感電事故の追及


  

 

 

 


医療機器事故概要

事故概要

機種 低周波治療器 ○CT-○00 使用期間 約半年

使用手順 スタートボタンを押し、出力調整ダイアルを回し、電圧を印加する。出力はタイマーで自動的にゼロに戻り、スタート時はゼロのまま。

約一月前、画面表示が異常の為、修理に出した。2001年7月11日午前修理ができたので、機器を持参し、代替器と交換して帰った。
スタートボタンを押し、最初の患者に使用したところ、あまりの痛さに悲鳴を上げる。みると、出力ダイアルはゼロの位置にあるのに、画面上電圧は最大値に上がって振り切れていた。直ちにメイン電源を切り対処した。
電極を人体に装着せず、スタートボタンを押すとやはり画面では最大電圧が印加されていた。通常ではありえないことである。
対処が早かったので、患者には外見上やけど等障害は見られない。

意見

 低周波治療器は患者の肉体に直接電気を通電するものであるから、安全は十分確保される必要がある。通常の操作でいきなり最大電圧がかかるなど医療機器として許されてはならない。危険な製品である。

会社の対応

営業の末端社員のみが対応。
製造下請けの△電子の責任である。すぐに、連絡させるといい、確かに夕刻診察時間中の忙しい時間帯に電話があった。謝罪というより、事実関係の確認のみ。
○○電子の対応は、できの悪い下請けの責任のみを言い、会社からの対応は一切無い。自社ブランドでの販売責任を感じていない様である。三菱自動車のリコール隠しを連想させる。事故自体を矮小化し、一台の機器の不都合として対応し、ユーザーには情報を流さない。会社として、下請けに責任をなすりつける。会社として責任を取らない。また、末端社員のみが対応し、上層部へ連絡が上がらない。修理の際の不都合部や原因をユーザーに説明しない。地域分社化しているので、情報の伝達に問題がある。雪印に同じ。
会社としての、トップの安全管理・危機管理能力を問うものである。

あまりの無責任さにあきれました。直接厚生労働省にFAXやE-mailで情報をあげても、早く対処できます。

もちろん、厚生省の役人が国民の被害を防ごうという崇高な論理で動いてくれるわけではありません。連絡がきた以上、動かなければ責任を取らなければならないという論理というか、責任回避本能で動いてはくれます。会社は厚生労働省ににらまれると怖いので、すぐに動きます。

以前、似たような事故があり、厚生省に直接FAXを送り、医薬品のあるロットをすべて回収させたこともありますが、役人の動きの非礼さにも不愉快なので、今回は自分で対処することにしました。

京都の営業所に抗議しても、技術の解る者が出てこず、次長レベルで埒があきません。担当者を怒鳴るとやっと、東京本社が対応してきました。

推定原因は  最終出力の一段前のトランジスターが破損しており、最高電圧がかかったもの。安全装置は装備してあったが、電圧の管理ではなく、JISに基づく電流管理(最高50mA)であったので、10mA程度は流れたと思われた。(このため、やけど等の被害は出ていない。)最後の安全装置は作動した。 6000個以上使用しているが、このトランジスターの破損は初めてであり、原因は不明。修理との因果関係も不明。なお、修理直前まで正常に動作していた。製造メーカーに詳しい故障原因解明を依頼中とのことでした。

さて、修理に出したときは、当院の機械を東京でチェックしたのだが、まったく異常な点は見つからなかったというのです。ユーザーの誤操作に基づく修理等もあるでしょうから、異常が見つからないのは納得できないわけではありません。「だから、修理をしていないので送り返しただけである。」といい、少しの謝罪でお茶をにごそうという対応です。

そんなことで引き下がる河合医院ではありません。なめてもらっては困ります。「修理であるから、故障の原因・修理の内容・動作確認・担当者の印鑑等、作業完了書類があるはずだろう。」と再度追求すると。「修理はしていないので、そういう完了書類は無い」と言い張ります。

「それでは、修理もせずに壊れていて、それを納入したのか」と怒ってみるのですが、「修理作業ではないので詳しい記録は残っていない。下請けに原因究明をさせる」と言います。

