MORIVER'S SWEETEST DIARY (53) 更新日記 (53)

8月 2日(日) おひさしぶり/長い・キリング・心臓/一日マックユーザー
8月 6日(木) むしむし/まずい/億劫/「心」にあるもの
8月 8日(土) 鬱を楽しむ/まるこの別居
8月 9日(日) 眠い/リンク依頼覚え書き
8月 13日(木) 増設計画/誤字/ごきげんよう



1998年8月 13日 (木)  あら、もう木曜日だわ。おはようございます、みなさん。 ***  家でページを見るのがますます壊滅状況です。メモリをメーラーが使ってし まうのか、一ページみるごとにハードディスクが読み込みと書き込みを始める。 一分たって一ページでは見る気がまったくおきない。  ということで、メールぐらいしかほとんどチェックしていません。会社では ページをみまくっているのですが、その差の大きさには愕然とします。決して 無茶苦茶早いというわけでもない会社のものよりずっと遅い今では……。  メモリを強化は急務。そしてハードディスクも。なんと2年近く使って初の 増設計画。こっちの方が珍しいのか。 ***  掲示板での指摘に従い、日記の誤字を少しあらためる。もっとも過去にさか のぼると文章の中身も含めてかなりの変更が必要になるだろう。たまに、過去 の日記を見ている人もいるようなので、書き直したりリンクを直したりするべ きなのかもしれませんが。なかなか気力がわきおこらずに申し訳ありません。 ***  上の妹が夜の12時になっても帰らない。  母はいらいらして携帯電話に電話する。留守電だ。  「おかあさんです。早く帰ってきなさい。連絡をください。ではごきげんよ う」  と言って切った。  「……『ごきげんよう』って何だ」  私のつっこみを無視して母は二階へと去っていった。 (6:21)
1998年8月 9日 (日)  眠い。猛烈に眠い。  メールも幾つか書いて、掲示板に書き込みしたら力つきた。 ***  以下業務連絡。というか本人の覚え書き。  パンダ部屋ギャラリーに画像を少し追加。ちぇりさんからの頼まれもの。  あと、リンク願いが出ているのにほうったままなのが幾つかあるなり。  http://www.geisya.or.jp/~t-taka/doraemon/  たかはしさんの「ドラえもん」というページ。一部で騒ぎになった、ドラえ もんの最終回についての話題をあつかっています。ここに自動登録制のリンク 集があります。パーマンリンクから張る予定。  http://members.tripod.com/~NET_STREET  「NET STREET」。リンク集のようです。どこのページに僕のページがリンク されているのかは不明。  http://www.raidway.ne.jp/~iharay/  これはパーマンに感想を送ってくれた方のページ・・  http://www.imix.or.jp/nark/links/evalink.htm  「Going round EVA S.S.」  エヴァ小説の更新記録をチェックしているページ。僕は何も更新していない ので心苦しいのですが・・。  http://myweb.to/LOVE  ジヲ同盟参加希望の、「ちゃぼさん」の部屋。  同盟のページもいい加減リニューアルしないといけない。異様に読みづらい ですものね。  それから「ジヲライフ入門」のリンク集に紹介したページにもリンク許可の メールをだしていないし。  なにより、暑中見舞いを出していないぞ!! もう立春すぎたから残暑見舞 いか。 ***  ほかにも何かありましたらメールよろしく。それと最近、メーラーをBecky! に変えたので、その変更の最中にメールが紛れてしまった可能性があります。 もしお急ぎの件ありましたらメールください。  あと言い訳なのですが、最近パソコンの調子がおかしくページが表示される のに異様に時間がかかります。メモリ買わないと駄目なようです。それとハー ドディスクの増設と。98なんて先のまだ先です、はい。 (8/10 2:08)
