MORIVER'S SWEETEST DIARY
更新日記 (20)
9月 15日(月) ドラクエ日記四日目・全滅/敬老の日
9月 16日(火) ドラクエ日記五日目・カンダタは……・そして王様
9月 17日(水) ドラクエ日記六日目・お休み/牛食って朝
9月 18日(木) ドラクエ日記七日目・父さん/ジヲ日本、取得
9月 19日(金) ドラクエ日記八日目・またお休み/全国の森川さん/難
9月 20日(土) ドラクエ日記九日目・その夜の色は
9月 21日(日) ドラクエ日記一〇日目・夢
1997年9月15日 (月)
ドラクエ日記四日目。
***
全滅した。
経緯はこうだ。
例によってロマリアの城を出たメスロン以下一行は、カージフだかカジーフ
とか言う村をめざし北へ向かう。強気になってぐんぐん前に進んでいるとわり
と魔物と出会う回数が低い気がする。
宿屋に泊まり、西へ、カンダタのいるシャンパーニュの塔に向かう。ためら
いがちに小刻みに移動したせいか、たちまち魔物達との争いとなってしまう。
塔につくまでできるだけ、特に魔法を節約しようとは思うのだが、難しい。
結局、塔までたどり着いても気力体力ともに頼りなくなり、ルーラでご帰還。
ちなみにルーラは室内では使えないようだ。結局はキメラの翼と同じ、か。案
外ルーラも、キメラの翼と同じくキメラによって移動しているのかもしれない。
ともかく数度そんなことを繰り返し、気を取り直し装備を買い換えたりして、
移動していくうちにレベルも一段階上がっていた。とにかく魔物は腐るほどい
る。好むと好まざると戦闘になってしまうのだ。芋虫、蟹、兎、蜂など動物に
混じって、人間らしき輩もいるがとにかく一方的に襲ってくるのだ。倒さない
訳にはいかない。
しかし、カンダタは違う。倒しに行くのだ。つまり殺しに。
塔の構造も大体分かってきた。遮二無二階段を駆け上がる。魔法は節約して
ひたすら武器で襲う。多少の怪我ならば魔法で治癒できる。そして、ついに最
上階の大扉を開いた。
像がある。泉のようなものもある。人はいない。奥に階段がある。駆け上が
る。盗賊がいた。こちらの姿を見るなり逃げる。どっちが盗賊なのか分からな
くなる。しかし引き返すわけにも行かない。
さらに奥の階段を駆け上がる。直前に魔法で体力は全開まで治癒させている。
そしてカンダタの姿を見つけた。
と、消えた。
建物が。気がつくと一つ下の階にいた。落とし穴だ。まさか、と思って上に
駆け上がる。既にカンダタたちの姿は無かった。
途方にくれる。どうすればいい。逃がした。王の元にとりあえず報告しに行
くか。それとも他に所に隠れているのか。ずっと北の方、エルフの森近くの洞
窟はどうだ。
いや。分からない。とにかくこの塔にまだ何か手がかりがあるはずだ。そう
思ってとにかく塔を調べ回ろうと下に降りてゆくと。人影がそこにあった。カ
ンダタだ。
そして彼らは襲ってきた。敵は四方から襲ってくる。一撃がすさまじい。し
かし勝算もあった。魔術師のシモンが新たに覚えたばかりの呪文「イオ」。こ
れはどんな方向にいる敵にも攻撃の火を浴びせることができる。名前からして
隕石のような固まりをぶつけるのではと想像するが素人からすればどちらも同
じだ。勇者として魔法の訓練も受けているが所詮は「使えるだけ」の身。理屈
なんてどうでもいいのだ。
ともかく。シモンに全てを託して、切り込みに入ったその瞬間。シモンの首
が飛んだ。魔法を浴びせる間も無く。俺は目の前のカンダタに斬りつけるが、
同時に例えようも無い無力感を感じていた。格が違う。カンダタは袋のような
マスクをすっぽりかぶり、二つの穴からから鈍い眼光をのぞかしていた。その
濁った瞳に恐怖した。密かに感じていた憧れの気持ちなぞ瞬時にふきとんでい
た。こいつは危険だ。何よりも理屈で割り切れる奴じゃない。
逃げなくては。俺は彼らを振り切るように突進する。しかし、彼らの巨体に
阻まれる。無駄だ。逃げなくては。逃げなくては。
だが彼らは襲う。次の一撃で、俺は死んだ。タラミスが死んだ。そして、タ
ウルスが。全てが闇に閉ざされた。
***
気がつくとロマリアの王城にいた。傍らには仲間の躯があった。俺は悟る。
俺はまだ生きている。
王と謁見する。旅に出るか、と問われた。俺はただ反射的に小さくうなずく
しかできなかった。
仲間の躯を教会に運び、司祭に復活の儀式を頼む。幸い、装備は全員無事だ
った。ただし2000以上あったゴールドは半分に減っていた。物を取られな
かったということはこれはカンダタの仕業ではない。俺を助けた何者か……お
そらくロマリアの手の者の誰かの元にあるのだろう。救出代として。無論、そ
んなことは構いはしない。仲間を生き返らすための額はまだ充分ある。何より
装備がある。旅には出れる。
しかし、本当にどうして助かったのだろうか。ロマリアの兵士だとすれば、
最初から彼らがカンダタを倒せばいい。……ピーウィット・クルーの連中だろ
うか。ありえる。
目覚めて行く仲間達の姿を見ながら考えている俺の脳裏に一つの答えが浮か
んだ。浮かんだ瞬間必死にそれを否定しようと思ったが、駄目だった。それは
おそらく正しいのだ。
つまりこういう事だ。
俺は死ねない。
何があろうと、生き返させられてしまう。それは神の奇跡なのだろうか。も
しそうだと言うなら俺は神を恨む。
そうか。そういうことだったんだ。俺が何故勇者と呼ばれ、旅に出かけさせ
られ、人々の勝手な希望をおしつけられるのか。それは「俺が不死」だからに
他ならない。なんてこった。
想像してみる。教会が何かが俺に、もしくは俺の仲間達にそういう神との契
約をほとどこしたに違いない。選ばれた、かの者に恩寵を。不死の体を。使命
のために。勇者メスロン。永遠の男。エヴァー・マン。
叫びたかった。俺はもはや自分の意思で死ぬことを許されないのだ。カンダ
タと戦った時の恐怖が蘇る。俺は何度でも行き返りそして、人々が託した使命
とやらを果たさなくてはならない。これは喜ぶべきことなのか。それとも。
死な無いならば気楽なものではとも思い返すが駄目だった。俺には選択の余
地が無い。進むか。進まないか。しかし進まないでは俺の人生は無い。いっそ、
逃げ出してしまおうか。そうさ。この王城にいればいい。金はまだある。闘技
場で賭けにふけるのもいいじゃないか。女。そうだ。女だっている。タラミス
