青色の憂鬱

最近は少子化のため,大学も生き残りに必死です。学生に選ばれるためには人気とりが必要で,マスコミに顔さえ売れていれば,聞いたこともないような大学の教授の肩書きがついてきます。芸能人の追掛け専門家が,ジャーナリズム論として講義をもつたぐいです。

国立大学は,大学の独立法人化の主導権争いで必死です。内部も,学閥や派閥抗争で大変です。

ニュース23で,東大生が「日本人の頭脳流出問題をどう思いますか。」と尋ねていたとき,立花隆氏と筑紫哲也氏二人で,「どんどん流出すれば良い。そんなのはどうでも良い事だ。若いうちは外国で勉強し鍛えればよい。」と押さえつけていました。この二人では回答は無理でしょう。精神論の様なものにすり代わってしまいました。大学生の方が余程頭が良い様です。

学歴や派閥に頼らず,田舎の中小企業の研究員をきわめて,ノーベル賞クラスの青色レーザーダイオードを開発した中村 修二氏が日本のどこの教授にもなれなくて,科学さえ解らず,猟奇殺人は環境ホルモンのためだなどと騒ぐ,くわえ煙草の煽情ジャーナリズムが東大教授の肩書きです。東大さえも,客寄せの私立大学のまねです。信じられない神の国,日本です。日本政府が100億円払ってでも引き留めるべきだったのです。青色レーザーを作れるのは,世界中で彼だけです。 まったくのオリジナルの研究です。

カリフォルニア大学教授就任おめでとうございます。数兆円の次世代産業をアメリカにとられたのでしょう。10億か20億円で日本最大の企業秘密の流出ともいえるのですが,NHK以外騒ぎません。理系人間を理解できない官僚や民間マスコミには無理でしょう。

将来の日本のGDPが1パーセント変化したかもしれないのですから,アメリカにとっては安い買い物です。何故,ソニーも松下も高給を出せないのでしょう。不思議な神の国,不思議な大学と企業を持つ日本。企業の研究者を 正当に評価してこなかった学会も責任があるでしょう。

出身大学,派閥にとらわれず,能力で教授就任を要請したアメリカの勝ちです。彼にとっても,大学内部の争いに力をとられるよりも,豊富な資金を使えるアメリカの方が幸せでしょう。

青色のレーザーはCDやDVDの情報を数倍に増やせるので,記憶容量が飛躍的にのばせます。次世代の技術です。素人の私には,それ位しか解りませんが。あとは,青色ダイオードを使った大型スクリーンや,光ファイバーの容量増加もできそうです。

妻の友人の大学教員から聞いた話です。彼女は定期的にニューヨークの事情を見に行きます。好景気のアメリカは不法入国が増加しています。日本の官憲と同じ様に拘束します。その後が日本とは大違いです。英語は世界語だと教育をはじめるのです。子供にはそれと同時に算数を教えるそうです。不法移民は将来合法であれ,非合法であれ戻ってくる可能性は大です。その時点で,学力もなく,計算もできない,従って就職もできなくて社会保障費を食いつぶす人間より,計算ができて就職も可能な人間のほうが社会的コストが安くつくと考えるからです。合理的考えです。

かたや,日本の入国管理事務所は,小学校に通っている子供でも,残留資格が切れたと拘留し,閉じ込めたままです。外国人は人間性さえ無視して平気です。三国人発言をする首都の知事がいる国にふさわしい処置です。

アメリカは算数,理科教育に重点を移し,生物の教育も熱心です。授業時間は増大し,小学校でさえ達成度試験を導入中です。かたや日本は,ゆとり教育の名のもと授業数は削減され,分数のできない大学生の大量増加です。少子化が学生にこびる入試と教育を行わせるのです。

いつまでたっても理科系の人間はトップにたてず,せいぜい「技術担当重役」です。マスコミでは英語音痴や理科系音痴が自慢気にもてはやされ,えせ理科系人間の重用です。 東大医学部卒も、厚生省では技術系として一段下です。キャリア万能の世界です。

東大法学部をトップとする社会のひずみです。

明治政府は官僚キャリア制,官吏登用制を作りました。これは,ヨーロッパの「すすんだ」制度を取り入れたものです。プロイセンなどのまねでした。ところが,ヨーロッパのこれらの制度は中国の科挙の影響を受けたものでした。最先端を取り入れたつもりが,もっとも旧制度をいれてしまったのです。良い面もあります。出自にとらわれず,優秀な者を採用できます。しかし,科挙の制度は中国に重大な害悪をもたらしました。決まりきった文面を大事にし,暗記中心の勉学に勝利したものが国の中枢にすわれます。批判でなく,文言の解釈中心の世界です。創意工夫は無用の世界です。このために,実学や科学は発展できなくなりました。これが,今だに延々と続く官僚世界の弊害です。法学部絶対主義です。

中村氏が不幸だったのは,中小企業の研究員だったことです。(研究にはかえってよかったのか?)官尊民卑のこの国では,民間の研究員などに,科学技術庁や文部省は援助したりしません。研究は大学でしなければなりません。大企業なら,共同プロジェクトも少しはありますが・・・。官僚や大学を尊重し,民間を見下してきたからです。文科系ばかり中枢にいて国を牛耳り,科学の解るものが,政府にいません。ましてや,マスコミはもっとお粗末です。

通産省も、「次世代光プロジェクト」とでも名づけて、三顧の礼をもって所長に迎えればよかったのです。ベンチャー企業の育成などといって、総論は作れるが、すぐそこに成果が見えているものを取り逃がすのです。これが産業政策か、笑ってしまいます。官僚の弊害です。

今年前半最大の国の失策だと思います。いやこの10年で最大のシッサクデショウ。理系の人間なら同意する人もいるでしょう。文部省、通産省、学会の大失策です。マスコミが事態を認識するのに、相当の時間が必要でしょう。

科学の判らない、立花隆や筑紫哲也氏にも困ったものです。事態を理解はしていないでしょうが。
マスコミはスポーツ専門の記者をたくさん雇っています。せめて、その十分の一でよいから、科学の理解できる記者を養成してはどうなのでしょうか。理学部卒で就職できない優秀なのもたくさんいます。医学関係なら獣医学部卒で就職に困っている人もいます。獣医ならほぼ人間対象医学に近い基礎教育は身に付けられます。その上で、評論をしてもらいたいものです。若い人たちには官僚などを目指すのでなく、もっともの作りの喜びも知ってもらいたいものです。そのためにも、理科教育はもっと充実すべきです。

中村氏はアメリカで成果をあげられ,賞を総なめにする可能性があります。

そうなってから,あわてて文部省の諮問委員会にすわらせ,文化勲章を与え,朝日新聞は朝日賞を出すのでしょう。学士院会員にもなるでしょう。学会や官僚の慌てる顔がみものです。

どうせ私の,ひがんだ考えです。

2000.06.02

http://geocities.datacellar.net/kawaiclinic
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