MORIVER'S SWEETEST DIARY 更新日記 (19)

9月 8日(月) 弐萬/SCSI・PCI・IDA・ISA/ナニヤッテルノ?
9月 9日(火) 35メガあり/オデッサファイル/ミセスシンデレラ/砂の城
9月 10日(水) オデッサ/WHO!?/マックマックマック??
9月 11日(木) マックその後/論語にはまる
9月 12日(金) 論語その後/綾波レイな女/ドラクエ3日記
9月 13日(土) ドラクエ日記・メスロンは語る
9月 14日(日) ドラクエ日記三日目・エルフの村・闘技場・カンダタの塔



1997年9月8日 (月)

 弐萬行きました。
 単純ですが一言。「本当にどうもありがとうございます」。
 毎度ながらお祝いは特にいたしません(^^;

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 ハードディスクの容量がいっぱいになってきて、どうしようかと考えあぐね
ている時、夕べ、チャットで「ハードの増設」について色々教授を受けた。

 自慢ではないが私はパソコンに関してはほとんど知識が無い。一応初めてパ
ソコンを買ったのはもう8年も前の話だが、去年の十月までその時買ったもの
を使い続けてきた。パソ通と文章を打つだけならば特に不満は無かったのであ
る。

 そしてその去年の十月に今の富士通のFMVを買ったのだが、以来ハード的
には何もいじっていない。メモリーも16メガ。ハードディスクは1.2メガ
だ。前どこかで2メガとか書いた記憶もあるが間違い。

 とにかく、チャットの最中にそんな話題になったらたちまち「SCSI」がどー
とか「マザーボード」がどーとか言われ混乱した。
 そしていつの間にかパソコンの説明書を取り出してのにわかパソコンの構造
についてのプライベート・レッスンが始まっていた。この場合、先生が二人、
生徒は私一人。

 なにしろパソコン雑誌を見てもハード関係はおろか、ワープロ関係の裏技記
事などもことごとく読み飛ばす私である。CPUは分かってもPCIは分からない。
分かる人には分かることなのだろうが、私はISAすら分からない。ついでに言
えば、未だにFTPツールの使い方も分からない。「知らないことを知っている
ことは偉いのだ」というソクラテスおじさんの言葉が無ければ気が狂ってしま
わんばかりの無知さなのである。

			***

 理解できた範囲でまとめてみると、まずハードディスクには内蔵型と外部と
りつけ型というのがある、と。内蔵型のハードディスクは「IDA」とも呼ばれ、
とりあえずパソコンの外枠を外して指定のスロットに差し込めばOKらしい。
私のFMVの場合だと最初から一つそのIDAがささっていて、もう一つ、重ね
て差し込む事ができるらしい。説明書にはそうある。

 問題は外付けのハードディスクである。なんでもDOS/V系のパソコンは
そのままとりつけることはできらしい。パソコンの中にある拡張スロットの所
に、SCSIカードというのを差込み、それを通してやっとハードディスクとつな
げられるという。
 これもよく分かっていないのだが、どうもハードディスクを含めいろいろな
周辺機器はこのSCSIという規格を通してつなげることが多いとか。マッッキン
トッシュには最初からこのSCSI用のコネクタがあるとも聞いた。

 上のSCSIカードのようなものを、「拡張カード」と言う。実は既にFMVに
もサウンドカードというカードが一枚挟んである。それを通してスピーカーか
ら音がでているとか。とにかく周辺機器とつなげるためには基本的にこのカー
ドを必要とする。

 このカードを差し込む口(スロット)、は私の物の場合全部で5つ。それぞ
れ「ISAバス」と「PCIバス」という形式にわかれており、前者用が3つ、後者
用が2つ用意されている。ただし、パソコンの外枠には、そのカード用の穴が
4つしかない。従って、差せるカードも4つまで。そのうち一つが前述の、ス
ピーカー用のサウンドカードで埋まっているので残りは3つ。

 ハードディスク接続に必要なSCSIカードはたいてい「ISAバス」用とか。
とにかくハードディスクやケーブルの他にこのカードも買わなくてはいけない
らしい。ハードディスク意外のMOなどでも同様だという。

(と書きました所、間違いだというご指摘を受けました。SCSIカードは「PCI
バス」に差すものの方が多いようです。ってことは最大二つまでしか付けられ
ないということか…… (9/9))
(さらにご指摘ありました。『「内蔵型のハードディスクは「IDA」とも呼ば
れ」は恐らく IDE の間違いではないかと思われます』。そうでした。
すいません。またIDE以外の内蔵型もあるとか。(9/13))


			***

 と以上のことを理解するにも結構な時間がかかってしまった。もっと実際に
は色々知らなければいけないらしいが、私の場合知識の基礎からしてゼロなの
でここまではとりあえずの限界だ。

 メモリについても「16メガじゃ駄目」みたいなことを言われ、色々考えさ
せられた。まあ、それまでが8ビット機の「PC-88」だったんだからねえ……。

 ちなみにマザーボードについては最後まで要領が得なかったのだが……CPU
のあるボードのことを言うのかな……だって二人とも、「パソコン自作で組み
立ててる」とか言うんですもん。レベル違うっすよ(^^;
 ということで園部さん武Wさん、また何かあったらお願いします。……や
っぱりとりあえず内蔵ハードディスクかMOだな、と。

			***

 上の妹に「インターネットでなにやってんの?」と聞かれ言葉につまった。
 何やってるんでしょうね……。

(23:41)

			***

 つっこみのメールがありました。
 「ハードディスクで『1.2メガ』は無いのでは?」
 ……たしかにそれでは単なるフロッピーディスクだ。
 ギガです。がく。Nayutaさんどうもです。
(9/9 1:46)