を見る。しかし彼女の目は冷ややかだった。
彼女は知っていたのだろうか、この運命を。勿論そうなのだろう。彼女は神
官だ。神と契約を交わした女だ。タウルスは俺の話に、黙って耳を向けている。
シモンは意にも介していないようすだ。修行によって得られるものを考えてい
るのだろう。
俺にだけ何もない。漠然と考えていた父さんへの思いも、永遠という殻に綴
じ込まれた自分の運命の前にはひどく遠いもののように思えた。
だが。俺は思う。予感はあった。次第にこれにも慣れてゆくのだろう、と。
次第に自分にできることとできないことを思い、できないことを運命と受け入
れる。過去は不動な記憶として沈み、やるべきこと、現実の海の中に身をなげ
る。それは誰でも同じなのではないか。
再び仲間を見る。そうだ。まだ俺には仲間がいる。俺とともに今まですごし
てきた時間を共有してくれる仲間が。大丈夫。それは予感にすぎない。しかし、
おそらく大丈夫だ。
逡巡する思いを胸に王に謁見する。そしてしばしの時間の猶予を、心を落ち
着けるための準備を願った。かくて三度の休息に入った。 (つづく)
(23:45)
***
今日は休日だったようで。友人からの電話があるまで気付かなかった。敬老
の日。祖母の家では親戚が集まったらしい。私は我が身が我が身なので行きは
しなかったが、心苦しさはある。雨は一日降っていた。
(23:50)
1997年9月16日 (火)
今日も一日中、雨。台風19号も接近中とか。
***
ドラクエ日記5日目。
とりあえずカンダタを倒す。しかし……。
***
俺は目覚める。そして支度を整える。仲間が寝ぼけ眼で起き出してくる。俺
は告げる。出発だ。
このままカンダタの塔に行くつもりは無かった。今行ったとしてもそれは無
謀な賭けに過ぎないと分かっていた。では今できることは何か。ともかく、鍛
えるしかない。だが、ただ魔物のケツを追いかけ回すつもりは無かった。どう
せならば、とことんこのロマリアの国を巡ってやる。俺は北へ向かう。
城の北には南北に伸びる長い山脈がある。その西側の尾根にそってゆっくり
山々を越えると例の村にたどり着く。ちなみに正確にはカザーブだった。やっ
と覚えた。
しかし、今回その山脈の東側を探ってみることにした。ずっと東に進むと、
幅広の川が流れている。山脈に沿ってずっと北に続く。川と言っても向こう岸
が霞んで見えるような大河、海峡に近い。それを挟む橋もあるが、ここまで来
ると見たことも無い凶悪な魔物が大勢いる。魔王がいるとすればこちらなのだ
ろうが今はまだその準備ができていない。山脈とその大河の間に広がる草原を
ひたすらに北上する。長い長い道のりが続く。やがて山脈がとぎれ幅広な草原
に出た。その北には見覚えのある凍土地帯がある。俺は西を見た。背の低い山
並みが広がっている。この向こうにカザーブの村があるのは間違いない。
途中何度も魔物に遭遇し、その度に彼らを駆逐してゆく。大部分が獣に近い
魔物だ。たまに、魔王と共にやってきた兵士らしき者にも遭遇する。見るなり
襲いかかってきた。話し合う暇も無い。ときおり彼らはホイミスライムという
この辺りでは珍しい種類のゲル状の生物をつれている。これで、傷ついた体を
癒やしながら旅を続けているようだ。こちらの仲間に引き入れようとも思った
が無駄だった。一度使えた者の言うことしか聞かないようだった。そう、あの
兵士にとってもこのスライムは仲間であるのかもしれない。だが、それは同時
に俺らに取っては敵にすぎないことを意味する。
西へ行き、村にたどり着く。間違いは無かった。宿を取る。暗闇の中で天井
を見上げながら行き先を考える。とりあえず一応、あの北の眠りの村に行って
みるか。……他に行きたい所は思いつかなかった。分からなかった。
翌朝出発する。
村までの距離は案外近い。しかし、蟹やら芋虫やら蜂やらの化け物が途中に
群がってくる。やれやれ。俺は心の中で溜息を尽きながら腰から鋼の剣を抜き、
構える。負けることは無い。分かっている。しかし、俺は争いの最中、気まぐ
れに剣を下ろし、片手を上げて呪文を詠唱していた。今や反射的に言葉を紡ぐ
ことができるあの呪文。ルーラを。
太陽の何倍も強い光が、閉じた瞼の裏、眼球の奥をつき刺すように浴びせら
れる。そして赤い残像の中、俺は目を開く。
しばし自分がどこにいるのか分からなかった。俺は特に場所を意識していな
かった。それは、きっと俺の心の奥そこが望んだ場所だったのだろう。俺は笑
った。たまらなくおかしかった。ここが、か。ここが俺が望んだ場所なのか。
俺は笑い続ける。
そこはアリアハンの王城だった。
***
ためらいはあった。しかし、俺は実家へと入った。
母さんの相変わらずの態度になぜか俺は苦笑していた。エヴァー・マンとし
ての運命のこと。カンダタとの邂逅。話そうと思えば幾らでも言いたいことは
あったはずだった。しかし何一つ言葉にはしなかった。母さんが仲間を「お友
達」と呼ぶのにも慣れてしまっていた。
俺は心に決めていた。もう一度、ここから出発し直そう。ロマリアの城への
道をもう一度歩み直そう、と。
それは長い旅路となった。
辛くなれば魔法なりキメラなりの力を借りて帰還することが可能なのは分か
っていた。しかし、それはどうしても避けたかった。名も忘れた最初の村。そ
れから東に向かい、祠を尋ね、泉をくぐり、大地下トンネルを抜ける。特に大
トンネルは隅から隅まで探った。これと言っては何も無かったが、目指すべき
ものがある事が俺には心地よかった。
***
ロマリアの城にたどり着いたのは夜だった。宿屋によると旅の母子がいた。
城の前で騒いでいたあの子供だろう。何しろ物騒な世の中だ。城の兵士による
護衛つきの隊商が通りかかるまでは身動きとれないのかもしれない。子供が眠
りながら魔王を倒すんだ、お母さんを守るんだ、とつぶやくのが聞こえた。母
親は俺達を前に恥ずかしそうな顔をしていた。しかし、子供を見つめる目は暖
かかった。
その時、隣室にいた兵士らしき男が独り言のように言った。
「本当に魔王なんて来るのかな」
俺はなぜだか無性に腹が立った。そうなのだ。これこの国の本音なのだろう。
もう二度と魔王などはここへは来ない。そう思っているのだろう。
翌朝、宿屋を出た俺は、王へ一応拝謁し、北へ向かった。決着をつもりでい
