10月の天声人語より
「専門医がほかの専門医を信用していない。」「看護師や臨床工学技師らと医師の間に信頼感がかけている。」「患者側としては医療者よしっかりしてと叫びたくなる。」そうです。
ばかばかしいものです。せいぜい朝日の記者は叫んでいてもらいたいものです。
だいぶ以前の話です。京大の第三内科は循環器では権威です。そこに通院している患者さんが、「血圧が下がらない」とやってきたことがあります。質問しているうちに、古い合剤は試していないと気がつきました。古い薬を試してみると、簡単に降圧してしまいました。患者さんからは、尊敬されてしまいました。「他の専門医を信頼して」、私のようなへぼ開業医が工夫もしなければ、治療に手出しもできないことになってしまいまいます。
学生時代から、「権威のある教授のご診断にも盲従するな。患者を観察し自分の頭で考えよ。」と教育されてきたのです。
整形外科で、長い間腰痛として治療されていた患者さんがこられました。整形外科の専門医の診断に間違いがあるとも思えません。しかし、念のため超音波を実施すると、肝臓に大きなガンがあり、脊椎に達しているようでした。ただちに入院です。「専門医がほかの専門医を信用していない。」のはなぜいけないのか、説明してもらいたいものです。
静脈瘤で大病院に長く通院中の患者さんがこられました。触ってみると感じが違います。動脈炎を疑い、京大の皮膚科へ紹介しました。結果はベーチェット病でした。
もちろん河合医院が大病院以上だと、河合医院にまちがいはないと長々と自慢話をしたいのではありません。京大病院と診断技術を競っても負けるに決まっています。「河合は藪だ」と陰口をたたいている人もいるでしょう。誤診を絶対しないという(どこかの大新聞のような)傲慢こそ、愚かなのは重々承知です。
朝日新聞の、またぞろばかげた、いつもの医療・医師批判にあきれ果てているだけです。
たとえば、輸血中の患者に変化があったとしたら、まず確認すべきは輸血の取り違えです。看護師に全幅の信頼を寄せチェックもしなければ、患者さんの命は守れません。横浜市立大学病院の取り違え手術は、看護師を信頼しすぎたためです。看護師を信頼しないのを、なぜ非難されなければならないのでしょう。
もちろん、疑いは持たなくてはいけませんが、喧嘩をせよ・対立せよと言っているわけではありません。順調にすすんでいる時は、スタッフと協調して仕事をしています。「看護士や臨床工学技師らと医師の間に信頼感がかけている。」のがなぜ非難を受けるのか、理解できないと言っているのです。
看護師の患者取り違えを見抜けなかったと医師は非難される一方で、看護師に全幅の信頼を置かないといって「しっかりせよ。」と怒鳴られる。いつものマスコミの手法です。その場しのぎの、非難のためだけの論理を振りかざすいつものやり方は、チンピラやくざが因縁をつけているのと何ら変わりません。
患者さんも全幅の信頼などしていません。
子供に骨折や、タバコの焼け焦げが見られれば、親が虐待しているのではないかと疑うべきです。虐待している親の説明は、あんがい理路整然として、納得してしまいそうになるくらいです。患者など信頼してはいけないのです。相手の言いなりになっていれば、子供の命は守れないのです。
ミュンヒハウゼン症候群というのがあります。人格的に未熟な女性に多いのですが、自分自身で病気の症状を作り出して、入院するものです。たとえば、尿にわざと血液を混ぜるなどです。
自身が重要視されていない、無視されているという感情があり、「病気で苦しんでいるかわいそうな人」として、注目を集めたいのです。
もっと恐ろしいのは「逆ミュンヒハウゼン」と呼ばれるものです。こどもに薬物を投与したり、傷つけて「病気の子供を看病する、かわいそうな献身的母親」を演じるのです。
医師にとっては、すべてを疑うことから始まるのです。
アルコール性肝炎の「酒は飲んでいません。」、月に一週間分しか薬を取りにこないのに「薬はきっちりと飲んでいます。」という老人。肥満がひどいのに、「おやつは食べていない。」と言い張る脂肪肝・糖尿病。みんな、信頼などできません。
子供は純真で天使のようだから、医師をだますことはないと考えるなら、あなたはどこかの記者と同じようにバカです。
実際、私が学生のとき詰め所で小児科の教授の大きな声の電話が聞こえてきました。医師である父親に、言いにくそうに、しかしきっぱりと子供の病気は仮病だと指摘していました。原因不明の発熱で個室に入っていたのですが、摩擦熱で体温計を操作していたのでした。親子関係に問題があるのです。