1997年9月9日 (火)  上にはいかにもすぐ「増設」するかのように書いてますが、冷静に考えると 金が無い。とりあえずは、ハードディスク内で使用していないアプリケーショ ンをアンインストールしてゆくしか無い……一太郎とか消してしまおうかな。 ワードの方がややシンプルだからな。ま、あと35メガあるけれども。 ***  さて困った。何も思い浮かばない。  今日していたこと。  フレデリック・フォーサイスの「オデッサファイル」を読んでいます。例に よって情景描写と蘊蓄は全て飛ばした、かなりの流し読みで、ですが。まあ、 大体ストーリーが分かればよろしいのである。実際それを許す本でもあります し。  「オデッサ」というのは、元ナチスのSS達が組織した互助組織であり、戦 時中蓄えた資金を元に反ユダヤの活動を秘密裏に行っているという陰謀が物語 のメインです。  物語自体は、ハンサムなフリーの中堅ライターが、偶然手に入れたナチスに よって迫害された記録を記した日記を入手する経緯から始まり、その中に登場 する逃亡中のある収容所所長を探す、という展開を見せます。  舞台はドイツ。60ページあたりでさっそく、主人公が同棲中の女の子と、 ベッドインするさまが長く描かれていたりと、フォーサイス先生もなかなか サービス精神旺盛です。もっともその後、すぐ、ナチスの残虐行為の話が続き、 あのいちゃいちゃも「平和ぼけした日常」の象徴にすぎなかったと分かるので すが。今の所は……まあまあ面白いかな、という感じです。 ***  妹のたまごっちが夜中にぴーぴー鳴き、しょうがないので私が世話をする。 操作は簡単なのでシステムは大体飲み込めた。その単純さは人を小馬鹿にして いるのではと思うほど。しかも妹は時間を薦めるために時刻をいじっているの で夜中でも平気で活動している。早くも一回死なせているみたいだし。私は自 分自身を飼うので精一杯だ。 ***  またまた妹だが、テレビで以前録画した「ミセス・シンデレラ」をしつこく 再生して見ていた。  このドラマは特に後半かなり面白い。いささか恥ずかしいシチュエーション が多発しますが、演出は安定していて結構ぐっとくる。何より薬師丸がよい。  時々ひどく不細工にも見えるし、目の下にもクマができていたりと、気にな る点は多々あるもののそれすらも何というか愛おしく感じてくるから不思議だ。  結婚6年目の主婦薬師丸が、ある天才ピアニストとできてしまい、夫やその 母親との板挟みになり悩む、という物語なのだが、これがどうして、奥が深い。 要するに夫とピアニストとの薬師丸の取り合い、三角関係話にすぎないといえ ばそれまでではある。しかし、後半、浮気していたはずの駄目亭主が急に薬師 丸への思いに目覚め初め、「普通の男」「いいひと」としての意地をフルパ ワーで発揮し始めてからは目が離せない。  ラストなど、ピアニストと一緒に行ったローマの街(!)に、夫はかけつけ、 しかも彼に対抗して始めたらしき下手くそなクラリネットまで披露する。そし て、石造りのそのホテルの二階にいる薬師丸に向かって涙ながらに思いを叫ぶ。 その内容はほとんど「関白宣言」なのだが、とにかくそれで物語は一転してハ ッピーエンド。  時は数年後に飛び、例のピアニストは幼なじみの女性と結婚。娘を抱えた彼 の顔には哀愁がただよっていた……。  上の紹介だけではなんだかチープな感じに聞こえますが、そのチープさを、 例えば「ピアニストの子を妊娠したことが夫にばれる」という設定でふくらみ をつけたり、演出そのもののうまさで見せるあたりが手慣れている。言いたく は無いけどネ同じようなネタでも「砂の城」とは大違い、である。 ***  ちなみに「砂の城」はその後、成長した主人公は、愛した兄の忘れ形見の息 子を育てたはいいが、その子供が自分に愛情を抱き始めてしまって、こまっち ゃうってな状況に陥っている。彼女は、以前とり求婚していたカメラマンと結 婚して妊娠してしまうのですが、はやくも次回には流産、カメラマンの夫は、 「息子」に「おまえのせいだ!」と意地悪を始める、という……どろどろです。  まあ、成長した主人公が「大場久美子」というあたりでやや、嫌味感が抜け てしまってますが……相変わらず非道な人たちです、みなさん。  それよりも1時からTBS系でやっている「WHO!?」の方が面白いです。長くな ってしまったので詳しくはまた明日。(おお明日はネタを悩まずに済む(^^;) ***  本屋で、大学時代の友人が執筆した本なぞ見つける。なんか……くやしい感 じがした。俺って心がせまい……。 (23:46)
1997年9月10日 (水)  「オデッサ・ファイル」読了。まあまあ、という所。かなり現実に取材して 書いたものであり、リアリティは感じるのだが……単に趣味の問題かもしれま せん。わりと人間が類型的に描かれているせいから、か。  もちろん、筋は通っているしものすごい情報量で圧倒されもする。サスペン スも満載。……思うに、複数の視点で描かれていることが、この場合、キャラ クターへの感情移入度を下げてしまったということらしい。私的には、だが。  話はオデッサという元SSの組織と、イスラエルのモサド、ドイツ内にある ユダヤの反ナチグループ、エジプトのロケット開発など、風呂敷はでかい。し かもそれはほとんど「現実の話」。  マンガで言うと「ゴルゴ13」「マスターキートン」「アドルフに告ぐ」か。  同じフォーサイスものとしては「ジャッカルの日」の方が評判がよいので、 今度はそちらを読んでみようかとも思っています。 ***  「WHO!?」について一応予告したので説明しますと、高校卒業間際の呑気で ドジな女の子が、大所帯の大福屋に嫁に来て騒動を起こすという話です。元が mimiで連載していた女性マンガ(年齢層の高い少女マンガ、造語)なのですが、 わりと役者も演出ものりのりって感じでよいです。