亜光速で宇宙を飛行するんやで。ほんの小さな軌道の誤差でとんでもないところにいってしまうわけや。実際、このままでは《ジューコフ》は、どんな恒星にも捕まることもなく、銀河間空間(インタギャラクティック・スペース)へ出ていってしまう。

 憂国MIは艦隊MI(セレステMI)とジューコフMIとのあいだになにか矛盾があると解釈して、一時的に《コトパクシ》が旗艦の地位につくよう、仲間のMIたちに提案する。

 オイオイ、まだ太陽系も出てへんねんで。ホンマ大丈夫か?

 さて、次の第4章で《ジューコフ》はいったいどうなっちゃうんだろうね?


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