1998年8月 8日 (土)  愚痴る、というのは基本的に恥ずかしい行為だ。言う度に自分の価値を下げ ているようでもあり、また、聞かされた身としても多くの場合、苦痛を受ける だけである。  とは言え、何も言わないで我慢していることが健康をますます損なうと感じ る時には恥を忍んで愚痴ることがある。  今、やや私は鬱気味である。  他人の全生活を見たことが無いので分からないが、少なくとも、私は「とて もハイ」か「とてもブルー」か両極端な自分を感じることが多い。医学的に分 からないがこの状態を私自身は「躁鬱気味」と呼んでいる。  鬱、などと恰好よく呼んでいるが、要するに自分でも意識できていない悩み があるのだと思う。もしくは問題を直視するのが嫌で、意識しまいとするのだ が、現実にはそうもいなくて、その狭間で心が「沈んでいる」だけなのかもし れない。  まあいずれにせよ「暗い状態」ということだ。  具体的にはまず眠くなる。面倒なことが起きるとすぐに眠気を感じる。眠く なくとも眠りたくなる。  それから人と話をするのが面倒になり、返事がぶっきらぼうになる。何しろ 眠いのだ。布団をかぶってまどろみたいのである。実に後ろ向きである。  それでもやらなくちゃいけない時はしょうがないので後ろ向きで歩く。ス ピードは遅いし、行き先が見えないし危ないことこの上無い。たまに電柱にぶ つかりそうになるが、本当にあたったら延髄直撃なわけで命にもかかわる。だ からやはり寝ているのが一番なのである。  幸い、我が家には文明の利器であるエアーコンディショナー、通称エアコン が装備されている。もう何年も昔に買った古い機種だががんばってくれている。  ちょっと肌寒い中、はおった毛布が肌にすれる感じが最高である。至福であ る。ブラボーである。自分でも安上がりな人間だと思う。しかし、この生理的 感触には有無を言わさないものがある。ちょっぴり誰かがそばにいたくて、セ ンチメンタルになる時もあるが、それは贅沢というものなのであろう。  たまに起き上がり、紅茶など飲んでみる。湯気が鼻孔をくすぐる。これがま たいい。カフェインが入ると眠れなくなりそうなものだが、私の場合はすでに カフェイン中毒になっているので少量ではまったく効かない。眠い時は眠い。 そしておやすみなさいなのである。鬱って最高。……違うか。 ***  ちょっと前のニュースだが、「ちびまる子ちゃん」や「もものかんづめ」で 有名なさくらももこが、夫と別居中で、なおかつ離婚しそうだと聞いた。  旦那さんは、もと「りぼん」の編集者。結婚した後は、彼女のマンガ制作を 会社組織として行い、アニメなどの著作権の管理などをしていた。しかし、そ れが逆に彼女の作品にまで深く関わることになり、意見が衝突、ついに別居と なったらしい。一説によると夫の女性問題とも言われるが定かではない。  ほかにもさくらももこの両親なども東京に呼んで住んでいたとも聞く。まる でマスオさん状態だが、こういった彼女の家族とのむすびつきも何か夫に対し て影響を及ぼしていたのかもしれなお。はたまた、彼女のエッセイにもあるよ うにあまりの色気の無さに何か嫌気がさしたのか。  事実が分からない以上、結局はワイドショー的なコメントしかできない。た だ、読み手の側としては、たしかに結婚初期、あれほどべた誉めしていた夫の 記述が段々と減り、子供のことと自分の思い出話に終始しているのが不自然と 言えば不自然ではあった。事実、最近の彼女のエッセイはあまり面白いと私自 身は感じてた。これは、単に私の文章の好みが変わったせいかとも思っていた が、そればかりでは無いのかもしれない。何かを隠そうとすると筆が萎縮して しまうということはよくあることだ。  それはそれとしてやはり、これは悲しいニュースだった。彼女につきまとう 「家庭的なものが自分を支えている」というイメージが強かった分だけ余計そ う思う。それでもエッセイは売れているという。彼女の口からいつかはこのこ とも語られるだろうとは思うが。死ぬまで夫婦というのはもはや幻想以下の考 えなのかもしれないとも考えてみる。 (8/9 2:57)
