ヒロイック・ファンタジーの巨匠
マイクル・ムアコック
Michael Moorcock

(著者紹介)
 イギリス人SF作家。1939年生まれ。ヒロイック・ファンタジーに革新をもたらす一方、ニューウェーブの推進者として活躍。

「この人を見よ」 1968

(エルリック・サーガ)
「メルニボネの王子」 1972
「この世の彼方の海」 1976
「白き狼の宿命」 1967, 1970, 1977

(エレコーゼ・サーガ)
「永遠のチャンピオン」 1970
「黒曜石のなかの不死鳥」 1970


「この人を見よ」 BEHOLD THE MAN 1968
 峯岸 久訳 カバー・野中 昇 ハヤカワSF444
 
 救世主になったウジウジ君

(あらすじ―本書背表紙より)
 現代社会が生んだ、病める神秘主義者カール・グロガウアーは、キリストの生涯に異常ともいえる執着をおぼえていた。彼は、市井の科学者の手になる未完成のタイム・マシンを入手するや、キリストの最後を見届けるべく、過去へと旅立った。目指すは西暦29年、場所はエルサレム。だが、彼が見たのは、意外なキリストの姿だった! はたして、歴史は虚言なのか? それとも……? 過越しの祭りのさなか、やがてゴルゴダの丘に十字架の立てられる運命のときが刻一刻ときざまれてゆく……イギリスSF界の鬼才ムアコックが描く、ヒューゴー賞受賞に輝く問題中篇の意欲的長篇化作品!

(書評:1999-12-23読了)
 う〜むよくできた作品。ニューウェーブの代表的作品だけど、こういったストーリーはSFでしか表現できないと思うので、やっぱりSFは面白いと改めて納得。コンプレックスだらけの自我薄弱なウジウジ君が主人公だが、その手のキャラクターが登場する作品を60年代にとっくにムアコックが描いていることに驚く。元気のないときに読むのはちょっと危険かも。(Psyc)

エルリック・サーガ

「<エルリック・サーガ@>メルニボネの王子」
ELRIC OF MELNIBONE 1972
 安田 均訳 カバー・天野喜考 ハヤカワSF587 ISBN4-15-010587-1
 
 ヒロイックファンタジーでも読んでみようか……

(あらすじ―本書1pより)
 かつては<光の帝国>と称えられ、全人類をその支配下に置いたメルニボネ帝国も、今や見るかげもなく衰えはてていた。首都イムルイルで退廃的な乱痴気騒ぎに興じる人々の群れ。この衰運の帝国を統べるルビーの王座の持主こそ、乳白色の髪に真紅の瞳の皇子エルリックであった。折りしも、南方諸国の一大艦隊が沖合に集結中の報を受け、かれは総攻撃の檄を飛ばした。<黄金の御座艦隊>で、簡単に蛮人たちは蹴散らして見せる! だがそこには思いもかけぬ卑劣な罠が仕掛けられていた……魔剣ストームブリンガーを携えた皇子エルリックの冒険が今ここに始まった!

(書評:1998-09-15読了)
 エルリック・サーガの一冊目。エルリックが魔剣ストームブリンガーを手にします。悩み多きひ弱な主人公というのが気にいった。シリーズなので一旦読み始めると全部読まなければいけないような気分になってくる。とはいっても、このシリーズが絶版になることは当分なさそうなのでのんびりいこう。(Psyc)

「<エルリック・サーガA>この世の彼方の海」
THE SAILER ON THE SEAS OF FATE 1976
 井辻朱美訳 カバー・天野喜考 ハヤカワSF589 ISBN4-15-010589-8
 
 とてつもなくネクラ

(あらすじ―本書1pより)
 故国メルニボネを離れ、新天地を求めて旅立った皇子エルリック。だが、ピカレイドの総督にメルニボネの間諜ではないかと疑われ、海岸まで追いつめられてしまった。海を渡るすべもない。もやはこれまでと、最後を悟ったエルリックの目の前に、霧の中から一隻の船が現われた。「われらとともに航海し、人類の敵と戦ってほしい」――それがかれをこの世のものならざる海に展開する、異様な冒険へと連れだす始まりとなったのだ! はたして流転の皇子に、ふたたび帰郷の日はくるのだろうか? 魔剣とともにたどる、薄幸の皇子の数奇な冒険を描くシリーズ第2弾!