少女マンガの王道っぽい 「とろい」すっぴんぽい主人公は、最近めずらしいまでの清純さで……一見の 価値ありです。 ***  上の妹が急に「マック」が欲しいと言い始めた。  デザインをやっている友達が楽しそうにマックを扱うのを見て触発されたら しい。それで、妹に質問責めに合う。しかし、詳しくないのであまり説明でき ない。  私としてはどうせ、大したことに使わないのだからウィンドウズでもいいと は思うのだが、彼女の回りのパソコン使いが「マックマック」と合唱している ので、やはりマックが欲しいらしい。  「画像を扱いたい」というので、とりあえずスキャナーとデジカメはいるか もね、と適当に返事をし、日経ベストPCを買ってこさせた。  彼女の場合、典型的な「無目的型」購入者なのでこちらとしても困る。  「Tシャツのデザインしたり、なんか魚飼ったりできるんでしょ」と言われ ても……。  私は画像もマックも詳しくないし……何をアドバイスすればいいのやら。今 私が使っているパソコンを共有にする、という手も無きしもあらずだが、正直、 あんまりいじられるのも嫌なのである(^^; 自分の書いた文章でも、見られた く無いしなあ。  詳しい人、誰か私に教えてくれませんかね? (横で妹がつっこむ。「音楽とかもできるの?」。できるけど、どの程度の音 楽扱うによるよな……)  まだ、隣がうるさいので今日はここまで。 (9/11 0:36)
1997年9月11日 (木)  昨日の日記で、「妹がマックがほしがっているがどんなもんかねえ」と書い た所、さっそく那由他さん園部さんから、それぞれメール・掲示板で返事を いただいた。本当にありがとうございます。これから読ませて反応を見てます が……はっきり言ってよっぽど金が余っているので無い限り買わない方がよさ そうです。買ったら買ったで私も使うだろうからいいんですけど(^^; (お二人のコメントをコピーして上の妹に見せた所「デジカメとプリンターを とりあえず買う」という所に落ち着きました。今の所、は (21:33)) ***  本屋をぶらぶらしていたら岩波文庫の「論語」を見つけ、思わず買ってきて しまう。前から気にはなっていた。方々で「論語は面白いよ」と噂されている ので、手に取ることもしばしばであった。  しかし、なぜか分厚い、図書館に在るようなハードカバーの論語は見つけら れても岩波の論語はたまにしか見ない。今日は、少し大きい本屋のコーナーに いたので、発見できたというわけだ。  さて、帰り道からぱらぱら開き、帰宅してからも適当な箇所を飛ばし読みし てみました所……面白い(^^;  何が面白いって、孔子という人が面白い。頑固で、皮肉も言うし、結構滅茶 苦茶だし、でも愛嬌がある。そんなオヤジな姿がちらほらのぞけて楽しいので ある。  私なりに論語の世界、つまり孔子の世界を見るに、これは孔子という先生と、 それを熱狂的に支持する弟子達とのぼけとつっこみの会話集なのである。  もちろん、論語はその熱狂的な弟子がまとめたものだから、「孔先生万 歳!」的な部分もある。しかし、それ以上に「喰えない人物たる」孔子先生の キャラクター自体をこよなく愛している弟子達のまなざしが心地よい。 ***  試しに幾つかのシーンを紹介してみよう。  難しい漢字の多い原文や書き下し文はあえて無視し、いきなり訳文から紹介 するが勘弁して欲しい。 ----------------------------------------------------------------------  先生がいわれた「君子の道というものが3つあるが、わたくしにはできない。 仁の人は心配しない、智の人はまどわない、勇の人はおそれない」  子貢(孔子の弟子)がいった「うちの先生は自分のことをいわれたのだ(で きないと言われたのはご謙遜だ)」      (巻第七 憲問第十四 30) ----------------------------------------------------------------------  この際、孔子の言った3つ君子の道はおいて置こう。  孔子は弟子達の前で威厳たっぷりに講義するのである。「君子、つまり上に たつものというものはだねえ、3つの守るべき道ってものがわるわけだね。ま、 私にはできないことなんだけど。仁者は憂えず、知者は惑わず、勇者は恐れず、 だ。」  それ見ていて、子貢は横で聞いている弟子仲間にささやくのだ。「あれは先 生、謙遜しているふりして、自分のこと言ってるんだぜ。まったくさあ」  と、こんな光景が目に浮かぶのである。  そしてその子貢が出る別のシーンでこういうものがある。 ----------------------------------------------------------------------  子貢が人の悪口をいった。先生はいわれた「賜(子貢の名)は賢いんだね。 まあわたくしなどにはそんなひまはない」 ---------------------------------------------------------------------  孔子、嫌な奴である。  子貢というのは頭が回るが毒舌家なのだろう。  いつもの調子で、  「まったくあいつは分かってないよ。けけけ」  とか言っているのを見て、孔子は、  「ほーう、子貢ちゃーん、君は実に頭がいいんだねえ。そんなに、人のこと 色々責められるんだからねえ。私は頭が悪いからねえ、勉強しなきゃいけない こと一杯あるからねえ、そんな暇ないんだよねえ、いやあ、ほんと頭のいい人 ってすごいねえ、ははは」  と嫌味の一つをたれたのであろう。  きっと孔子も、子貢が影で自分のことを色々言っているのに気付いていたの だ。もちろん、そこには「悪口なんて言うもんじゃないよ」という教えも含め、 子貢の反駁を許さない。  