こちらも、混乱してくる始末です。会社内部ではスムーズな一連の作業のようです。

現場の連中と押し問答しても、前進しません。部長に直接以下のような文書をメールで送りました。

×× 部長殿

 会社トップの回答を求めます。以下の文章を印刷し、トップの決済印の入った回答を提示してください。

1. 修理品の預かりに対し、預かったという書類、処理したとの報告書、返送したとの記録等作成せずに、なぜ内部の物品修理の処理が完了するのか。会社として修理品預かりに際してルールはないのか。ルール違反なのか。修理品を管理するシステムが存在しないのか。システム不在は誰の責任か。トップの管理責任はどうか。(これは結果的には当方の勘違いでした。それなりの書類はありましたが、問題は非常に大きいのは後で述べます。)

2. なぜ対外的に、修理完了に際し、ユーザーに不良の原因・修理の内容・動作確認・修理技術者の完了印等の報告書を添付しなかったのか。それが許される会社なのか。これにもシステムはないのか。

3. 修理品返送に際し、一般的な通電動作確認も行わずに作業完了とできるのか。

4. 人体に直接通電する機器であるのに、なぜダミー抵抗等を用い、許容範囲内の電圧と電流であるのを確認しないのか。緊張感のないのはなぜか。

5. 近畿圏の販売会社は、修理品が最終ユーザーに渡る前に、なぜ動作チェックを行わず渡したのか。修理品をユーザーに渡す前に、販社はチェックを行わないのか。いつもそうなのか。

6. 感電事故なのに、社内規定に反して上層部に情報を渡さず、技術者で対応できたのはなぜか。

7. なぜ、河合 医院に直ちに謝罪に行かなかったのか。代替品を渡すだけで、抗議を受けるまで、ユーザーに一切の説明をしなくて良いと判断したのはなぜか。  ユーザーを無視する会社なのか。

8. 会社としてなぜシステム管理・安全管理・危機管理ができないのか。

9. できの悪い官僚組織のほうがまだまし。責任逃れの書類は保存する。人体に直接作用する医療機器を販売しているという、緊張感・責任感がまったく感じられないのはなぜか。

10. 近畿圏販売会社は本社との調整に気を取られ、本社は○電子に気を取られ、営業社員は○電子に謝罪さすのに気を取られ、挙句の果てに、ユーザーを放置する。内部にばかり顔が向き、もっとも重要なお客様には顔が向かず、平社員一人謝罪にうかがわない。全体がずさんなのも、さらに客を激怒させて平気なのも雪印の対応とまったく同じ。

11. 動作不良の物的原因のみをあげつらい、これらの人的システム的欠陥に誰も謝罪せず、説明しないのはなぜか。

12. 修理担当と△電子に責任を預け、末端の営業社員まで△電子を犯人に仕立て上げ、子会社に責任を押し付けて、○電子の責任を回避する。上は管理せず、下はさらに弱者に責任をまわす。情報は流れず。その間ユーザーはつんぼ桟敷。このような社風はなぜ生じたのか。

13. このようなずさんな運営を行う会社トップの責任はどうか。トップの管理能力を疑う。どう考えるのか。

ここまでやると、やっと対応が早くなりました。ほとんど有効な反論ができないのです。

担当者が、上層部に概要を伝えず、自分たちで対応しようとしたのもかなり問題です。

そして、回答を見て、ようやく事件の概要が当方にも理解できてきたのです。

当院は軽微な異常で修理に出しました。本質的な動作の異常ではありません。担当営業マンには異常を確認させました。会社のほうも軽微な異常と判断し、クレーム処理として通常の連絡書で対処しました。これなら、近畿圏販売会社の技術部も通さず、迅速に処理できます。

技術担当者は、異常の再現を試みましたが、異常は発見できません。長時間通電の熱暴走等を考え、機械に通電して異常を見てみましたが、再現しません。

技術者は異常が発見できなかったので、子会社とも打ち合わせの上、問題は無いだろうということで近畿圏販売会社に送り返しました。販社は簡単なチェックをした?うえで当院に「問題はありません」と持ち込みました。最初の患者さんにショックを与えてしまいました。

