2004.11.16追記
日本医師会雑誌 2004年11月15日号 132巻 1337ページに「ワクチン・水銀と自閉症」という河合 医院の論考が掲載されました。以下の文章を論文として書き直したものです。マスコミの科学知識不足からの贋治療法・贋健康法は目にあまるものがあります。TBSの報道特集を科学的に論破したものですが、日本医師会が私の見解に科学的根拠があると見ているから掲載されたのです。逆にいえば、デタラメなTBSの報道は科学的根拠が無いということです。責任を取るべきです。 報道の責任として検証すべきです。
LANCETは権威ある医学雑誌です。これに掲載されたので、パーティーを開いた人を知っています。それぐらい権威があるということです。
医師もこれに載っていればほぼ間違いの無いことなのかと思うくらいです。しかし、ひとつの論文で医学界で常識的に行われていることが完全にひっくり返るということはめったに無いのです。同じような論文が続いて定説となるかは見極める必要はありますし、時間もかかります。
そんなに軽挙妄動しては何事も誤ります。いつも軽挙妄動しているどこかの新聞とは違うのが科学者というものです。余りに斬新な論文には追試が必要です。それが科学的思考というべきものです。
1997年Wakefieldという人はMMRワクチンと腸炎や自閉症に関係があると発表しました。これが世界ではじめての報告です。(LANCET Volume 351, Number 9103、 P637、 28 February 1998) 軽はずみに動くのはどこの国のマスコミも一緒のようで、マスコミが大騒ぎするものだからワクチンの接種率は大きく下がりました。風疹や麻疹で死ぬ子供がイギリスで増加しました。どこの国にも狂信的なワクチン無用論者がいるようです。
この論文も、他の研究者がいくら追試をしても少しも追認するデータが出てこないのです。逆に公式に否定された論文が多く出てきています。
BBCのサイトを見ても、科学的根拠は、はっきりしてはいないがMMRと自閉症は弱い関係があるかもしれないといまだに載っています。もうすぐ変更されるでしょうが。
ところが、つい最近この権威あるLANCETの編集者Richard Hortonが「この論文は載せるべきではなかった」と非難を開始しているのです。(Volume 363 Issue 9411 Page 747、 06 March 2004)まったくこの論文はLANCETにより否定されたのです。
論文が掲載された年に著者のWakefieldは、アレルギー等「ワクチン被害者」の親から資金と依頼を受け訴訟の為に意図的にワクチンの副作用を集めていたという事実が発覚したのです。「ワクチン被害者」というのも科学的・裁判上もはっきり根拠のあるものではないようです。LANCETでもいわゆる(allegedly:裁判上の、理由無く訴えられた、係争中の)「ワクチン被害者」という表現です。(Horton R. A statement by the editors of The Lancet. Lancet 2004; 363: 820-21)
裁判中の「ワクチン被害者」が意図的にデータに混入されたようです。科学者は誤りと解れば大々的に訂正・修正するものです。LANCETの対応は納得できるものです。BBCは大きく取り上げ、対応をしています。http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/3512079.stm(数ヶ月でリンクが切れる可能性は大)
扇情的にでたらめを流し、死者が増えても撤回しない極東の小国のマスコミの対応とは大きく異なるものです。
驚くべきことに、極東の低レベルマスコミは、これらの経緯もご存知無いようで、確かTBSの3月7日日曜日夕方の「報道特集」なるいいかげんな番組で、「予防接種の水銀が自閉症の原因であり、キレート剤の投与で水銀を排出すると自閉症が軽くなる。」と報道したものですから、日本中で騒ぎになっているようです。アメリカ政府に科学的に否定され、捏造された論文に基づき、高額の治療費を請求している業者は大喜びでしょう。TBSは共犯です。かわいそうなのは、信じた自閉症児の親です。高額の治療費を払うからです。開いた口がふさがらないのが日本のマスコミです。医師からすれば、マスコミは軽蔑の対象でしかありません。