邪推では無いかって?  いやいや、違います。なぜならこのエピソードは、前のエピの「すぐ後」に あるのですから。少なくとも編纂者は、前のエピの子貢のセリフに、なにかし らの孔子に対する「まったくあの人はさあ」というつっこみの感情を認めたに 違い無いのであーる。 ***  こんなシーンもある。 ---------------------------------------------------------------------- (先生の幼なじみで、ろくでなしの)原壌がうずくまって待っていた。先生は 「小さい時にはへりくだらず、大きくなってからもこれというほどのこともな く、年よりまで生きて死にもしない。こんなのが(人を害する)賊なのだ」と いわれると、杖でその徑をたたかれた。      (巻第七 憲問十四45) ---------------------------------------------------------------------  孔子の目の前に幼なじみのゲンジョウとかいう奴が現れた。地面に座り込ん で孔子が来るのを待っていたというのだから、何か物乞いでもしようと思って いたのだろう。  そんな男を前に孔子は言うのだ「見ろ、この男を。小さい頃は偉そうにして おって、大人になってもこれといって何もせず、年寄りになった今、死にもせ ずに生きておる。こういうのを、ろくでなしと言うのだ。よく見ておけ。この、 この」と、杖で男の足を叩きまくる……。  何があったのだ孔子? 子供の頃……何かあったのだろうな。 ***  とにかく全編この調子なのである。ある箇所では「人の評価を気にしてはい けないよ。己を磨くことを頑張らなきゃね、ははは」と言ったかと思えば、ま た違う箇所では「誰も俺のことを分かってくれないよ。俺を分かってくれるの は天だけだよ。ふう」と愚痴ってみたり。  弟子達が群がって「先生、私のことはどうですか」「うん、君はね……」 「せ、先生私はどうでしょう?」「うん、君は……」と一々コメントをつけて みたり。  最後に有名な言葉。論語の最初にでてくる「学びて時にこれを習う。またよ ろこばしからずや。朋あり、遠方より来たる。また楽しからずや。人知らずし てうらみず、また君子たらずや」。  これも私的に解釈するならば。「いろんなことを知ったり教わったりして、 時々をそれを思い返したり、試したりするのは楽しいなあ。同じようなことを やっている人が遠くからひょっこりやってきたりして、好きなことを語り合う のも楽しいなあ。別に他の人が分かってくれなくたってどうでもいいさ。こう いうのが『君子』ってやつさ」  これって君子というより『オタク』じゃない?(^^; (21:09)
1997年9月12日 (金)  一度そのことについて書いて、人に見せてしまうと、その後もなにかとその ことが気にかかる。例えば昨日の「論語」についてもそうだ。  もしかしたら何か大きな勘違いをしているのかもと気になり、本屋にあった 他の本にも手を伸ばして見た。そして講談社学術文庫の「論語新釈」というの を手にとってみたところ……驚いた。  全然違うのである。訳というより、細かい注釈などが書いて在るのだが、こ れがまた見事に私が嫌う「教条主義」的内容だった。  昨日書いた部分についても読んでみる。  「幼なじみのゲンジョウ」の所を見ると、色々書いてあるのだがうずくまる というより「屈んで待つ」という風に書かれ、「孔子は礼を失していることに ついて怒った」とかわけの分からない説明がある。  どうもこの本の孔子は礼節を尊ぶあまり、礼節をわきまえない人をこづくよ うな人物であるらしい。  それは違うだろう、と私は思う。  昨日はやや冗談めかして書いたが、印象としては「自分にへつらっている」 そのゲンジョウの姿に、そういう根性に孔子は多分怒っていたのだと思うのだ。 「これといったこともせず」という部分も「徳のあることを何もせず」とあり、 読んでいて私は胸がむかむかする思いであった。  前書きを読むに朱子学の注釈の流れを汲んでいるらしい。朱子学は知っての 通り江戸時代を通じて封建的な概念のバックボーンとなった学問だ。実につま らない、と今回強く思った。  いやもっと面白い朱子学ももしかしたらあるのかもしれないが、ともかく、 この講談社学術新書を最初に手にしていたら、私は昨日のような興奮は味わえ なかったであろう。  私のみた所、孔子の魅力はその理性を重視しながらも、決して自分自身の内 面のさまざまな生の感情を無視しなかった点にある。学問的知識は抜群であり、 抽象的な事柄には精通していながらも、身近なささいなことも無視せず、自分 自身の気持ちを押し殺さない。一見矛盾したようなことをしながらも、自分な りの筋を通す。  決して、孔子だって自分のコピーみたいな人間が弟子にいて欲しいなんて思 っていなかったはずだ。「おまえは反論しないから面白くない」なんて、平気 で孔子は言っている。ただそう言いながらも「まあ、でも君はいいやつだ」な んてフォローもいれる。まったく扱いにくいオヤジなのである。だが、そこが 素敵だ。  ということで、もし、万が一「論語」に興味を持った方がおられましたら是 非「岩波文庫」の金谷治訳の本を手にしていただきたいと思う。他にも前に、 ハードカバーの図書館にあるような本で、いいな、というものがあったがよく 覚えていないので保留。ちなみに、井上靖の「孔子」をはじめとする物語や伝 記は不勉強なので全く読んでいません。以上はあくまでわたしの妄想の上の、 孔子像なのでそのあたりはどうぞご留意のほどを。 ***  少し前の話になるが週刊SPAで「綾波レイな女」というキャッチフレーズ で「誘われても拒めない女」という記事が掲載されていた。エヴァにアダルト チルドレンというおなじみ単語を使っているが、内容はこじつけ、なんか気分 の悪い文章であった。