1998年8月 6日 (木)  暑い。そしてむしむしとしている。表を十分も歩けばシャツの内側は汗でに じみ、スラックスも窮屈なものに感じてくる。 ***  タイに行くという計画がある。9月の半ば頃だ。しかし、未だパスポートを 取得していない。これはまずい。  ということで、今日、役所に行って住民票その他をもらって、手続きをして くるはずだった。しかし、午前中あまりのだるさに眠っていて、ついにその機 会をのがした。さらにまずい。 ***  お気づきの方も多いと思うが、カウンターが壊れたままになったままになっ ている。どうにかしないととは思うものの、技術的にどうすればいいのか分か らない。カウンターを管理しているGeoCtiesに連絡をつけるべきなのだが、そ れも億劫がってできない。  なにもかも億劫。それが今の僕。日記もまた4日ぶりである。 ***  新聞を読む。毎日新聞の今日の夕刊のコラムに、「アメリカ人の48%は、一 生のあいだに何らかの精紳的異常を訴えたか薬物中毒の経験がある」という一 文があった。  日本よりも精神科に気軽にいけるという風土があるからかもしれないが、こ れはまた結構な人数の人が精神的なことで苦しんでいることを意味している。 マザーテレサは以前、演説の場で、「文明国の人間は、飢えや貧困からはまぬ がれているが、心の病というものをかかえている」と言っていた。  世間的にも嫌になるほど「心の癒し」がブームだ。かく言う僕自身も、カウ ンセリングやら心理療法やら精神分析やらにのめりこんだ経験がある。そして、 自分の中にいかんともし難い心のしこりがあることも認めている。  2日の分に書いた「心臓を貫かれて」を読み終えた。常習的に強盗などを繰 り返し、仮出所中にユタ州で二人のモルモン教徒の男を無造作に銃で殺害し、 金を奪って捕まったゲイリー・ギルモアを題材としたノンフィクションである。  作者は弟のマイケル・ギルモア。この本は二年ほど前に出版され、訳者が村 上春樹であったことも手伝ってそれなりに売れた本だ。もっとも、僕が買った 版は第八版であるが、日付は96年12月となっている。初版は96年10月。まさに 一時売れて、忘れ去られた本だ。だが、内容はもっと長く読まれてもいいもの である。いや、読むべきとも思う。  話は、詐欺で刑務所を出入りするような男であった父と、モルモン教徒の家 庭に反発した母の物語から始まり、その後地道な生活に入りながらも家庭内で 母に子供たちに暴力をふるいつづけた軌跡が、調査と作者の記憶を交えながら 記されている。  これを読んで教訓めいたことをひっぱり出すことは簡単だが、そんなことを した時点で、本書のもつ事実の深さは何も読み取れなくなる。なにより証拠に、 この本に関する書評は幾つも読んでいたが、実際に読んだ時に感じたことを、 的確に記してくれたものは無かった。  幼児虐待という言葉がある。英語の Child Abuse の訳語である。Abuseとい うのは虐待という語よりももっと広く「ないがしろにする」とか「粗末に扱 う」という意味を含んでいるという。  つまりこのチャイルド・アビューズとは子供を親が保護するどころか、自分 のかかえている何かしらのものを子供におしつけることを意味する。もちろん、 実際においてはやはり殴ることや足蹴にののしるなどの行為を伴うものなのだ が。それもこの本には嫌というほど描かれている。そしてそれを理解しようと する子供の視線がまた辛い。  子供を愛せないという人は多いという。家族というもの自体を作れないとい う人もいる。そんな人はたしかに昔からいた。しかし、だからと言ってほうっ ておいていい問題では無い。何と言ってもそれは他人事ではなく、多くの人の ……つまり僕も含めてだが……の問題であるからだ。  僕は父と母が子供頃の話をあまり知らない。母親は時折断片的に話してくれ ることもあるが、それはほとんど限られた範囲におさまっており、きまって子 供に対する説教に使われた。