ここから、またも予防接種バッシングです。
予防接種液には保存剤としてきわめて微量の水銀化合物が添加されていたからです。現在はほとんど使われていません。チメロサールというものです。これはエチル水銀化合物に属します。
WHOによれば、いくら予防接種を頻繁に行っても安全許容量に納まっています。
水俣病を筆頭とする水銀被害はメチル水銀であり、エチル水銀とは異なります。メチル水銀は体内に蓄積するのに対し、エチル系はずっと早く代謝され、体外に排出され蓄積することは無いのです。水俣病でも、自閉症とは関係ないでしょう。
FDA,CDC等アメリカ政府あげての調査でも、予防接種の保存液に含まれる、きわめて微量の水銀化合物チメロサールと自閉症との関連も否定されています。(LANCET 358,1163,2001)報道に用いられた「論文」は、この否定された論文です。
排出された水銀は海に入り、環境中にとどまるので水銀は規制されるのは事実ですが、予防接種から必ずしも排除される必然性は無いというのがWHOの見解であり、自閉症と水銀は関係ないというのも世界の潮流、専門家の知恵の見解です。
イギリスでは科学的に正しい報道がなされているのに、日本では正反対のことが報道されるのは以前書いたインフルエンザ大流行報道とまったく同じ構造です。
新聞記者出身のえせ科学者が広めた、日本固有のダイオキシン騒ぎのように、笑いとばすしかないようです。
信じて、子供に予防注射拒否が広がらなければ良いのですが。
世界で最初に「予防接種が自閉症の原因だ」といった論文が、載せた雑誌LANCETから否定され、捏造疑惑で本国で大騒ぎになっているのに、アメリカ政府が水銀化合物と自閉症の関係を否定した論文に基づいて、「ワクチンの水銀化合物で自閉症」の大々的キャンペーン報道を行うのが日本のマスコミです。知性と理性の片鱗も感じられません。日本マスコミの科学理解力、判断力は余りにも低レベルです。繰り返される非科学的報道には構造的欠陥があるのでしょう。ぜひともマスコミの皆さんには構造的欠陥の検証していただきたいものです。
ある治療法を行って効果があったと判断するには、少なくとも薬の投与を受けていないグループと比較検討する必要があります。反論や比較も無く、使用経験者のみの「効果があった。」という主張ばかり並べ立てるのは、テレビショッピングの筋力トレーナーの類であり、科学的でなく卑怯な報道です。反対意見を検討しなかった報道は、マスコミの風上に置けない行動でしょう。TBSの報道姿勢にはあきれるばかりです。「報道特集」という名前を軽蔑するしかありません。意見のテレビショッピング的大安売りです。マスコミの本質でしょう。
アメリカでもイギリスでも否定された、科学的根拠のまったく無い治療法を大々的に宣伝し、自閉症児の親に大金を払わせるなど、マスコミは詐欺グループの一員でしかありません。疑惑は検証・追及していただきたいものです。
WHOにより、蓄積することのないというチメロサールの有害性を声高に叫び、キレート剤の有害事象は軽視するのがマスコミです。大量のキレート剤使用で副作用が出たらどう責任を取るのかみものです。まず絶対責任は取らないでしょうが・・・。効果は怪しく、副作用ははっきりしているのがキレート療法です。
事故が起これば、「過去の経験・教訓が生かされていない。」と非難をはじめるマスコミですが、いつまでたっても、国際的に比較して、科学的に低レベルの報道は繰り返されるのですが・・・。過去の経験・教訓を生かしてほしいものです。何とか検証していただきたいものです。
結論
1.権威ある科学者や権威ある雑誌に載った論文も、いつも正しいとは限らない。論文を少数読んで、専門家になったつもりになるのはやめましょう。
2.日本ではしばしば海外の正確な報道が理解できず、マスコミが世界の潮流と正反対の見解を述べ、信じた一般人に生命の危険さえ及ぼす。
3.WHO・FDA・CDCの英語くらい読破・理解しないで、報道するのはやめましょう。恥をさらすだけですから・・・。
4.マスコミを信じるより、専門家を信じよう。真の専門家はマスコミを軽蔑していますから・・・。
初級システムアドミニストレーター 医学博士 河合 尚樹
P.S.