私としては、何百回も操作を行っており、出力ダイアルがゼロであれば絶対通電しないと知っていましたから、ゆっくりと操作したのですが、ゼロの位置のまま最大電圧になっていたのです。

医療機器であるので、当然安全確認を会社がするものと思っていたのですが、されていなかったのです。

自分で確認しなかったのかと言われそうですが、ゼロであることは確認しましたし、ゼロが最大であるとは想定外でした。

医療機器は滅菌してあるものや、使い捨てのものもあります。使うしか確認しようの無い機器さえあるのです。それなのに、会社は安全確認を行っていなかったのです。

しかも、対応は普通の故障であるとの認識しかありません。「なぜ、トランジスターは壊れたか解らないし、安全確認の書類も無い」との無責任さです。

「解らないのなら、この製品は回収だな!」と言ってやると、少し慌てたようです。

技術者の言い分は、修理作業でなく、しかも故障は無かったのだから、動作確認や安全確認の必要はないと思ったと言うのです。

これが、人体に直接作用する機械を扱っている大手の会社だからあきれます。

技術者は会社の規定に従っただけのつもりです。つまり、基板を入れ替えるのなど「修理」であれば安全確認・動作確認を行うのだが、修理でないので行わなかったというのです。

社内ではこんないい加減なことが長年まかり通ってきたのです。「こちらは修理に出したのだから、修理報告書を相手に渡すのが筋であろう。そもそも、クレームと修理の違いとは何か。定義を示せ。」といって抗議しました。一流企業と思っていたのがこんなことなのです。三菱自動車や雪印となんら変わりはありません。社内の常識と世間の常識が乖離しているのです。

当方は「修理」に出したのであり、当然動作確認をして返ってくるものと思っていたのですが、内部では別ルートの「クレーム処理」(これもユーザーをばかにした言葉と思います)されていて、挙句の果てにユーザーと患者さんに迷惑をかけたのです。

「安全確認の必要の無いクレーム処理などという制度はやめてしまえ」と抗議すると、「廃止の方向で検討いたします」とのことでした。

さらに、修理完了書をみると安全確認や動作確認にはまったく触れられていません。「完了書類に一行、動作確認の行を設け、担当者がチェックしないと処理が完了しないような書類に作り変えるべきだ」と提言し、受け入れられました。

機械は、電圧と電流は監視していますので、ダイアルがゼロの位置にあっても、さらにコンピューターで電圧と電流がゼロでないと動作しないようにプログラムを書き換え、すべての機器をリコール・プログラム交換を行うことになりました。会社にとってはかなりの負担でしょう。

一流企業でもこの程度なのです。システム管理・安全管理の素人の一開業医に突っ込まれて、あたふたするのです。

雪印のような企業はたくさんあるということです。

この対処に、かなりのエネルギーを要しましたので、今月の話題にさせてもらいました。また、個人でも厳しく企業を追及すると、道はあるものだということです。面倒なら、最初のほうで書いたように、厚生労働省にFAXやメールを送ればもっと楽です。

以前、国立循環器病センターで心臓保護液と蒸留水とを間違えて、少女が死亡した事件がありました。技師と医師の責任とされましたが、私に言わせれば、簡単に防げたことです。心筋保護液にビタミン剤等ではっきりした色をつけていれば簡単に防げたのです。ビタミンB2など飲めば尿は強い黄色を呈します。安全な色素やビタミンではっきりした色をつけておけば、使用する医師はすぐに気づいたはずです。企業の安全管理がずさんだったと私は判断しています。マスコミなど追求は出来ませんが。

以前、点眼液(目薬)を間違って自分に注射して死亡した医師がいました。これも、注射薬と紛らわしい容器を使用した企業の見識を疑います。 今でも、点眼液と紛らわしい水虫の薬があります。日本の企業は安全管理がずさんです。

