先月は血圧の薬の副作用で癌予防になるというお話でした。
カルシューム拮抗剤という高血圧の薬は、実験で脳の血流を増やすので、痴呆の改善に効果があるのではないかと多くの医師が考えてきました。はっきりした証拠はなかったのですが、Syst−Eurというヨーロッパでの大規模な調査の結果痴呆の進展を遅らせるという結果が出たようです。
これは、医学的には予測のついていたことです。
さて、コレステロールの薬でも痴呆が抑制されるようです。コレステロールの薬を長期に飲むと動脈硬化が減少するので、脳の血流が改善するので当然と素人は考えるでしょう。これでは単純すぎます。どうもそれだけではないようなのです。
アルツハイマー病という有名な痴呆の患者を解剖するとアミロイドという特殊な蛋白が沈着しています。正常の老人でもみとめられます。これが原因なのか、結果なのかは長く論争のあるところです。
一方、Apo-Eというコレステロールの代謝に関係する酵素に遺伝的多形があり 、特別な型を持っているとアルツハイマーになりやすいというのが知られています。アメリカの教科書には知能レベルがどうあれ、この遺伝子を調べればアルツハイマー病と断定できるとさえ書いてあるのもあるようです。
アミロイドは、アミロイド前駆蛋白から作られ、水溶性の蛋白のままなら、いずれ代謝されて消失していきます。何らかの変化がおこり、不溶性になるから沈着して痴呆の原因となると考えられています。
ここでアミロイド蛋白の生成にApo-Eがかかわっているという説がでてきました。これならコレステロールの薬に痴呆抑制作用があるのが納得できます。つまり、コレステロールの薬はApo-Eに影響し、アミロイドを抑制するなら痴呆が抑制できるのです。
血圧の薬や高脂血症の薬は長期に飲みつづけなくてはなりません。しかも、世界中で多くの人が使用しています。出現する副作用には十分すぎるほどのデータが蓄積しています。安全で効果があるからプロが使用するのです。危険で寿命を縮めるのなら、プロは使いはしません。薬を使用したから、人類の寿命が飛躍的に延びたのです。
しかも、長期に飲めば痴呆になりにくいのですから、うれしい話です。こうして、裕福な先進国はますます健康になり、医療費が少ない国はますます不健康になる可能性が大です。薬を悪魔のように嫌っても、現実はこうなのです。薬が少ないほど健康になれる国はありません。
ヴィタミンEも弱い痴呆進展抑制作用があるといわれています。また、海外ではイチョウの葉エキスも医薬品として痴呆抑制作用が認可されています。日本でも新しい抗痴呆薬がでています。完治はしませんが、進行を遅らす薬はできています。
若い人でも知能が飛躍的にのびるなら、医者は全員のむでしょうし、天才ばかりになります。若い人が服用しても無駄です。あくまで、老人性の痴呆の予防です。若い人にはアミロイドは少ないのです。
2000.11.01
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河合 尚樹