河合 尚樹の怒り
アメリカ政府の調査でも、予防接種の保存液に含まれる、きわめて微量の水銀化合物チメロサールと自閉症との関連は完全に否定されています。(LANCET 358,1163,2001)
Horton R. A statement by the editors of The Lancet. Lancet 2004; 363: 820-21により、ワクチンと自閉症の論文は捏造であるのが証明されています。
WHO・CDC・FDA等により、ワクチンの安全性は徹底的に検証されています。ワクチンと自閉症の関係は全くありません。
従って、キレート剤による水銀排出療法は、世界的に否定されており、医学的詐欺ということです。
TBSはそれに加担し、気の毒に、自閉症児の親に多額の治療費を払わせることになるのです。
責任を取りなさい!
2001.4.6追加
放送では、「3年前に使えなかったお箸が使えるようになったので、改善効果が見られた。」
「IQが測定不能だったのが、3年後にIQ60になったから、改善効果が見られた。」
「トンネルの音と暗闇に恐怖感を抱いていたのが、今は平気なので改善した。」
等あげています。
前提には、自閉症児はIQは発達せず、知的レベルは固定したままだという偏見があります。
自閉症児は、特に言語的にコミュニケーションを取るのが下手です。しかし、適切な構造化・具体化・映像化・絵画化等によりコミュニケーションは改善します。改善すれば、遅れていた知的発達は取り戻すことはよくみられることです。
知的レベルは自閉症と直接関係はありません。IQ75(この境界線も研究者で異なる)以下の自閉症を精神遅滞を伴う自閉症と呼びます。
次に、IQ75以上の自閉症を高機能自閉症スペクトラムと呼びます。言語関係の発達に偏りがみられます。
高機能自閉症スペクトラムで言葉の発達に大きな遅れが無いのをアスペルガー症候群と呼びます。
アスペルガー症候群と、対人関係が下手で偏屈な健常者と境界はありません。診断はきわめてあいまいです。社会的に活躍している自閉症者はたくさんいるという研究者もいます。絵画・造形等ではすぐれている可能性は大です。興味を示せば、コツコツ一定の作業を繰り返すのは得意です。
自閉症は発達の停止や遅れではなく、発達の偏りと考える人もいます。3年で子供が発達するのは自閉症児でもあたりまえのことで、「治療効果」とは考えられません。比較対照試験が必要なのです。ただちに水銀療法と結び付けるなど、科学を理解していないマスコミの特徴です。
コロラド大学の助教授を長年やっている人の知的レベルが劣っているとは思えないでしょう。テンプル グランディンという人です。彼女は自分が自閉症であるのを認めています。著書もあります。学習研究社から「自閉症の才能開発」という翻訳が出ています。彼女によれば、「言葉は私には第二言語(外国語?)のようなもの。私は話し言葉や書き言葉を、音声付のカラー映画に翻訳する。ちょうど頭の中でビデオテープを再生する感じ。」
コロラド大学の助教授が、幼児期に発達が停止し、いきなり大学のポストを得られるはずがありません。通常とは一風変っていたかもしれませんが、発達したからこそ知性のある成人になれたのです。これを考えても、TBSの報道はテレビショッピング程度の一方的愚考であるのが理解できます。
医療ではほとんど改善できません。TEACCHプログラム等で「構造化」した接し方をすれば、子供は発達するそうです。効果のわからない「水銀排出療法」より、適切な教育と接し方が必要です。偏った報道により、早期教育が遅れれば、大変なことになります。
自閉症協会京都府支部Q&A等を参考にしてください。
「自閉症の人たちを支援するということ-TEACCHプログラム新世紀へ-」 G. メジボフ 朝日新聞厚生文化事業団(店頭販売無し、電話06−6201−8008)が良いそうです。専門家で無いので、孫引きの知ったかぶりです。
自閉症が最初に記載されたのは1943年戦時下のドイツです。これだけをみても、ワクチン原因説・水銀説は怪しいものです。戦時下のドイツでまともに予防接種など普及していません。水銀に暴露も極めて考えにくいものです。水銀が戦時下のドイツに豊富にあったとは思えず、貴重な軍事物資のはずです。チメロサールも1940年頃から実用に供されたもので、ドイツの自閉症児の発生に関係するには、期間が短すぎると考えられます。
戦時下のドイツで、さらにドイツ語の論文であったため、長年無視されてきました。約20年前ヨーロッパで再評価され、やっと知られるようになりました。定義にも細部に混乱があるのは、歴史の浅さからも明らかです。「ワクチンで増えている」など笑止千万です。高機能の定義もゆれてきたうえ、20年では正確な統計もわかりません。
以前、効果のあるという薬剤も試されましたが、消えてしまいました。定義も難しく、動物実験は不可能で、幼児は発達の経過で変化が激しいので効果判定には慎重な科学的検討が必要です。低レベルの日本マスコミが例証を集めて騒いでも無駄なだけです。
医学はほとんど無力です。診断して、病名のレッテルを貼っても何の役にもたちません。
繰り返しますが、自閉症児に対応した適切な方法論はあります。音声言語がだめなら、耳が正常なのに手話を教える場合もあるようです。(私も素人です)形の理解は楽なので、コミュニケーションが取れ脳の適切な情報処理が促され、発達が容易になる可能性があります。素人では判断が難しいのでプロの指導が必要です。
