Shaft
(2000-06-16公開)
粋でいなせで男くさい痛快娯楽作
出演:Samuel L. Jackson, Vanessa L. Williams, Jeffrey Wright, Christian Bale, Busta Rhymes.監督:John Singleton.
プロデューサー: Scott Rudin , John Singleton and Adam Schroeder
脚本:John Singleton , Richard Price and Shane Salerno.
備考:Paramount Pictures 1時間38分 R
公式サイト:http://www.shaft-themovie.com/
(あらすじ)
人種差別主義者の落ちこぼれ大学生ウォルター・ウェイド(クリスチャン・ベイル)が黒人学生を殺害した。ニューヨークの名物暴れ刑事シャフト(サミュエル・L・ジャクソン)はウォルターを逮捕するが、ウォルターは保釈され国外に逃れた。2年後、ウォルターが極秘に米国に戻ってくるという情報を聞きつけたシャフトは、空港に乗り込み、ウォルターをもう一度拘留する。しかし、富豪であるウォルターの父親が莫大な保釈金を支払い、再びウォルターは保釈されることになった。晴れて自由の身になったウォルターは、シャフトの命を狙うべく行動を開始する。さらに、普段からシャフトと敵対している二人の刑事(ダン・ヘダヤ、ルーベン・サンチアゴ-ハドソン)や、シャフトに恨みをもつドミニカ人の麻薬ギャング(ジェフリー・ライト)が絡み始め……(感想:2000-06-25)
私にとって今年の上半期のベストにの一つになるに違いない。文句なしにスカッとする痛快娯楽作。全然最初期待していなかったので、見終わった後、メチャメチャ得した気分になった。粋でいなせで男くさくて、いったいこの映画の良さをどう説明すればいいのか? これが映画だ! これがエンターテイメントだ! 見ろ! 絶対に見ろ!ワカチャカワカチャカ…… という独特のテーマ・ミュージックとともに、ぼんやりとした青い画面の中でシャフトと女性がからみあっているところからこの映画は幕をあける。オリジナルの「シャフト」は見たことがないのでなんともいえないが、アイザック・ヘイズのこの名曲が流れてしまったら、誰が何をいおうとも、それはもう「シャフト」であるに違いない。新しい曲を無理やり挿入することなく、この映画の全体を通して、音楽がオリジナルのまま70年代調なのがうれしい。いい音楽はいつの時代でもピタッとはまるものだ。
今回の新シャフトは、男塾の江田島平八塾長と富樫源氏を足して二で割ったような風貌のサミュエル・L・ジャクソンが演じている。これがまたなかなかの好演で、ジャクソンのオリジナルに対する尊敬の念がひしひしと伝わってくる。また、前のシャフトであったリチャード・ラウンドツリーも「ジョンおやじ」という役で登場するので、70年代にシャフトを見たファンも満足できる内容になっている。見た感じ、ジョンおやじは老いてますますお盛んなのに対し、ジャクソンのシャフトはちょっとストイックだったかな。
最初から映画は痛快なノリである。シャフトは黒人学生を殴り倒したと思われる男を逮捕し、男が倒れた黒人学生にたいしておちょくった言葉を吐くと、いきなり何度もどつきたおす。今時こんなあからさまな人種差別主義者はいないと思うが(とはいっても、隠れた人種差別主義者は数多くいるのは事実)、個人的にこういったシーンはグッド。私としては、映画全体を通してこのノリが持続するので大満足だった。
犯人の男は、金持ちボンボンのアホ学生、行動も短絡的、おまけにマザコンという、製作者側の「愛情」が一切感じられない、非常にわかり易いナイスな悪役に仕上がっている。人種差別主義者のバカキャラクターに対して、脚本で何か「温情」をかけてやる必要なんてないもんな。
ところが、シャフトの努力もむなしく、決定的な目撃証言がないために、男は2度も保釈されてしまう。泣き叫ぶ遺族、怒り狂うシャフト、裁判所は大混乱に陥り、シャフトは裁判官に向かって、警察バッチを投げつける。バッジは裁判官の顔のそばに突き刺さる。マンガチックでいなせなシーンだ。その後、唯一の証拠ともいえる血染めの運転免許証を犯人に見せつけながら、怒りに燃えるシャフトが裁判所の階段を下りるシーンは必見。イカスぜ!
いったい「正義」は死んでしまったのか? 裁判の結果に幻滅したシャフトは警官を辞職し、必殺仕事人のように独自の捜査を始める。まず、唯一の目撃者と思われるバーのウエイトレスを見つけ出すことが先決だ……
とまあこんな感じで、映画は義憤にかられる暴れ刑事といった展開をみせる。シャフトの強引な捜査方法に関しては賛否両論あると思うが、シャフトは決して「権力の犬」ではないので、映画の演出としては許せる範囲だろう。
で、犯人の男がどうしようもなく短絡的で頭が悪いので、事件は意外な方向にいってしまう。シャフトに恨みを持つ麻薬のギャングが一枚かんでくるのだ。アクションだけに関していえば、今回の本当の敵はジェフリー・ライト演じるこの麻薬ギャングといっていいだろう。コイツは根っからの悪人というわけじゃなくて、血縁の生活のために悪事を犯しているという、どこにでもいそうな(?)兄弟思いの小悪党である。まあ、確かに残虐な奴であることは変わりないけど。シャフトには大きな犯罪は似合わないので、こういった役どころが登場するのはマルである。世界的な大犯罪はトム・クルーズにでも解決してもらえばよい。
不満があるとすれば、ヴァネッサ・ウイリアムズ演じる女性警官、そして、シャフトをつけ狙う二人の警官の役どころがイマイチ中途半端なことだった。いろいろとつめこみすぎたのかも。かといって、女性警官の役がしゃしゃり出てきていたら、絶対にカチンときていただろうから、これくらいが適当だといえるのかもしれない。
単なるアクション映画かなと思わせておいて、ラストは実にほろ苦い。「正義」とはいったい何かというものを考えさせられる。これと同じようなラストが、アメリカの70年代のTVドラマである、「ヒル・ストリート・ブルーズ」にもあったような気がする。このラストには賛否両論あると思うが、私は正解だと思う。決してきれいごとだけでは済まさない製作者側の姿勢に拍手を送りたい。アメリカは病んでいるということなのだろう。「正義」は死んでしまったのだから……
映画全体通して本当に絵になるシーンが多い、粋でいなせで男くさい痛快娯楽作である。見ればスカット気分爽快。映画館に行って絶対に見るべし! 映画の出来について細かくいうな! とにかくお勧めだ!(Psyc)