田中芳樹
Yoshiki Tanaka
(著者紹介)
日本人SF作家。1952年生まれ。学習院大学文学部博士課程修了。
「七都市物語」 1990 |
「七都市物語」 1990
ハヤカワJA317 ISBN4-15-030317-7
マネキン司令官の軍事シミュレーション
(あらすじ:本書背表紙より)
突如地球を襲った未曾有の惨事“大転倒”――地軸が90度転倒し、南北両極が赤道地帯に移動するという事態に、地上の人類は全滅した。しかし、幸いにも月面に難を逃れた人類の生存者は、地上に七つの都市を建設し、あらたな歴史を繰り広げる。だが、月面都市は新生地球人類が月を攻撃するのを恐れるあまり、地上五百メートル以上を飛ぶ飛行体をすべて撃墜するシステムを設置した。しかも、彼らはこのシステムが稼動状態のまま、疫病により滅び去ってしまったのだ! そしてこの奇妙な世界で、七都市をめぐる興亡の物語が幕を開くのだった。(書評:2000-09-20読了)
七つの都市がいろいろと策謀をめぐらす戦記もの小説。シミュレーション・ゲームそのまんまというか、ただそれだけの内容である。読み終わった後、なんの感慨もわかなかった。戦略的にはリアルなのかもしれないが、ストーリー的にはとことん薄い。「驚き」がまったくないといえる。軍事戦略家である主用登場人物だけが極端にひねくれた性格にされていて、あとの兵隊はのっぺらぼうのオモチャのようにひたすら死んでいく。優秀だけどちょっと回路のおかしいマネキン人形が司令官で、消耗品であるプラスチック製軍隊がひたすら地図の上でジージーとモーターを鳴らせながら戦争をしているみたいだ。また、クドクドと教訓めいた叙述も多く、和製ハインラインといった感じ。個人的には、民間人(特に政治家)が一方的にどこまでも愚かに描かれるのが少し気になった。軍隊賛美的だといってケチをつけるつもりはないが、こういう小説は好きになれない。しかし、一般的なSFファンにはこれくらいが丁度いいのかも。こういうわかりやすい登場人物・人間関係・状況設定なら、頭の中で「お人形ごっこ」が簡単にできるもんな。なにはともあれ、読めば読んだで楽しめる一冊である。(Psyc)