正常な目も、幼児期に覆っておくと脳の神経回路が形成されず、回復困難な弱視になります。脳には、発達段階である程度の情報を与える必要があります。時期も重要なのです。公的機関に否定された「キレート療法」等で適切な時期を逃せば、マスコミは犯罪的ですらあるのです。
20数年と歴史が浅いので、この分野はどんどん変るかもしれませんが、マスコミなど低レベルの情報を信じれば、誤る可能性が極めて大きいのです。
2005.3.3 追加
イギリスでは、MMRワクチンと自閉症の関係が否定され、接種率が向上しています。その論拠として、「日本ではワクチン接種率が低下したのにもかかわらず、自閉症の発生率がほぼ2倍になっている。」というものです。あまりの皮肉に開いた口がふさがりません。日本マスコミの科学知識レベルのあまりの低さにもです。
2004.04.20 追加
Thiomersal and vaccines: questions and answers WHO 原文
What is GACVS recommendation on the safety of thiomersal containing vaccines?
Upon review of current epidemiologic evidence and phamacokinetic profile of thiomersal, the Global Advisory Committee on Vaccine Safety concluded that there is currently no evidence of mercury toxicity in infants, children, or adults exposed to thiomersal in vaccines. It also concluded that there is no reason to change current immunization practices with thiomersal-containing vaccines on the grounds of safety. The safety of thiomersal containing vaccines is reviewed at regular intervals. In the meantime, the available evidence warrants recommendation that current WHO immunization policy with respect to thiomersal containing vaccines should not be changed.
Is thiomersal the same as methyl mercury?
No, there are several forms of mercury occurring in the environment, however by far the most common organic mercury compound is methyl mercury. The main hazard for methyl mercury is its ability to accumulate in the body and to remain there for long time. The exposure to this natural occurring compound and its toxic effects on humans have been well studied. As most humans are exposed to mercury in some form, WHO and some national regulatory authorities defined safe levels for the exposure to mercury and the values reflect exposure mainly to methyl mercury. Thiomersal contains a different form of mercury i.e., ethyl mercury which does not accumulate and is metabolized and removed from the body in a much faster way.
Why are the some countries withdrawing thiomersal if there is no risk?
Some national public health authorities are striving to replace thiomersal-containing vaccines with non-containing ones as a precautionary measure. There is currently no evidence of toxicity form mercury contained in vaccines. There are only few tested, efficacious and safe alternatives to thiomersal containing vaccines. Current production capacity for such vaccines is limited and insufficient to cover global needs.