た。カザーブの村で、道中で溜めた金貨を全部吐き出し、俺と戦士タウルスの
ための新しい甲冑を買った。古い鎧は一つ売り飛ばしたが、もう一つは取って
おくことにした。心の片隅に再び全滅した時のことがあった。金よりも物の形
で取っておいたほうがよい。
キメラの翼をそれぞれ各人に持たせる。いざとなったら誰でもすぐ使用でき
るようにだ。シモンも旅の途中にルーラを体得していたので意味が無いと言え
ばそれまでだが。試しにということでロマリアと村とを数度往復してみる。ど
うしてもシャンパーニュの塔を前にまたためらいが生まれてしまう。
だがもう全てなすべきことはやった。後はやるだけだ。
塔にたどり着く。駆け上がる。魔法は極力控える。ひたすらに肉弾戦で蹴散
らしてゆく。そして3階までたどり着いた時。柱の影にカンダタの姿を見つけ
た。幸いまだこちらに気付いていない。上の部屋ではなくこんな所にまだいた
とは。あやうく無防備に近づく所だった。
大丈夫だ。むざむざやられれるつもりはない。ホイミで体力をフルポテンシ
ャルに上げる。装備も確認した。
そして俺は剣を抜き、体を少しかがめ目深に盾を構えると、歩幅の短い走り
で近づいた。
作戦はとにかく最初に全力で魔法で攻撃をしかけること。頭数を減らすため、
確実に手下を倒してゆくこと。この二つに絞る。シモンにはイオを。タラミス
には、覚えたばかりの攻撃魔法「バギ」を頼んである。俺とタウルスは手下の
一人に同時攻撃する予定だった。
奴らが振り向く。シモンが呪文を詠唱する。こんどはこっちが早い。しかし。
シモンのイオは全てカンダタと三人の手下にかわされていた。どういうこと
だ。全く、ダメージ一つ浴びせることはできなかった。だが引き返せない。
意外にもタラミスのバギが有効だった。手下の一人は計画通り加重攻撃で倒
した。しかし、シモンは。魔法が効かなかったショックもあったのか。天が彼
を見放したのか。敵の刃の前に再びその身を横たえた。
冷静に。完全に死んだわけじゃない。俺とタウルスの加重攻撃、タラミスの
バギとホイミの交互援助は思いの外、功を奏した。そしてついにカンダタを追
いつめた。勝利を確信した。
そしてその時。確かにカンダタは打ちのめしたはずだった。しかし、彼はま
だ息をしていた。その彼が言ったのだ。助けてくれ、と。
俺は体が震えた。怒りと苛立ちが混じっていた。卑屈に腰をかがめ、血まみ
れの体でうずくまりながら哀願してくる。なんなのだ。
俺はノーと答えた。しつこく向こうは泣き落としてくる。駄目だ。駄目だ。
だが。
俺は目を背けた。ロマリアの王から盗んだという金の冠を返すと言ってきた
ので傍らの宝箱を見た。頼む。声が聞こえる。頼む。
行け。
俺は反射的に答えていた。
すぐに後悔した。しかし、カンダタとその仲間はこちらのためらいをよそに、
駆け出していた。そして塔から表へと飛び出した。追おうかとも思ったが止め
た。そして俺は箱の中に鎮座ます金の冠を拾いあげた。俺はこんなものの為に
ここまで来たのか。
カンダタのいた上の階にも行ったが何も無い。空っぽだ。何もかも。
俺は塔を飛び降り、再びキメラの、ピーウィット・クルーの背に乗って王城
へと向かった。
***
ロマリアの王は喜んだ。
当然だろう。しかしその次の言葉に絶句した。
「この国を君譲ろう」
なんだって? 俺はひたすらに拒否した。冗談じゃない。しかし、断ること
はできなかった。何度言っても無駄だった。苦し紛れに分かったと答えた瞬間
それはおきた。
宮廷魔術師の仕業だろうか。
俺は王様になっていた。
正確には王様の衣装を纏わされていた。仲間の姿も無い。俺は背中から汗を
たっぷりと流した。冷たい汗だった。
王妃の椅子にかけよる。
「妃としてよろしく」とか言ってくる。ふざけるな。第一あんた幾つだ?
だがどうにもできない。脱ぐこともはぐこともできない。
傍らの兵士に言っても、新王万歳としか言わない。悪夢だ。
謁見の間を飛び出す。タウルス! シモン! 仲間の名を呼ぶ。タラミス…
…。
礼拝堂へ行く。司祭に泣きつきこの呪いを解くように頼んだが無駄だった。
いつも見る女が北の村の話をしていた。王だけに、魔法の杖について語る男も
いた。
金も無い。装備も無い。町の入口では兵士に王様、町を出ては困りますと止
められる。道具屋に駆け込む。何も売ってはくれない。すると近くにいた男が、
「王様なら闘技場にいたぜ」と教えてくれる。
そういうことか。少しほっとして宿屋に行く。旅の女がいる。最初は勘違い
していて驚いたようだった。気が楽になっていたので素直に笑えた。
ついでに王城に戻り、塔にも上る。幽閉された盗賊と話をすると、カンダタ
を逃がしたことに「甘いな」と言われる。そこでふと俺は正気を取り戻した。
カンダタ。確かに。俺は逃がすつもりは無かった。しかし、それが現実だっ
た。結果だ。俺は思う。おそらく……彼とはまた出会うことがあるだろう、と。
東の塔には王の父がいる。呆れ顔をしていた。どうも度々こういうことがあ
るらしい。事情は何となく分かった。
闘技場に潜ると、その場の雰囲気がさっと変わった。皆落ち着かなくなって、
慌てるものもいる。一応、賭事は御法度となってはいるらしい。
王らしき男に近づく。こうしてみるとただの中年の親父だ。嬉しそうにして
いる。俺は諦めてそんな彼の姿を見ていた。なぜか忍び笑いすら浮かんできた。
思えば彼も俺と同じなのだ。王になるという運命を、好むと好まざると背負わ
されて。無邪気に闘技場の賭けに興ずる姿をしばらく眺めてから、再び話しか
けると、王は肩をすくめて仕方ない、元に戻るか、と言った。
再び謁見の間に通された。
仲間もいる。にやにやと笑いをこちらに向けている。どうやら全てぐるだっ
たようだ。こちらは憮然とするしかない。俺のあわてふためいた様子をどこか
で見ていたのだと思うと、面白くない。だが、それよりも、俺は仲間と再び会
えた喜びの方が大きかった。王様は訳知り顔をして、「旅に出るのか」と尋ね
て来た。俺はいつになくかしこまった態度でうなずいた。
***
眠りの村。そしてエルフの隠れ村を訪ねる。
手がかりは隠れ村の南にある、洞窟しかない。しかし、一仕事終えて油断し
たいたこともあり、俺はたちまち棺桶行きとなってしまう。だか残ったメンツ
は無難に魔物を蹴散らし、地上に出た。シモンのルーラで再び城に戻る。もう
少し慎重にことを運ぶ必要があるようだ。