つまり「お母さんが子供頃は……」というやつだ。  父親に関しては、祖母の存在から聞いたことが幾つかあるが本人から聞かさ れたという思い出が無い。大学を出て、しばらく他の会社に就職した後、祖父 の興した会社に入って現在に至る。会社と言っても、身内ばかりのごく零細で はあるが。  どうも他の家の話を聞く限りでは、我が家は少なくとも会話があるという点 で仲良く見えるらしい。それはまあいいことだ。しかし「親のいうことは結局 のところ正しい」とまで思うほどお気楽というわけでも無い。親に対する動か しようも無い信頼感をいだく人の話を聞いていると強い嫉妬を感じてしまうと いうのが、僕の最大の弱点でもある。  だが気づいてしまえばそれは自分の問題となってしまう。そうしない可能性 があるのにそれをしなければ、それはその人の責任である。そう言った意味で 僕はいわゆるアダルトチルドレンの一般的な捉えかたが嫌いだ。問題のある親 がいるから自分は悪くなった、という奴だ。免罪符にしてはいけない。少なく ともマイケル・ギルモアと三人いた兄の一人、フランク・ギルモアという人は そうはしなかった。  世界は複雑であることが明らかになった以上、その世界にいる自分も複雑に ならざるを得ない。単純な視点を持つことは必要だが、その単純な視点はまた 複数あるのも事実だ。個人がそういったものを受け入れない限り、もっと最悪 の混乱……例えば戦争……が起り、もっと事態が決定的に悪化する。だから受 け入れようと思う。 ***  おやすみなさい。 (23:33)
1998年8月 2日 (日)  ぼうっとしている間に一週間以上も日記を明けてしまった。そしてこの間の 日記を埋めようと思っても、それはなかなか難しい。これが、小学校の時の宿 題としての日記ならばそうしたかもしれないが、事実は違う(ちなみに本当に 日記の大部分は夏休みも終わりに近づいた頃にまとめて書いていた。続けて書 くと筆跡が妙につながって見えるので、わざと3日おきに書くのを3度繰り返 すという手間をかけたこともある)。 ***  見たもの、読んだもの、に関しては、レイモンド・チャンドラーの「長いお 別れ」を読んだ。まあまあというところ。ただ主人公の探偵フィリップ・マー ロウが想像以上にセンチメンタルで、ロマンチストな線の細い人物なことに驚 いた。そしてなぜか読みながら村上春樹の文を思い出していた。  村上春樹と言えばマイケル・キルモア著、村上春樹訳の「心臓を貫かれて」 を読んでいる。連続殺人犯にして銃殺刑にされた兄ゲイリー・ギルモアと家族 について記したノンフィクションとも自伝ともとれる作品である。まだ途中ま でしか読んでいないが、自分と家族とそして兄の話を、思い出ではなく調査の 上で、再構成しているのが、事実だけに恐ろしく、そして時に深く感動する。  だが決してアレックス・ヘイリーが黒人奴隷の祖先を描いた「ルーツ」のよ うな苦難を乗り越えた英雄的物語ではない。だが、事実はやはり重く、複雑だ。  事実と言えば、NHK教育で、「キリング・フィールド」が放映されていた。 ビデオに取り損ねたのでリアルでそのまま2時間以上もあるその映画を見てい たが、やはりその「事実」であるところに心を動かされる。  カンボジア内戦下における、アメリカ人ジャーナリストと現地のカメラマン 二人の友情の話、というのが一応の解説とされる。もっとも、話はもうちょっ と複雑だ。全体は二部に分かれ、前半は内戦の激化とそれにともない、記者団 が革命グループに軟禁させられ、カンボジア人であるカメラマンは、連れて行 かれるところで終る。  後半、無事帰国したアメリカ人は、彼の消息をさぐるもうまくゆかず、賞を 受けれも心が晴れない。しかし、カメラマンは生きていた。原始生活のような 強制労働をさせられる「コミューン」のような場所で、洗脳と処刑がくりかえ される革命グループのキャンプで。  そのキャンプの様子での生活が淡々と描かれているのが怖い。