狂人
フィリップ・K・ディック
Philip K.Dick

(著者紹介)
 アメリカ人SF作家。大傑作から大駄作まで著書多数。1928年イリノイ州シカゴ生まれ。1982年、心臓発作により逝去。

「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 1968

「フロリクス8から来た友人」 1970

「アルファ系衛星の氏族たち」 1964

「火星のタイムスリップ」 1964

「ユービック」 1969

「タイタンのゲーム・プレーヤー」 1963

「暗闇のスキャナー」 1977

「ライズ民間警察機構<テレポートされざる者・完全版>」 1964、1983、1984

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」 1964

「高い城の男」 1962

「流れよわが涙、と警官は言った」 1974

「逆さまわりの世界」 1967

(短編集)

「パーキー パットの日々」 1977

「時間飛行士へのささやかな贈物」 1977

「ゴールデンマン」 1980

「まだ人間じゃない」 1980

「模造記憶」 1989


「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 DO ANDROIDS DREAM OF ELECTRIC SHEEP ?  1968
 浅倉久志訳 ハヤカワSF229 ISBN4-15-010229-5
 カバー・イラスト/中西信行 カバー・デザイン/小倉敏夫
 
 ご存知ブレード・ランナーの原作

(あらすじ―本書背表紙より)
 第三次世界大戦後、放射能灰に汚された地球では、生きている動物を所有することが地位の象徴となっていた。人工の電気羊しか持っていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた<奴隷>アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界! 〔映画化名「ブレードランナー」〕

(書評:1998-04-04読了)
 ご存知「ブレードランナー」の原作。主人公がジメジメした小市民なので映画のハリソン・フォードよりずっと好感が持てる。文句なしに楽しめる傑作だがストーリーはけっこう難解。わけがわからくなった個所がいくつかあった。

「フロリクス8から来た友人」 OUR FRIENDS FROM FROLIX 8 1970
 大森 望訳 創元SF696-10
 
 「これはクズだ。金のためだけに書いた」(著者談)

(あらすじ―本書1pより)
 人類の中から突然変異的に現出した超人たち、<新人>と<異人>の前に、60億の人間はとりえのない<旧人>として支配されるしかなかった。これに異議を唱えた反体制派の理論的指導者コードンも、支配者たちに拉致され、処刑の時を待つばかりである。だがそんな<旧人>たちの元に朗報がもたらされた。彼らの最後の希望――10年前、外宇宙に救いを求めて地球を後にしたコードンの親友、プロヴォーニが帰ってくるというのだ……。そんなある日、一介の<旧人>である主人公ニックは、勤務先の上司につれられ、圧制を打倒せんとするコードン派の地下組織と出会う。ディック本邦初訳の雄編。

(書評:1998-05-19読了)
 コテコテのバカコメディーSF。かなりヤケクソな内容。こんなにアホな小説はめったにおめにかかれない。しかしながらラストは妙に味わい深かったりする。この作品について著者のディックは一ヶ月で書き上げたクズだと思っていたそうだ。また内容についてあとがきでは一切触れられていない。要するに世間的な評価は最低ということだろう。しかしこれホントにダメダメの小説ですか? SFビギナーの私ですがこれは間違いなくマイベストに入ります。大好き!

「アルファ系衛星の氏族たち」 CLANS OF THE ALPHANE MOON 1964
 友枝康子訳 カバー・松林富久治 創元SF696-12 ISBN4-488-69612-0
 
 駄作

(あらすじ―本書1pより)
 20年以上前に、地球=アルファ系間の恒星戦争は終結していた。だが、敵国アルファ系帝国の領地である、その衛星には、地球人の精神症疾患者たちがとり残され、地球との連絡を断ったまま、今も独自の文化を形成し、生存していた。この土地を再び地球のものとするべく、地球政府機関は調査部隊を送りこもうとする。だが、独自の目論見をもつ対敵諜報機関(CIA)は、調査隊メンバーのなかに一人の人造人間を潜入させた……・ディックが、精神疾患への関心をもとに取り組んだ名編登場。巻末解説=バリー・マルツバーグ

(書評:1998-06-04読了)
 体調が悪い時に無理して読んだからか、それとも内容がダメダメだからか、ど〜もパッとしない内容。狂気をテーマにした作品だが精神病患者である「氏族」たちが不思議と普通の「よくいる」人間に見えてくる。私は狂っているのか? それとも私の周りにいる連中に狂った輩が多いのか? それともみんなどこかしら変なのか? ディックの中では失敗作のほうでしょうが、わき役のタイタンの粘菌がけっこういい味をだしています。

