血圧の薬で癌予防


  

 

 

 


マスコミの作り出す薬の「イメージ」は、時には恐ろしい副作用がある、高い薬を使って医者が金儲けをしている、製薬会社もぐるだ。こんなところでしょうか。「多種類の薬を出す医者」は「自分の金儲けのために薬を出している」のであり、悪徳医の象徴です。ステレオタイプ思考なだけなのですが、厚生省もぐるになり、このようなイメージをひろめています。「薬漬け医療」が錦の御旗です。多剤投与の悪徳医と闘う、正義の味方・厚生省とマスコミなのです。

老人は、高血圧、脳梗塞後遺症、動脈硬化、糖尿病、高脂血症等重なった病気を持ち、薬の種類はどうしても多くなります。私もきっと、多くの薬を飲ませる金儲け主義の悪徳医ということになるのでしょう。もちろん、できるだけ薬の種類を減らす工夫は必要でしょう。

私のよく使う薬に咳用の水薬があります。多種類の薬が入っていて、患者さんの評判もよく、患者さんから処方の希望がよく出ます。これを大病院で処方すると、優秀な薬剤師から非難の問い合わせがきたことがあります。入っている西洋薬は大人の量としてはあまりに少なく効かないはずだし、もうひとつの薬は1歳くらいの量にしては副作用が強すぎるというのです。相手のほうが科学的なのですが、実際は大人に使うのです。少量・多種類の併用で副作用もなく効果は強いのです。

患者さんにも「血圧の薬は一生飲まなければいけない。」「くすりは怖い。」などのイメージがあります。まるで悪魔のように嫌う人もいます。
これらのイメージに合致する報道はよく行われますが、薬の思いがけない利点は報道されにくいようです。

以前から、がん予防に効果が期待されるヴィタミンなどで癌を予防する試みも行われてきましたが、かえって癌が増加したりして、ことごとく失敗してきました。

現実や自然は人間の知恵を裏切ることが多いようです。しかし逆に、期待もしていない薬の副作用で意外な結果が出てきました。ここら辺が、生物学や統計学のおもしろいところです。

イギリスで高血圧の薬の副作用で癌が減少したという報告が出ました。

もちろん一人の学者の報告で、それが絶対的真実だとは言えないものです。どこかの東大客員教授ジャーナリストやNHKのように、すぐに飛びつくほど愚かではありません。(ダイオキシンのでたらめ報道のことを言っているのです。)

しかし、これは当然と考えられる科学的根拠が存在するのです。

薬の種類はACE阻害薬というものです。アンギオテンシンという血圧上昇物質の産生を抑える薬です。

アンギオテンシンが受容体に作用すると、血圧が上昇しますが、その他の作用もあります。重要だと考えるのは、アンギオテンシン受容体には細胞増殖作用、組織増殖作用があるからです。

高血圧の時には、心臓は肥大し、血管の平滑筋は増殖し動脈硬化が進みます。ACE阻害剤がこれらを防止するのはよく知られた事実です。腎臓にもよい効果があり、糖尿病による腎障害も予防します。
つまり、必要以上の細胞増殖を抑えるから、ACE阻害剤はこれらを進展防止・予防できるのです。癌を予防する科学的根拠があるのです。有用な副作用も結構あるのです。実際薬を使ったほうが長生きできるのです。適切に使えばよいのです。使い方が重要ですが、くすりは悪魔ではありません。

ACE阻害剤にも副作用があります。腎不全気味の人には使えないことと、咳が高率に出ることです。値段の高いのも経済面からは大きな問題です。しかし、私は高齢者にも安全に使え、効果が確実で、動脈硬化予防の可能性があることからよく使います。ルール違反で、マスコミ・厚生省や支払い側は烈火のごとく怒るでしょうが、私は「血管系保護薬」として、成人病(生活習慣病)予防に「濫用」しているのです。長期的に見れば医療費も節約できるはずです。アンギオテンシンII受容体拮抗薬も同じ効果が期待できます。咳の副作用もありませんが、さらに高価なのが問題です。

もちろん、他の薬にも長所は多くあります。高血圧の原因は単純なものでもなく、合併症も単純ではありません。ベータブロッカーは、欧米化で増えている心筋梗塞を予防します。死因は癌だけではありません。心筋梗塞も急激に増えていますから、すぐにACEに変更する必要はありません。また、カルシュ−ム拮抗剤は腎血流や脳血流を増加させ、脳梗塞を少なくする可能性があります。一部の狭心症には特効薬であり、欠かせない薬です。経験のある内科医によく相談してください。

一番よいのは、多くの種類の降圧剤を少量ずつ併用することです。副作用も減らせます。たとえばカルシューム拮抗剤は脈を速くしますが、ベータブロッカーは脈を遅くしますので、併用すれば副作用が減ります。

実際、副作用の軽減のために、抗がん剤や白血病の薬は5種類くらい使うことが多く、そのほうが効果は高いではないですか。抗がん剤の多種類投与は患者さんのためであり、その他では医者の金儲けだというのでしょうか。

