月刊少年エース3月号読感
(1998/01/29)
うれしいやら悲しいやら。
未完になるんじゃないかと様々な噂の飛び交う中で連載の続く貞本エヴァンゲリオン。
今回も戦闘シーンがゼロ。ということは話の展開が進むということ。
特に今回のラストシーンには嬉しい動揺を覚えた方も多いと思います。
しかし騙されちゃあいけません。
期待させておくだけさせておいて「外す」のは連載ものの常套手段。
それはともあれ、まずは順を追って今月号の展開を見てゆきましょう。
途中エヴァにおける「成長」の意味、についても述べてみました。
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話しを戻して、この綾波の独り言のシーンですが、「あなたダレ」の対象が綾波自身の姿では無くエヴァの素体であるというのが注目されます。一巻、STAGE5でシンジが初号機で見たものもこの素体でした。そしてこの時既にエヴァ内にシンジの母がいることも示唆されております。従って、今回、綾波が初号機の中で素体と出会うこともあまり深い意味を持たなくなっております。綾波=ユイという印象もこれではかなり弱い。
テレビ版のこのシーンが綾波の深層世界を切り開いて見せたのと比べるとやや薄味なのはやはり残念です。ちなみにこの逆さ回転の姿は、エンディングのフライ・トゥー・ザ・ムーンと共に出てくる綾波のものですね。なんでこれを使ったのかは分かりませんが……まあなんか使いたかったのでしょう(^-^;
2.「汚れた」と感じた時、それがわかるわ
[証拠]
「どう、レイ? 久々に乗った初号機は」
コントロールルームからリツコは尋ねる。
「碇君の匂いがする」
無表情のまま綾波はエントリープラグのインテリア上で答える。
リツコの傍らにいるマヤは、零号機と初号機のパーソナルパターンの酷似を指摘する。だからこそシンクロ可能なのよ。リツコは答える。
「そろそろあの計画が遂行できるな」
背後にいたゲンドウ。初号機パイロットによる零号機シンクロ相互テストを指示すると彼は立ち去った。
「ダミーシステムですか? 先輩の前ですけど、私はあまり……」
「潔癖症ね、この先つらいわよ人の間で生きてゆくのが」
マヤとは視線も合わさずリツコはつぶやく。
「『汚れた』と感じた時わかるわ、それが」
[検証]
これも14話のシーンから。アニメとの違いはゲンドウがその場にいることぐらいでしょうか。いよいよダミーシステムの話題が登場します。シンジとトウジ(正確には参号機)との対決の日は近い。
それにしてもオペレーターで出てくるのはとうとうマヤだけに。青葉君や日向君の出番はあるのでしょうか。
ところで「汚れた」というのはやはりゲンドウの女になった時のことを指しているのしょうか。確かにテレビ24話で、リツコはゲンドウに「私の体をすきにしたらどうです。あの時みたいに」と言っておりますから。一方的にゲンドウが彼女を襲って自分の女にした、と考えられます。ゲンドウとしてはリツコをそうした形でしばりつけておいた方が得策だと考えたのでしょう。こう考えるとゲンドウもひどい奴です。もっとも、リツコの母親との場合はその彼女の方からのアプローチとも見えますので、娘はその復讐の意味合いも多少あったのかもしれません。
悲しいのは、そのような性的関係だけでゲンドウのことを好きになってしまうリツコ、です。リツコはゲンドウ以前に好きな人はいなかったのでしょうか。一度関係があればそのまま好きという感情が産まれるなんてのは単純すぎますが、リツコの場合はそれが生じてしまったのかもしれません。それは反面で、リツコの純情さを表してもおり、その分、リツコの悲哀の深さを覚えます。
リツコは本当にゲンドウが好きだったのかも怪しいです。リツコはゲンドウを通してただ母親の存在を感じていたかったという説もあるぐらいであり、そこにある愛情が本物かどうかは難しい所です(本物、もしくはそれに近い愛情というものがあれば、という話ですが)。なにしろ、自分で「汚れた」と言っているぐらいですからゲンドウとの関係を楽しんでいたとは思いづらい。映画の後に、もしリツコが復活するとしたならば、どのような人生が続くのか、気にはなる所です。まあ、別に結婚しなくともその時その時に恋人を作りながら歳を取ってゆくのかな、とも想像してみますが。どうでしょう。
