筒井康隆
Yasutaka Tutsui

(著者紹介―中公文庫『虚人たち』裏表紙より)
 昭和九年(1934)大阪に生まれる。同志社大学で美学を専攻。昭和三十五年SF同人誌『NULL』を主宰、本格的創作活動に入る。昭和五十六年『虚人たち』で泉鏡花賞、昭和六十二年『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞を受賞。主な作品に、『東海道戦争』『ベトナム観光公社』『アルファルファ作戦』『48億の妄想』『エロチック街道』『虚航旅団』『原始人』などの小説。『言語姦覚』『虚航旅団の逆襲』『日日不穏』などのエッセイ、『筒井康隆大一座ジーザス・クライスト・トリックスター』『泣き語り性教育・一について』などのカセット・ブック、そして、『筒井康隆全集』(全二十四巻)がある。

「虚人たち」 1984
「七瀬ふたたび」 1975

「虚人たち」 1984
 中公文庫 つ-6-4 A113-4 ISBN4-12-201110-8 カバー画 ドーミエ作 「四人の人」

コムズカ小説

(あらすじ―本書背表紙より)
 同時に、しかも別々に誘拐された美貌の妻と娘の悲鳴がはるかに聞こえる。自らが小説の登場人物であることを意識しつつ。主人公は必死の捜索に出るが……。小説形式からのその恐ろしいまでの“自由”に、現実の制約は蒼ざめ、読者さえも立ちすくむ前人未到の話題作。泉鏡花賞受賞。

(書評:1998-11-07読了)
 話の筋としては妻と娘が誘拐されそしてそのままなにも解決せずに終わるといったただそれだけのものだが通常の小説形式を逸脱した奇妙な雰囲気のある小説。極端に句読点を排した文体がただひたすら読みにくい。私は一般的に純文学というものを読んでいる人ではないし文壇における論争に関する知識も皆無なのでこの小説の中のコムズカしい表現は正直にいってほとんど理解不能だった。文学オタクとまでいわれるべき知識を持っていないとこの小説を十分に楽しむことはできないだろう。かといってだからどうした全然面白くなかったぞ。こんなの筒井康隆のファンだけが読めばよろしい。私の時間を返せ。(Psyc)

「七瀬ふたたび」 1975
 新潮文庫〔草〕171G カバー・真鍋 博

「あとがき」無用

(あらすじ―本書背表紙より)
 生まれながらに人の心を読むことができる超能力者、美しきテレパス火田七瀬は、人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。その夜汽車の中で、生まれてはじめて、同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。その後、次々と異なる超能力の持主とめぐり会った七瀬は、彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と、血みどろの死闘を展開する。

(書評:2000-09-13読了)
 技巧的でありながらとても読みやすい文書である。文章作成能力において筒井康隆は「鉄人」に間違いない。内容も薄っぺらいことはなくなかなかスリリングである。かなりドキドキとさせてくれるし古くささは全く感じられない。それに実は「純愛物語」でもあるのでそういうところはさりげなくも胸がしめつけられる。しかし七瀬がテレパスであるのにもかかわらず未だに「男と女」という単純な性差に基いてモノを考えているということだけは気になった。それはこの作品が「古い」というわけでなく元々著者がそういう考え方の持主なのだろう。それはともかく「あとがき」(平岡正明)には本当にヘドが出そうになった。ファンだから思い入れがたっぷりなのはわかるけどそんな文章をダラダラと書き連ねるな。書いていて自分で恥ずかしくないのか。こんな「あとがき」は無用である。なにはともあれ「これって『スラン』だよな」と思いつつも筒井康隆の代表作だけあってなかなか楽しめる一冊である。(Psyc)

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