学問的にも経験的にも確立された戦略です。ところが、日本の健康保険システムでは多くの種類の薬を併用すると「罰金」が科せられます。多種類の薬を使うと、薬代の一割が払われないのです。同じ系統の薬を使いすぎと、一種類の薬代がまったく払われないことさえあります。医者の損になるように設計されているのです。処方箋で出しても、この仕組みは変わりません。薬品会社や問屋には消費税は払わなければならないのに、消費税を患者さんからは一切受け取ってはいけないという異常な仕組みもあり、これでは大損です。しかも、患者さんの負担も増え、支払い側はその分経費を減らそうというひどい仕組みです。患者さんと医師の関係分断策としか考えられません。

ひとつの薬を副作用が出るまで大量に使い、種類を減らせという厚生省の政策です。副作用を増やそうという政策です。錦の御旗は「薬漬け医療」なのです。学問より、健康より役人の成果のほうが大事です。費用抑制を打ち出せば、出世できます。

プロにはプロの常識や、考え方というものがあります。素人のマスコミや厚生省には窺い知れないものです。

学問的に理由のあることなら従いもしますが、多くのことで厚生省は学問と逆を強制するのです。厚生省は何のために存在するのかということです。医師から薬代を減らそうとしますが、国際的に見ると同じくすりの値段は、日本が異常に高いのは周知の事実です。天下り先保護が目的で、国民の健康が目的ではないからです。海外で日本の薬やレントゲンフィルムを買うほうが安いのです。役人が机上で決めるとこんなことです。

役人と支払い側の作り出した、「薬漬け」「薬の差益で大もうけ」といううそと、それをひろげるマスコミ。ばか役人の机上の空論の「薬抑制策」なのです。いつもの、愚かなマスコミと、狡猾な役人とのぐるで、悪政があらたまらないのです。

昔は薬価差益に頼った経営もあったようですが、それは診察代が異常に安かったからです。現在でも基本の診察代は740円です。長期加算等で支払いは異なりますが、本来の基本診察料はこの額です。患者負担ではありません。税込みの医者の手取りです。外国人の友人に話すのも恥ずかしい値段です。それが証拠に、先進国対GDP比では医療費は世界最低から2番です。(もうすぐ世界最低の栄誉?に浴せます。)一回100円台の診察代など、世界では考えられない異常な値段です。いかに、医師の責任・知識や技術が冷遇され、物ばかり重視されるかということです。役人にかかれば、診察は自転車のパンク修理以下の責任と技術なのです。

大部分の薬は、生命延長の根拠が存在するから医師が使用するのです。もちろん不要な薬を飲む必要はありません。しかし、薬を悪魔のように忌み嫌い、必要な薬も飲まないのは馬鹿なことです。
こういう人に限って、「自然食品」「健康食品」「驚異のアガリスク」などに飛びつきますが、これらは効果も証明されず、安全性も検証されていないので危険性は高いのです。単なる偶然を驚異の効果というのですが、科学的に証明できないから、医師が使わないのです。本当に効果が証明できるなら、医者が使います。効果がないから、医者は使わないのです。
先月に触れたように、これらは、健康で正しい生活をしていない深層心理の不安があるから、つけこまれるのです。知識も少なく、規則正しい生活もできないマスコミは特にこの不安が強いものです。

薬は悪魔ではありません。逆に夢の魔法でもありません。癌がどんどんよくなる「驚異のアガリスク」などあり得ないことです。
マスコミや大衆のように、むやみに副作用を恐れるのでなく、上手に副作用を利用していくのがプロの内科医の役割です。無責任なマスコミなどどこまで理解できているのか、大いに疑問です。

金儲けだけで患者を薬漬けにしているなら、先進国最低の医療費レベルで、世界最長の長寿を達成できるわけがありません。良い保険制度のもと、薬が多用できたからこそ、長寿を達成できたのです。寿命の短い国と薬剤費を比べて、どれだけの意味があるのか。これも報道されない事実関係です。目先のことにのみ目を奪われ、大局が理解できないからです。

冷静に、科学的に対処していくことが重要です。検証され、世界的に広く安全に使われているものが重要です。

厚生省やマスコミに従っていては健康は守れません。

直接損をするのは医者ですが、ほんとうに大損をするのは国民です。

余談
朝日はこのページをチェックしていて、反論としか思えない記事が載ったりしますので、反論を封じておきます。
こういう場合、必ず極端な医師の犯罪や例外中の例外を載せて医師批判をしてきます。確かに、金儲けの医師が皆無とは思いません。自分のために薬を出した医師もいるかもしれません。しかし、例外をあげつらっても社会はよくなりません。賄賂をもらった警官がいるから、警察を廃止せよ、あるいは車の事故が悲惨だから車を廃止せよということにならないのといっしょです。角を矯めて牛を殺すのがマスコミや官僚です。報道はされない、大部分の医師はまじめに患者さんのために働いているのです。新聞記者の破廉恥犯罪も結構繰り返されているのですが、小さくしか報道しません。社会の運営は全体を見通すことが重要なのです。役人やマスコミは全体での事の位置付けができません。例外や小さな不合理は必ず出ます。少々の不合理より、マクロの幸せを追求しなければならないのですが、報道とはミクロの悪のみ報道し、マクロを誤ってしまうのです。ダイオキシンやインフルエンザ予防注射廃止のように・・・。
相手を悪の塊、強欲者の塊と見るのは、自身の心が反映しているからです。自身の強欲・ひがみや不安の反映なのです。偏狭な愛国者に似ています。多面的・総合的に見れないのです。

2000.10.01
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初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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