西村寿行
Juko Nishimura

(著者紹介)
 日本を代表するハードボイルド・バイオレンス作家。1930年香川県生まれ。著書多数。

「白骨樹林」

「デビルズ・アイランド」 1996

「鬼狂い」 1983

 


「白骨樹林」
 角川文庫8547 に2-76 ISBN4-04-140776-1 カバー・毛利 彰

国家VS.個人

(あらすじ―本書裏表紙より)
 老諜者、叶捨吉(かのうすてきち)は北海道極地医学研究所から<超極秘>の物体を九州のN基地まで20日以内に運ぶという密命を帯び小型飛行機で飛び立つが、何者かの攻撃を受け焼岳に激突する。
 一方、妻と子供を惨殺した犯人を追い求めるうち、正岡重人(まさおかしげと)は事件の背後に“その物体”がからんでいることをつきとめる。
 タイム・ロックが仕掛けられたその真円の玉に封じ込められている謎の“もの”をめぐる、KGB・CIA・警察・自衛隊の暗闘が日本全土で蹂躙する――。国家謀略の狭間で遂にその正体を知った正岡は、自らの生と引きかえの決意を固める。
 緊迫の傑作ハード・サスペンス

(書評:1998-10-10読了)
 SF的な味付けをしつつ徹底的にハード・ボイルドな傑作。あらすじを読んみてなんとなく面白そうだと思って購入したが結果は大当たりだった。日本のハードボイルドというと女の人が徹底的にアヘアヘ陵辱される作品が多いと思うのだが、この作品に関しては女っけゼロ。男の美学とでもいうのだろうか、口ではうまく説明できないがこれはいいぞ。

「デビルズ・アイランド」 1996
 角川文庫10854 に2-33 ISBN4-04-140789-3 カバー・暁印刷

前半と後半のバランス最悪

(あらすじ―本書裏表紙より)
 瀬戸内海に浮かぶ小島・黒島で不可解な死体が発見された。場所は砂礫岩の裸地帯・北峠。死体の状況は、50メートル前後上空からの墜落死と思われた。自殺なのか、他殺なのか。もしくは事故なのか。被害者は85歳になる島の老人で、航空機やヘリコプターに乗っていた痕跡はない。また周囲には一本の高木も生えていなかった。それではどうやって……? 直後、再び老婆が変死体で発見された。今度は百舌の速贄さながら、木の枝に串刺しとなっていたのだ。即日設置された捜査本部は色めき立った。そして、多くの謎を残したまま第3の犠牲者が――。人類の大罪を問う傑作幻想長編。

(書評:2000-04-02読了)
 毛色の変わったバイオレンス・ファンタジー小説。前半は最高である。硬派な雰囲気に包まれつつ数々の謎が出現し、おまけに白熱の戦闘が繰り広げられるので十分に楽しめる。しかし、後半はどうしようもなくダメダメ。登場人物の性格がまるっきり変わってたりして、そのあまりのちぐはぐさにちょっとうんざりした。また、全ての謎がきっちりと解かれているわけでもないから、ラストもなんだか納得できない。前半は題材もアイデアも展開もいいのになあ…… ちょっともったいない作品。

「鬼狂い」 1983
 角川文庫8360 に2-75 ISBN4-04-140775-3 カバー・桜庭文一

西村寿行的ラヴ・ストーリー

(あらすじ―本書裏表紙より)
 愛する娘美和を白血病で失った時、夏目国光の妻佐里は出奔した。六年の後再会した佐里は末期癌に冒され喘いでいた。共に離さず肌に抱いていた愛娘の骨片が空白を埋めた。
 夏目は警察をやめ、家を売り、更に強盗を働いて金を作って、骨を噛む苦痛から佐里を解放するため、麻薬を勝って死出の旅に出た。
 警察に追われ窮地に立つ二人を救ったのは山中に潜む老婆の集団だった。数奇な出来事と秘薬が与えた妖しい光明に従って、夏目と佐里の北へ向かう旅が再び始まる――。
 生と死の深遠と壮絶な愛の形を物語に紡いで、著者の小説世界の一大結晶を示した、傑作ハードロマン。

(書評:2000-04-28読了)
 「鬼狂い」と書き「ものぐるい」と読む。辛気臭くて、なおかつ壮絶な愛の物語。尊厳死という問題にも真正面から取り組んでいる。主人公夫婦に受難が続き、特に嫁ハンのほうが、獣姦・強姦とかで徹底的に堕ちるというのがいかにも西村寿行らしい。なにはともあれ、今どきの若者にはとうてい理解できない小説世界であろう。正直いって、たいして面白くはなかった。

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