養護教諭が児童の「ひどい弱視と難聴」で相談に来ました。結果は「心因性」で、すぐ上の兄のいじめが原因のようです。親と兄に注意し、それでもだめならカウンセリングです。
市役所の助役クラス・大会社の取締役等が糖尿病で入院しましたが、うまくコントロールができません。調べると、なんと捨てられた汚い他人の残飯をあさっているのが原因でした。改善が認められなかったら、説教の上、強制退院です。人の上に立ち、いつも部下を叱り飛ばしているようなタイプの人間に多い気がします。専門医なら経験のあることです。患者の言う事を信頼していては、真実には到達できません。
「男を診たら梅毒を疑え。女を診たら妊娠を疑え。」と学生時代教育されてきました。人は見かけによらないという諌めです。
当院のような老人ばかりの医院にも、たまには若い女性もやってきます。よいところのお嬢さんが、「膀胱炎のお薬をください。」といいます。話を聞くと、普通の症状とは少し違います。下腹部を押さえると、不快感とか痛みを訴えます。「最近コンドーム無しで、セックスをしたでしょう。」とたずねると、たいてい「はい」と答えます。クラミジア感染に違いありません。卵管から骨盤へ菌が進入しているのです。最近多くて困っています。当院のような貧乏医者にも来るくらいですから、すごい蔓延率です。「卵管閉塞から不妊の可能性があります。」というと、たいてい真っ青になります。さらにいやみを言ってやります。「AIDSの検査も必要かもしれませんね。」
目の前で泣き出す娘もいます。信頼していたのにとか、まじめな相手なのにと訴えます。見かけや・言動を信じていては医者などできません。もちろんセックスの相手も信頼してはいけません。クラミジアは男性には症状がほとんどないので、よく広げてくれます。
逆に、淋病は女性には症状が少ないので、男が「売春婦でなく、まじめな娘とセックスしたのに。」と怒ってくれます。
いまや「男を診たらAIDSを疑え。女を診たらクラミジアを疑え。」がよいかもしれません。
睡眠薬や鎮痛剤をやくざに横流しするために、症状を訴えてくる患者もいます。まじめそうな好青年、感じのいいお嬢さん風なのには驚きます。すぐにわかるので、効かない薬をわざと出してやります。一転、本性をあらわし、恫喝して帰るのもいます。
患者さんの言っている事が、身体所見や検査結果と一致するときはじめて信頼できるのです。要するに「裏づけを取れ。」ということです。ここが、警察発表や役人の言う事を垂れ流すマスコミとの根本的な差異なのです。プロの仕事と、素人の延長で非難する新聞記者の仕事の重大な差異なのです。
東大のえせ専門家の言うことなど、鵜呑みにするから、日本の程度の低いダイオキシン騒動が起こるのですし、イギリスのマスコミは正確に医療制度の不備とその結果として看護婦不足から、インフルエンザの死者が出ていると報道したのに、日本では「イギリスで インフルエンザ大流行」などというあきれた記事が流れるのです。チベットの言語が理解できずに誤報なら解るのですが、英語さえ満足に理解できないのが日本のマスコミの実情なのです。
厚生省の「専門家」のうそ発言を検証もせずに一面にのせて「9兆円の医療費不正請求」などという空想を一面に載せて、いまだに謝罪もしないのが朝日新聞です。日本の医療費はたったの30兆円です。
キムヘギョンさんという、15歳の少女に人権や教育的配慮がゼロの質問をしたのは、朝日新聞の記者です。協力したのは毎日新聞です。フジテレビではありません。反省・謝罪も行わず、開き直りのみです。
人権・社会正義などどこにもなく、他社を少しでも出し抜くスクープ競争、視聴率さえ上がればよいというテレビ、売れればいい新聞です。トカゲの尻尾さえ切らない。開き直りの論理しか持たない朝日新聞なのです。フジテレビのバカさ加減は、朝日のおばか質問を垂れ流した点にあるのです。
医師の患者に対する言動がけしからんと、旧厚生省に言論統制をせよと談判したのは朝日のバカ記者ですが、キムヘギョンさんへの人権侵害はどこの役所に怒鳴り込めばいいのか、朝日新聞には教えていただきたいものです。説明義務があると思います。
「読者側としては、マスコミよしっかりしてと叫びたくなる。」が正解だったのですが・・・。
専門家・専門医を信頼し盲従していては、患者さんの命が守れないのが「専門家としての医師」であり、権威を信頼し検証もせず情報垂れ流しの気楽な職業が、現実社会の実相を知らない朝日新聞の素人記事です。
朝日に非難される理由は無いと考えます。
2002.11.1
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