Gone In 60 Seconds
(2000-06-09公開)

ハリウッドには逆立ちしてもかなわない

出演: Nicolas Cage, Angelina Jolie, Giovanni Ribisi, Robert Duvall , Delroy Lindo

監督:Dominc Sena

プロデューサー:Jerry Bruckheimer and Mike Stenson

脚本:Scott Rosenberg

備考:Touchstone Pictures 1時間59分 PG-13

公式サイト: http://www.goneinsixtyseconds.com

(あらすじ)
 ランドール・“メンフィス”・レインズは伝説的な車両窃盗のプロである。どんなキーも警報装置も彼の前では役にはたたない。彼の手にかかれば車は1分で盗まれてしまう(Gone In 60 Seconds)。メンフィスは今では足を洗って、数年間身を隠していた。しかし、弟が彼と同じ車両窃盗の道を歩み始め、大きな失敗をやらかした。弟の命を救うため、メンフィスは再び車両窃盗を引き受けることになるが……

(感想:2000-07-04)
 70年代のカルトな映画のリメイク。不勉強なものでオリジナルは見たことがない。仮に見たことがあったとしても、全く覚えていない。オリジナルとリメイクの違いがよくわからないのが残念だ。一生の不覚……

 オリジナルは40分にもわたるカー・チェイスで話題になったらしいが、このリメイクではさすがにそんな長時間のカー・チェイスはない。おまけに、「シャフト」とは違って、70年代特有の「イカすグーな雰囲気」も全くない。オリジナルに愛着のある人なら、「ニセモノだぜ!」と頭にくるところだろう。ところが、「だったら、つまんないじゃん!」と思って映画館に行くと、なかなかどうして、ゴージャスかつしっかりとつくられた完成度の高さに、ある程度納得してしまうはずだ。さすが、ジェリー・ブラッカイマー。トム・クルーズと違ってソツがない。客商売はこうでなければ。「金儲け主義」も極めてしまえば、なにかしらの様式美が存在するといえる。

 映画の雰囲気は「薄味のごった煮」とでもいえばいいのだろうか。中心となるべき重いテーマも存在せず、わかりやすい映画であることは間違いないが、一言でいい表すことがなんともできない映画になっている。

 ニコラス・ケイジ主演の「Gone In 60 Seconds」の内容をがんばって端的に説明しようとすればこうなる。

1.車両窃盗のプロである主人公が超人的なドライビング・テクニックで活躍するアクション映画。
2.主人公と同様に、車両窃盗のプロであるヒロインとのラブ・ストーリー。
3.優秀な兄(主人公)とマヌケな弟の兄弟愛の物語。
4.主人公率いる車両窃盗のグループの友情と連帯の物語。
5.華麗な車両窃盗のシーンをふんだんに取り入れたピカレスク。
6.車両窃盗のプロ集団と鬼刑事との息づまるサスペンス。
7.車両窃盗のプロ集団と、メンフィスの弟の命を狙う犯罪組織とで繰り広げられるサスペンス。
8.カー・マニアがよだれを流して喜ぶファッショナブルな映画。

 この映画は上記のそのすべてを盛り込んでしまっている。これでもまだ説明が足りないくらいだ。普通、ここまで盛り込んでしまうと、ストーリーは完全に破綻するものなのだが、全編、可もなく不可もなく、うまくまとめられていて、なおかつ、「男の映画」という基本の部分をはずしていない。一歩間違えれば、散漫なダメ映画になってしまうところなので、そういったところは、良くも悪くも、正当に評価されるべきだろう。映画の出来ばえだけに限るなら、夏に公開された中で一番いいのではないだろうか。こんなファッショナブルで華麗なアクション映画は他にそうないはずだ。

 この映画で特に驚いたのは、映像の色彩の鮮やかさだ。すべてのシーンがMTVのミュージック・ビデオくらいの気合で、最後まで凝りに凝っている。疾走するようなハリウッドのアクション映画なのに、画面はほとんど芸術的なおフランス映画。こういうアクション映画も悪くない。ちなみに、音楽はトレバー・ラビンが担当している。

  ニコラス・ケイジはニ枚目ではなく、どちらかといえば、個性派なのに、いつのまにかニ枚目俳優として一般的に認知されてしまった不思議な俳優だと私は思う。「あんたいつから二枚目俳優になったの?」と誰かニコラス・ケイジに単刀直入に聞いてほしい。ブルース・ウイルスも同様だ。

 そんなニコラス・ケイジの奇妙な個性は、この映画にはまっていないようで、実はうまくはまっている。典型的二枚目俳優が主役をして、この映画の見所を明確に一つ定めてしまったら、この映画は見事にバラバラになってしまっただろう。全体的に、それほど濃くもなく、かといって薄くもなく、二枚目でもなく、個性派でもなく、ニコラス・ケイジ、あんた本当にいい仕事してるよなあと実感。

 全体的にこの映画のバカ度は低い。しかし、ニコラス・ケイジの一挙手一投足に精神を集中させれば、バカ度は限りなく上がる。うつろな瞳でムスタングに語り掛けるシーンは必見。なにやってんだか、というトホホな気分にさせられた。

  ロバート・デュバルを始めとする豪華なわき役陣は、少し目立たないともいえるかもしれないが、一瞬一瞬のシーンに無理なく溶けこんでいる。さすがは実力派ぞろいといったところ。デュバルの息子さん(?)もチンピラ役で出演していた。私にとって一番印象に残った俳優は、敏腕デカ役のデルロイ・リンドだった。ニコラス・ケイジを逮捕するためにかなりダーティーな捜査をするのだが、これがまた、執念深くて、嫌で、しかし、粋な奴なわけだ。

 それと最後に一つ、ここ一番のカー・チェイスにCG合成を使っていいのだろうか、ということが少し気になった。よりリアルで効果的な映像表現のために、CG合成を使用せざるを得ないというのは十分に理解できる。しかし、なんとも釈然としないのもまた事実だ。う〜ん、まさに今どきのハリウッド映画。

 全体的にちょっと物足りない小じんまりした映画であると私は思うが、それがいいところだともいえるし、それなりにちゃんと楽しめる。いろいろな意味で、ハリウッド映画の「底力」をまざまざと見せつけられる映画だった。映画館で実際に見れば、ハリウッドには逆立ちしてもかなわないのを痛感するはず。映画好きならチェックすべき映画だろう。(Psyc)


Back


1