だが時間はある。まだ。 (つづく)
***
ゲームをしながらつい、「これ以上やると書くことだらけで大変だよなあ」
とか思ってしまう。今日のプレイは2時間だが、書くのも同じぐらいかかった。
なんか本末転倒してきています。面白いからいいけど。これでも書き足りない
ぐらいなんですけどね(^^;
(23:48)
1997年9月17日 (水)
ドラクエ日記6日目。
進展なし。
なぜなら時間がとれず全くゲームをしていないからだ。
***
シモンの様子がおかしい。
彼はすぐに取り出せ売るよう「毒針」を長いローブの袖の内側につるしてい
る。軽く手首をひねると、革紐の輪が指にかかり、1秒もかからず取り出し構
えることができる。
宿の一室には大きな全身鏡があり、その前でしきりにシモンは毒針を抜く練
習をしている。構えた瞬間に、素早く前にそれを突き刺す。決して振りかざし
たりせず、抜き出した動作と刺す動作が一つの流れとなるよう練習をしている
ようだ。
俺の知っている限り、旅に出るまで、あいつは人と争うことなど全くしない
ような奴だった。それが今のこの攻撃的な目はどうだ。戦いの中で自分を見つ
けた人間は、二度と平穏な生活に戻れないと言う者もいる。シモンもまたそう
なのであろうか。
毒針に限らず、攻撃に使える魔術に関する研究も熱心だ。俺が、噂で聞いた
火玉を無限に飛ばすことのできる杖の話をすると彼の瞳が輝いた。どうも、そ
れは例の眠りの村のどこかにあるらしいと俺が告げると、すぐにでも出発しよ
うという態度を見せた。その興奮した様子に、俺のみならずタウルスやタラミ
スも驚きの色を隠せない。度重なる臨死体験の影響もあるのか。分からない。
今の所、旅に対して意欲が沸いているようでもあり、特に問題は無いが。少
し不安だ。 (つづく)
***
台風一過。しかしまだ雨は降り続いている。
朝方、腹が減ったので傘をさし少し歩いて牛丼屋に行った。正直そこの牛丼
はまずい。化学調味料の味全開だ。しかし安い。並250円、大盛り350円。
ほとんど飯場の食事だが腹が膨れれば問題ない。大盛りに50円のみそ汁をつ
けてもそもそと食べる店内に客は私一人。シャ乱Qの新曲が流れていた。
***
アクセス解析をみたらここ最近一日に日記を見ている延べ人数は25人平均。
実質的にここを見ている人は20人もいないだろう。一時は延べ45人ぐらい
はいたのに。減ったものだ。メールも無いし。なんだかなあ。玄関のアクセス
数も減ってきている。コンテンツが増えない以上当たり前だが。しょうがない
か。愚痴でした。
(23:45)
1997年9月18日 (木)
ドラクエ日記7日目。
結構進展があった。
***
エルフの隠れ村の南にある洞窟を巡る。
正直それほど乗り気では無い。一人シモンだけが意気揚々としている。
ルーラの呪文を使い、町から町へとテレポートをし、眠りの町ノアニールか
ら西へ向かう。
最初、カザーブから出発しようと思ったが、道を忘れていることに愕然とす
る。まず北へ向かわねばノアニールにはいけないについに西に行ってしまいシ
ャンパーニュの塔近くに来てしまう。ルーラは便利な呪文だが、地理感覚を失
わせるという副作用もあるようだ。
洞窟では例によって左回りの法則でしらみ潰しにしてフロアを回る。人工的
に作られているところからみて、洞窟というより祠と言ったほうがいいのかも
しれない。バンパイヤ、茸、狼などが多く出現する。しかもどれも、魔法を使
ってくる。魔王の元手先というより、この祠に感じる負の力に誘われてやって
きた魔物とという気がする。そのせいか自分がやっていることは無駄なこと、
本来の自分のなすべきことから外れているのでは、と思えて仕方がない。
洞窟の中には幾つか宝箱があった。どれも大したものでは無い。死者への弔
いの品なのかもしれない。だが、俺達には関係無い。貰えるものは貰って置く。
節操の無さにタラミスが顔をしかめるが、構うものか。こうでもしなくては俺
自身の気持ちは晴れなかった。どうせ、魔物に住み着かれたここに置かれても
役に立たないものなのだ。後で町の道具屋にでも売り払った方が、幾分意義が
あるはずだ。そう、タラミスに、そして俺自身に説得をした。
途中、洞窟の中で老人に会う。容姿からして魔術師のようだ。どうもここで
魔物の生態の研究や、密閉された空間での魔法の効果などを研究しているらし
い。その老人は、この祠の地下には「命の泉」というのものがあると教えてく
れた。
確かにそれはあった。かつてはかなり荘厳な神殿だったのだろう。しかし、
今や魔物の巣窟だ。もしかして管理する人間……おそらくノアニールの村人だ
ろう……がいなくなったせいなのだろうか。
泉の中に浮かぶその神殿の中に入ると、体が震えた。全身が熱くなる。血液
の流れ、肺をめぐる呼吸の感覚を強く覚える。なるほど、確かに一瞬にして、
気力体力が回復した。
「ここを拠点にすればもっとここを巡れる」
シモンが熱っぽく語る。さっきの老人の言葉にも刺激されたようだ。彼が自
らの魔術師としての腕を……そしてそこから生まれる「力」を強く欲している
のは明らかだ。そのため彼は戦いを求めていた。
だが、今回はそれが命取りになった。
祠の魔物は命の泉の力もあるのだろう、これまでに無く強力だった。蝶だか
蛾だかでさえも、大群で襲われるとたちまち窮地に追い込まれる。
しかし、俺達はたかをくくっていた。たとえここで倒されていても誰か一人
が生き残っていれば平気だ。特にシモンは、地上へと簡易移動することのでき
るリレミトという呪文の収得に成功している。最悪彼一人生きていれば、なん
とかなる。
そう思っていた矢先に俺とタウルスがやられた。残ったタラミスも負傷が大
きくホイミで自分の傷の治癒を優先させる。ならば、シモンにリレミトを使っ
てもらえば……。だが彼はそうしなかった。彼は毒針を抜いて突進していた。
なぜだかは分からない。何かを確信していたのかもしれない。分からない。た
だ明かなことは一つ。その確信は間違っていた。
そして俺達は二度目の全滅を経験した。
誰に助けられたかは分からない。だが、可能性が高いのはあの洞窟にいた老
人だ。4000以上あった金貨も半分に失われている。一人につき200ゴー
ルド、教会でも取られた。シモンは目覚めると、俺たちから顔を背けた。
