口蹄疫を考える


  

 

 

 

イギリスでは口蹄疫が蔓延し、イギリスの牛の半数は殺されて焼却されそうです。オランダやフランスにも飛び火があります。

蹄のある動物の病気であり、人間には感染しません。(訂正 文末)

ウイルスはひづめから土に散布され、それを健康な牛や羊が踏むことにより感染します。野生動物も感染をひろげます。人間が靴でひろげ、車のタイヤやトラックに付着した泥がさらに広域にひろげます。

対策は、地域を封鎖し、家畜の移動、人の移動を禁止し感染動物を殺し尽くすことです。野生動物を捕獲して殺そうという計画さえあります。

人間の移動を禁止するため、郊外ハイキングから旅行まで制限されていますが、被害の拡大が防げません。

被害が拡大した原因の一つは、スーパーマーケット等が安く大量買付けを行ったためともいいます。小さな屠殺場では人件費がかかりすぎます。昔は地域の小さな屠殺上で処理していたものが、安く大量に供給するために大規模な屠殺場で効率よく処理する必要があり、遠くへ輸送するのがあたりまえになりました。汚染された地区の土が、他の地区のトラックに付着します。とんでもない遠いところに急に発生したりするわけです。もちろん、人間の靴でも拡がります。

では、地域の屠殺場が安全かというと、そうでもありません。脳の処理が効率的でないために、プリオンの混入が増えます。狂牛病が人へ感染する率が増えるのです。

日本でフランスの大手スーパーのカルフールがもてはやされていますが、フランスへの拡大は、このカルフール等が肉を買い叩いたためともいいます。経済第一主義・効率第一主義・自由主義経済の行き過ぎが病気の拡大の一因です。これは、動物だけの問題でなく、人間にも当てはまります。

まあ、スーパー非難は政治家の責任転換の様相も少しはあります。

ところが、予防注射はあったのです。では、何故予防注射をしなかったのでしょう。

予防注射は効果的ですが、ウイルスに型があり100%の効果はありません。
効果が出るには、2週間以上かかります。
30年間発生していませんでした。
ワクチン自体が高価です。
効果は急速に低下するので、一月後にもう一回追加の注射が必要です。
人件費も高価です。
毎年20億フランもかかってしまいます。

個人的に行うのも一法でした。しかし、先ほど述べたように、大手スーパーが1000円でも安い肉を求めます。牛にコストをかけられなくなったのです。良質で高いものは、隣の国の低価格肉と競争しなくてはならないのです。これが競争のグーローバルスタンダードというものです。消費者も大手スーパーの安売り肉が大好きです。

結局、予防注射は現代社会の効率性や競争原理の前に廃止されたのです。

国際競争にさらされ、ものが安くなるという競争原理さえ働けば、人間は豊かになれると考える堺屋 太一氏ら経済官僚やアメリカ資本主義には困ったものです。

予防注射がなくても何故安心と考えたのでしょうか。

急速には広がりにくい病気だったので、発生した農場をまず潜伏期の2週間封鎖します。関係したと思われる動物を皆殺しにすれば収束したのです。いままでは・・・。

しかも、予防注射をしなければ、抗体のある動物はすなわち感染しているとみなせるのです。感染の有無は抗体のある動物に限られるので、血液検査で簡単に見分けられるのです。
これで万全のはずでした。今から予防注射をはじめれば、かえって感染がどこに広がっているか解らなくなるので混乱するのです。感染が広がる前に予防注射をしておくべきだったのです。予防注射の廃止は誤りだったと、今ごろEU委員会は認めているのですが、手遅れです。

ウイルス性疾患は治療法がないのが多いのです。死ぬのを待っているだけです。たとえば日本脳炎。日経新聞など日本脳炎ワクチンをばかにしていますが、治療法はありません。痙攣があれば、痙攣をおさえる。解熱剤を投与する。点滴をする。これらは根本的にウイルスを殺しているのではないのです。もっと露骨なのはエボラ出血熱などです。地域を閉鎖して、死ぬ人には死んでもらい、奇跡的に助かる人を待つのみです。口蹄疫と同じです。

日本脳炎も日本での発生は非常に少ないので、日経新聞などは副作用の害ばかり目立つようなことを書いていましたが、発生したときの被害の重要性と、海外旅行の非常な増加を考えず、日本国内の利害やコストを考えてもむなしいだけです。東南アジアやアフリカでは猛威をふるっているのです。しかも、予防は可能なのですから。

動物と違い、人間に対してだから人権を守るはずだと考えるのは甘いのです。生命を守るためには、人権など吹っ飛んでしまいます。
ついこの間まで、治療法が確立されているにもかかわらず、ハンセン病者は離島に閉じ込められていて、結婚も許されない状態だったのです。国にとっては社会防衛のほうが重要です。

移動の効率化、急速な拡大、競争原理の過剰による効率優先、30年間発生がなかったことによる警戒心の欠如、これらは人間の病気にも十分当てはまります。
いまだに、2月の朝日新聞日曜版健康欄では予防接種廃止論者の雑誌を医学界批判に援用していましたが、マスコミの思い込みや、国の政策をうかつに信じ込むととんでもないことが起こりうるというのが、口蹄疫の最大の教訓です。災害は忘れたころにやってきます。あなたの生命財産を守ってくれるのは、マスコミでも国でもありません。

狂牛病も、効率的な飼料、収益性の向上、大量生産によるコストダウンの影響が大きいのです。

21世紀は、移動の高速化による、感染症との戦いなのです。
牛や羊の問題であり、人間に関係はないと考えるのは甘いのです。

2001.12.15 訂正
神奈川県茅ケ崎保健福祉事務所所長 鈴木周雄 様からご指摘受けました。

人間にも感染します。この場合、口に水疱ができるそうです。人間の手足口病と似ているそうです。しかし、死亡例はなく、すぐに回復します。河合医院なら、口唇ヘルペスと誤診しそうです。日経メディカルにも記載があったのを記憶していますが、訂正していませんでした。口蹄疫の家畜に濃厚に接触すると感染しますが、人から人へ感染することはありませんし、軽い病気なので怖がることはありません。人間が死んだ例はありません。


2001.04.01
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河合 医院

初級システムアドミニストレーター 河合 尚樹

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