The Perfect Storm
(2000-06-30公開)
そんなことしたら死んじゃうよ…… えっ、ホントに死んじゃった!
出演:George Clooney, Mark Wahlberg, Diane Lane, John C. Reilly, Karen Allen監督:Wolfgang Petersen
プロデューサー:Wolfgang Petersen and Paula Weinstein
脚本:William D Wittliff, Bo Goldman and JenniferFlackett
備考:Warner Brothers 2時間09分 PG-13
公式サイト:http://www.perfectstorm.net/
(あらすじ)
1991年10月、偶発的な様々な要因が重なり、今世紀最大最悪級の暴風雨、「The Perfect Storm(完璧な暴風雨)」が発生した。波の高さは普段の10倍にもなり、風速は時速120マイル(193kph)に達した。このような嵐を直接経験した人間はおそらくいないであろう。漁船アンドレア・ゲイル号の6人のクルーを除いて……(感想:2000-07-04) ネタばれあり注意!
一見バカ映画が、実はちゃんとしていて、保守本流大作映画のほうが、バカをしているという、「バカ・パラドックス」ともいうべき現象が、最近のアメリカ映画には多く見られるように思う。まあ、昔からそうなのかもしれないが……「巨匠」ウォルフガング・ペーターセンの「The Perfect Storm」は、そんな「バカ・パラドックス」な超大作である。久しぶりに「キて」る映画を見たような気がする。マジなのか冗談なのかわからないが、こんなキャストいったい誰が考えたんだ。いちいち詳しく書かないが、この船主とクルーの船だけには私は絶対に乗りたくない。おまけに、なんだか妙にホモっぽいシーンが多い。ガテン系の男が大好きな兄貴は絶対にこの映画を見るべきだろう。いつ船長(ジョージ・クルーニー)とマーク・ウォルバーグが船長室で力いっぱい抱き合うのかと、こっちはヒヤヒヤしたぞ。
「この映画は事実に基づいて製作された」という文字が冒頭で表示される。この時点で私はなんだか嫌な予感がした。そして、その嫌な予感は見事に的中。一言でいってしまえば、無鉄砲な行動で沈没したバカな漁師の物語だった。内容は本当にただこれだけ。しかし、それを超ド級感動巨編にしてしまっているところが、いかにもハリウッドといえる。こんな映画でどうやって涙を流すことができるんだ? でも、隣のオバさん号泣していたよなあ…… 「これはホモ映画だ!」と心の中で何度も念じ続けることによって、正気を保つ必要があるかも。
映画は漁船が港に戻ってくるところから始まる。ダイアン・レインがお出迎え。久しぶりにダイアン・レインを見たけど、「シリアル・ママ」かと思った(笑)。そしてダラダラと、陸の上での船員たちの日常がつづられる。結局、いろいろと事情があって彼らは数日後に漁に出ることになるのだが、とにかくこの陸での描写が長いこと長いこと。一時間近くはあったと思う。ここまでウダウダ長くするのは、ラストの感動を盛り上げる伏線なのかなと私は思ったが、クルーは奇跡的な生還をすることなく結局全滅してしまうのだった。だったら、もうちょっと編集をなんとかしろよといいたい。
素人の私がこういうのもなんだけど、本当の漁師さんが見たら噴飯ものの内容だと思う。今世紀最大級の台風が近づいてきているのに普通漁にでるか? また、海の男がなんでさっさとそれに気づかないんだよ? なおかつ、それくらいの台風に真正面から挑んだら絶対に沈没するに決まっているのがわからないのか? ジョージ・クルーニーは、優秀かと思えば無能、慎重かと思えば無鉄砲、温和かと思えば短気という、分裂気味のわけのわからない船長を熱演している。他のクルーもバカばっかりである。途中、台風の直撃を回避することができるのにもかかわらず、クルーは全員欲に目がくらみ、台風に真正面から立ち向かい、そして、当然彼らは海の藻屑になるのであった。まあ、これで生還することができて、英雄視されるようなことがあれば、まっとうな漁師さんは怒るだろう。「この映画を海で命を落としたすべてのものに捧げる」という最後の字幕には本当にゲンナリした。海で死んだら誰でも英雄なのか?
この映画をたとえていうならば、生活苦のためにバイク便をしている主人公が、時間通りに配達できなくて給料が下がることを避けるために、雨の中、時速180キロで都心を暴走し、ラストでやっぱり交通事故で死ぬというような、そんな感じの映画である。そりゃ、死んじゃうよ。そして、最後に「この映画を交通事故で命を落としたすべてのものに捧げる」と表示される。この程度の内容を、愛するもののために自然に立ち向かった男たちの超ド級感動巨編してしまうところがすごい。ハリウッド恐るべし!
この映画には特撮くらいしか見どころがないともいえるが、実際の暴風雨のシーンはかなり迫力があった。「Uボート」を監督したウォルフガング・ペーターセンだけあって、水がからんだシーンはさすがにうまい。巨大な波に翻弄される漁船の特撮は完璧である。救助隊がヘリコプターでヨットを救出するシーンでは、目がスクリーンに釘づけになった。しかしながら、暴風雨の一つ一つのシーンはうまくできている反面、それらが全体として実にまとまっていない。結局、ジョージ・クルーニーの漁船と救助隊は最後まで全く関連がなかった。おそらく製作者側は「The Perfet Storm」という今世紀最大級の台風をドラマの中心として、それを取り巻く人間模様をいろいろと描きたかったのだろうが、それがうまく組み合わさっていない。いったいどこがドラマの中心なのか、誰が本当の主人公なのかが、いっこうにわからないままに、最後はザブーンである。
この映画を製作するにあたっての最大の失敗は、事実に基づいて製作したということだろう。主人公となるべき漁船が沈んでしまっていれば、ドラマの盛り上げようがない。ラストで船長が船外に脱出できるのにもかかわらず、船とともに沈没するという、いかにもなシーンがあるが、せっかく船外に脱出できたマーク・ウォルバーグも結局死んでしまっては、なんの面白みもないといえる。正直いって、このラストに私はかなり拍子抜けした。史実をある程度交えながら、完全なオリジナルのものを製作したほうがよかったのではないだろうか。特撮は完璧、題材もそこそこいい映画なのに、映画としての中身がスッカラカンという、典型的なハリウッド超大作である。もっとも、たった3.5ドルで見たので、「M:i-2」を見たときほどの怒りはわかなかった。
一見の価値はある。ぜひとも映画館でご覧ください。迫力だけは満点だ。(Psyc)