俺は苛立っていた。ロマリアの司祭に仕える女は俺達が、ノアニールの村と
エルフの関係に解決策は無いかと思案していることを知って喜んでいるみたい
だった。それだけが唯一の救いだ。
不安はかかえていたがシモンに問いつめることはしなかった。そもそもこん
な先の見えない旅についてくることだけでも感謝すべきことだった。タウルス
は傭兵として自分の役目に忠実であるだけだし、タラミスには神への誓いがあ
る。シモンがこの旅に求めるとしたら……世界を知ること……そして自らの力
をとことんまで極めること、それしか無いのかもしれない。エヴァー・マンと
しての俺についていれば、のたれ死にすることも無い。
タラミスは何かを知っているようなそぶりを見せている。それがシモンに問
いつめることのできない一因でもあった。俺としては旅をする意思さえあるの
が確認できればそれでいい。……とりあえずは、だ。
***
薬草とキメラの羽をかかえて俺達は祠の奥底へ突き進む。冷静に見て魔物と
俺達との実力のバランスが微妙な所にある。魔法の援護は最大に活用する。薬
草もタラミスの負担を減らすためにある。彼女の「バギ」の威力もまた必要と
感じられたからだ。
実際苦戦続きだった。地下へと潜り、先に進めそうなぎりぎりのところでリ
レミトとルーラで逃げ帰る。しかし歩みは遅々としながらも進んでいた。
地下水脈に出た。そこの中央に神殿らしきものがある。やはり大きな泉の
中央に浮かんでいるそこに宝箱のようなものが見えた。雲霞のごとく襲ってく
る魔物を振り払い近づいてゆく。そして、そこにたどり着いた。体はぼろぼろ
だった。
すがりつくように箱に近づき中を空けた。薄布の間に赤い宝石が見えた。ル
ビーだ。羊皮紙の包みがあった。開くと長い達筆な文字で書き付けがあった。
***
リレミトで地上に戻りエルフの村へ行く。
そして、エルフの女王に拝謁した。彼女は俺がルビーを見せると顔色を変え
た。俺は宝石と共に羊皮紙の手紙を渡した。
そこには女王の娘アンと相手の男が、先行きが無いことを悟り湖に身を投げ
る、ということが記されていた。女王は顔を下に向け、少し右手で顔を覆った。
泣いているのかどうかは分からなかった。それから、これで村人を元に戻すが
良いと言って、「粉」を渡してくれた。
タラミスは建物の外で祈りの言葉をあげていた。その顔つきは辛そうに見え
た。しかし、俺は。その書き付けをみた瞬間は、確かに嘆きたくもなった。駆
け落ちした二人をうらやましいと言っていた自分を情けないとも思った。
けれども。なぜだか俺は彼らの死を確信できなかった。それは甘いロマンチ
ズムにすぎないのかもしれない。だがそれでも彼らが生きていることを信じた
かった。おかしな話だ。死せぬ俺が生を信じるなどと。死なくして生は無いと
感じてすらいるというのに。
***
眠りの粉の力でノアニールは目覚めた。
どうもかなりの年月、眠りに落ちていたようだ。シモンのために道具屋で、
噂に聞いた「魔道士の杖」を手に入れてやる。町のそこここで感謝の声も聞こ
えたがあまり浮かれる気分ではない。エルフの村にいたあの老人のことを少し
考えていた。
それから宿屋に上がった。
一応泊まるかどうか決めかね、中をうろついていると、旅の戦士らしき者が
訪ねてきた。オルテガの息子じゃないか、と。
俺は違うと言って去る。
しかし。勇者という目で見られることにうんざりしてそんな答えを返してし
まったが、男が何を言おうとしているのかが気になった。
そこで振り返り「もし、俺がオルテガの息子だとしたら、どうだというん
だ?」と聞いた。すると男は答えた。
オルテガは昨日まで、隣の部屋にいた、と。
はっとなり、俺はそれ以上男の言葉もまともに聞かず、隣部屋の扉を叩いた。
鍵かかかっている。盗賊の鍵を思いだし、それを取り出し鍵穴に差し込む。か
ちりと錠が回る音がした。
父さん。
部屋は空っぽだった。埃が部屋を舞っていた。俺はしばし室内をめぐり片っ
端からそこらの物をひっくり返した。ない。何もない。当たり前だ。しかし、
俺は全てを調べつくすまで気が収まらなかった。仲間も部屋の外でそんな俺を
無言で見ていた。分かっている。昨日ということは昨日じゃない。もっと、何
年も前だということを。分かっている。父さんは……もうどこにもいない。
タウルスが近づき、その無骨な手で俺の肩をつかんだ。そして、とにかく今
日は一晩ここで休もう、と言った。俺はうなずいた。視界がぼやけていた。そ
の向こうにシモンの姿が見えた。タラミスはどこへ行ったのだろう。
俺は父さんがいたというベッドにもぐり夜を迎えた。村の外は、復活の祝い
でにぎわっていた。無数の篝火の輝きが窓から差し込む。眠れなかった。
立ち上がり窓枠に両手をのせ表を見ていると、後ろに足音を感じた。タラミ
スだった。俺の隣に並んで表を見ていた。俺達は椅子に座って花火を眺めた。
彼女は何も言わなかった。
「アッサラーム。まるで紅茶の名前みたいだ」
父が向かったという町の名を俺は言った。
タラミスが少し笑顔を見せた。
本当にそこに行ったのか、そこに何があるのかは分からないが、俺達はその
町に行くことに決めていた。それはロマリアの東にあると言う。とにかく、
ルーラでアリアハンの実家に戻り、母さんに父さんの消息のことを話し、それ
から装備を整え、東に向かおう。望むべきでは無いのかもしれないが、望みた
くもあった。
父さんがいたこの部屋。父さんが去り、眠りにおち、俺が来て目覚めたこの
村。俺は傍らのタラミスを見た。明かりに輝くオレンジ色の頬。俺は彼女を美
しいと思った。そして同時にそこに浮かぶ、今まで見たことも無い悲しい表情
にとまどった。何度も哀悼の表情を浮かべる姿は見た。しかし、今のそれはど
こか違った。小さな、子供のようにも見えた。俺は彼女の心を知りたいと思っ
た。たとえそれが無理だと分かっていても。村の宴は未だ続いていた。
***
アリアハンに戻り実家に行き、母に父の消息のことを告げたが何も返事は無
かった。父の死は母にとってもう何年も前に解決したことなのだ。蒸し返すべ
き問題では無い。アリアハンの王にも拝謁し、すぐにロマリアに戻り東へ探索
の旅に出ることを告げた。不安はあるが迷いは無い。ともかく。行くだけだ。
(つづく)
