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癌検診効果無しの報道

癌検診一部効果無しの報道がありました。当然の結果です。厚生省の愚かさがまたひとつあきらかになっただけです。解説してみましょう。

大学でアイデアを出し,検診を実験的に始めます。それまで検診はなかったわけで,かなりひどい例も見つかります。それらを研究発表し,教授は成果を誇れます。まあまあの結果でも,やや大袈裟に宣伝します。そうしないと,研究補助金がでないので仕事になりません。それが教授本来の仕事ですからしかたありません。この時点では,反論するデータもありません。

統計理論は数学のなかでもかなり難しいので,医者でも解る人間が少ないのです。厚生省の役人もほとんど文科系の連中です。しかも,数年で部局を移動し専門的知識を蓄積する期間がありません。検診がそんなに良いのなら予算をつけてみましょうということになります。早く見つけると,即座に医療費の削減につながると思うのが素人や役人のあさはかさです。補助金の交付が決まります。本省では仕事をしたことになり,出世にも良い影響が出ます。末端の市町村では中央から取れるだけのものをとって事業を行なえば,できる役人と評価されるので,補助金をとって検診事業を始めます。どんどん普及しますが,ここでは実際効果があるか無いのかの評価は関係なくなります。役人の縄張りが増えたわけです。しばらくすると,他の研究者や海外から批判が出てきますが,役人は,自分たちが大々的に行なっていることが誤りなどとは認めたがりません。今回も,海外などからの批判に耐え切れなくなり,見直しを始めたわけです。もちろん,大蔵省の財政再建路線に盲従する,厚生省の医療,福祉切り捨て路線が裏にあります。国民の福祉など眼中にありません。

事前に,専門家に答申を出すよう諮問委員会などを開きますが,開いた以上は答申が思ったように出ないと,役人として面子がつぶれるので,はじめから結論はほぼ決まっており,それに沿った意見の学者や知識人?を選定しています 。役人には,「専門家に十分審議していただいた結果だ。」という,言い訳を作るのが目的です。

例を挙げてみましょう。癌対策としてもっとも重要なのは禁煙教育です。癌の3分の1は減らせるはずです。さらに,たばこは心臓病や肺気腫の原因で,死亡率を大きく上げています。間接喫煙の害のほうが大きいくらいなので,公共の場では禁止すべきです。しかし,厚生省はまったくといってもいいくらい,対策を行いません。せいぜい,世界禁煙デーに宣伝をするだけです。役人の成果にはなり難いからです。マスコミも,関連週刊誌などの大きなスポンサーですから,喫煙擁護の姿勢が大きいのです。本当に国民の健康を考えているのなら,厚生省もマスコミも,これほど効果のある方法を無視するのはおかしいでしょう。マスコミは利害が絡むのと,厚生省は統計が理解できていない為です。また,禁煙を行なっても,役人の仕事が増えません。
医療費の無駄遣いなどと医師を攻撃していますが,禁煙教育を実行すれば毎年何兆円以上の節約になります。自分たちの省益を考え,大蔵省の顔色ばかりうかがっているので,こういう発想は出てきません。

厚生省は本来,検診を全国に普及させる前に,小規模な比較対照試験を行なうべきなのです。これには時間と金がかかりますが重要な事です。つまり,人口移動の少ない地方で,5000人くらいずつ,検診を行なったグループと,検診を行なわなかったグループでどのような差が出るかを調べないといけないのです。統計を理解したものには自明の理です。本当に効果があると解ってから全国に普及させれば良いのです。欧米の一流医学雑誌でも,これらを行なわず,いきなり全国検診スタートの日本のこの政策は笑い物になっています。

もう一つ,最近の愚かな例を挙げてみましょう。骨粗鬆症検診です。骨粗鬆症の骨折が原因で寝たきりになる例があるとの報告が出ました。医療費削減だけに熱心な愚かな役人は,医療費削減のため,検診機械の市町村補助金制度を作りました。市町村はあわてて予算獲得に動き全国的に検診が広まりました。骨粗鬆症だといわれた人は医療機関を受診し,高価な薬が出され,医療費が使われていきます。治療によって骨折が減るというデータはあります。しかし,どこにも骨粗鬆症検診が骨折を防ぐというデータはありません。ましてや,寝たきりを減らしたというデータはありません。根拠の無い検診は走り出してしまいました。
反論の仮説を作ってみましょう。骨粗鬆症になる人は栄養バランスが悪いので,他の病気が多く,寝たきりの状態になり易い。骨粗鬆症の人は運動不足が関係しているので,ちょっとしたことで体のバランスが崩れやすく,転倒が多い為に骨折と寝たきりになるのであって,骨粗鬆症は直接の原因ではない。などと,いろいろな反論は作れます。どれも,検討に値する仮説でしょう。それらを確認してから検診事業を始めるのが世界の常識,日本の非常識です。巨額な金が機械メーカーに流れ,結局検診が無駄に終わる可能性もあるのです。そうなったとしても,役人どもは誰も責任を取らないのは断言できます。

もし骨粗鬆症が原因だとしても,他の対策もありえます。検診を行なわず,65才以上の高齢者に3年間位代金を補助するなどで,牛乳を多く摂らせるだけで劇的に骨粗鬆症または骨折による寝たきりが減るかもしれません。これなら,他の蛋白質など栄養改善効果が伴い,寿命も延びるかもしれません。運動不足が直接原因かどうかは,保健婦の訪問による,体操指導で効果が出るかみれば良いのです。いずれも,小規模比較対照試験を行なう値打ちは十分あります。

医者の医療費の無駄遣いを攻撃する厚生省は,自分達の垂れ流す巨大な無駄使いには無頓着です。それに乗せられる,愚かなマスコミも,このような根本的な非科学性と巨額な無駄は報道せず,表面的報道のみです。検診はありがたいとでも思っているようです。無効ならば,厚生省の役人に,税金を返してもらいたいものです。

ところで,個々の医師が目の前の患者さんに最大限の行為をしてあげたとします。こうなると,国の医療財政は困難になります。ミクロの視点で善である事が,マクロの利害と対立するわけです。これが,検診にも当てはまります。たとえ効果が薄いといわれても,もし癌が見つかれば,その人には巨大な利益と言えるでしょう。国が効果的でないと判断するのと,個人に利益があるかどうかは,まったく別の問題です。検診を受けた場合の利益を考えれば,個人は検診を受けておいたほうがずっと良いと思います。一人の癌を見つけるのに非常に多く金がかかるので無駄だという事が多いのですが,逆に見つけられた人からすれば,国が自分の為に多くの税金を使ってくれたという事です。


1998.04.22
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