「火星のタイムスリップ」 MARTIAN TIME-SLIP 1964
 小尾芙佐訳 カバー・渡部 隆 早川SFSF396 ISBN4-15-010396-8
 
 メッチャクチャのラリラリ

(あらすじ―本書背表紙より)
 水不足に苦しむ火星植民地で絶大な権力をふるっている水利労組組合長アーニイ・コット。彼は、国連の大規模な火星再開発にともなう投機で地球の投機家に先を越されてしまった。そこで、とほうもない計画をもくろんだ。時間に対する特殊能力を持っている少年マンフレッドを使って、過去を自分に都合のよいように改変しようというのだ。だが、コットが試みたタイム・トリップには恐ろしい陥穽が……!? ディックの傑作長篇。

(書評:1998-06-09読了)
 ディックの最高傑作といわれているだけあって、内容はメッチャクチャのラリラリ。時間感覚と現実感覚がゴチャゴチャになって頭がクラクラしてきます。とはいっても、ストーリー自体はそれといってたいしたことはないような気がした。はっきりいってあんまり盛り上がらないし、よくわからないうちに終わってしまいます。ところで火星ってアフリカなのか? ガブル! ガブル! ガブル!

「ユービック」 UBIK 1969
 浅倉久志訳 カバー・渡部 隆 早川SFSF314 ISBN4-15-010314-3
 
 一家に一冊ユービック

(あらすじ―本書背表紙より)
 最新式の自動車が40年代のクラシック・カーに、トランジスタ・ラジオが真空管ラジオに知らぬまに変わっていってしまう時間退行の世界。この現象は1992年、予知能力者狩りを行うべく月に結集したジョー・チップら反予知能力者たちが、予知能力者側の爆弾で人員の半数を失った瞬間からはじまったのだ。しかし、時間退行を強制する特効薬があった。その名はユービック。そして、時間退行の世界をさまよい、体力のおとろえたチップにユービックの存在を知らせたのは、透明なカプセルの中で、人為的に死の瞬間を延ばされているはずの半生者エラであった……鬼才の傑作長篇!

(書評:1998-06-10読了)
 なにはともあれ傑作。ディックには珍しく?けっこうちゃんとまとまった内容。サスペンスタッチでハラハラドキドキしながらも落ち着いて読めます。ディックは作品によってバラエティーに富んでいるので、この人こんなストーリーも書けるんだとあらためて驚きました。一家に一冊ユービック! やっぱりディックは最高!

「タイタンのゲーム・プレーヤー」 THE GAME-PLAYER OF TITAN 1963
 大森 望訳 創元SF696-4
 
 「この作品にはなにもいうべきことはない」(著者談)
(書評:1998-06-16読了)
 「この作品にはなにもいうべきことはない」と作者はいっていたそうですが、なかなかどうして、スリリングで楽しい。これといってたいした内容ではないけど十分楽しめる作品。ディック・ファンならずとも、こういった作品からSFを読み始めると楽しいSF人生が始まると思う。

「暗闇のスキャナー」 A SCANNER DARKLY 1977
 
 息苦しさ満点
(書評:1998-07-03読了)
 ディック自身はこれを自分の最高傑作と思っていたらしい。自伝的であることや内容がよくまとまっていることなどから気に入っていたのかもしれない。一人の麻薬捜査官が麻薬に溺れ破滅していく姿が描かれます。これを読んじゃうとドラッグをやろうなんて気分は消し飛ぶ。救いのないラストがなんともいえない。でも、はっきりいってそんなに面白くなかった。ドラッグ中毒から復帰した頃の作品なので、ディックはもはやSF作家としてはダメダメだったのかもしれない。この後「ヴァリス」を執筆したらしいけど、「ヴァリス」はあんまり読みたくないなあ……

「ライズ民間警察機構〈テレポートされざる者・完全版〉」 LIES, INC. 1964、1983、1984
 
創元文庫SF696-15
 
 駄作
(書評:1998-07-04読了)
 「テレポートされざる男」という作品の完全版。ディックの死後に発表された。未完成の断片をつなぎ合わせような感じで内容は全然ダメ。こんなの売って商売するのはちょっと反則かも。私は図書館を利用しました。でもディック・マニアは買ってしまうのだろう

「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」 THE THREE STIGMATA OF PALMER ELDRITCH 1964
 浅倉久志訳 カバー・渡部 隆 ハヤカワSF590 ISBN4-15-010590-1
 
 ドッカーン!