マスコミのでたらめ報道による、死亡事故もひどいものです。安全管理などという思想はマスコミにはないのでしょう。アトピーでTBSがどれだけひどいことをしたかは、暮らしの手帖や、アトピービジネス(竹原 和彦著、文芸春秋社)を読めば理解できますし、このホームページを読めば、インフルエンザによる大量死亡や、ダイオキシン報道がいかにでたらめかは理解できるのです。しかも、責任は絶対に取りません。

海外の企業は外部監査も多く、規制も厳しいので、もっとましかと思いますが、最近のニュースを見ているとそうでもありません。気になった記事を話題提供します。

大手の生命保険会社AXAの元会長は大規模なマネーロンダリングでイギリス政府から召還されました。

VOLVOは安全性をうたう宣伝を日本で大規模に流していますが、ドイツでは安全性にかかわる重大なクレーム隠しが発覚し問題になりました。

国土交通省はダイムラークライスラー日本にワゴン型ベンツに、クレ−ム処理が遅すぎると、改善命令を8月1日出しました。

日本では「海外の一流企業です。日本の企業以上です。」のような宣伝をしていても、お粗末なことは行っているようです。ユーザーは気をつけないととんでもないことになるのは、どこの国でも似たようなものです。

2001.08.01
http://geocities.datacellar.net/kawaiclinic/
〒6050842 京都市東山区六波羅三盛町170 
河合 医院

河合 尚樹

2001.09.01追記
最終的に原因が解明されました。不具合のトランジスターを分解してみると、余分な配線が数本見つかりました。考えられないことです。数十円のトランジスターです。東芝の説明によると、製造ラインでは複数の種類のトランジスターを製造しています。種類を変えるときには、配線の位置が変わります。配線をする機械を、次の製品用に調整するのですが、最終的にはAUTOモードをはずし、マニュアルモードにして微調整をします。このとき、一つのトランジスターに位置合わせのために何本もワイヤを打ち込みます。これを作業者が手でワイヤを切りはずし捨てるべきなのですが、そのまま流したためです。当然廃棄しなければならない調整用のトランジスターが、製品ラインに混入し、さらに動作テストもたまたま通ったというのです。

これが日本の一流企業の内情です。

調整は5個くらいを行うので、製造量から見て、全部チェックを通ったとして、最大100万分の26から225くらいの確率で不良品が混入することになるそうです。(製造月により個数が違うので)ちなみに、トランジスターは2SC3334のロット番号9Bです。9とは99年製造であり月をABC順に表記するため、2月の製造ロットということです。

その後製造ラインの変更があり、9B以降は混入しないそうです。

トランジスターは産業の米です。複雑な機械に組み込まれるトランジスターがこんなことなのです。

いくら数十円のトランジスターとはいえ、こんなずさんな事では、信頼できません。

関係するロットを使用した製品は厚生労働省に届けた上、すべて回収・交換することになりました。
さらに、安全のため治療機のコンピューターのプログラムも書き換えられました。いままでは出力ダイアルがゼロの位置なら電圧はゼロと考えていたのですが、今後は実際に電圧を測定しゼロであるか、さらに確認するというシステムにしたのです。

販売会社はここまで考えてもみなかったようで、河合医院に新品を持ち込み、少しの迷惑料位で済ますつもりのようでしたが、私は最初から回収事態を予見して行動していました。

東芝が回収費用を持つべきだと私は考えるのですが、安い部品なので製造会社の負担だそうです。当方の関知することではないのですが、釈然としません。大企業の危機感のなさが不安です。安い部品だから程度の悪いおもちゃにしか使わないというわけではありません。命にかかわるような機器にも使用するのですから。

車のリコールも繰り返されるわけです。ユーザーはとことん追及し、原因ををはっきりさせないと安全は守れません。目指すのは、うるさく怖い消費者です。大企業相手でも闘えるのです。

非常に低い確率なのに、結構不具合があたり大企業と何度か対立してきました。泣き寝入りなどしません。ところで、宝くじはまったく当たらないのはなぜでしょうか。

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