***
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ドレスが一つあることです。詳しくはこちらへ。ジオシティーズ ジャパン
(9/19 0:53)
1997年9月19日 (金)
ドラクエ日記8日目。
しかし、またしてもゲームが出来なかったのでお休みです。
***
アクセス数は相変わらすですが、EVA NOVEL LINKの喜久川さんや、いつもお
世話になっている神笠 那由他さんなどが日記でドラクエ日記のことを書いて
くださっているのが嬉しかったです。ありがとうございます。
***
電車の中で気がつくとドラクエキャラの裏話など考えている自分がいる。人
物が並んでいると何か物語を考えてしまう。そのうち頭の中で盛り上がりすぎ
て「おいおいこれじゃ物語終わっちゃうよ」と自己つっこみがはいるほどだ。
やはり本質的に私は妄想型の人間であるようだ。昔なぞ、夜寝る前自分で考
えたストーリーに感動して涙をながしてしまったことがある。……実は今でも
たまにある。とことん自家発電状態である。
しかし、ネタは幾つか浮かんだので、ゲームレビューにまぎれてこっそりキ
ャラの話も進展させてみようかとも考えている。あくまでおまけ、として、で
あるが。
***
以前より書こうと思っていて書き忘れていたことを幾つか。
Infoseekで「森川」を検索していたら「もりかわさん いらっしゃ〜い」と
いうページを見つけた。その名の通りWeb上で「森川」と名のつくページを集
めたものだ。しかしYahooで検索した結果が主であるせいか私のページは無か
った。そこでメールして「私のページも入れてください」と頼んでみた所、
「リンク依頼されたのは初めてです。ありがとうございます」との返事が。
うーむ意外に森川さんの横のつながりは薄いのね。当たり前か。
ちなみにInfoseekで「エヴァ|森川」で検索すると私のページも出るが、
「エヴァンゲリオン・スタイル」の森川喜一郎さんの名前もでてくる。彼は私
の父です。嘘です。(お叱りのメールはこちら)
***
む。幾つかと言いながら何も浮かばなくなった。今日はこれまで。
(23:44)
***
一つ思いだした。久々にエヴァリンク(「一から」と「DEEP EVA」)を見た
らURLが変更されていたり無くなっているページを見つけた。リンク集にはま
だ新規のページが登録され続けている所を見ると、ページ数的には増加してい
るようだが……。自分のページの行方も含め、エヴァとどうつきあっていくの
か悩む所である。ちなみにこの間久々に自分の書いた「エース読感」を読んだ
ら難しくて頭が痛くなった。本当に自分が書いたのか怪しくなった。なんだか
なあ。(9/20 0:00)
1997年9月20日 (土)
ドラクエ日記9日目。
アッサラームの夜を経て、砂漠の城でイシスの女王に会う。
***
ルーラの呪文でロマリアへ飛ぶ。
この魔法のせいで、一日のうちに何度でも町の間を往復できる。太古この魔
法が生まれた頃には、見当違いな所へ飛ばされ命を失うものも多くいたという。
それを魔術師の間で何世代もかけ、改良され今の「ルーラ」ができあがった、
とシモンは教えてくれた。
ルーラで飛ぶことができる為には、まずその場所に印をつけなくてはいけな
い。俺はただ魔術書にある通り書き写しているだけだが、どうも古代の言葉を
意匠した魔法陣の一種でもあるようだ。場所はどこでもよいが、まず正確にそ
こを計測する必要がある。大雑把に言って半径十歩程度の空間を完全に把握し
記憶にたたき込まねばならない。そして、呪文で飛ぶ際にはそのイメージを頭
の中で明確に呼び出す。そして初めてその場所に飛べるのだ。従って、意識の
集中が弱い場合は最も慣れ親しんだ場所、俺の場合はアリアハンに飛ばされる。
そういうことらしい。
場所はどこでもいいとは言え、あまり目立つ場所は困る。まず、その空間に
人や物が全くないことが絶対条件だ。物質と物質が目に見えないレベルで重な
り、命を落とす可能性もあるからだ。
そこで必然的に、町の外にその場所を確保することになる。多くは城壁を場
所にする。町の壁に怪しげな小さな印があったら、それは俺達が訪れた事があ
るって証だ。見つけても決して消さないで欲しい。戻れなくなっちまうからな。
さて。
ロマリアから東に、大河を渡り平原を東へと進む。さすがに魔物も強い。し
かし、度重なる旅を経て俺達も戦いなれてきている。案外あっさりとアッサ
ラームの町に辿りついた。
来てすぐ何か違和感を覚えた。町自体は小さい。しかし、ひしめくように建
物が並び、どこか、ごみごみとした印象を受ける。これが異国の雰囲気とでも
言うのだろうか。語尾のアクセントもどことなく特徴的だ。
何より驚くのが町の商店だ。どこも値段をふっかけてくる。しかし町の人が
言うには、これがここの流儀であるらしい。慣れた商人ならば交渉次第で、安
くも仕入れることもできようが、俺はこういう取引は苦手だ。結局普通の道具
屋らしき所で、薬草を買い、武器屋で俺用の鋼の鎧を新調しただけだった。
鎧の寸法を会わせて貰う間、町を探索する。町の西には大きな建物があり、
中にはやはり大きな舞台があった。劇場であるらしい。その舞台の上では、踊
り子らしき少女達が本稽古をしている。タウルスが何か嬉しそうな声を上げる。
俺も目を凝らす。ベリーダンスと言うらしい。腕をそして足もひどく露出して
いる。びっくりするぐらい白い足がまぶしい。体がわけもなく熱くなる。
公演は夜にしか無いという。劇場の回りでは着崩した格好の男達が髭面の顔
をにやつかせながらこちらを見ている。まあ、夜にまたな。俺はこっそり傍ら
のタラミスを見た。明らかに険しい顔をしている。彼女はこの町の雰囲気に拒
否反応をしめしている。比較的歳の近い俺とシモンはどこか舞い上がっていた。
タウルスは宿屋の位置だけはしっかりと確認して、来る途中、東の山の麓に
見えた洞窟に行こうと告げた。出がけに町の城壁の一部にルーラの為の印をつ
けて俺は来た道筋を戻る。
***
洞窟は一本道でかつ相当に人工的なものだった。奥には一室あり、一人の
ノームが住んでいた。土の精とも呼ばれる背に低い種族だ。ここで何をしてい
るのかは分からないが、彼がここを根城にしているのは明らかだ。なぜ、こん
な所に。
洞窟の近くの一つの山の頂に上った時、山の向こうに洞窟の出口らしきもの
