Lancet Vol 352 1830-31,1998 より
最近薬剤費を抑えようと,役人が暗躍しています。方法は,同じ効果の薬剤には上限の値段を決めておき,それ以上は患者負担とする方法が多いようです。つまり,貧乏人は一流の良い薬を使うな,二流品の安物を使えという事です。良い薬は医者に使わせないという政策です。参照薬価制度というような上限制を持ち込もうとして,医師会の反対にあい挫折しました。マスコミは医師会のエゴだと攻撃しています。
日本は稀にみる平等社会です。最近はそれがけしからんと総攻撃です。
国民皆保険制で,どんな貧乏人も最高の治療がいつでも,どこでも受けられる国は世界中を見回してもほとんどありません。しかも,全体の医療費はアメリカなどに比べても,非常に低く抑えられています。非常にうまくいっている稀な例ですが,役人からは非難ばかりです。
どこの国の役人も同じ様なことを考えるもので,ニュージーランドでも薬の上限価格が決められました。コレステロールの薬も上限額が決められたため,それまで一番良く使われていた薬が,効果はおなじと保証されている,少し安い同系列の薬に大量に切り替えられました。
同じ効果があると国が保証していたはずの薬が,じつはほんの少し弱く,薬を替えることにより,コレステロールは16%上昇しました。この程度の差ならよほど大規模な統計をとらないと,事前には検出されません。これなら医療費削減効果にくらべればたいした事はないように思われました。
ところが,病院で検討したところ,薬を切り替えた126人中,半年で27人vasucular eventsで入院の必要が生じました。その前の半年では,同じ人達から9人だけだったのです。つまり,心筋梗塞などが3倍になったということです。
財政の事しか考えない, 医学的に根拠のない薬の切り替えはこの様な恐ろしいことをもたらすということです。財政のために,人間をモルモットにして,医療効果と財政の関係を調べたのと同じことです。
薬を替えて人体実験で効果をみるということは,実際あります。このときは,インフォームドコンセントで,十分な説明の義務があります。患者さんに説明もなく薬を意図的に変更して人体実験をするなら,医師は非人道的だとして責任をとらされ,追放されるでしょう。しかし,お役人が行えば,死者が出ても正当化されて,だれも責任をとらないのはおかしいというのが患者団体の主張です。
もちろん,医者も患者団体も黙ってはいません。日本の厚生省にあたる, Pharmac医療保障庁は強制的な変更による被害の責任を取るように非難されています。もちろん,大規模な裁判になっています。
教訓その1. 少しコレステロールが上がるだけで,心筋梗塞はすぐにふえる。
教訓その2. 財政のことしか考えない大蔵省,それに隷属する厚生省などにまかせておくと,健康がそこなわれ,死者さえでかねない。