「愛情に飢えてるから男の人を拒めないの。私もレイと 同じなの」という論調なのだが、それは綾波レイに失礼である。ほんとに。 ***  ドラクエ3を始めた。  最近、ジヲ同盟の一人であるOsamyさんから手ほどきを受け、エミュレー ターとROMを入手したのである。  エミュレーターとは細かい定義はしらないが、主にファミコンなど家庭用 ゲーム機のカセットやCDのデータをパソコンで使えるようにするソフトのこ とを指す。これ自体は違法では無い。  しかし、ROM、つまりソフト自体のデータを取り出すの本来著作権法違反の コピーで違法だ。とはいえ、実質は特にファミコン時代のものなどは黙認され ているのが実状らしい。最近は過去ゲームのリバイバルも流行っているの、い ずれは本格的な一掃がメーカー側からなされるのだろうが、そんな暇があれば 新しいソフト開発をした方がマシだと今はまだ思われているよう。  で、そのドラクエ3であるが、自慢じゃ無いが私は全くやったことが無い。 ドラクエの1だけは10レベルまで友達の家でやらせてもらったことがあるが、 それきり。我が家にはファミコンが無かったのだ。ちなみに今も、ゲームボー イ(古い型)しか無い。  最初はAボタンとBボタンがキーボード上ではどれにあたるかも分からなか った。適当にいじってゲームが始まってしばらくしてやっと、altがA、ctrl がBと気付く。  さいしょのいじってわけわからない「ぼうけんのしょ」は消してあらためて やり直す。なまえは「めすろん」とした。分かる人には分かるマニアックな、 名前だ。 ***  いきなり目が覚めると母親らしき女が私の名前を呼ぶ。そして強引に城につ れてかれて、死んだ私の父の変わりに魔王バラモスを倒せ、と言われる。なん じゃそりゃ。しかし、拒むことはできないようだ。これも運命なのか。とにか く母親はどうしても私を旅立てさせたいよう。あんた、自分の息子を危ない目 に合わせてもいいのか?  しかし、勇者と呼ばれて金までもらってしまってはしょうがない。とりあえ ず、街の酒場へ行けと回りの人が言うので行ってみる。はやくもキーボードで キャラを操作するのが疲れてくる。  酒場では仲間が最初からそろっているが、自分で「めいぼ」もつくれるよう。 これでオリジナルキャラを作ると納得。戦士たうるす、僧侶たらみす、魔術師 しもん、というメンツを作る。  街の人にも一応話を聞く。というか、聞かないと何をしていいのか分からな い。上の方に村があるらしい。  しかし、草原に出ると異様にパーティは弱い。あっと言うまにたうるす死亡。 街に戻り教会で復活。たった8ゴールドいいらしい。ずいぶん安いな。ウィ ザードリーみたいにロストしてしまうことは無いようだ。  上の村まで行く。要領を得ない。ただ、一箇所子供が出てきて「魔物に親が 殺されたんだ」と泣いているのを見て、とにかくやらねばと思い直す。  村の南にもダンジョンがあるのが分かったが、その前に最初の街のずっと西 にあるダンジョンに行く方が本筋のよう。ただモンスターの強さの配置具合か ら勝手にそう判断したのだけど。  西のダンジョンをもぐると宝箱がある。なるほどこうやってアイテムを補完 するのか。途中戦闘もあるが、とにかく弱いのですぐ街に逃げ帰る。魔法も、 使ってみないとさっぱり効果が分からない。とにかくメラとホイミだけは知っ ているがあとはとりあえず使ってみるというやり方で覚えた。複数の敵を倒す 魔法が無いのが不満。  城の王様の隣にいる人が「鍵を探せ」というがそれはこの塔にあるのだろう か。いつの間にかもうレベルが5、6になっている。まだほとんど見てないが、 そこで城に帰り電源を切る。 ***  本屋にいくとまだファミコンのドラクエ攻略本がある。買おうかと思ったが、 無知なまま手探りでやるのも面白かろうと、このまま続けてみる。ただ、アイ テムの効果と魔法については全く分からないのが痛いが……まあいいか。ゆっ くり色々試していればそのうち分かるでしょ。 (9/13 0:18)
1997年9月13日 (土)  ドラクエ3の続きをやる。全てが手探りであると必然的に地形確認のために うろうろしなければならず、意図的にレベルアップして鍛える必要も無いのが まあ、ストレス無く心地よい。何しろ魔法の効果も使ってみないと分からない というどきどきものの世界なのである。  しかし、その分、一体この世界がどうなっているのかを深く考えてしまう。  例えば、死亡してもパーティのうち誰かが生き返って死体を持ってかえれば、 教会で生き返らしてもらえる。すると、この世界では寿命以外で死ぬことはほ とんど無いのでは、と思えてくる。  が、実際には魔王だかなんだかが大陸全土を攻めたため、多くの死者が生ま れているようだ。一般人は生き返らしては貰えないのであろうか。それも理不 尽な話である。勇者とそのご一行は特別ってか。  そもそもただ勇者の息子だからと言って勝手に魔王退治の旅にかりだされな ければいけないのかが分からない。もっと軍隊で攻めたりした方がいいのでは 無いか。しかし、それにしても人口は少ないが。画面に出てこないだけで人は もっといるということなのだろうか。  それに食料は誰が作っているのだ。大体、都市人口の10倍の農業人口が必 要だという話を聞いたことがある。もちろん、中世時代の頃の話だが。もっと も、ゲームの中では飯を食べる場所がそもそも無い。宿屋が飯屋を兼ねている のだろうか。 ***  それはともかくゲームの進み具合である。  我が分身、めすろんは、父親が勇者であったという理由から無理矢理、アリ アハンの王様から魔王を倒せと命令された。軍資金は50ゴールド。今の感覚 で幾らぐらいなのか。宿屋一泊10ゴールド前後だから。4人で2、3万円か。 大目に見積もり4万と仮定すると1ゴールド約4千円。