が見えたので、てっきり山を抜けるトンネルだと思ったが勘違いだったのだろ
うか。俺達は、しばらくそのノームの部屋を無造作に歩き回っていた。そして
部屋の隅の木箱の中に武器らしきものと胴着らしきものを見つけた。反射的に
俺はそれを懐に入れていた。幸いノームは神官であるタラミスとの会話に夢中
になってこちらに気付いていない。彼女はノームに祈りの言葉と丁寧な言葉を
かけて、別れを告げる。俺も、何食わぬ顔をしてタラミスの言葉を継いで、邪
魔したことを詫び、表へ出た。
シモンは俺の行為に気付いていたようだ。俺も悪びれずにしまい込んだ代物
を取り出し日差しの元で確認した。しかしそれはただの棍棒とおそらく武道家
が着るものらしき武道着にすぎなかった。大して価値の或る物ではない。俺と
シモンが顔を見合わせ苦笑していると、タラミスが俺の名を呼んだ。
俺は立ち上がって彼女を見た。
彼女は俺に、それをノームの元へ返してきなさい、と言った。
何が悪いんだ。俺は答える。もしかしたら魔王の手先かもしれないと思った
からこそこんなことをしたんじゃないか。ま、どうやら違ったらしいが。
それは嘘だった。俺は欲しいから取った。気になって仕方が無かった。心で
は後悔していた。つつましやかな持ち物を奪ったことに苦しみを覚えていた。
しかしそれは言えなかった。なぜだか言えなかった。
タラミスの顔が険しくなり、彼女が右手をふりあげた。ぶたれる。俺は子供
の頃の母さんのびんたを思いだし、咄嗟に目を閉じる。
しかし何も無かった。見ると彼女は腕を下ろし、顔を背けていた。そして背
嚢を背負って出発の準備を整え始めた。行きましょう、と彼女は言った。
***
夜になった。
アッサラームの町は昼間よりも一層にぎやかになっていた。宿では泊まり客
が既に眠っているのをお静かにと言われたが、俺達は気になって劇場に向かう
ことにした。タラミスは少しためらっているようだったが、一応ついてくる、
と言って来た。道すがら白いワンピース姿の女と目があった。彼女はこちらを
向いて微笑している。何なのだろう。
ショーが始まった。
しかし、舞台は期待していた程面白いものでは無かった。タウルスとシモン
は華美な衣装と艶めかしい肢体の動きに素直な興奮を見せていたが、俺には、
今一つぴんと来なかった。おそらく素晴らしすぎたのだ。昼間の懸命な稽古を
見ていたせいかもしれない。凄いとは思えても、それ以上の思いは無かった。
タラミスは席の端っこに座ってじっと劇場内を眺めていた。俺は隣にまではい
けなかったが近くの席に座ってタラミスの姿をちらちらと見ていた。幕間には、
彼女も俺も拍手をした。彼女の表情は分からなかった。
俺が物をかすめとったのは初めてのことじゃない。カザーブの村の道具屋か
ら毒針を盗み取った時には彼女は何も言わなかった。……言えなかっただけな
のかもしれないが。
ショーが終わった。
シモンとタウルスは舞台袖に言って何か踊り子と話をしている。タラミスは
立ち上がり入口で立って待っている。
そうさ。旅では何があるか。手に入る物は何でも手にしておく。悪いことじ
ゃない。……ちくしょう。
***
夜風が心地よかった。昼間の暑さに反し夜は涼しい。
タラミスとタウルスが先頭になって宿屋への道を歩く。シモンには少し酒が
入っているせいか足取りがおかしい。俺はその後を離れて歩いていた。
「ねえ勇者さん」
俺の背中から声が聞こえた。女の声だ。振り向くと白いワンピースの若い女
がいた。腰まで伸びた細い黒髪が風なびいている。後ろ手に手を組み小首を軽
く傾げるようにしてこっちを向いていた。
「あなたアリアハンの勇者さんでしょ?」
劇場の方から漏れる明かりに彼女の頬が照らされていた。薄いピンク色のつ
やのある唇が動く。
「ね、来て」
彼女がそっと近づいてくる。耳の奥がわーんと鳴った。
「いいことしよ」
彼女の小さな手が俺の指先を握った。全身が熱くなった。俺は振り向く。道
ばたでうずくまるシモンをタウルスとタラミスが抱え上げようとしていた。
「一緒は駄目だよ」
女はくすりと笑ってその胸を慣れた仕草で俺の右腕に押しつけてきた。柔ら
かな温かな感触。その時、タラミスがこっちを向いた。視線が会ったのは数秒
だった。俺は彼女のアクションを期待した。しかし、彼女はただ目をそらした
だけだった。何事も無かったかのように。
「いいこと?」
俺は笑顔を用意して傍らの女の方を向いた。
***
彼女の意図がどんなものか分からない。けど……そうだ、父さんの事も何か
聞けるかもしれないじゃないか。必死に言葉を探していた。彼女は腕を組んで
くる。薄暗い階段を上り小部屋の一つに入った。寝台が一つ、ランプの明かり
に照らされていた。
しーっと彼女は言った。傍らに座ってと言った。彼女はそっと俺の首筋に顔
を近づけた。なま暖かい息を感じた。石鹸のにおいがする。彼女が俺越しに、
俺の背中にある枕の上に手を置く。ぱふと羽毛が鳴る。明かりを消していい、
と彼女が尋ねる。どうしてと俺は答える。いじわると彼女は言った。体が動く。
そしてランプの火が消えると、彼女の右手が俺の腿の内側をそっと這った。俺
は後ろに倒れた。女の重みを感じた。手はもう触れていた。暗闇で目を閉じた。
少し声を上げた。足音がした。
足音。
俺は起きあがった。すると背中から誰かが俺の両肩をつかんだ。
お父さん、という女の声が聞こえた。
俺は身を固くした。両肩の男の手が力強く肩を揉むように動いた。
お、お父さんはマッサージ師でね、イシスの女王さまに呼ばれることもある
のよ。慌てたような女の口調。部屋の扉は空いているようだった。ほんの少し
だけ薄明かりだけが差し込んでいた。
不意に男の手が離れた。そして平手の音がした。何かが床に倒れた。女の小
さい声が聞こえた。振り向こうとする間に男の手が再び俺の肩をつかんだ。
勇者さま。肩を揉みながら野太い声がした。
申し訳ありません。どうかこのままお引き取りください。
俺は頷いた。そして立ち上がって、傍らに外していた剣帯代わりのベルトを
締めた。少し手が震えていた。入口を去るとき、女が走り寄って俺の首に唇を
押し当てごめんなさいと言った。男が女をひきはがす。俺は頭を一度深く下げ
ると階段を降りた。
建物の入口の脇にタウルスが背を壁にもたれるように腕を組んで立っていた。
「君が」
呼んだのかという言葉は飲み込み俺は言った。タウルスはきょとんとした顔