(あらすじ―本書背表紙より)
 銀河系の彼方から、謎に包まれた星間実業家パーマー・エルドリッチが新種のドラッグを携えて太陽系に帰還してきた。迫りくる地球滅亡にそなえて、不毛の惑星へ強制移住させられた人々にとって、ドラッグは必需品である。彼らはこぞってエルドリッチのドラッグに飛びつくが、幻影に酔いしれるの彼らを待っていたのは、死よりも恐るべき陥穽だった……蝕まれゆく現実と白昼夢が交錯する戦慄の魔界を描破した鬼才の最高傑作!

(書評:1998-08-08読了)
 面白い! いいぞその調子だディック! と思いながら読み進めていくと、ラスト付近でドッカーンといつもの通りメチャメチャになっちゃいます。お約束といえばお約束。ディックはかなり読みましたがまともにストーリーが始まって終わるのはほとんどないような気がする。しかし、この作品は読み終わった後、もう一度最初のページに戻れば「まぁ、いいか」と納得できた。なんだかんだいってやっぱりディックは好き。

「高い城の男」 THE MAN IN THE HIGH CASTLE 1962
 浅倉久志訳 カバー・野中 昇 ハヤカワSF568 ISBN4-15-010568-5
 
 ヒューゴー賞受賞

(あらすじ―本書背表紙より)
 アメリカ美術工芸品商会を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭しながら商品を説明していた。すべては1947年、第二次世界大戦が枢軸国側の勝利に終わったときから変わったのだ。ここ、サンフランシスコはアメリカ太平洋岸連邦の一都市として日本の勢力下にある。戦後15年、世界はいまだに日本とドイツの二大国家に支配されていたのだった!――第二次世界大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に現実と虚構との間の微妙なバランスを、緻密な構成と迫真の筆致で見事に書きあげ、1963年度ヒューゴー最優秀長篇賞を受賞した、鬼才ディックの最高傑作、遂に登場!

(書評:1998-08-21読了)
 ディックの最高傑作の名高い長編小説。ご存じの通り第二次大戦にドイツ・日本が勝利したというパラレルワールドものです。期待をして読みましたがたいして面白くありませんでした。別にドラマティックなことが起こることなく実にスルスルとストーリーが終わってしまいます。なんでこれが最高傑作なんだろう?

「流れよわが涙、と警官は言った」 FLOW MY TEARS, THE POLICEMAN SAID 1974
 友枝康子訳 カバー・上原 徹 ハヤカワSF807 ISBN4-15-010807-2
 
 ボディーブローな人間賛歌

(あらすじ―本書背表紙より)
 三千万人のファンから愛されるマルチタレント、ジェイスン・タヴァナーは、安ホテルの不潔なベッドで目覚めた。昨夜番組のあと、思わぬ事故で意識不明となり、ここに収容されたらしい。体は回復したものの、恐るべき事実が判明した。身分証明書が消えていたばかりか、国家の膨大なデータバンクから、彼に関する全記録が消え失せていたのだ。友人や恋人も、彼をまったく覚えていない。“存在しない男”となったタヴァナーは、警察から追われながらも、悪夢の突破口を必死に探し求めるが……現実の裏側に潜む不条理を描くディック最大の問題作!

(書評:1998-09-26読了)
 立場の違う2人のオッさんがただひたすら苦悩し続ける物語。正直にいってもう一つだった。でも、ある日突然この作品を思い出して感傷にひたってしまうことがあるかもしれない。そんなボディー・ブローな人間賛歌。一読の価値あり。

「逆さまわりの世界」 COUNTER-CLOCK WORLD 1967
 小尾芙佐訳 カバー・辰巳四郎 ハヤカワSF526 ISBN4-15-010526-X

ネクラ……

(あらすじ―本書背表紙より抜粋)
 1986年突如世界は一変した。ホバート位相と呼ばれる時間逆転現象のために、死者は墓から甦り、生者は若返っては子宮へと回帰するようになったのだ。死者再生と適当な保護者への売却を請負う再生施設の経営者セバスチャン・ヘルメスは、折りしも一人の死者を墓から掘りだしていた。偉大な黒人解放家、ユーディ教の始祖トマス・ピーク―再生した彼の去就をめぐって、彼を抹殺しようとはかる公安機関〈消去局〉、狂信的なユーディ教指導者、そしてローマ教会の三つ巴の暗闇に、セバスチャンとその妻ロッタは否応なく巻きこまれていく……鬼才が描く狂気と不条理の超現実世界!