(書評:1999-12-20読了)
 いちおう続きものの長篇小説だけど、ほぼ独立した三つのストーリーが収録されている。そして、そのすべてが恐ろしくネクラ。おまけに、戦闘シーンではやたらと血しぶきが上がるのでますますヤな感じになる。とことんまでエルリックはウジウジしていて、おまけについていないので、どこがヒーローやねんと楽しく読めます。こんな感じで次も続くのだろう。(Psyc)

「<エルリック・サーガB>白き狼の宿命」
THE WEIRD OF THE WHITE WOLF 1967, 1970, 1977
 井辻朱美訳 カバー・天野喜考 ハヤカワSF595 ISBN4-15-010595-2
 
 ムーングラム登場

(あらすじ―本書1pより)
 従弟イイクルーンにメルニボネ帝国の王座を奪われたエルリックは、沿岸諸国の艦隊を率いて、一路竜の島へと向かった。首都イムルイムに通じる魔の迷水路も、エルリックの知識を持ってすれば、無事に抜けられる。艦隊を内港にまで導いたかれは、イムルイムの攻防戦をよそに、ダ・ア・ルプトゥーナの塔をめざした。そこには愛するサイモリルが兄イイルクーンの邪悪な魔術をかけられ、昏睡状態に陥っている。首都を廃墟と化さしめても、エルリックは彼女を救うことを選んだのだ! しかし、その塔でかれを待ち受けていたのは<混沌>のたくらむ恐るべき陥穽であった。

(書評:2001-02-19読了)
 エルリックのストーリーといえば、あんまり強くない主人公がひたすらジメジメした戦いを繰り広げるというイメージがあるのだけど、ムアコックの筆がシリーズに慣れてきたのか、それともちょっと手を抜き始めたのか、エルリックが一応ヒーローらしく超人的な活躍をし始めるようになってきている。もちろん、その分魔剣ストームブリンガーへの依存は高くなっているのだが。でも、それでもなんか急に別人のように強くなったなあという感じ。ストーリーに関しては、第一巻から引っ張っているはずの生まれ故郷メルニボネにかかわることがいともあっさりと終わって、次の冒険が始まるということに少し拍子抜けした。壮大なストーリーかと思いきや、短いストーリーが重なって実は「読みやすい」ということがこのシリーズの「人気」の秘密だろう。ちなみに、エルリックの相棒であるムーングラムがこの巻から登場する。(Psyc)

エレコーゼ・サーガ

「<エレコーゼ・サーガ@>永遠のチャンピオン」
THE ETERNAL CHAMPION 1970
 井辻朱美訳 カバー・天野喜考 ハヤカワSF529 ISBN4-15-010529-4
 
 いったい何人死んだんだ?

(あらすじ―本書1pより)
 二十世紀に生きる平凡な男ジョン・デイカーを夜ごと襲う悪夢――エレコーゼ……エレコーゼ……執拗に囁くその声に耳をかたむけた瞬間、かれは異世界に古代の英雄エレコーゼとして生まれ変わった! 邪悪なエルドレン族を殲滅するために、人類軍の総大将リジナス王に呼び出されたのだ。英雄エレコーゼの名のもとに、人類軍は結集し、エルドレンの本拠へ進撃を開始する。先頭にたつは、名剣カナヤーナをたばさんだエレコーゼその人だ……ムアコックの数あるヒロイック・ファンタジイ・サーガの中でも、自らの転生の記憶をすべて持つ最も重要なヒーロー遂に登場!

(書評:1998-09-XX読了)
 ムアコックのヒロイック・ファンタジーの中でも最も重要な作品らしく全編通してかなりネクラ。メチャメチャ人が死ぬ。ここまでやってくれると読者としては大満足である。かなりお勧め。(Psyc)

「<エレコーゼ・サーガA>黒曜石のなかの不死鳥」
PHOENIX IN OBSIDIAN 1970
 井辻朱美訳 カバー・天野喜考 ハヤカワSF531
 
 輪廻転生の悪運は続く……

(あらすじ―本書1pより)
 愛するエルミザードとの平和な生活も束の間エレコーゼはまたも悪夢に取り憑かれた。夜な夜な枕元に立つ不気味な人影……兜をぬいで顔をあらわにしたその人物は、エレコーゼその人だった! 次の瞬間、かれは果てしない氷原にただひとり熊橇を操るウルリック・スカーソルへと変身していた。彼を呼び出したものの影すらもない、この氷に閉ざされた世界を、エレコーゼはひたすら疾駆する。エルミザードのもとへ帰れる手立てをなんとしても見つけるために。だが、かれを襲う運命はあまりにも苛酷であった!――輪廻転生のヒーローを、流麗に描くシリーズ第二弾!

(書評:2000-04-03読了)
 ムアコックの作品以外、私はヒロイック・ファンタジーというものを読んだことないのだが、ムアコック以外は読む必要がないような気がする。ムアコックのヒロイック・ファンタジーには独特の魅力があるので毎度毎度楽しめる。さて、前作ではいきがかり上、メチャメチャ人を殺す羽目になってしまったエレコーゼだが、この作品でも、嫌だ嫌だと思いつつ、敵をズバズバ切り殺します。戦争に対しては否定的なんだけど、運命に翻弄されて、最後にはヤケクソながら(?)無茶してしまうエレコーゼが私は嫌いになれない。やっぱりヒーローはこうあるべきだぜ。(Psyc)

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