PET検診では、肝臓・腎臓・膀胱のガンは5cm以上あっても発見できません。原理的・科学的に絶対無理です。こんなのは、ガンの早期発見に意味をなしません。
京都では3台稼動しています。多いほうです。大阪で先月やっと一台動きました。大阪人も京都に大勢来ていたようです。経済力は大阪の方が上ですから・・・。
知人がFDG-PETの責任者なので、先日予約も無しに上京区の病院に押しかけて、無理やり見学してきました。再発ガンなどには非常に有用な検査です。
PETは、医師が十分な知識を持ち、原理と適応をわきまえて使用すれば、すばらしい成果もあげることができます。しかし、素人が「5mmのガンも全部わかるらしい。」と押しかけて、高額の検診費を払っても、設置者は儲かるのですが、見落としもかなりの症例になるのです。
科学を理解できないマスコミが、「5mmのガンも早期発見できる」と騒ぐものですから、素人が押しかけています。またもです・・・。
金持ち相手の、日経系列の雑誌で盛んに勧めるようです。
数年前、私のような貧乏医者にも間違って、お金持ち用の見本誌が送られてきました。そこには、韓国へいってPET検診を受けようという特集号です。多分PETということで医者が送付先に入ったのでしょう。たしか20万円でした。マスコミにのせられたお金持ちは多かったのでしょう。今は、10万以下です。
「5mmのガンも見つかる」はウソではありませんが、正しくは「種類によっては5mmのガンが見つかることもあるが、5cm以上あっても見逃すガンも数多い。」がより正確です。一般的に、解像度は劣るので、5mmも怪しい数字です。
原理
素人用に、簡単にまとめます。
PETとはpositoron emission tomographyの略です。陽電子を利用した、CTの一種です。
陽電子放出核種はF・C・O・Nなどです。
PET検診(誤用です)とはこのうち、F(フッ素)を利用し、Fluoro-deoxy-glucose(フッ素の結合したブドウ糖)を用いた検診をさします。
正確には、FDG-PET検診と呼ぶべきです。
半減期が短く、被爆の少ない陽電子放出アイソトープは、半減期が短いため工場で生産しにくいのです。ところが、小型サイクロトロンの低価格化が進み、数億円で病院に設置できるようになったので、実用化したのです。日本で初めて検診が始まりました。世界的に検診が有用であるというデータはありません。
ただし、患者さんの被爆は少ないのですが、医療関係者の被爆量は多く問題です。周りの者の被爆は無視できません。
ガンは代謝が早く、ブドウ糖を正常細胞より多く取り込むので、ガンの部分が黒く描出されます。時間も短縮され、30分くらいでほぼ全身検査は終了し、苦痛はありません。
ここでも解るように、代謝があまり早くないガンは写らないのが理解できるでしょう。
欠点
1.大きなガンでも写らないのがある。
a. G6Paseの多いガンは大きくても写らない
ブドウ糖代謝が早く脱リン酸化されると、取り込んだ偽のブドウ糖が排出され集積像が得られない。高分化がん(一般に早期で悪性度が低い)ほどそうである。低分化のガンでは写ることもあるが、それでは早期発見の意味が無い。この原理から、肝臓ガン・腎臓ガンはかなり大きくても集積しない。
b.糖代謝の少ないガンは集積しない。
取り込みはglucose transporterの量に依存するので、これらの発現量が少ないと集積しない。
c. 不要な偽ブドウ糖は腎臓からすみやかに排出されるので、腎臓・尿管・膀胱に集積し、それに隠れてガンは見つからない。前立腺も、膀胱に隠れて見えない。
d.粘液が貯留するタイプ、壊死が多いタイプは細胞密度が低いので、集積しない。
mucinous carcinoma・嚢胞ガン・印環細胞ガン等。 間質の多いスキルスガンも集積しない。胃がんは見逃し多い。肺癌でも、表面に拡がる早期肺胞上皮ガンは、4cmでも密度が低く集積しない。肺はCTの解像度が圧倒的に有利。
e.生理的集積の多いものもだめ
脳腫瘍も見つかりません。正常胃にも集積しますので、胃がんの早期発見は無理です。
f.その他
食道ガンも見つかるが、進行ガンがほとんどで、早期ガンは稀。延命に効果は無いであろう。
2.見逃し率は約25%以上
学会の発表がありました。PET検診を併用している検診でのガン発見率は1.35%でした。そのうち、PETでも集積していたのは0.92%であり、残りの0.43%はPETでは検出できませんでした。他の文献でもSUV2.5をカットオフ値として、既知のガンの検出率は77%でした。(転移などを見つけるために行った検査の集計)
3.活動性の炎症とガンは区別できない。
結核・肺炎なども集積する。手術後2月以上、創の反応で検査不能。
4.見つけすぎのガンがある?
女性の検診受診者の異常の半数近くは甲状腺ガンです。しかし、死亡率、発病率、有病率から見ると異常に高値です。不要な「ガン」を治療しなくてはならないようです。
大腸がんは良く見つかりますが、これは良性の線種にも集積するためです。これは、許せる範囲ですが。
ガンの再発の早期発見・転移巣の早期発見(それによる無駄な手術を回避し、化学療法への切り替え)・脳腫瘍などの放射線壊死と切除取り残し・再発との鑑別等には非常に有用な検査です。普及を望むものですが、それは知識のあるプロが使用して有用だからです。素人が押しかけて、「これさえ行えばガンは大丈夫」と考えられるようなものではありません。
肺癌にはCTが極めて有用です。しかし、アメリカ政府もその有用性に着目し、国として検討していますが、死亡率が下がるという明確な根拠はまだ示せません。
ましてや、PET検診が死亡率を下げるというデータなど全くありません。学会主導で検討する必要がありますが、個人的にはきわめて悲観的です。
ひとつの検査で万全であるなどということは考えられません。
多数の検査を組み合わせるしかありませんし、科学的知識のあるものが利用するから、有効なのです。
マスコミの口車に乗ればよいものではありません。
糖尿病で血糖値が150くらい以上だと検査できません。
インスリン注射は少なくとも4時間前に終了しておかないと筋肉に集積します。
前日に激しい運動をすると、筋肉に集積し判定不能となります。
周囲の人の被爆が結構問題です。
1.他の方法でガンがあるのが解っているか、きわめて可能性が高いが詳しい情報が無い。血液検査等で再発の可能性がきわめて高い。
FDG-PETで75%は原発や転移の詳細が判明する可能性が高いので、きわめて有用。プロにとって長所の利用。それでも、腎・肝では超音波のほうがまし。胃・脳もまず無理。
2.素人がマスコミにのせられFDG-PETに押し寄せる
有用な例もあるだろうが、25%以上は見落としがあるのが確実で、陰性でも安心できない。大きな進行ガンでさえ見落としがあるのは確実。短所が顕在化する。
2005.6.2追加
男 | 女 | |
受診者数 | 23431 | 16354 |
平均年齢 | 53.5 | 53.8 |
がん発見数 | 287人 | 249人 |
うちPET陽性 | 171 | 196 |
うちPET陰性 | 116 | 53 |
現在の医学で見つからない癌 | ? | ? |
2004.12.01
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