(書評:1999-07-10読了)
 時間逆行、エントロピー増大、現実崩壊、難解な神学談議… 小難しい話はなしにしよう、というか、私自身がわからない。要はディックの作品はムチャクチャなのだ。そりゃ生前ちっとも本が売れなかったわけだ。ディックはもう死んでいるからいいものの、ある作家の最新作がどれもこれもムチャクチャだったら、よほどのマニアでもない限り、あきれ果てて買わなくなってしまうのではないだろうか?

 最初から最後まで重苦しくて、なんだか息苦しくなってくる作品。優柔不断な主人公の個人的な欲望のために、なにもかもがダメになってしまうというところがいかにもディックらしい。全体を通してポジティブな活気を感じられない内容なので、スッキリとした気分を味わいたい人にはお勧めできない。しかし、ディックによって大真面目に描かれる悪夢のような「逆さまわりの世界」を楽しむにはいいかもしれない。こういう世界って常人には思いつかないよなあ。というか、思いついてもバカバカしくて一冊の本には仕上げないかもしれない。


短編集

「パーキー パットの日々」 THE BEST OF PHILIP K.DICK 1977
 浅倉久志・他・訳 カバー・野中 昇 ハヤカワSF910 ISBN4-15-010910-9
 
 早川文庫SF〔ディック傑作選@〕

(あらすじ―本書背表紙より)
 火星人との戦争で人類はかつての豊かな生活を奪われた。地下シェルターに暮らすカルフォルニア地区の住民に残された楽しみといえば、パーキー・パットという女の子の人形と古き良き時代の町の模型を使うシュミレーション。ゲームだけ。そんなある日、オークランド地区ではパットよりずっと成熟した女性人形を使っているという噂が……表題作ほか、処女短篇「ウーブ身重く横たわる」など鬼才ディックの傑作短篇10篇を収録。

(書評:1998-05-24読了)
 早川文庫SFの〔ディック傑作選@〕 内容はバラエティーに富んでいてなかなか良質。痛快なものもあるしサスペンスタッチのものもある。なんだかんだいってもやっぱりディックはいい。

「時間飛行士へのささやかな贈物」 THE BEST OF PHILIP K. DICK 1977
 浅倉久志・他・訳 カバー・野中 昇 ハヤカワSF911 ISBN4-15-010911-7
 
 早川文庫SF〔ディック傑作選A〕

(あらすじ―本書背表紙より)
 アメリカで行われた国家的なタイム・トラベル実験で、タイム・トリップ中に爆発事故が起きた。ひとつの空間に同時に複数の物体は存在できないという原則を破ってしまったらしい。時間飛行士たちの運命は……表題作。ある日チャールズは、ガレージにいる父親が二人になっているのに気がついた……「父さんに似たもの」など、読む者を現実と非現実のはざまへと引きずりこむ、名手ディックならではの悪夢にみちた9篇!

(書評:1998-05-24読了)
 SFファンなら絶対に読むべし。

「ゴールデンマン」 THE GOLDEN MAN 1980
 浅倉久志・他・訳 ハヤカワSF968
 
 早川文庫SF〔ディック傑作選B〕
(書評:1998-06-02読了)
 SFファンなら絶対に読むべし。

「まだ人間じゃない」 THE GOLDEN MAN 1980
 浅倉久志・他・訳 ハヤカワSF969
 
 早川文庫SF〔ディック傑作選C〕
(書評:1998-06-06読了)
 SFファンなら絶対に読むべし。

「模造記憶」 WE CAN REMEMBER IT FOR YOU WHOLESALE AND 11 OTHER STORIES 1989
 浅倉久志・他・訳 新潮文庫テ-10-2
 
 未発表作品収録

(あらすじ―本書背表紙より)
 しがない安月給のサラリーマン、ダグラス・クウェールは火星への憧憬を拭い去ることができず、架空の記憶を売る会社を訪ねた。クウェールの記憶を分析した担当の技術者は困惑の表情を浮かべた。すでに、クウェールの記憶中枢には火星での生活が刻み込まれていたのだ。さらに、その真相に隠された記憶を探ると……偽の記憶を扱った「追憶売ります」など12編収録のオリジナル短編集。

(書評:1998-06-11読了)
 新潮文庫のディック短編集。ディックの短編集はかなり読み込んじゃったので、このあたりになってくるとそろそろネタ切れという感じがする。「未発表作品」なんてのはたいがいよくない。しかし、トータルリコールの原案になった「追憶売ります」は、大爆笑ものの傑作。もしも映画でこのオチをやったら…… やっぱりやらんか。

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