Chicken Run
(2000-06-30公開)
超現実的鶏喜劇
出演(声): Julia Sawalha, Mel Gibson, Miranda Richardson, Tony Haygarth and Phil Daniels監督: Nick Park and Peter Lord
プロデューサー:David Sproxton, Nick Park and Peter Lord
脚本:Karey Kirkpatrick and Jack Rosenthal
備考:Dreamworks SKG 1時間35分 G
公式サイト:http://www.reel.com/reel.asp?node=chickenrun
(あらすじ)
1950年代のイギリス。ジンジャー(Julia Sawalha)を中心とした養鶏場のニワトリは何度も脱走を試みていた。卵を生まなくなったニワトリは意地悪な養鶏場長に食べられてしまうのだ。しかし、ジンジャーの脱走計画はことごとく失敗する。そんなある日、空を飛ぶことができるニワトリ、ロッキー(Mel Gibson)が養鶏場に飛来してきた。ジンジャーたちはロッキーに空の飛び方を教えてもらおうとするのだが……(感想:2000-07-09)
イギリスの粘土アニメ。映画としてのクオリティーは非常に高い。「Shaft」で今年の夏の映画は決まりだと思っていたが、これもすごく気に入ってしまった。子供向け映画なのにもかかわらず、大人でも十分に満足できる。これに比べれば、大人でも満足できるというふれこみだった「Titan A.E.」が哀れなカスに見えてしまう。冒頭はいきなり「大脱走」のパロディである。ジンジャーを中心とした養鶏場のニワトリが何度も脱走を試みて、そして失敗する場面がテンポよく繰り返される。もちろん、ジンジャーは箱にぶち込まれて、中で一人(一羽?)でキャッチボールをすることになる。
養鶏場の雰囲気はユーモラスでありながらどこか重苦しい。事実、ニワトリたちの状況は残酷なほど切実である。卵を生まなくなったニワトリは、養鶏場を取りしきる意地悪でがめついオバさんに食べられてしまうのである。
言葉をしゃべるニワトリも、一戸立ての家が並んだような養鶏場も、実際の世界には存在しないファンタジーである。しかし、ニワトリが実際に食べられてしまったりするというリアリティーがあるというのがいい。全編を通して、こういったファンタジーとリアリティーの微妙なバランスが実に絶妙だ。シュールといってもいい。
ところが、そんなある日、ジンジャーが養鶏場の中を歩いていると、空からロッキーというニワトリが飛来してくる。次の日から、養鶏場のニワトリたちはロッキーに空の飛び方を教えてもらうことになるのだが、真面目できっちりとしているジンジャーに比べて、ロッキーは軽薄でいいかげんなお調子者なので、なにかとお互い反目し合う。
粘土のニワトリだからといってあなどるなかれ、一場面一場面にしっかりとした演劇的な構成がなされていて、個性的なニワトリたちがかなりの演技力を見せつけてくれる。この映画を見る人はニワトリたちが織り成すドラマに自然に一喜一憂することになるはずだ。シュールな世界で繰り広げられる粘土アニメなのにもかかわらず、お約束に満ち溢れた安っぽい大スター共演恋愛映画よりもずっと感動できるはず。
鶏肉のパイを製造したほうが利潤があがると考えたオバさん(養鶏場長)は、巨大なパイ製造機を養鶏場に導入する。いろいろあって一旦は機械を故障させることができるのだが、修理が終わるまでになんとか全員が空を飛べるようにならないといけない。このままでは全員がパイにされてしまう。しかし、そんなある日、ロッキーの姿が養鶏場から消えた。彼はただ一人養鶏場を脱走してしまったのだ。果たしてジンジャーたちは無事に養鶏場を脱出することができるのだろうか?
この先どうなるかは実際にご自身の目でお確かめ下さい。ジンジャーたちが考え付く最後の大脱走計画は実にファンタジーなのでうれしくなってしまった。おまけに、養鶏場のオバさんは相当兇暴で、ラストはもうだめかもうだめかと本当にハラハラし通しだった。当然、ラストは「大脱走」のパロディーで決めてくれます。
最後にちょっと一つ気になった点。動物を食べるということは生きていくためには最低限必要なことであって、なにも悪いことではないと思う。しかし、残酷であるということには間違いないだろう。自分が「食われる身」になって考えればそれはすぐわかるはずだ。だからこそ、食べ物を粗末にしてはいけないだろうし、動物の命を面白半分にもて遊んではいけないと私は思う。毎日食卓に並ぶ鶏肉や卵にこの映画のような重苦しいドラマが繰り広げられていると考えると、それは子供にとってちょっとヘビーな内容かもしれない。
しかし、親は子供にちゃんと教えるべきだろう。我々の命は他の動物の犠牲に成り立っているし、また、「と殺」という行為を通してそれらのものが我々の食卓に並ぶことを。なおかつ、「食べる」という目的がないのにもかかわらず我々人間が戦争という殺し合いをしていることを。戦場で何百人も殺した英雄がいる一方で、一人の人間を殺して食べた人間は「キチガイ」と世の中で扱われることを。それが「残酷」であるとか「不穏当」であるからといって、子供になにも教えない、または、そういった情報を一切与えないという行為は、人間として本当に恥ずべき行為だと私は思う。残酷・卑猥・不穏当、けっこうじゃないか。それが世の中の本当の姿ではないのか。
それはともかく、ホントいいんだよなあこの映画。シュールであり、残酷であり、そして、ほのぼのとしている。ディズニーに代表されるような子供向け映画には毒にも薬にもならないものが多い。しかし、映画製作者には「子供だましは子供にも通用しない」ということをしっかりと認識してもらって、大人の鑑賞に耐え得るような「子供向け映画」をどんどん製作してほしいものだ。とにかくお勧め!(Psyc)