半村 良
Hanmura Ryou
(著者紹介)
日本を代表するSF・伝奇作家。著書多数。
「平家伝説」 1974
「亜空間要塞」 1973 「亜空間要塞の逆襲」 1975 |
「平家伝説」 1974
角川文庫3363 カバー・杉本一文恋愛小説的中途半端伝奇SF珍作
(あらすじ―本書背裏表紙より)
自家用運転手浜田五郎は、ある春の日の午後、銭湯の主人から、自分の右肩の後ろにある大きな痣が、<嘆き鳥>と呼ばれることを教えられた。嘆き鳥……それは、源平の昔、壇の浦の合戦に破れた平時忠を能登の配所に導いたと伝えられる鳥の名だった……。
浜田と恋人敏子の運命をあやつる痣の秘密とは何か? 奇想天外なSF的結末。
平家物語に想を得た、奔放なロマンのうちに、現代の若者の夢と生活を鮮やかに把えた、傑作小説。(書評:1998-10-23読了)
謎の痣・素朴な男と奔放な女の恋愛・平家伝説・UFOなどなど、いろいろ伏線を張り巡らしておきながら、それをうまく生かしきれなかった中途半端な作品。ちょっと変わった恋愛小説として読めばそれなりかもしれない。しかし、この内容だったら短編で十分だと思う。ラストは今までの話はいったいなんだったのだ、とあっけにとられてしまった。詳しい理由のないままにいともあっさりと人類は滅亡するのでありました。そんなアホな……。(Psyc)
「亜空間要塞」 1973
角川文庫3835 カバー・杉本一文SFファンの息吹
(あらすじ―本書背裏表紙より)
あなたは、亜空間要塞という存在を信じられるだろうか。それは、侵略宇宙人が地球に据えつけた基地で、あなたのすぐそばに、あるかもしれない。
――異様な風体をした記憶喪失の老人が突然出現した。その人物は、SF好きな四人組の一人の叔父にあたり、二十数年間も行方不明の浄関寺公等だった。出現の謎の解明に向かった彼らに、突如、UFOの怪光線が襲いかかってきた。――気がついてみると、異次元空間の浜辺に漂着しており、そこでは“ジョーカンジー”と呼ばれる神がまつられていた……。
鬼才、半村良があらゆるSF的世界の怪現象を雄大に描いた大冒険SF。(書評:2000-09-14読了)
肩の力を抜いて読むことができるSFパロディー。古いことは古いけれどなかなか面白い。昔のSFファンの息吹を感じることができる。SFのことをちょっとでも知っていればより楽しく読めることは間違いないだろう。この時代、まだまだ未来は明るかったのだな。うらやましいといえばうらやましい。今はもう「宴」は終わってしまった……。ナンセンスにあふれるパロディーだと思ってあなどるなかれ。冗談の合間に、筆者の強烈な意見が登場人物を通して語られる。他にもあるけど、特にこの部分(本書161p〜162p)が気に入ったので、全文を引用する。
(本書161p〜162p)
「――たとえば、ファシズムの国に生まれた人間が、ファシストと同じ考え方を持ってしまうのは、何も偏った教育を受けるせいばかりじゃない。偏った教育方針が権力者によって行われているということのほうがむしろ問題なんだ。天皇は神であると国中で言っている時、弱い人間は、天皇は神であると信じたほうが都合がいい。そのほうが暮らしやすいんだ。長い間そうやって暮らしている内に、それが自然になって、一種の精神的な故郷が作られる。故郷が破壊されそうになれば誰でも奮起するだろう。老愛国者だな、その時は。でも、、老、だから自分じゃ故郷を破壊する敵に立ち向かうことはできない。若者に頼らなければいけない。そこで偏向教育をますます強化する。ふたこと目には、今時の若いもんはと来る。でも老愛国者の精神的故郷とは、本当の故郷ではない。生まれ育った国土を愛することとは完全に一致しない。しかも、その国土を含む世界全体は流動していて老愛国者の故郷では通用しにくくなっている。それでも老愛国者は叫ぶんだ。国を守れ、故郷を守れとね。でも、その上に、俺の、とひとこと本当のことをつけ加えてもらいたいね。俺の精神的故郷を守ってくれ、とね。ところが、その叫びに同調する若者も多い。老愛国者たちが権力を持っているからだ。あの隊長と同じさ。個人より先に全体を考えてしまう。自分は全体の中から生まれた個人なのだ……そう考える連中がやたら多いってことさ。しかも、その全体ってのが、世界じゃなくて、老愛国者の足許だけなんだからね」国家、民族、家族……、ひょっとしたら、誰かの個人的な精神的世界(幻想)が、そのまま「全体」となっているのかもしれない。我々はそんな幻想の中に生きているのだろうか。(Psyc)
「亜空間要塞の逆襲」 1975
角川文庫3954 カバー・杉本一文SF的私小説
(あらすじ―本書背裏表紙より)
ある日、私、半村良の本を読んだという読者が訪ねてきて驚くべきことを語った。それは、まったくの空想で私が考えだした世界『亜空間要塞』は実在し、彼自身もこの小説の登場人物のひとりとして亜空間要塞に行ってきたという……。
――この事件以来私は、なぜ『亜空間要塞』を書き上げたのかを知ろうとする宇宙人においまわされるはめになった。そして、とうとう私までが自分の世界に足を踏み入れることになってしまったのだ!
奇想天外なSF的世界を展開しながら作者自身の内面を語る『亜空間要塞』の続編。(書評:2000-09-15読了)
虚実入り混じったSF的私小説。特にどうってことのない楽屋オチ満載の内容だが、ホロリとさせるところもある。読めば読んだで、「俺は通俗小説の売文家だ。それがどうしたっていうんだ?」といった具合に、通俗人であり、なおかつSFファンである筆者の心意気(開き直り?)が伝わってくるはず。とはいっても、純文学にありがちな私小説といった体裁をとり、ニューウェーブにありがちな、インナースペースを描いているのだから、ある意味野心的なひやかし小説といえるだろう。個人的には、SFだろうがなんだろうが、作品そのものの内容を論じるべきであって、ジャンルとか権威づけだけで文学というものを語りたくはないと私は思う。SFの90%は確かにゴミかもしれない。しかし、他の全ての90%もまた、ゴミなのだから。(Psyc)