50ゴールドで20万 円か。命をかけた仕事にしては安い気がする。まあ、ご時世がご時世だからし かたないのか。  ……いや、違うな。単に名目上、俺を町を遠ざけるための形として指名を与 えただけかもしれないな。お袋が王様に何か頼んだのかもしれない。  このお袋も、家に帰るたびに「かわいいめすろん」とか「めすろんちゃん」 とか俺の事を呼ぶ。いつまでたっても子供扱いか。勇者だから教会で生き返ら せて貰えることも分かっているのかもしれない。そういえば、町で二階建ての 大きな家に住んでるもんな、俺。ふっ、まあ全ては親父のおかげなんだろうけ ど。それで親父が死んでしまって、変わりに俺がどうにかしないと格好がつか ない……そういうことかな。  で、町の西の洞窟に入り、塔のてっぺんにいた老人に「盗賊の鍵」をもらう。 その後知ったのだが、これはある盗賊が作った大概の扉の鍵をあけちまう万能 ツールであるらしい。  城に戻って初めて城の中をぐるぐる回る。塔に幽閉された盗賊に会って話し をすると「カンダタ」という名が出る。どうも盗賊の中ではカリスマ的存在で あるらしい。  王女の姿もみつけた。あわよくばお近づきにとも思ったが向こうは眼中無い ようす。女中の心配をよそに庭をうろうろし、「表に出たいのに出させてくれ ないの」とか言っている。いっそ連れ出してやろうとも思ったが、言ってるだ けで実際その気は無いようだ。気楽なもんだな。  女、か。そういえば、仲間にはタラミスという女神官がいる。しかし、神様 が恋人だからそっちの方はどうも駄目らしい。まあ、いいけどな。そもそも仲 間の間に会話なんて無いんだから。ビジネスライクなもんだ。  そのうち、城の地下が、塔とつながっていることに気付く。扉が開くとあち こち行き来できるのだ。もっと早く教えろよなあ。どうりで塔の一階に宿屋な んてあっておかしいと思ったんだ。俺を試してやがったんだ。地下通路は北の 村の近くにもつながっていた。きっと、城が攻められた時の抜け道なのだろう。 もっとも通路にゃ魔物がうようよいるけどな。  こうも魔物が多いのはその魔王とかいう奴のせいなのだろう。軍隊代わりに ひっぱってきて、戦が終わってもうようよしている奴ら。下司なもんだ。でな ければあんな魔物が金を持ってるはずがねえ。みな、兵士から奪ったものに違 いない。ってことは、魔物を殺して金を奪うことにもそれなりの正義があるっ てことか。まあ、戦いに喜びを得始めているのも確かだから、あえて正義は名 乗らないがね。  もう誰に聞いたが忘れちまったが、隣の大陸につながる道というのが封印さ れたままになっているらしい。そこを開けるのには「魔法の玉」が必要とか。 レーベとかいう村の老人の家に鍵をこじ開け不法侵入したら、その玉をこっち によこしてくれた。俺が来ることは分かっていたらしい。問題は無い。  そして山を越え、東に南へと進むと湖がある。その側にある地下に、封印さ れた通路というのがある。なぜ封印されたのか。これは魔王の進行が怖くなっ て慌てて閉じたものだと推察する。そうか。きっとこのアリアハンの連中はも う魔王退治なんて本当はどうでもいいんだ。しかし、どうにかしなくちゃいけ ないとも思っていて、その役を俺に押しつけたんだ。酒場でごろごろしている 連中を使えば損失も無い。そう考えたんだ。くそ。いいように使われてるって ことか。まあいいさ。逆らえはしない。運命なんだろ。謹んでお受けしますよ。  そして地下通路を抜ける。一度溝にはまり慌てた。魔物うようよ。死にかけ たぜ。なんとか這い出てぐるぐる回って、おかしな水たまりを発見。すると、 おかしな所に飛ばされた。物凄いバイブレーションで慌てたが気を取り直し先 に進むと、城が見える。ロマリアとかいうらしい。門番はそう言っていた。  そこでは地下に魔物同士を戦わせて、勝ち負けを予想する闘技場なるものが あった。ここは軍事力はあるのだろう。それで捉えた魔物を死ぬまで戦わせる ってか。非道だな。といいつつ、俺も数回遊んじまったが。ふと、新しい武器 を買う金がこれで手に入るかもと、思ってしまう。やれやれ、つくづく正義が 似合わねえ男だな俺も。  町の中にはアリアハンの勇者が世界を救ってくれる、と無邪気に言う奴がい る。勝手だよな。  王に会えば会ったで、おだてられながらもしっかり、「カンダタを退治し ろ」と命令される。その上「そうしたら勇者と認めてやろう」とまで言われる。 勇者だなんて認められなくてもいいんだよ、俺は。そうしなきゃいけないから、 やってるだけさ。生まれたくて勇者の息子に生まれたわけじゃねえ。  父さんか。俺には父さんの記憶が無い。きっと冒険ばかりして家によりつか なくなっていたせいだろう。それで母さんの愛情が俺に向かったのかもしれな い。いや……それもどうかな。母さんは俺の中に父さんの姿を見ているだけ、 なのかもしれない。そうさ。だから、俺に危険なことをさせても平気なんだ。 母さんは「勇者」の名声が無くなることの方が怖いんだ。  キメラの翼、というものがある。屋外でこれを使うと、町から町に運んでく れる。キメラというのは色々な動物がまざった鳥のような動物だ。魔物の一種 かもしれない。よくは分からないが想像するに、この翼で行き来できるという ことは、この翼を合図にそのキメラがやってきて、俺達を運んでくれる、とい う寸法なのかもしれない。きっとそういう契約を結んでいるのだろう。それが キメラの本望なのかは知らないがね。  ともかくそれにより、俺はそのロマリアとかいう遠く離れた町からアリアハ ンに戻ることができる。実はその時、俺は棺桶に入っていたのだが、教会で元 気な姿に戻してから母さんの家に行った。母さんは相変わらず明るい顔をして ちゃんづけで俺の事を呼ぶ。俺は仲間の手前恥ずかしいと思った。苦痛も感じ た。そして密かに、これからはできるだけ宿屋に泊まろうと決意した。