ほとんどセリ フは無く、スケッチのように描かれているのだがそのカメラマンが逃亡し、サ バイバルするさまは、地獄絵図となっている。物語は一応、主人公二人が再開 する所で終るのだが、カンボジアで何があったのかを初めて知って、素直にハ ッピーエンドとは受け止められなかった。退化に思える生活を送らせる革命グ ループの所業もまた現代の生活であるというのは恐ろしいことだ。ナチス的な ものは世界にまだまだうようよいるのだと実感させられた。 ***  掲示板でちらりと書いたことだが、先日、マッキントッシュを初めてまとも に使った。  それは、7月28日の朝から始まる。  いつものようにのろのろと出かける支度をしている時に、PHSに留守電が 入っていることに気づいた。時刻は夕べの8時頃。再生するとバイト先の社長 からのメッセージで、明日、すなわち今日、姉妹会社の方に直接手伝いに行っ て欲しいので連絡をくれ、というものだった。  慌てて、電話する。若社長が出て、とにかくその会社へ向かって欲しいと言 われる。それは表参道にある。いつもの渋谷ならば出社時間に間に合うが、表 参道となるとやばい。  だが、ともかく出かけた。 ***  何度か電話で場所を確にしてついた時には予定より10分遅れていた。落着 かない僕の前に担当の人が現れ仕事の内容を説明していった。そして、パソコ ンの前に連れてゆき、自分は午後2時過ぎに戻るからそれまでに作業を頼むと 言って去っていった。  仕事内容はテキスト文章での文字の打ち込み、エクセルを使ってのデータの 整理だった。  幾つかのファイルを見せて説明してから、担当の人は慌てるように去ってい った。そして僕は、その場に座り、ボタンが一つしかないマウスを握り締めな がら、自分はマックでテキストファイルを新規作成する方法を知らないという 事実に気づいて愕然としていた。 ***  冷静に考えるとマックを使うことはおろか触れたことも数回しかない私であ る。そもそも全角と半角はどう切り替えるのだ? カタカナ変換のやり方は?  そして何よりテキストファイルの作り方が分からない。  ウィンドウズの場合は「メモ帳」というのを実行すればいい。マックの場合 は「シンプルテキスト」がそれにあたる。右上にあるのがハードディスクの中 身を開くアイコンだという知識だけはあるので、開いてみるが該当するものが 無い。  「検索」というメニューを見つけたのでsimpleで探してみるも、出てきたア イコンを教えてもエイリアスがありませんとかなんとか出るばかり。ファイル を開いたり、閉じたりを繰り返す。5つも6つも開いては消し、開いては消し た。変なところを押すと、棒一本になった。これもウィンドウズには無い機能 だ。しかもその際に「シュ」という音がするのでその度にどきりとして、つい 辺りに注意をはらってしまう。  そもそも「文字を打ったり、HTMLを書くことは問題ありません」と大見得を 切ったのが原因だ。マックになったら、文字の入力すらもまともにできないと は自分でも気づかなかった。  ハードディスクを漁り、上にあるメニューのボタンを一通り押しているうち に40分がすぎていることに気づいた。まずい。  そうさ。あるべき社会人というのは分からないことを分からないといい、仕 事の完成を優先させるべきものだ。くだらない、見栄のために、時間を浪費す るなんてアホもいい所だ。  しかし、と冷や汗を流しながら一方で思う。自分はウェブのデザインなども 一応できるという触れ込みで今、この場所にいるのである。ここでいきなり、 マックは基礎の基礎の基礎も分からないど素人だと思われたら、僕の評価は一 気にさがりまくり、道端の人を捕まえてきた方が早いとすら思われるかもしれ ない。そうしたら次は重要な仕事をまかせてくれなくなるかもしれない。  よし、あと10分考えてわからなければ人に聞こう。そう決心した。  そして10分がたった。  僕は席を立って、トイレに行くふりをして、エレベーターに乗って会社のビ ルから抜け出した。そしてPHSを取り出し、数人のマックユーザーの友人の 電話を鳴らした。  