12月23日,年賀状を印刷していました。郵便番号を7桁にするのに位置がうまくあいません。予想外の時間をとってしまいました。宛名職人で裏を印刷すると,文字まで画像として扱うので印字品質がよくありません。12月16日初級シスアドの国家試験の合格通知が来たところで,これでもコンピューター情報処理技術者,プロのはしくれですから(今年だけでも)こんな汚い印字の年賀状をだせないと,また余分な時間をとってしまいました。それが終れば,診察室の大掃除の一部と目の回るような忙しさです。頭の論理回路は切れていて,目先の肉体労働の事だけ考えていました。
4時半ごろ電話がなりました。大阪の読売テレビ道浦氏から電話がありました。「ホームページを見てお電話しているのですが...」。普通はメールで連絡が来るのにおかしいと思いましたが,からっぽの頭でしどろもどろに答えていました。最後に「急で悪いのですが,夕方のニューススクランブルで,明日この件で取材にうかがいたいのですがいかがですか。」
とんでもないことになってしまいました。しかし,引っ込みがつきません。それからが大騒ぎになったのは,ご想像がつくでしょう。
書いていることに自信はあるのですが,最新の心筋梗塞の率やフランス人の死亡率,アルコールの影響率など,あまり細かい数字は載せても意味がないので手元にありません。丸善に走り雑誌を買い込み,インターネットで論文検索を行い深夜まで一夜漬けの受験勉強です。もちろん,素人がカメラの前でうまく話せませんでしたが,調べて見ると,やはりアルコールがフランスでも大問題となっているのが再確認でき,道浦氏の質問にも触発され,このページを書くことに急遽予定を変更しました。12月28日夕方放送されました。
1.強い肥満や,特別な遺伝体質を除けば,閉経前の女性は心筋梗塞に無縁で,そもそも,予防のために赤ワインをとる必要がありません。逆に,65才以下の男女の死亡率が少量(ワイン2杯)で上昇するという明確なデータがあります。 フランス国立健康医学研究所のデータで,35才から65才のフランス人の死亡率のうち,男で19.1%・女は13.1%はアルコールが原因の死亡とされています。実際はもっと多いと考えられており,飲酒量の軽減が叫ばれています。フランスなみに飲酒量が増加すると,若い男女の死亡が増加するということです。
2. 1998年アメリカ癌研究財団が出した,癌予防の食生活に関する勧告はずいぶん話題になりました。このなかで,男女とも禁酒がすすめられています。どうしても飲むなら,男性ならワインはグラス2杯,女性はグラス1杯(60cc)までです。根拠はそれ以上だと女性では乳癌や消化器系癌,男性では消化器系癌が増加するという明確な証拠があるからです。
3.貧困層などに多いのですが,アメリカではアルコールのために脳に障害がある子供が問題になっています。フランスでも,アメリカでも飲酒対策に力をいれているときに,日本は「フランスのまね」をして「赤ワインブーム」で飲酒量が増加するなど,あきれてしまいます。
4.肝疾患の死亡率をみてみると,フランスはアメリカの1.6倍・日本の1.2倍です。アジアは肝炎ウイルスが蔓延しており,ヨーロッパではかなり少ないことを考えると,きわめて異常な数字であり,アルコールが原因と考えられます。
5.総合的に,平均寿命をくらべてみると,アメリカとフランスはほぼ同じで,日本より短い値です。アメリカは若い人の銃による死亡が多いため,アメリカと生活習慣がほぼ同じで,銃の影響が少ないカナダと比べると,フランスは1.5歳以上短くなります。フランス人の生活習慣はアメリカよりまだ悪いのかもしれません。
6.フランスでは癌は,日本・アメリカ・カナダと比べると,15%以上多く,アルコールの影響と考えられています。若い人の消化器系癌も他の国より多く,アルコールが原因だとしている論文があります。