母さん の声を聞くと決心が鈍るからな。  元気を回復した俺は、覚えたばかりの魔法「ルーラ」を唱える。これは気力 をすごく消費する。これは、瞬間移動の魔法のようだ。しかし、屋内で使える かは試したことは無い。そんなことはどうでもいい。肝心なのはこれでまたあ のロマリアの城に戻れるってことだ。  ロマリアの女王は、アリアハンの民は心が清いと聞くと言って、今のロマリ アを嘆いていた。闘技場に熱中している民のことなどを言っているのだろう。 しかしアリアハンの民は心が清いんじゃない。他国との連絡トンネルを封鎖し て自閉して鎖国して、怯えから逃れようとしているだけの民なんだ。表に出た いと言いながらも城に留まるあの王女がいい例だ。それに比べれば、ロマリア の方がまだ俺の性にあっている。  と俺は気付く。そうか。俺がなぜこんなにもロマリアに戻りたがっているの か。いや、なぜ他の土地で行きたがっているのか。そこに父さんの足跡がある からだ。行く先ざきでアリアハンの勇者の話を聞く。それを聞いて俺は心苦し くも感じていたが、あれは父さんのことだったんだ。そうだ。俺は父さんがど こで何をしていたのか、どういう事を見て、聞いていたのか、それが知りたく て旅に出ていたんだ。本当の所、魔王がどうとかどうでもいいんだ。そう、そ ういうことだったんだよ母さん。  話によれば町の北に村があるという。行く途中死人が出て慌てて戻ったりも したが、ひたすら北上すると本当に小さな村が見えた。  ついた時、すっかり夜も更けて村は寝静まっていた。墓場では霊がさまよっ ていた。元武道家だったという。しかし、それは虚名に過ぎなかったと皮肉に 満ちた口調で語っていた。宿屋に入る前に町をぶらつく。道具屋らしき建物を 見つける。扉がある。おそるおそる鍵を開ける。中には男がいた。ベッドで眠 っている。目覚める様子は無い。奥へ進むと宝箱がある。開く。と、棍棒と、 針のようなものがある。懐に入れて去る。そして村の真ん中に老人の姿を見つ けた。月を見ているのだろうか。近づくと話かけてくる。道具屋では昔、毒針 というものを扱っていて、それを使えば魔術師のような力無いものでも一刺し に相手を殺すことができた、と。この老人も魔術師だったのだろうか。  宿屋に戻り、眠り、目覚めると昼だった。老人は村の中央のその泉のほとり にまだいた。道具屋に寄る。道具屋はにこやかな笑みで俺達を迎えた。盗まれ たことには何も言及が無い。どういうことなのか。明かなのは、俺は、そもそ も英雄でも何でもないってことだ。  村を出て西に行く。最初東にも行ってみたが、無茶苦茶強い魔物に囲まれ、 死人まで出したので、しばらくは近寄らないことにした。それで西へ進むと塔 があった。これがカンダタのアジトの塔なのだろう。遠くから確認しただけで 俺は去る。まだ、もう少し準備をしてからだ。俺はロマリアの城に戻りしばし の休息を取った。                     (つづく) (23:11)
1997年9月14日 (日)  ドラクエ。あまり進んでいない。  ロマリアの城を拠点に北のカなんとか、という村、その西にあるカンダタの いるというシャンパーニュの塔。ここが一応今、いる所だ。  塔になかなか行く気がしなかった。  カンダタを退治しようという気持ちは正直それほど無い。ただカンダタに会 ってみたいという気持ちはでかい。正直どこかあこがれを感じる。もしかし たら単に非道な奴なだけかもしれないが。  とにかくそういう風におかしな期待があるともったいなくなり、かえって塔 から足が遠のいてしまう。  村の東に行った時は馬鹿強い魔物ばかり現れ後悔したので、今度は村のさら に北へと進む。  するともう一つ別の村をみつけた。様子がおかしい。村人が全員寝ているの だ。いや、寝ているというより彫像のように固まらされているという感じか。 あきらかに何かの魔法の仕業だ。眠れる森の美女を想い出す。しかし、村には 美女はいなかった。  気になりながらも、元のカなんとかという村に戻る。村から村へと移動する だけでも結構魔物と遭遇する。危険極まり無い。魔法も体力も使い果たした時 はルーラやキメラの翼を使って帰るが、それ以外はなるべく歩いて渡ることに している。適当な軍資金稼ぎにも、戦闘なれにも丁度いい。 ***  村に行きなおかつさらに北上すると土地が凍っている所をみつけた。してみ るとここは北半球なのか。もっとも地形が変わっているだけで特に何もなかっ た。海岸線にそってずっと西へと進むと、森の一角に何かを見つけた。行って みるとそこはエルフの森だった。  エルフというのは人間に良く似ているが一応妖精の一種とされている。世界 によって微妙に設定は違うが、トールキンの指輪物語のイメージに従えば、色 が白く、永遠にも等しい寿命と高度な魔法の技を持つ種族ということになる。  しかして森の入口でエルフの少女と出会う。彼女は無邪気に語りかけてきな がらも人間を恐れているということを伝えた。奥へ進むと人間の爺さんがいた。 何かをしきりに悔やんでいる。  理由はしばらくして分かった。エルフの女王に会うと、彼女は自分の娘が人 間の男と駆け落ちしたことを教えてくれた。そしてそんな人間に憎悪を感じて いる、とも。  言い忘れていたが、エルフの大事な特徴の一つは、彼女、もしくは彼らは非 情に美しいということだ。不自然な程に華奢で白い肌。透き通るような様々な 色をした瞳。陽に浴びると輝く緑色の細い髪。そして大事な事はもう一つ。彼 女らと人間はまぐわうことができる。そして時に両者の混血の子供も生まれる とも聞く。実際見たことはまだ無いが。  通りがかりに見たあの生きながらにして死んだ村の仕業は、彼女らによって なされたものであった。解決があるとも思えない。……そもそも関係の無いこ とでもある。女王は娘が駆け落ちの際、何かを持ち逃げしたことを怒っていた。 