除菌もできるXX 殺菌液体XX 薬用石鹸XX
アメリカもも似た状況です。
しかし、マスコミの対応はまったく異なります。
アメリカでは、盛んに抗菌剤入りの石鹸は使わないように、マスコミがキャンペーンを張っています。
抗菌剤が、医療に必要な抗生物質に耐性菌を誘導して危険だと考えるからです。
インチキ抗癌アガリスクなどを広告してきた、日本のマスコミなどには、このような問題意識は見られません。
アメリカでは2000年頃より、抗菌剤で耐性菌が増加する恐れがあるとキャンペーンが張られています。
菌は薬剤を迂回する突然変異を起こし、これが他の抗生物質にも作用し、耐性菌ができる可能性が言われています。
さらに厄介なのは、菌にとって不要なあらゆる薬剤を、ひとつのポンプで菌体外に運び出す遺伝子が誘導されることがあります。
これでは、未知の抗生物質さえ運び出してしまうので、どんな抗生物質も効かなくなるスーパー耐性菌が出現する可能性さえあります。
これが恐ろしいので、アメリカでは大々的にキャンペーンが張られているのです。
それに反して、日本ではむしろ抗菌剤入りの石鹸の宣伝が盛んです。むしろ見ない日のほうがないくらいです。
いわく、まな板に塗りつけて除菌しろ。洗い物用のスポンジも除菌せよと脅かすのです。
世界的に見ると、殺菌成分いりの石鹸で健康が増進したとか、感染が減少したと言うデータはありません。製造者が資金提供して調べても、感染症が減るということは証明できません。
そこで、医学文献の検討です。
J Community Health. 2003 Apr;28(2):139-50. Related Articles, Links
Short- and long-term effects of handwashing with antimicrobial or plain soap in the community.
Larson E, Aiello A, Lee LV, Della-Latta P, Gomez-Duarte C, Lin S.
Schools of Nursing and Public Health, Columbia University, New York, NY 10032, USA. ELL23@columbia.edu
ほぼ一年、比較しましたが、手の細菌叢は抗菌剤入りと普通石鹸の間に差は見られませんでした。
健康な人なら、普通の石鹸で十分であり、高い抗菌剤入りの石鹸には何の効果も無いと言うことです。
この結果は、他の多くの論文にも共通しており、アメリカ政府の公式見解と考えても良いようです。
手の菌は減らないとしても、病気が減れば良いのです。
感染症の症状が減るかどうかも、十分検討されています。
Ann Intern Med. 2004 Mar 2;140(5):I30.
Effect of antibacterial home cleaning and handwashing products on infectious disease symptoms: a randomized, double-blind trial.
Larson EL, Lin SX, Gomez-Pichardo C, Della-Latta P.
Columbia University and Columbia University Medical Center, New York, New York 10032, USA. ELL23@Columbia.edu
鼻水、喉の痛み、咳、下痢、嘔吐、発熱、結膜炎等の感染症の症状発現率には何の差異もありませんでした。抗菌剤入りの石鹸に効果は見られません。食中毒の下痢くらいには効果があってほしいのですが、それにも効果が見られません。
次に、耐性菌が増えるかどうかの検討です。アメリカの政府のCDCの公式文書です。
Aiello AE, Marshall B, Levy SB, Della-Latta P, Lin SX, Larson E. Antibacterial cleaning products and drug resistance.
Emerg Infect Dis [serial on the Internet]. 2005 Oct [date cited].
Available from http://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol11no10/04-1276.htm
240家庭を120づつに振り分け、一方に殺菌成分入りの石鹸、もう一方には普通の石鹸を配分して、一年間観察しました。もちろん、どの家庭が殺菌剤を使うかまったく解らないようになっています。
結果は、わずかに手の菌で耐性菌の増加が見られたが、統計学的有意ではなかったと言うことです。
しかし、期間が一年であり、もっと長く調べるべきだとも述べられています。
結果
抗菌剤入り石鹸には何の効果も証明できない。(普通石鹸との一年間の多数の比較実験)
耐性菌が増える可能性がわずかにあるが、これもはっきりとは証明できない。
ということです。
結論
効果は無く、多少とも耐性菌促進作用が疑われる以上、抗菌剤入り石鹸・洗剤は使うべきではありません。
現時点で、健康人は、費用をかけて殺菌成分入りの石鹸を使う必要がないということです。
もちろん、手洗いは大切ですが、殺菌成分入りの石鹸を使っても効果は同じだといいたいのです。
では、まな板はどうするべきでしょう?
確かに、食中毒の危険を防ぐには、鶏や牛肉と生野菜では一緒に使うべきではありません。
消毒するのなら、不確実で高価な殺菌成分入りの石鹸ではなく、沸騰水をかけるか、次亜塩素酸(ハイターなど)をすすめます。
耐性菌の心配が無く、効果が確実だからです。時間も短くて済みます。
食器洗いのスポンジはどうでしょう?
確かにスポンジに大量の菌は証明可能です。しかし、それを直接食べるわけではありません。
一年間観察しても、消毒しない家庭と比較して、食中毒等発病率に差はないのです。
消毒する必要性が本来無いのです。
普通に洗浄目的に使用し、普通に食器をすすいで乾燥させれば、病気の原因にはなりません。
証明できていませんが、むしろ、耐性菌増加の可能性があります。
食器の消毒に関して追加しておきます。
病原菌の多い病院でさえ、食器や洗濯物を介した感染は報告されていません。
病院では、食器洗い機を用いています。60度程度の温水で洗浄します。これは牛乳の低温殺菌を行っているようなもので、菌は死んでしまいます。湿潤環境なので、芽胞も存在しません。温度耐性菌を考える必要が無いのです。家庭用食器洗い機でも殺菌効果は十分です。
当然、健康人の家庭ならスポンジで洗い、未消毒でも感染が増える事はありません。
食器乾燥機の温風では、温度上昇が不均一で、殺菌効果は保証できません。
洗いにくいもの、熱変形の恐れのあるもので、厳重な殺菌が必要ならハイター等次亜塩素酸を用いれば良いのです。
洗濯物について補足するなら、高温洗浄・ハイター・ドラム式衣類乾燥機・アイロン等の高温が殺菌に有用です。(O−157流行時等)
耐性菌の恐れのある病人と、乳幼児が同居するような家庭では参考にしてください。
介護施設や医療関係者の殺菌成分入りの石鹸使用を禁止するものではありません。ただし、効果はほとんどないでしょう。
この場合は、アルコール系の手指消毒剤をむしろ推奨します。WHO・CDC等勧告で効果は証明済みです。
2006.6.1
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