をしている。
いやいいんだ。俺はつぶやいた。タウルスの顔から表情が消えた。どうだっ
た、と彼は抑揚の無い声で尋ねてきた。
俺に言葉は無かった。
酔いつぶれるシモンの隣のベッドに腰掛け、タラミスは、と俺は尋ねた。教
会だろ、と暗闇の中からタウルスの声が返ってきた。俺は横たわり、シーツを
肩にかけ眠った。翌朝、まだ朝靄がたゆたう中、タラミスは宿屋の一階の食堂
で旅支度を整えて無言で席に座って俺達を待っていた。
***
アッサラームでは父の消息は聞けなかった。その代わり「魔法の鍵」の噂を
何度も耳にした。それが何なのかはよく分からない。ただ大勢の人間がそれを
求めているということだけは分かった。アッサラームの西に広がる広大な砂漠
の南端にいる老人が何かを知っているらしい。
途中大きな石造りの建物を見つけた。シモンによればピラミッドというらし
い。中に入ると十字路で落とし穴にはまった。うごめく死体に襲われた。魔法
はなぜか使えなかった。体力回復かなわず死人が出た。ルーラでアッサラーム
に戻り生き返らせる。
そして砂漠をつっきりオアシスへ行った。そこがイシスの城だった。
若く美しい女王が玉座にいた。宮廷にはお付きのやはり若い女性たちが大勢
いた。彼女らは皆美しかった。アリアハンの勇者だということで俺達は彼女た
ちにつきまとわれることになった。兵士達は女王に心酔していた。俺達の歓迎
は厚くもてなされた。砂漠周辺を回り、険しい山脈に囲まれこの先へはいけな
いことを確認した。イシスの宿にも泊まった。建物はどれも清潔で美しく食べ
物はどれも美味だった。俺は仲間達に笑ってこの城は素晴らしいと言った。タ
ウルスとシモンが明るく同調した。タラミスは無言だった。アッサラームの夜
以来、ずっとそうであるように。 (つづく)
***
大分日記アップするの遅れてしまいました。今日はゲーム時間の倍の執筆時
間がかかりました(-_-; 陳謝。
(9/21 2:30)
1997年9月21日 (日)
ドラクエ日記10日目。
ピラミッド周辺を探索中。死にまくる。
***
イシスの城を中心にピラミッドを探索することにする。一応の目的は、「魔
法の鍵」を見つけることだが、俺自身なぜそれを求めるのかうまく説明できな
い。おそらく魔法の鍵は、今持っている「盗賊の鍵」では開かない扉を開ける
ことができるのだろう。その扉は町中に、そして王城のあちことにあった。
そしてその扉の内側をのぞき見なければ、魔王のそして……父さんの足どり
を追うことはもうできない。そこまで俺達は行き詰まってしまっている。これ
はどういうことかと言えば、つまり、誰かが何かを秘密にしており、それが魔
王の元へ行くことを阻んでいる。そういうことだ。
その秘密を持つ者たちは魔王の元へ俺達が近づくのを快く思っていないのだ
ろう。触らぬ神になんとやらって奴だ。扉を閉めて。
だが一方で魔王を倒さぬ限り未来は無いと思っている者もいる。王の多くは
そう思っているようだし、俺をこんな体にした教会の奴らもそうだ。俺は彼ら
の意思に従って生かされ戦いに赴かされる。
分からない。しかし、だからこそ知りたいと思う。そう。俺はただ知りたい
だけなんだ。その為に俺は進む。例え誰かが俺を責めようとも。例え、その声
が聞けないとしても。
***
砂漠の魔物はどれも手強い。飛び猫は呪文を封じるマホトーンという魔法を
使ってくる。ムカデは火を吐く。茸は眠りの魔法をかける。ピラミッドは、罠
だらけだ。宝箱に擬した古代も魔術師によるクリーチャーにより俺達は何度も
死んだ。魂はさまよいっぱなしだ。その異世界の出来事についてはまるで覚え
ていない。ただ漠然とした闇としてあるだけだ。それでも夜、夢の中でその闇
の記憶の片鱗らしきものに触れることがある。そこには光と闇が等価値に存在
している。たまに何かの光景を結ぶことがある。俺自身の記憶であったり誰か
の記憶であったりする。小さな少女が泣いているのを見た。大きな馬車が、土
煙をあげて通り過ぎるのを泥だらけの顔で見送る姿を見た。川面の中に赤い光
石を見つけ、それを手に取ろうと中に分け入ろうとするが、流れが強く体のバ
ランスが崩れそうになり慌てて両手を広げて、しか結局倒れてしまったり。灰
色の顔をした人が自分を囲んで異国の言葉をしゃべっていたり。
気がつくの教会のベッドにいる。
また死んで生き返ったということを悟る。そしてまた夢を見るのかと夜を恐
れたりもする。すると何か具体的なものが欲しくなる。だからまた戦いを求め
て旅にでる。この繰り返しが続いた。
大きな猫の着ぐるみを見つけたことがある。魔物が持っていたものだ。着る
とイシスの王城でみた大柄なエジプシャン・キャットと似た格好になる。俺は
それを着ておどけてみせる。タウルスとシモンが呆れ顔をする。タラミスは見
もしない。
すると飛び猫が襲ってきた。結局そのまま戦った。からくもうち倒すことは
できたが俺は不機嫌だった。魔術師と戦士の笑い声。
結局、それはアリアハンに戻って懐かしの酒場にいついている男……預かり
屋と彼は自称している……に金を渡して預かってもらうことにした。ちなみに
彼にはあのノームの胴着も預かってもらっている。その日は久々に酒場で飲み、
アリアハンの宿に泊まった。実家による気は起きなかった。タラミスは教会で
一晩を過ごしていた。翌朝イシスの城へ、久々にキメラに連れられて飛んだ。
憂いを秘めた神秘的な姿の女王には心が動かされる。民が背負おうべき心配
を……主に魔王のことだ……を代わりに全て引き受けているようにも見えた。
旅の話が聞きたいというので話をしたりもする。驚いたり笑ったりしてくれる
ことがこっちとしても心が和んだ。イシスの女王は問う。もう旅にいかれます
か。俺は答える。今日は少し城下町で休ませていただきたく思います、と。し
ばしの休息を取る。今夜は夢を見ないようにと願いながら。 (つづく)
***
ジヲシティーズ同盟の看板のデザインを少し変えてみました。やはり多くの
人が集まる場にするためには多少の見栄えの良さも必要だと思ったのだ。ペー
ジを紹介する時にもあんまりにも格好悪いとしづらいであろう。何より中身が
無いわけであるから。
(9/22 0:05)
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