3.焼けぼっくいに火がついた
[証拠]
ミサトのマンションでは、騒ぎつかれた子供達がめいめいの格好でリビングに横たわっていた。
一方ミサトは飲み過ぎのため、洗面所で加持に介抱されていた。
「ったくもう、いい齢して吐くなよ。オレと飲めるのがそんなに嬉しかった?」
殴るわよと反論するが気分が回復しないミサト。加持は外の風にあたった方がいいとマンションの外の駐車場へと彼女を連れ出す。
加持は彼女を背負いながら、昔もよくこうして歩いたよなと言う。
すると唐突にミサトは「私にフラれた時、ショックだった?」と尋ねる。
「もちろんさ」加持は即答する。「でも、ま、オレが悪いのか。浮気ばっかしてたしな」
植木のふちに腰掛けるミサト。彼女は言う。ワザと嫌われるようなことしたんじゃない。あなたはどのコに対しても本気じゃなかった、私にもね。あんたはいつもいつももっと他のものを見ていた。
「このままどこまでいっても本気で愛されないんじゃないかと思ったらすごく怖くなった」
そしてセカンドインパクトの時の嫌いだった父が自分を命と賭して救ってくれた、と話をする。浮かび上がるその時の光景。
「加持君、少しあたしの父に似てるわ」
すると加持は無言で右手をミサトの頬に添えた。優しく顔をひきあげ、唇を近づける。二人の瞼が閉じられる。
すると。
「フケツ」
アスカ、だ。二人の姿が見えないため探しにきたらしい。
慌てる加持とミサト。違うんだ、ただ介抱していただけ……。
「ウソ。ぜ〜ったいキッスしようとしてた」
「何言ってんだ俺達こんなに仲悪いのに」
ミサトもそうそうと言って加持の頬をつねる。「ウォイテテテ本気でつねんなよ」「ゴメン」
翌日、学校に行ってもアスカの機嫌はなおらない。机の上に足を放り投げながら「ああいうのが『焼けぼっくいに火がついた』って言うのね」とつぶやく。
「えっ 松ぼっくりが何?」
間抜けな返答をするシンジに、アスカは関係無いと、怒鳴りつけ……。
[検証]
長々と引用してしまいましたが、これはテレビ15話(「嘘と沈黙」)の結婚式の帰り、夜道を歩くシーンですね。セカンドインパクトのシーンは12話(「奇跡の価値は」)から。着実に設定の消化をこなしております。残るは死海文書とロンギヌスの槍、地下のアダム(リリス)の紹介……できれば唐突にでてきたリリス・リリン、黒き月、セフィロトの樹についてのフォローも欲しい所です。
以前の想像通り、漫画版では加持の浮気が原因で別れた……ということに一応はなっているようです。テレビと比べるとミサトの気持ちもかなり落ち着いています。二人のキスシーンがアスカによっておあずけをくらってしまうのは、後の20話での「ホテル」の場所にキスシーンをもっていこうという作戦でしょうか。さすがに少年誌相手にあんな「直接」なものは描きづらいでしょうから。
またここで、ミサトと加持のキス未遂を見せることで、アスカにキスへの関心を誘い、シンジとのキスへの流れに備えようという魂胆もあるのかもしれません。ただ、キスで「フケツ」と言ってしまうアスカもまた妙に可愛らしい。
エヴァ全般(特にアニメ版)に思うことですが性的なことに対するものに対して「汚いもの」と断じる部分が多いのが気になります(※切作理作編「ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ」の中の対談記事で宮崎哲弥が同じようなことを述べていた)。確かに綺麗、と言うと語弊もありますが、それほど嫌悪することも無いとも思うのです。
第一、そもそも恋愛感情には必ず性的欲求が裏打ちされます。この場合の性的欲求というのは直接的な性行為のみならず、もっと広く「身体的接触欲」というものを含んだ欲求を意味しますが、ともかく、そうしたもののバックアップで全て恋愛は成り立っているわけです。そうである以上、性的なものを嫌悪しながら恋愛感情を育てるのは難しいわけで、これは否定するよりも肯定してしまった方がよいとも思うのです。