全て留守電状態だった。 ***  不気味な笑みを浮かべて僕は席に戻る。隣の席には少し年上の少し奇麗な女 性社員がウィンドウズ95を動かしている。なぜ、僕はマックなのだ。なぜ。  ヘルプ画面を呼び出し、ことえりのヘルプを読んでみる。そう、辞書は悪名 だけは聞き及ぶ「ことえり」だった。とにかく、「コマンド」キーというのを 押してスペースキーを押せば半角と全角が切り替わるのはわかった。マックの ヘルプは分かりやすくて感動ものではある。  出来あいのファイルを修正したりしている。そのうちに、上のメニューバー の「編集」やら「ファイル」やらの中身が変化していることに気づいた。  何度かためしているうちにフォルダーを一番上にすると、フォルダーの操作 ができ、テキストファイルを上にするとテキストファイルの操作ができること に気づいた。ウィンドウズの場合はこのメニューが「窓」ごとにあるのに。  ともかくテキストファイルを一番上にすると「新規作成」という項目があっ た。押してみる。名称不祥というファイルが出来た。  あ、と思う。できた。できるじゃないか。  だが、名前はどう変えるんだ? ファイルの削除の仕方は? フォルダーは 上の階層までたどれないのか? そもそも、どうやってファイルを保存するの か?  仕方が無いので、もう一つ頼まれていた資料のコピーの傍ら、コピー室の傍 らで、「マックトラブル集」を読むことにした。お昼休みは返上しなくてはな らなかった。 ***  新しい動作をする度に、上のメニューバーの中身を確認する、という作業を くりかえす内に、なんとなくやり方が分かってきた。ネットの接続の仕方とい うような応用編のマニュアルしか無かったが、見ているうちにファイルの扱い かたなどのパターンはつかめてくる。  作ったファイルもとにかく閉じてしまえば「保存しますか?」とはでてくる。 のちにメニューバーのボタンをつかったり、コマンドSでできることも分かる がともかくそんな風にして最低限の動作は覚えていく。ハードディスクの中身 も漁りまくったお陰で構造が見えてきた。  やがて担当者が帰ってくる。フォーマットが分からなかったので進まないと いう半分は本当、もう半分は嘘の言い訳を述べて、もう一度資料を見直す。  操作も覚えた今、やっと仕事の内容自体も理解できてきた。そして、ある時 突然、仕事の全体像が見えて、あとはひたすらに打ち込みとエクセルでのデー タ整理に追われた。自分なりの工夫方法や、既にできていた部分のデータの修 正必要部分にも気づいてくる。ちなみにエクセルの使用自体、その時が初めて だったが、やはりウィンドウズ用のエクセルのマニュアルを見ながら、かつ、 開き直って手時かな社員に聞きまくって仕事は続けた。 ***  さすがに最後の三時間は椅子から一瞬も離れずにやっていたので、「予定」 と思われる範囲の仕事は終えられた。気がつけばマックに愛着すら感じている。  ただ、正直いって「ことえり」の馬鹿さ加減もそうだが、コピー&ぺースト がマウスだけではウィンドウズよりも面倒だということには気づかされた。  ウィンドウズの場合、文字反転による範囲指定したあと、右クリックですぐ、 コピーかペーストかを選択できる。マックだと、「編集」かコマンドキーを使 う方法のみだ。この一点においてはウィンドウズの方に軍配があがる。  ただ、ある意味、何も知らない状態から数時間、勝手にいじっているだけで 操作方法が分かるということは、マックのOSとしての分かりやすさを示して いるとも言える。  ともあれ、帰り際にアイスクリームの詰まった、メロン味のシュークリーム を頂戴し、会社を後にした。  一日マックユーザー体験。そんな言葉が脳裏にブリンクしていた。 ***  教訓。必要に迫られると集中力と学習能力は高まる。  ちなみにマックの電源の切り方はまだ、知らない。 (8/3 0:05)

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