果たして人間と駆け落ちしたことと、持ち逃げしたこととどちらに怒りを感じ ているのか。根拠は何も無いが後者な気が俺にはした。おそらくどこかで、そ の駆け落ちの二人を見つけ、その大事な宝だかなんだかを持って帰ってやれば 事は丸く収まるのだろう。案外あの塔の中にいるのかもしれない。  エルフの村にいたあの老人は、その駆け落ちした人間の男の父親だという。 変わりに謝りに来たというが、どうも無駄なようだ。謝って済む問題では無い ということか。  エルフの森の南にダンジョンをみつける。ちょっと中に入ってみるが、すぐ にでる。まずは塔のカンダタの件を片づけてからだ。いちいち首をつっこんで みてもしょうがないからな。  ……そう思いながらも駆け落ちした男をちょっとうらやましく感じる。俺は 仲間のタラミスを見る。相変わらずの仏頂面。その無表情の奥に何を考えてい るのか分からない。俺なんかよりずっと頭がいいからな。俺には、どうせ分か らない。 ***  そのタラミスに一度救われた。  宿のある村に帰ろうとした時のことだ。今までにない強力な魔物どもに四方 から囲まれた。集団に効果あるギラをつかっても、ばらばらな方向からしかも 5体以上やってくると、相当にこちらは不利だ。最初は逃げるよりかは無理し てでも戦ってしまった方がいいと思っていた。だが結果は裏目に出た。  まず、メスロン、つまり俺が死んだ。そこでこれはやばいと逃げろ、と死の 間際に叫ぶ。だが手遅れだった。戦士タウルスが死んだ。魔術師シモンも死ん だ。三度逃亡に失敗し、囲まれ、四度目にやっと離れることができた。三つの 死体。無論完全に死んだわけでは無いが、もう何もすることもでき無い。  全滅というのはしたことが無いから分からないが、やはり全てがこれでお終 いとなるのだろうか。生き残った女神官のタラミスは冷静にシモンの荷物から キメラの羽を取り出し、少し考えてから、ロマリアの城に行くことに決めた。  ちなみに個人的に俺は、このキメラの羽でやってくるキメラ達に「ピーウィ ット・クルー」という名をつけている。昔読んだ物語に出ていた、鳥人間の名 だ。物語のラスト魔王を倒した主人公は、その魔王の城にスパイとして潜伏し ていたピーウィット・クルーに運ばれて故郷へ戻るのだ。俺はこの物語が好き だった。なにより、主人公が英雄らしくなくどこか子悪党な雰囲気を携えてい るのがいい。もっともその彼は一人で旅をしていたんだけどな。 ***  ともかくそうしてロマリアに戻り、俺は教会で目覚めた。金は取られるが、 払えない額では無いし、命を考えたら安いぐらいだ。一応レベルの10倍と相 場は決まっているようだ。ちなみに現在全員10から11レベルぐらいだ。  体力的には回復しているが、タラミスは未だ疲弊したままだ。城下町の宿屋 にひとまず泊まることにした。生き返った時には格別の高揚感があり、なかな か眠れない。タラミスは深い眠りについている。当たり前か。暗闇の中で彼女 を意識しながら俺は何度も寝返りをうつ。  気分が滅入っていた。塔に向かわなくてはいけないのは分かっていたがやる 気がおきない。幸い金がまだあるので、装備をそろえたりする。そして、ふら りと闘技場に入った。  中に入ってもちょっとの間は客に話かけたりしてどうしようか迷っていた。 ギャンブルをやる癖は俺には無い。だが、今はそうしたい気分だった。賭け率 を見て2番目のものに賭ける。戦闘が始まった。最後に二人が残った。俺の賭 けたやつもいる。しかし、最後に負けた。18ゴールドが消えた。  もう一度賭けた。今度は1番人気に賭けた。そして外れた。次の試合の賭け 率を見に行ったところでふと我に返った。何をしているのか。ばかばかしい。 俺は仲間達を見る。何も言わない。何も語らない。  地下の闘技場を出るとおかしな親父が「今のロマリアの民は駄目になった」 とぼやいていた。俺は何か心に固まりを感じながら建物を後にした。  また城に入り、奥にある塔に上る。西の塔には盗賊らしき男が幽閉されてい る。カンダタの噂を聞かせてくれる。またカンダタか。  東の塔には、王の父親がいた。狭い部屋に一人で何をやっているのか。王の 父親ということは前の王ということだろうか。そのわりにはそんな風情も無い。 ただひたすら息子は遊んでばかりいると嘆いている。そういえば、城下町で、 今の王はおっちょこちょいだ、どうだと言っていた男がいた。闘技場で遊んだ 俺にどこういう言えた義理ではないが。あの王にしてこの町ありってか。 ***  とにかく塔だ。カンダタのいるあの塔にいかねば。しかし、魔物は強い。塔 に入った瞬間に黒マント姿の顔色の悪い男4人組に囲まれる。こいつらも手下 ってわけか。しかも魔法を封じ込める呪文をつかってくる。しかたがない。こ っちも四人全員でタコなぐりだ。  時々、魔術師シモンの持つ毒針が効果を上げることがある。急所に一発、一 撃必殺の物騒なものだ。敵に回ったらと思うと怖い。なぜかキラービーとかい う巨大な蜂には数回効いた。下手に身を隠させるよりかは攻撃に参加させた方 がいいということかだと思っている。  塔の構造は複雑だ。とにかく壁に左手をつくようにしてぐるぐる回る。迷路 の場合は、遠回りのようでいてこの方法が一番確実なのだ。  二階、三階までたどり着くも体力気力を使い果たす。仕方なく塔の外へから 飛び降りピーウィットクルーを呼ぶ。そしてまた再び村で体力をつけ戻る。道 中にも危険はある。塔につくまで無傷というわけにはいかない。そんなわけで 塔に戻って上ってもまたすぐ、テラスから飛び降りる羽目になる。  ひとまず報告ということでロマリアに戻る。王に謁見して再び、私はしばし の休息に入る。 (つづく) (23:21)

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