とはいえ、男性と女性とではやはり勝手が違うのかもしれません。男性の方がより直撃的な性欲を感じますし(体の構造上そうなっているので仕方が無い)、女性には妊娠という問題がつきまといます。その点、どうしても平均すれば女性の方がややそういう欲求に慎重になるのも無理からぬこと。また、以前述べたように「家族」というものに対する考え方と密接に結びつく問題でもあるので簡単に「こうだ」と言い切ることは難しい。
アスカのキスしようとしたミサトと加持に対する態度は「少年誌」だからそうなっていると説明するのは簡単ですが、その点やや現実より古典的かなとも思います。もっとも、単にミサトに嫉妬したが故、文句の言葉として「フケツ」と言っただけかもしれませんが。
できれば、この先にあるであろうアスカとシンジのキスは両者にとって素敵なものになってくれればと願います。テレビ版のあれはどうにも加持への当てつけの面が大きくて、両者とも不幸な感じですから。
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話は全然変わりますが、恥ずかしながら実は今まで「焼けぼっくい」のことを「焼きぼっくり」と勘違いしていました。松ぼっくりを火に入れるとぱちぱちと激しく鳴る所から来ているかと思っていたら全然違うのですね。広辞苑によれば「やけ‐ぼっくい【焼け棒杭・焼け木杭】焼けた杭。燃えさしの切株。●焼け棒杭に火がつく(一度焼けて炭化した杭は燃え付きやすいことから)
かつて関係があったものが一度縁が切れて、また元の関係にかえることをいう。主に男女関係にいう」とのこと。勉強になりました。
また、アスカも前回でふっきれたのか両足を机の上にのっけて腕を組む格好をしてますが……お行儀が悪い。パンツ見えちゃいますよ(^-^;
4.委員長、捨て身でトウジに体当たり
[証拠]
シンジは窓際の席を見る。綾波の席だ。前の戦闘から学校で姿で見たことが無い。
トウジたちと帰り支度をしながらも彼女のことが気になって仕方がない。
と、突然委員長がトウジに体当たりする。
行く手を阻むように入口のドアの前に立ち、ケンスケとトウジに掃除当番でしょ、と両手を腰にのスタイルで告げる。
それから委員長はシンジにプリントの束を手渡す。
「先生が綾波さんに届けてくれって」
「あ、うん。分かった」
シンジの顔は少し赤らんでいた。
[検証]
どうしても、フォースチルドレン編を盛り上げるためにはトウジと委員長ことヒカリの関係が描かれなければなりません。今回、強引にトウジをひきとめたのも放課後二人っきりになるための布石、かもしれません。もっとも今日は、ケンスケもいますから難しいようです。
しかし、まずは口に出して言えばいいものをわざわざとおせんぼまでして体で止めるとは……やはり身体的接触……いや、下司な勘ぐりはやめておきましょう。
前回も述べましたが、トウジとヒカリというのはその昔気質なところが共通しているのでなかなかいい感じであります。個人的には家族観と金銭観が一致していれば、人の仲というものは大体の所なんとかなると考えておるのですが、皆さんはどうお思いでしょう。もっともこれが両者一致することなど滅多なかったりするのですが、ね。
そしてシンジ、です。綾波のことを気にかけまくっております。そして綾波の部屋に行くことができてまた喜んでいる……。しかも……、とこれは次の項で。
5.綾波、シンジを誘惑する
[証拠]
建設工事の音が鳴り響く中、シンジは綾波のマンションの扉の前に立つ。
以前、裸の綾波の上に覆い被さった時のことを思い出さずにはいられない。
呼び鈴は未だ故障したままだった。扉を叩き「綾波? いる?」と呼ぶ。
扉が開く。
そこには大きめの白いワイシャツ一枚だけを着て、眠たげに左目をこする綾波が立っていた。寝癖のためか、心なしいつもより髪もぼさぼさに見える。
「あ、ごめん、寝てた?」
わずかに顔を赤くするシンジ。
「夕べ、再起動実験徹夜だったから」
とろんとした目つきのまま答える綾波。足下にはスリッパがおさまっている。
「じゃあ、零号機直ったんだ。よかったね」
「ええ」
その後の言葉が続かないシンジ。うつむく。そしてやっと言う。
「これ、たまっていたプリント。じゃ、ゆっくり休みなよ。睡眠の邪魔してごめん」
去ろうと体をそむけたシンジに綾波が声をかける。
「少し、あがってけば」
視線は少し右にむけられている。その顔から表情は読みとれない。
「……あ、うん」