7.急性心筋梗塞だけの死亡率をみてみると,フランスは日本の2 倍以上の死亡率です。日本の生活習慣の方が優秀なのは明白です。赤ワインの効果以上のものが日本の食生活に存在すると考えられます。無理に赤ワインなどとる必要はありません。(虚血性心疾患として統計をとると1.5倍になります。統計のとり方が各国で若干の違いがあるので,多少数字が変化するのは仕方ありませんが,結論には影響しません。)(国民衛生の動向より)
8.フランスでは乳癌の死亡率は日本の3倍以上です。アルコールで女性の乳癌は1.4倍になるという論文があります。若い女性がアルコールを飲むのは非常に危険です。女性の体はアルコールに対して弱くできているといえます。乳癌に関しては,アルコールの絶対量か期間が問題なのか結論が出ていませんが,若いころからアルコールをとるのは良くないのは明白です。(同上)
9.赤ワインブームのためアルコール消費量が増加しているのを厚生省も問題にしています。大量飲酒者の数は1975年170万人,1996年では230万人と増加しています。赤ちゃんも含めて,一人当りのアルコール消費量は7.6Lから8.5Lと増加しています。キッチンドリンカーという若い女性のアル中も増加しています。アル中も悲惨なものです。男性でも,癌予防の許容量はワイン2杯以下であるのを再度強調しておきます。女性はその半分です。
10.ポリフェノールの効果をまったく否定することはしません。以上のように,ワインは全年齢男女にとって,利益はなく有害と考えます。しかしたとえば,40才以上の男性が一日1杯だけの摂取なら良い可能性はほんの少しあります。しかし,だんだん量は増えるものです。男性でも若い時からの飲酒習慣は問題です。2杯以上なら,男性でも危険性のほうが上回って来ると考えられます。ポリフェノールは他の食品でとるのがよいのです。
11.WHOは大豆製品に含まれるイソフラボンを多くとると,寿命が伸びるのを確認しています。日本人はこの様な抗酸化剤をとる機会が結構あります。緑黄色野菜を多くとるのは,どの勧告や指針でもすすめるところです。ワイン以外で健康は守れます。このような食生活を目指すべきで,片寄った健康法を免罪符にしてはいけません。
12.「禁酒が最善だが,癌を起こさないレベルは,男性ならワイン2杯,女性ならワイン1杯」というのを,心臓のことしか考えない専門家とか,酒飲みの報道関係者が「ポリフェノールがあるから,ワインは心臓によい。」。それがさらにひどく「ワインは健康に良い,積極的にとりましょう。」と素人まで都合の良いように解釈しているのが真相でしょう。
13. 赤ワインを多量に消費する国では心筋梗塞が少ない,それは抗酸化物質のポリフェノールが原因らしい。ここまでの結論は正しいです。それから先の,評論家やマスコミの論調はまったくでたらめです。正しい結論は「赤ワインで多少心筋梗塞が減るとしても,ほんの少量のアルコールで,癌や肝硬変は増加し,中年から若い人の自殺や事故は増え,アル中の家庭崩壊,胎児の脳障害や流産を考慮にいれるなら,禁酒がもっとも健康的である。」です。
これは,全年齢の男女にあてはまります。そんなに心筋梗塞が怖いなら,マーガリンを日本から排除すべきと考えています。議論の余地はあるでしょうが,私の計算では日本で年間14000人の心筋梗塞が減る可能性があります。(ダイオキシンの比ではない)もちろん適切な体重の維持,運動を続けること,禁煙なども重要です。 努力なしに健康は守れません。
私は内科なので,どうしても興味が発癌のほうにいってしまいます。道浦氏はアルコール中毒の取材経験があるそうで,インタビューを受けているうちに,こちらがその重要性に気付かされました。小学生あたりから飲酒の怖さを知らせるべきですが,日本ではアルコールに関して甘すぎます。この文章は道浦氏の考えに触発された部分が大きいです。インタビューという共同作業で別の視点が見えてくるのは面白いことです。シスアドの国家試験にも,他人のアイディアには便乗すべし,との試験がでます。