驚きを隠すように、真顔でシンジは答えた……。
[証拠]
ふふふ。
貞本っあん、その手は喰わんぜよ(なぜか高知弁)。
以前、アスカとホテルっぽい部屋で一緒に過ごせと言われた時もそうでしたが、これは過剰な期待を持たせ、来月にひっぱってゆくためのテクニックにすぎないと、あえて判断いたします。
ここのシーンはおそらく、17話(「四人目の適格者」)のAパートの終わりの方、トウジとシンジがプリントを届けるシーンに対応しているのでしょう。ただし漫画版では一人で訪問となっており、この後には、15話でのエレベーターの中での会話(「なんかおかあさんて感じがした」「……何言うのよ」)に類した展開が続くと予想されます。つまり「あ、ありがとう」というあの顔を赤く染める綾波の姿が見れるということです。
幾ら、綾波が白ワイシャツ一枚という姿をしているからと言って、想像を過多にしてはいけません。別れ際にぽつりと名残を惜しむように「少し、あがって行けば」と言われたからって……。いつもは部愛想な彼女が、ちょっと声をかけてきたからって……。部屋の中で二人っきりになったからって……。部屋の中には座れる場所がベッドの上しか無いからって……。まだ、ベッドに彼女のぬくもりが残っていたからって……。彼女の白い素足が無防備に伸びていたからって……。並んで座り、彼女の顔や腕が近くあったからって……。彼女の息をする音が聞こえたからって……。後ろから陽の光が優しく射し込んでいて、沈黙があって、目を見つめ合って、頬が染まり、ちょっとだけ相手の体温を感じ……。
って、すっかり術中にはまっとるやんけ(えせ大阪弁)。
大体卑怯だ。綾波の着ているそのワイシャツはなんだ。制服のワイシャツとは襟の形が違うし。男物のシャツ、か。はっ。もしかしてゲンドウのプレゼント? もしくは、着る服の無い綾波はロッカーから男子生徒のものを一枚頂戴してきたとか……と、これでは違う話になるか。明石家さんまではないが、こんな姿で出てくるのは卑怯千万だ。くらっときちゃうじゃないか。しかも、なんか髪がちょっと跳ねてたり。目をこすってたり。構えの無い姿されちゃあ。俺、別にアヤナミストじゃ無いのに。ううむ。
それにしても、二人は中に入って本当にどうするんでしょうね。ビーカーでコーヒーでも沸かして飲むのでしょうか。いや、確かゴミ袋の中に空き缶が入っているのを見たから冷蔵庫にUCCのコーヒーぐらいはあるのかもしれません(注:ゴミを見て人を調べるようではかなり人間失格に近づいています)。
いや、「お母さんって感じがする」を言わせるために、それに類した行動を綾波が取るのかもしれない。コーヒーをこぼしてそれを拭くのに雑巾をしぼる、とか。いやいや、案外料理とかできたりして、鍋に残っていたみそ汁かなんかくれたりして、それを飲んでいると少し服に垂れてしまって、綾波がすばやく拭いてくれちゃったりして……。いや、逆にシンジが綾波のためにご飯とかたいちゃったりして、そんでもって綾波がそれを口にしていると、唇の脇にご飯粒とかついたりして、それをシンジが「ついてるよ」とか言ってつまんで食べたりして、すると綾波が顔を赤くして「あ、ありがとう」ってうつむいちゃったりして……。
俺って馬鹿。
えー。まあ、そんな感じで(どんな感じだ)とにかく綾波とシンジの交流が描かれる、と。
綾波もアスカの登場にうかうかしてられないと思ったのでしょうか。先の述べた、騒ぎ疲れて床に寝ころぶ子供達のシーンでも、アスカの右足はシンジのベルトの下あたりに、左足はシンジの左足の上にからまりそうな感じで置かれております。この接近度はかなり危険だ。まあ、一応シンジはアスカより綾波の方を意識しているようですが。
とりあえず、さりげなくちょっとだけ期待しつつ来月を待ちましょう。多分、肩すかしだとは思いますけれどもね。
そうそう。一応記しておきますと表紙は、ミサトを後ろから抱く加持。ミサトは真顔。加持は目をつぶって腕を組んでいます。欄外の編集者のコメントは、冒頭が「たゆたう心……」、最後は「平穏の中のさざなみ……」。ちょっと短いですが、まあ大分前よりは進歩したかなと。
なんだかんだと結局書いてしまいました。
もうエヴァなんてどうでもいいと心では思ってるのに書こうとすると書けてしまう。
そんな自分が憎い。